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異世界の歩き方  作者: レルミア
ヴォルゴード王国・潜入編
24/104

新しい魔法と再会

 神は居ない。

 それを神を名乗る私が言ってしまうのもおかしなものだけれど、でも実際に神なんてものは居ないのだ。

 そんなものに祈るのならばその時間を、その手を自分のために使った方がいい。


「あはははははははは!!!」


 広場にいる兵士達を蟻を踏み潰すがごとく石で潰していき、跳んでくる魔法を撹乱魔法でかき消す。


「弱い!!弱すぎるぞ人間!!!!」


 圧倒的な格差だった。

 こちらは傷ひとつ負っていないのに相手の軍はもはや壊滅していると言っても過言ではないだろう。

 引き止める?

 甘い甘い。

 全滅させる。

 私のトールを命の危険に晒そうとする人間は全員殺す。

 右腕を振るえば右側の兵士が数十と死に、左腕を振るえばさらに数十と死ぬ。

 虐殺。

 その二文字がピッタリと当てはまる戦場だった。

 だがその戦場の空気が一気に様変わりする。

 いつの間にか鎧の人間はその場から居なくなっており、私のことを囲んで居たのは黒を基調に肘から先の袖部分が灰色になっているローブに身を包んだ人間達だった。


「灰鴉か。何だお前達…意趣返しか?」


 魔法を行使する腕を止めて自分を囲む人間達を見渡してそう言うが、彼らから言葉は帰ってこない。

 この国は宗教国だしなかなかに狂信的な人間は気持ち悪いと常々思っていたが、奴らのこの雰囲気はそれをはるかに凌駕する。

 面倒だな、とまず正面の灰鴉を石ですり潰そうと右腕を掲げた瞬間に。

 私を囲んでいる灰鴉の足元から細い線が走って別の灰鴉の足元へとつながる。

 そんな現象がすべての灰鴉から同時に起きて咄嗟にセレネは彼らが何をしようとしているのかを察する。

(魔法陣の錬成…!)

 さすがに警戒して一気に飛び立ってその場から離脱しようとするが、その飛躍力はただの人並みでしかなかった。

 つまり、脱出できなかった。

 力が足元から抜けていくような感覚に、危機感を覚える。

(魔力が使えない…!)

 くそ、と悪態を突いて周囲を見渡すとフードの下の顔がニヤニヤと下品な笑みを浮かべているのが分かる。

 

