その神の名は
遅れましてすみません。
色々なことがあってしばらく更新が遅れるかもです。申し訳ないです。
日本刀、という武器を知っているだろうか。
アーデルハントに主に伝わる、押し潰すことを目的とした剣とは違って切り裂くことを目的に作られた物だ。剣に比べると細く、まともにつばぜり合いをしようものならあっさりと折れてしまうような玄人向けの物だ。
形状は、主に刀は片刃で刀身は反っていて、逆刃刀なんて言う本来ならば峰と呼ばれる部分に刃がついていて本来刃のある場所が峰になっている物が存在する。まぁ頬に傷のある人以外で使っている所は見たことがありませんが。
まぁ種類だなんだと色々な知識はあるが――
とにかく。
日本に伝わる刀は異質だということが分かってもらえただろうか。
ただでさえ異質な存在なそんな日本刀のみが持ちえる特別な技がある。
――――抜刀術だ。
鞘に刀身を滑らせることで目にも留まらぬ速度の抜刀、そして敵へ一撃を加えるというものだ。
そのすさまじい抜刀速度には目を見張るものがあるし、狭い部屋での使用はかなり有益なのだがやはり剣術と戦うとなると抜刀術は片手での操作になるためにやはり力が足りずに剣術には勝てない。
「まぁ?あくまで?普通の力でまともにやりあったらの話だがな?」
そう言って、柄に手を添えながら風神へと向き直る。
上半身が裸で大工が履いているニッカポッカのような物を着用している。
まぁ普通に見れば土方の外人にーちゃんだが、その手に持っている武器が彼の異様な力を物語っている。
大きなクレイモアを彼はまるで子供用玩具の発泡スチロールで出来た剣のように軽々と扱っているのだ。
そんな奴にただでさえ力押しに弱い抜刀術で普通に戦って勝てるわけがない。
しかしこの世界には魔法というとんでもない理屈を押し通す物があるのだ。
のっそりと歩いてくる二メートル超の風神の胴をまっすぐ見据え、柄に手をかける。
ただでさえ速い抜刀術を魔力で更に加速させる。
斬撃自体はただの横一閃。
だが速度を突き詰めることによってその攻撃は最強の一手へと成り得るのだ。
あともう少し。
あいつが俺の間合いに入るまであと一歩、というところで不意に風神がその足を止める。
「…貴様、この世界の人間ではないな?」
その言葉に驚いて顔を上げると、風神が苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見ているのに気付く。
その表情に敵意がないことを悟ると、張り詰めていた緊張の糸をほぐして風神へ視線をやる。
「よく分かったな。なにか知ってるのか?」
「いや、詳しいことは知らんがな。五賢人と呼ばれている人間の血統ではないくせに魔術核がないからそう思っただけだ」
「なるほど…で?それがどう転がると足を止める理由になるんだ?」
「何、ただの好奇心さ。何故異世界の人間が只の人間を助けるのかと思ってな。お主その服を見るに秦野国の人間だろう?何故その女に手を貸すのだ?」
言われて自分の服を見直してみると、確かに和風の浴衣に似たものを着ていた。
…まぁ、寝間着なわけだが。
そんなことはどうでもよくてだな。
助ける理由、なんて言うのを尋ねられれば答える言葉はただひとつだ。
「いやぁ、人を助けられたらかっこいいじゃん?」
受け売りだけどな、と言葉の後につぶやくと、くつくつと風神が笑い声を上げる。
「カッコつけたいだけか、そんなもので守り神に喧嘩を売るとはのう…お主は勇者にでもなるつもりか?」
「守り神に喧嘩を売るのはどっちかってーと魔王だと思うんだけどな…まぁあんたが勇者だと思うなら俺は勇者でいいぜ」
「そうか…お主なかなか面白いやつじゃのう。いい加減この国の阿呆共に付き合うのも疲れたところじゃ。お主を殺すのは惜しいしな。ちょっと力量を量らせてもらおうか。まぁテストのようなものだ」
テスト?
