陰謀
一日遅れてすみません。
「剣術…?」
「そう、剣術さ」
装置のお陰で午前中で今日のノルマが終わってしまって、やることがなくて暇だなという話題になった時に、トールからそう提言される。
「そういえば、剣術齧ったって言ってたな」
「うん。まぁそんなに強くないんだけれどね。やってみるかい?大きな力を制御するのにも便利だよ、武術っていうのは」
一理あるな、とトールの言葉に頷いて自分の部屋からヴィーザルを持ってきて中庭へ出る。
すると彼も自分の剣を持っていて、自分と同じような装飾のない簡素な直剣だった。
トールが軽々と振っている直剣を眺めていると、彼も俺に気付いたのか俺の剣を見て笑う。
「いい剣だね」
「ああ。もらいもんだけどな」
「名前は?」
「ヴィーザルっていうんだ。その剣は?」
「この剣はネメアーって言うんだ。どうやらネメアーの獅子っていうのが元になってるみたいだけど…よくわからないね。父様の話をもうちょっとしっかり聞いておくんだったよ」
あはは、と笑う彼に俺も笑って、俺も剣を引き抜く。
あまり触っていないために手に馴染むことはなかったが、振れないほど重いわけでもない。
やはりこの世界にきて体力の上方修正がかかっているようだ。日本じゃあ刃渡り六十の刀剣なんて振れたもんじゃないだろうしな。相当でかいぞこれ。
「保護魔法はかけられる?」
「んや、俺はまじゅ…魔法はからっきしなんだ。出来るか?」
「ああそうなんだ…うん、出来るよ。魔法は後でセレネさんに教えてもらうといいよ。あの人魔法得意みたいだから」
まぁ女神だしなぁ。
魔術結社一人で潰せる実力者らしいし。
後で教えてもらおうとは思っていたが、スパルタだと嫌だなぁ。
なんてことを思っていると、トールがブツブツと剣の刃を鈍くする保護魔法をかける。
まぁこれで腕を切り裂かれることは無くなったわけだが、数十キロの鉄の塊がぶつかるんだ。骨折はするだろう。
…こわいなー
「じゃあやろうか。って言っても君の実力がわからないからまずは手合わせしよう」
「おう」
俺がそう返事をすると、いつものにこやかな雰囲気はどこへやら、目を鋭く尖らせた獰猛な獣のような人間がそこに居た。
まずいな、と慌てて自分も気合を入れなおしてトールの一挙一動に目を凝らす。
が。
気付けば見失っていた。
取り立てて速い動きをしたわけではないが、あまりにも自然なからだの移動からの緩急であっさりと視界の外へとトールが出て行ってしまったのだ。
「くそっ…!」
右から来る足音を頼りに右側に闇雲に剣を振るうが、あっさりとトールに剣を上方に吹き飛ばされてしまう。
――もとより剣にこだわりなんぞねぇ!
剣術の特訓だというのにそんなことを心のなかで叫びながら剣を弾き飛ばしたトールの懐へ潜り込み、トールの膝蹴りをかわして背後へと回りこむ。
軸足の膝裏を蹴って体勢を崩して首を締めにかかるが、それよりも早くトールの剣の切っ先が鞭のように俺の頬へと迫る。
(どぉいう軌道だよ…っ!)
慌てて後退して飛ばされた剣を拾い上げ、彼が体勢を立てなおしている間に接近して縦に剣を振り下ろすが、横っ飛びでトールがそれをかわして距離を取る。
ちょいちょい小さな攻撃は当てられるが、決定打となり得るものが全く当たる気がしない。
それに反撃できるときにもしてこないのを見てみると、彼は完全に俺の力量を見るために戦っていると言うのが分かる。正直言ってかなり悔しいです。
ので。
本気を出させてみたい。
ゴミクズみたいな元親友に習った技がある。
極力使いたくはなかったが、こんなご時世だ、使えて損はないだろう。
その練習という意味でも。彼を本気にさせるという意味でも。
やってみよう。
そう決心して、両手で強くグリップを握っていたのをやめて片手でツバ付近を握り、もう片方の手で柄頭へと手を添える。
これはどちらかと言うと刀で使う技法だ。
片手を基点とし、もう片方の手で柄頭を押して刀身を振る。大きく力強く振ることは出来ないが、代わりに刀身がふられる速度が異様に早くなるというのが特徴的だ。
本来ならば切れ味のいい刀でやるべき技法であって押しつぶすのを理念とされている剣でやる技法ではないのだが、この技法を使うことによってトールが驚けば御の字だ。
凄まじい速度で迫る切っ先は、どうしても恐怖を生む。
その隙を突く――っ!