「どうだ、普通の人間に戻った気分は」


 声に反応して弾かれるように振り向くと、ゆっくりと私に歩み寄ってくる灰鴉が居た。

 とりあえず武器を、と近くの石を持ち上げてみようとするが魔力自体が制限されているのか重たくて持ち上げることができなかった。


「あんた達いつの間にこんな技を…」

「前に散々なことをやられたのでな。開発途中だったものを急ピッチで完成させたのだよ。ここまで効果があるとは思わなかったが…やはりあの人は凄いな」


 嫌な手つきで顎を撫でてくる灰鴉の手を振り払うと、ムッとした表情をして私の腹を蹴りあげる。


「ぐっ…」


 さすがに魔術師なだけあってそこまで力があるわけではなかったが、成人男性の蹴りは普通の女性としてはなかなかに効く。

 吐き出しそうになるのをこらえて後退りすると、灰鴉が撃つ小さな属性弾が私の体をかすめていく。

 固い水の弾が私の皮膚を削り、肉を削ぎ、骨を砕こうとする。

 こんな、ところで。

 死んでしまうのか。

 私は。

 魔法で散々体をいじめぬかれて、とうとう視界が霞んで来た時だった。

 地面に仰向けに倒れこんで灰鴉を見上げている時。彼の頭上に何かが居た。

 居た、というよりも落ちてきていたという方が正しいだろうか。

 太陽の光を浴びて毛皮を銀色に輝かせているそれは。


「なによあんた――綺麗じゃない」

「ふん、お主は無様じゃのう」

「うっさいわね、フェンリル」


 私を魔法で責めていた灰鴉を踏み潰し、周囲に居る灰鴉も一瞬で食い散らかした後に、私の横に彼を寝かせる。


「もしかして――」


 嫌な予感がしてフェンリルを見ると、人型に戻った彼女は少し悲しげに俯く。


****


 時を遡ること十数分。

 迫り来るトールを見ながら俺は。


「悪いな」


 懐から銃を取り出して、彼の胸元へと打ち込んだ。

 殺傷力のない弾を使ったためにあっても肋骨が折れただけだろうから、死にはしないだろう。


「フェンリル、狼の姿でセレネのところにトールを連れて行け」

「…構わんが、お主はどうするんだ」

「いいから、行けって」


 シッシッと追い払うようなジェスチャーをすると、少し頬を膨らまして狼の姿へと戻って、トールを加えて窓から飛び出ていった。

 これで、彼らは助かるはずだ。

 問題はここからか。

 ホッとため息を吐いて王座へと視線を向けると、王座に座っていた人間は感心したような視線を俺に向けていた。


「君は魔物を完全に使役しているんだな」

「そういう問答はどうでもいい。お前の軍もほとんど死んだしもう意味ないだろ。内戦起こして何の得があるってんだよ」

「あくまで質問するのは君、か。まぁいいだろう。トールを打ち破るとは思っていなかったからね。君の質問にも答えるよ。僕の目的はただひとつ。この国を破壊することさ」

「…何故?」

「その理由を言う前に君に事実確認をしなければならないな。君は魔術核を持たない…つまり魔術師ではなく魔法使いのようだが…その魔力がただ空中に浮かんでいるだけではないことは知っているか?」

「…さぁな」

「まぁ、そもそも魔術と魔法の違いも私達ぐらいにならないと知らないものなのだが…まぁいい。魔力を外部から吸収しようとする時に最も効率的なのはなんなのか。それは命を奪うことさ。例えば蟻を一匹潰してその生命から百%の魔力を吸い出すことが出来たのなら村一つを潰すことは造作も無い。命が貯蔵している魔力というものは生き物によって変わってな…知能が高ければ高いほど貯蔵している魔力量というものが多いと言われている。まぁつまり…人間が一番魔力を持っているということだな。その命から魔力を百パーセント吸い出すことができれば…一つの災害を起こすことすら容易だ。例えば毎年起きる砂嵐のように…な」

「砂嵐が人為的なものだとそう言いたいのか?」

「事実そうなのだよ。毎年生贄と言う体で魔力のために人間が殺され、そして砂嵐を起こして自分達の必要性を国民に知らしめる。いい制度だと思うが胸糞悪いと思ってな。そんなことをしなければ維持できない国家なのならばいっそ滅んでしまえばいいとさえ思うようになった。そこへトールが転がり込んできたんだ」

「体の良い道具…か?」

「ああ。奴は”魔憑き”だったからな。しかもコントロール出来ているのだからかなり完成度の高い”兵器”だよ」


 トールが”魔憑き”…?

 思いもしない事実を伝えられて少し動揺するが、彼の過去の話を振り返ってみると思い当たるフシがある。

 傲慢だった。

 周りの人が死んでしまった。

 ルシファー…か。


「そういうお前も…人一人を兵器として割りきれてしまう時点で生贄と大差ないんじゃねぇのか?」

「そうかもしれないな、だがそれがどうした。彼は私に忠誠を誓ってくれている。主に対して命を捧げるのは当然じゃないかね?」

「悪いが俺の生きている世界ではそんなのは非常識でな」

「そうか、まぁいい。だがどうするつもりだ。私を殺せば生贄はまだ続き、砂嵐によって人は死んでいく。最も君がトールをさらうのが目的だからここに来たというのならそれでいいのかもしれないが…だがここから簡単に逃げられるとは思わないでいただきたい。私の隣にいる彼はかなりの実力者だぞ?”魔憑き”のトールが暴走してもそれを抑えこむことが出来る…それは同時に”魔憑き”の君を抑えこむことも出来るという意味だよ」