まぁ、あんだけハッタリかましたものの風神に勝てるとは思っても居なかったのでそれはありがたい限りだが、それにしてもテストってなんぞや。まさか筆記テストじゃあるまいな。俺はあれならゼロ点を取る自信はあるぞ。
「三十秒で良い、生き抜いてみせい」
そう言って、国一つ全体に災害を起こすことの出来る実力を持った風神はクレイモアを空高く掲げる。
――――死ぬ。
脳裏にその言葉がちらついた瞬間に、背後にいるユーノを抱き上げて一気に跳躍して後退する。
刹那の出来事だった。
凄まじい速度で振り下ろされた剣から発する剣戟が宙を舞う砂をかき分けて自分の方向へと突き進んでくるのが分かる。
が、今はまだ地面に足をついていないからその攻撃を横っ飛びでかわすことはできない。
ならば。
どうするか。
考える間もなくユーノを右側に放り投げ、空中で姿勢を整えて柄に手を添える。
抜刀術。
それは敵の攻撃をそらすのにも使う事ができるのだ。
は?空飛ぶ剣戟に効果あんのかって?
そんなのしらねぇっ
いずれにせよ――
「やらなきゃ死ぬだけだっ!」
剣戟が間合いに入った瞬間に右手で一気に日本刀を引き抜き、魔力をまとわせた日本刀の切っ先を剣戟にこするように擦りつけ、そのまま一気に横へ一線。
その反動で一気に横移動して、剣戟からかろうじて体をそらすことが出来た。
自分の背後で巨大な岩が砕け散る音がするが、そっちに視線を送ることは出来ない。
すでに風神は俺の目の前で長く巨大な足を横に振り上げていた。
(まてまてまてまて―――――!!!)
慌てて鞘を足と手で固定して盾のように構えるが、風神の絶大な威力を誇る蹴りはあっさりと鞘を破壊し、俺の体をサッカーボールのように跳ね上げる。
鞘のお陰で骨折は免れた…な、と着地の際の痛みで自分の体の状態を判断し、日本刀を両手に持って風神を見据える。
筋繊維一本の動きも見逃すまいと目を凝らして風神を見据えるが、彼の動きは全く目で追えなかった。
気付けば消えていて、気付けば自分の目の前に現れていたのだ。
意味がわからない。
早すぎだろ。
頭おかしいんじゃねぇの?
だが。
それだけだ。
「おめー脳筋かよ」
まっすぐ接近し、まっすぐ足を突き出して放たれた蹴りは砂の像を突き崩すだけに終わった。
「む?」
それは、砂で出来た虚像だった。
「後ろもらったぞゴミクズがァ!!」
叫びながら、風神の背後で日本刀を振り上げ――――た、が。
その日本刀が振り下ろされることはなかった。
あっさりと叩き折られたのだ。
何かって?
横から刀身に当てられた風の弾丸にだよ。
いみわかんねぇよ。
なんで鉄に風が勝てんだよ。
バカじゃねぇの。
「オメェチート使ってねぇだろうな!!それダメなんだぞ!!チートはよくねぇぞ!!!!オートエイムとかついてんじゃねぇだろうな!!!」
三十秒過ぎたからか、攻撃する様子を見せない風神にそう罵声を浴びせ、仕返しがやってこないうちにすたこらさっさとユーノへと駆け寄って抱き上げる。
「じゃあな!覚えてろよ!リベンジしてっやからなぁ!」
まさに小物。
こんな姿を秦野国の臣下達が見たらどう思うんだろうなぁと、少し呆れながら風神は去っていく男の姿を見送った。
去り際こそ小物そのものだったが、この風神から三十秒耐えたと言う事実はかなり大きい。
「…ふん、人間にもなかなか面白いのがいるじゃないか」
あいつならば。
来る災厄を回避することが出来るだろうか。
「ラグナロク――ままならないものだな、この世と言うのは」
もうこの世界などどうでもいいか、と諦めかけたところでいつも楽しみを持ってくるこの世界というやつは大層意地の悪いやつなのだろう。
落胆するようなことを言う心のつぶやきとは裏腹に、風神の顔は不敵に笑っていた。
面白くなりそうだ。