一気に踏み出して右から左に大きく刀を振る。
それに合わせてトールが剣を縦に構えて防御をしようと動いたその瞬間に、柄頭を右側に押してさらに切っ先を加速させてトールの頬へと振るう。
そしてトールが防御をやめて慌てて首を逸らして後退しようとするが、トールの持っていた剣を蹴り飛ばして注意をこちらに無理やり引きつける。
切っ先の急加速の他にも何かあるのではないか――と俺に注意がそれた瞬間、トールの頬にヴィーザルの切っ先が触れ――なかった。
切っ先が通ったところには既にトールは居なかったのだ。
まばたきすらしていないのに見失った。
いったい何が、と思って足音のした後ろを見ると、トールが少し荒い息をして俺の首筋に切っ先を当てていた。
「勝負あり――です」
「いま、何したんだお前」
注意を逸らしたわけでもないのに何故彼が目で追うことも出来ずに俺の後ろにいるのか…?
「魔法、です。僕の靴には加速魔法の魔法陣が施されていまして。それを使ったんですよ」
「ずるやん」
トールが魔法を使ったという事に俺が文句を言うと、目を泳がせてトールが笑う。
「え、いっ、いやだなぁずるなんかじゃありませんよぉ、戦場じゃやってない人のほうが少ないですよ?」
「でも俺魔法使えないし。今戦場じゃないし」
「ま、まぁ!それだけ篠芽さんの実力があったってことです!」
えー?
なんかごまかそうとしてないかー?
と思いもするけれど、そう言われて悪い気分にはならない。
「でも本気じゃなかったろ?」
「ええ、まぁ。最後は少し驚いて魔法使ってしまいましたけど、本来なら身体強化魔法つかって動きの早さも力強さも先程の二倍ほどありますね」
「うへぇ、魔法って凄いんだな…」
「そうでもありませんよ。強化魔法はみんな使えば差なんてでませんから」
「でも属性魔法があるだろ?」
「あー…魔術師…のことですか。魔術師は基本的に生活に役立つ雑用仕事ぐらいしか道がないんですよね。戦士になろうとしても難しいんです」
「強すぎるからか?」
「逆です。弱すぎるんですよ」
え、なんかショック。魔法が弱いとかそんなことあっていいの?魔法>剣>銃がファンタジーの世界の定番じゃないの?
「魔術師は内蔵している魔術核の内容量があまり多くないんです。個人差はありますが多くても属性弾を二十発打てる程度なんです。そして撃ち切ってしまえば魔力の枯渇で気絶。悪ければ植物人間ですから」
「すげぇリスキーだな…」
「そうなんです。しかも攻撃魔法の基本も基本、一番弱い属性弾ですら二十発しか打てないんです。腕の立つ剣士ならば属性弾を五発喰らったところでまだまだ暴れられますからね。その程度のダメージしか無いんです」
「ってことは魔術師はほとんど役立たずなのか?」
俺が尋ねると、トールは首を振る。
「いえ、あくまで前線に立つのには合っていないというだけです。例えば今僕が使った魔法陣なんかは一回使えばしばらく魔力の補充が必要ですが、魔術隊による魔力補給魔法を使ってもらえればまたすぐに使うことが出来ます。魔弾二発分くらいの魔力って聞きましたね。もちろん僕も使うことが出来ますが、五回…つまり魔弾十発分も魔力を使ってしまえば体力の減少も激しくてまともに戦えなくなってしまいますから。そこで魔法隊の出番なんです」
「なるほど、魔法は基本的に自軍のサポートに回るってわけか」
「そういう事にはなっています」
「…ん?」
「机上の空論ってやつですよ。ろくに争いなんてありませんから実践された事は殆どありませんからね」
「なるほど」
「でもまぁ最近リュドミーラで魔物が討伐されたって言う話を聞きましたし、そういう意味ではリュドミーラが一番進んでるのかもしれませんが。まぁ秦野国とグーデルバイト帝国なんかは外に情報出しませんしよく分かりませんけれどね」
「へぇ…そういえば五国を作った五人が魔物を撃退してるんだろ?秦野白狐っていうのが一番魔法強かったらしいけど今の話を聞くとあんまり役に立たないよな?」
「ああ…噂ですけど秦野白狐には魔術核がなかったそうなんです。それでどうやって魔法を使っていたのかは不思議ですが…でもともかく彼女の使う魔法は凄まじかったといいます。すべての属性を使うことが出来て、一度の属性弾魔法で軽く山三つは吹き飛ばすことが出来たとか」
うわぁ…
今のはメラゾーマではない。メラだ。とか言うんだろうか。
怖すぎるな。俺の頭の中で秦野白狐のイメージが美女からだんだんと亞人のような何かに変わりつつある。肌とかちょっと青いのかなぁ…後でフェンリルに聞いてみよう。
「まぁ授業はここらへんにして剣術やりましょうか。あの技はかなり有効なので後で独自に練習してもらうとして…そうですね。やっぱり剣の扱いに慣れてないのが足引っ張ってますからとりあえず素振りやりましょうか」
「お、まさに基本ッて感じだな。何回やるんだ?」
「とりあえず軽く一万から行きましょうか」
「え?」
「一万回」
「え?」
「軽く」
「一万回?」
「はい、一万回です」
うわぁ…悪魔だ…
すっげーかわいい笑顔の悪魔がいる。
もうイヤだ帰りたい…
そして一万回が終わる頃には日が暮れていましたとさ。
****
手がいてぇ…
素振りを終えて夕食を食べた後、セレネについて中庭にやって来た。
なに、人に教える時中庭にしないといけない法則とかこの世界にはあるの?