「…何を自慢げにしているのかしらねぇが…端から”魔憑き”の力なんざ使おうと思っちゃいねぇよ」

「単身で、私達に勝てるつもりか?」

「勝算がなけりゃあ来ないさ」


 ゆっくりと、一歩を踏み出す。

 そもそも魔法というものが何なのか、と言うのはまだ分かっていないが魔法を使うために必要なことはフェンリルから教わっていた。

 理解することと記憶することだ。

 理解するのは原理的なものでも概念的なものでも何でもいいのだが、とにかくその現象を理解しなければならない。

 例えば質量を与えるものはなにか、という質問に対してヒッグス粒子だと答えるように。

 または物の重さだと答えるように。定義が必要になり、そしてその定義を考えるには知識が必要になる。

 つまり日本での知識はそのまま魔法での力につながるということだ。

 そして記憶することというのは先人が編み出した定義された魔法を行使する際に使う呪文だ。

 これは既存の魔法を使うテンプレートのようなもので、仕組みや原理を理解していなくても使うことが出来る。

 同時に言うのならば、仕組みや原理を理解さえしていれば詠唱は必要ないということになる。

 それをフェンリルから聞いた俺は一つの魔法を考えついた。


「素粒子…って知ってるか」


 パキン、と右手の関節を鳴らしながらそう言うと、灰鴉の魔術師が俺を警戒して魔符を構えるが、そんなものには構わずに更に魔力を込める。

 物体を構成する最小単位。

 素粒子。

 それを操り凝縮させ、一つに合成してしまうと言う荒業。

 つまり。


「”ブラックホール”」


 俺がそうつぶやくと、呪文が詠唱されたと認識した世界が俺の魔力を吸い取って勝手に魔法を行使していく。

 ゆっくりと、しかし着実に俺の手のひらの上に作られる光さえ飲み込むそれはまずレッドカーペットを飲み込み、更に城を構成する大理石を引きずり込んでいく。

 飲み込まれまいと必死に抵抗するハヴァ=ヴァストと灰鴉だったが、その抵抗もむなしっくあっさりとブラックホールへと吸い込まれていった。

 そして城を一つ丸々飲み込んだ後に、俺はゆっくりと城の跡地へと着地する。

 ブラックホールへの魔力供給をやめてブラックホールを蒸発させると、途端に俺の体へ魔力消費のフィードバックが襲う。

 いくら息を吸っても肺に空気が供給されずに、喉が嫌な音をたてるばかりだ。

 以前ホルンに言われた魔力を使いすぎるとどうなるかと言う説明を思い出して、心のなかで悪態をついて地面へ座り込む。

 まぁ何にせよ内戦が起こることはなく、この国が戦火に焼かれることはなくなったかもしれないな、と少し満足して周りを見渡すと袖口が灰色に染められたローブを来た人間が大量に俺を囲んでいるのが見えた。

 灰鴉。

 不味い、と震える手でヴィーザルを引き抜こうと柄に手をかけた瞬間に、周囲の灰鴉から炎弾が放たれ、地面ごと俺の体が空高く吹き飛ばされる。

 ゴロゴロと数メートルもの距離を転がってようやく止まったかと思えば、もう体に力は入らなかった。

 視界が霞み、周囲の灰鴉が魔法攻撃の第二波のために詠唱している声が遠のいていく。

――まぁ、あいつらを助け出せたし…あいつらが幸せになってくれればいい…かな…

 頭の中に昨日のキャンプでトールが告白した後に帰ってきた二人の赤い顔を思い出して思わず笑みが溢れる。

 できればもう一度――会いたかった。

 そう思って笑いながら泣きそうになっていると、聞き慣れたはっきりとした声が俺に届く。


「みつけた。」

素粒子を高速でぶつけてブラックホールを作るなんて言う実験をやるなんて聞いた時は施設ごとか、最悪この地球がブラックホールに吸い込まれちゃうんじゃないかと思いましたけどあれってすぐ蒸発するみたいですね。良かったです。

 

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