と思って尋ねてみると、どうやら魔法を打つ時に空にむかって打てば被害がないからだそうだ。
…それはいいんだが、
「あの、そもそも俺って魔術核ないんですけど」
これがなければそもそも魔法を使えないというのがホルンの説だ。
なのに何故聞きに来たのかと言われれば、まぁ魔法のことを知っておけば何かされた時に対策をとりやすいっていうだけだ…ったのだが、
「ああ大丈夫よ、私もないもの」
えっ何その答え予想外。
ってことはもしかしてあれなの?この人ガッチガチの武闘派なの?グラップラーセレネなの?
まさか彼女が地上最強の生き物だったのか…
「いやねぇ、できるけどそんなことやらないわよ。しっかり魔法で潰したわ」
できんのかよ…まじかよ…やべぇよ…
ってそうじゃなくて、
「魔術核なしで魔法…いや、今はいいのか。魔術使えるんですか?」
「ええ。っていうか魔術核無い方が強いわよ。そもそも魔術核っていうのは秦野ちゃんが作ったリミッターみたいなものだもの」
えっ何その話初耳。
今日一日で出来た知識があっさりひっくり返されて私戸惑ってしまいましてよ。
「えっと…?」
「貴方は魔法と魔術の違いは分かっているのよね?」
「ええ…魔術はどちらかと言うと人間に開発されたも…の…ああもしかして」
「そう。そもそも魔術は秦野ちゃんによって作られたものなのよ」
「それって…」
「まぁ呪いのようなものね。人間にしか無いそれを私達はリンゴと呼んでいるわ」
「知恵の実…ですか」
「よく知っているわね、貴方何者なの?そもそも秦野ちゃんの例外がある事自体がおかしいのよね」
「言ってしまえば異世界人…ってやつですね」
俺がそう言うと、セレネは目を丸くして黙りこんで少し思案する。
「ごめんなさい、私にあなたを元の世界に戻すことは出来ないわ」
「あ、いえ別に元の世界に戻りたいから魔法を教えてもらおうと思ったわけじゃないんです」
「あ、そうなの?」
「ええ、単純に魔法って凄いなと思いまして」
「まぁ…知識は要る?」
「ええ、あると嬉しいです」
「そう、貴方はこっち側の人間みたいだし言ってもいいかしらね」
「こっち側…?」
セレネの言い方に引っかかりを覚えて聞き直すと、彼女は「あー…」と少しほうけたような表情をする。
知っているぞ。これは面倒だなと思っている目だ。
でも聞くのをやめてやらない。
こういうのは早いうちに知っておいたほうがいいのだ。
「まず。この世界は二つの大陸に大きく別れてます」
「3つの大陸…?」
「ええ、この大陸、つまり五国のある大陸がミッドガルドと呼ばれています」
「人間の世界って言うことですか」
「ものしりですね。そういう事です」
****
「そもそもヴァルハラっていうのは五国を建国した英雄たちが眠る墓地のようなものなのよ」
リンに尋ねられて、私は答える。
彼女はなかなか知識欲に溢れていて教える方も楽しいし、どんどん吸い取っていってくれるから仕事を任せることが出来て安心出来る。
夜、テントをはって火を囲んでいる時に、なぜヴァルハラはヴァルハラと呼ぶのかと言う質問が来たので答えているところだ。幸い答えを知っていたので答えることが出来た。
「墓地、ですか」
「ええ。五英雄…っていうんだったかしらね。あの人達はヴァルハラを基点にこの世界から魔物を追い払ったと言われているの。ヴァルハラは戦士の天国のようなものでね。戦って死んだ人間はそこへ行くと言われているわ」
「戦士の天国…ですか。でもその五人ってどこから来たんでしょうね。突然ヴァルハラに現れたわけじゃありませんよね?」
「それは…私はわからないわ。神が産み落とした、なんて言われているけどそんなわけないわよね」
****
「そう、あの五人はもう一つの大陸アースガルズから”追い出された”のです」
「…それが人間…ですか」
これはひどく似ている話が俺の世界にもあった。
アダムとイヴ。
原罪。
「知恵の実…ここにつながるんですね」
「本当に貴方は聡い人ですね」
「いえ、私の世界にも似たような逸話があるんです」
「なるほど。まぁ話を戻しますね。神族、と呼ばれる私達の中にあの五人はいたのですが、あの五人が子供の頃にミッドガルドから魔物をこっそり連れてきてしまったのですよ。魔物は間に侵された動物でしたから、神族の天敵とも言われているんです。そんなものをアースガルズに持ち込んだというので十数年の監禁の後、ミッドガルドに追放されたのです」
「一歩間違えば全滅ですしね…」
「ええ。かなり危なかったところです。それで追放されて人族となり、魔物を滅ぼした後に彼らは自分達の国を建国して統治し始めました。その時に秦野ちゃんはあることに気付きました」
「魔法は強すぎる」
「…ええ。自分達は元は神族ですから争いがいかに醜いものかを知っている…だから魔法の使い道を誤ることはしなかった。けれどもこれから生まれる人族の人間がそうだとは限らない。いや、確実に過ちを犯すと秦野ちゃんは考えたのです。それで自分の命、つまり魔力を使って人族に呪いをかけました」
「それが、魔術核…ですか」
「ええ。その働きを認められて彼女は今アースガルズにいます」
「なるほど…そういえばフェンリルって魔物ですよね、なんでセレネさんと親しいんですか?天敵なんでしょ?」
「ええ先程言ったアースガルズに持ち込まれた魔物というのがフェンリルちゃんなんですよ。元は犬の魔物だったのですが、暴れまわる前に神族に格上げしたんです。かなり無理をしましたがアースガルズの人間が全滅するのに比べたらまぁまだましでしょうし」
「なるほど」
元々フェンリルはただの犬だと思われていたが後々で神話に出てくるようなものだと判明した。
少し形は違うがこれも俺の世界の話にそっている。
どうしてこうも俺の世界の神話がここまで再現されているのだろうか。
疑問には思うが、まだ解明できそうにない。
「魔物というのはどこから来たんですか?今も魔物が現れてきてますけど、あれはどういう事なんです?」
一度滅ぼされた生物が再び現れるなんて言うのは遺伝子から作ったクローンぐらいしかありえない。
…または、俺のように召喚されたか、だが。
「ええ、魔物は三つ目の大陸に住んでいるんです」
「ニヴルヘイムですか」
「…その通りです。貴方本当に人間ですか?」
「異世界人です」
「そうですか…。まぁいいです。最近ミッドガルドに魔物がでているのはニヴルヘイムから召喚した人間が居るんですよ。それが灰鴉の形上でのトップ…ローゼンクロイツです」
「魔術師…ですか」
「いえ…恐らく使えた魔力量からいって魔法使いでしょうね。魔術核があればリミッターのせいで魔物を召喚できるほどの魔力は使えませんから」
「ちょいちょい漏れがあるんですね、リンゴっていうのも」
「ええ、秦野ちゃん以外の…いえ秦野ちゃんも怪しいですけど…どうやら五国を建国した人達の生まれ変わりや、子孫達には呪いがかけきれてないみたいなんです。それで魔術核のない人間が稀に現れるのです。呪いというのは基本的に自分より生き物としての力が下のものにしか使えませんからね」
「同等の存在であった他の四人に秦野は呪いをかけられなかった、と」
「そういう事です。ここからは私の推測ですが、恐らく”魔憑き”と言うのは人から神への昇格を狙った作為的なものです」
「神降ろし…」
「恐らく”魔憑き”を始めとする人間の狙いは一つです」
神の座を、奪うこと。
展開早いですがこの作品自体はかなり長くなる予定です。
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