お金っていいものだ。
サブタイトルbyリン
朝。
朝日が顔にかかって目を覚ます。
カーテンを閉め忘れたなと思って窓に視線を流すと、昨夜撒いておいたパンくずに鳥が群がっていた。
少ししっぽが曲がったのと、頭が黒く汚れたお馴染みの二匹が窓際でパンくずを突っついているのを見て、思わず笑みが溢れる。
たぶん、この子達は俺がここにパンくずを置かなくても来るんだろうなぁ。
なんてそんなことを考えて。
早く学校に行かなくちゃと思って布団をでて何かを呼ぶために口を開く――
そこで、いつも俺の夢は終わっていた。
「未練たらたらじゃねぇか」
はぁ、と目を覚ました所は夢の中とはうってかわって清潔感のかけらもないところだった。
屋根と壁があって布団があるだけだいぶマシだと思ってしまうぐらいにはこの時代に慣れてしまった。まぁ、最初に一人で野生生活を強いられたからだろうが、順応が早いと我ながら思う。
今にして思えば案外面白かったような気がしないでもないが、もう一度やれと言われたら断ると即答する自信がある。思い出補正なしに耐えられるものではないんだよ。思い出補正って凄いよな。色んな意味でな。
色々と思う所はあるけれど、なんだかんだここの生活も気に入ってはいるんだ。
パソコンも車もゲームもテレビもないけれど、その代わりに仕事に溢れている。
俺も日本では極力家事とかはやりたがらない性分だったが、自分以外にやる人が居ないという状況になるとやる気も出てくるものだし、作業中もそんなに苦痛ではない。
だからといって昨日みたいにひたすら斧を振る仕事はちょっと嫌だ。なので、軽い仕掛けを作ってみた。
車に付いているような位ペットボトルケースのような装置を作り、底の部分を鋭い三角の木にしておく。そして所定の位置に短くしておいた木を置くと、その重さで斧が振り下ろされる仕組みになっている。
簡単に言ってしまえば日本庭園にある鹿脅しの応用バージョンのようなものだ。
斧が振り下ろされて木が真っ二つにされると三角の底の両サイドから木が排出され、次の木のセットが可能になるという仕組みだ。
再充填も自動でやりたかったが、斧を自重に加えて柄部分につけた石の重さで振り下ろしているという機構上、電気がないと斧をもう一度上まで上げるのは無理だと思った次第だ。
結局斧上げる必要あんじゃんと思うかもしれないが、木を置いとく箱が装置の横に取り付けられており、そこからペットボトルケースの様なところまで木が転がり落ちてくるようになっている。
紐を引っ張って斧を持ち上げると木箱の入り口も同時に上がり、木がセットされると言う仕組みだ。
まぁ結局人は必要だけれど、片手間に作業できるようになっただけ楽だろう。
ちなみにこれは北海道での生活という本に収録されていた装置だ。
どんだけ試される大地なんだよあそこ。電気使おうぜ電気。
そんなことを考えながら、滑車で作業場まで装置を運んで朝食を食べるためにダイニングへと足を運ぶ。すると俺よりも早く来ていたトールがそわそわした様子で椅子に座って食事を待っていた。
なんだろう、と疑問に思いながら隣に座ると、彼からその理由を言ってきた。
「今日はウィンナーがあるんですよ!知ってます?豚肉を羊の腸に詰めたやつで、とっても美味しいんですよ!リュドミーラ特産らしいんですけどリュドミーラでも結構な高値らしくて。ここで食べられるのは滅多にないんですよ!」
「…へぇ」
ウィンナー…ね。
朝食でウィンナーが出た時はだし巻き卵とおにぎりの組み合わせが最強だと思う。夜食とも言うが。
久しぶりに日本で食べたような食べ物が食べられると聞いて自分もそわそわしていると、キッチンのほうからセレネがウィンナーを載せた皿を持ってきた。
「ほぉぉぉっ!」
気持ち悪い奇声を発しながらウィンナーに目が釘付けにされているトールを横目に、こちらに微笑みかけてくるセレネを見る。
「お詫びよ、お詫び」
すれ違いざまにセレネにそう言われて納得する。
そういうことだったら、好意に甘えるとしよう。
そう思って椅子に座ってフォークを手に取り配られたウィンナーを口に含む。
シャウ○ッセンほどではないが、これもとても美味しいウィンナーだった。
****
「ほぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
金!
金!!
金!!!
金!!!!!
目の前には金がいっぱいだ!!!!!!
冒険者ギルドで旅立つ人達がどれくらいいるのかを調べ、今の流通量では携帯食料が足りないと判断したリーニャはかなりふっかけた値段を最低値段としてオークションに出したのだ。
するとリーニャの思惑通りに事が運び、かなりの大金を得ることが出来た。
リュドミーラ産の干し肉というだけでブランドが付く物を何故大金払ってまで買いたいのかと聞いてみると、冒険者ギルドに登録されているような人達は大体が護衛に付く事が多く、やはり配給される食糧如何によってその働きの質が変わるらしいのだ。
つまり、旨いものを食べさせればいい働きをしてくれる。ということらしくリュドミーラ産の肉は重宝されるのだそうだ。
なら何故商人たちはそれにありつかないで流通量が足りないなんていうことになっているのかと聞いてみれば、いつもはそんなことはないらしい。
理由をたずねてみれば、リーニャは少し渋い顔で答えてくれた。
「イムラでの騒動を聞きつける人は聞きつけてるのよ。だから避難しかり視察しかりで旅が必要なの。噂が噂なものだから護衛は必要。近衛兵が全滅したなんて言う噂もあるぐらいだから質を高める必要がある。それが無理なら護衛が大量に必要…そういう風になるのよ。だから今の時期ちょうど干し肉の需要が高くなってるの」
命の恩人の危機を金儲けの種にしてるみたいで申し訳ないとも言っていたが、たぶんあの人はこれぐらいのことでは気にもとめないだろう。むしろいいぞもっとやれと後押ししそうですらある。
目の前の金の山を見ながらそう思う。
仕入れ値は金属を売ったものの八割を充てたと言っていたから、たぶん金五枚ほどだろう。
それがどうしたことか。
金四十枚へと早変わりだ。
リュドミーラの肉はシュトゥルムガットかグーデルバイト帝国に売ると安定した採算がとれるというが、今のヴァルハラでの干し肉需要はそれをはるかに凌駕しているようだ。
だが、これだけ金があるというのは嬉しい事の反面不安になることもある。
「これだけお金があると…私達だけじゃ不安ですね。私が院長に剣術を習っていたと言っても毛が生えた程度ですし…」
「ええ。予想外に収入も多かったことだし今から用心棒と情報屋を当たりに行くわ。私がここに来た意味をそろそろはっきりさせないとね」
「あ、干し肉売りに来ただけじゃないんですね」
「呆れた。そんなわけないでしょ?干し肉はあくまでついでよ。本命は篠芽探しよ」
「そうですね、ではまず用心棒ですか?」
「そうね。冒険者ギルドに行くわよ」
朝の空気を大きく吸いながら宿を出てミッドガルド広場で適当な食糧を買い込んで、食べながら冒険者ギルドの受付へと足を運ぶ。
「御用は登録ですか?依頼ですか?」
つり目が印象的な受付嬢にそう尋ねられ、リーニャが依頼だというと受付嬢がサラサラと手元の紙に何かを書く。
どうやらエントリーシートと呼ぶらしい。
「依頼先は個人か冒険者ギルドか、どっちにしますか?」
「冒険者ギルドでお願いするわ」
「ありがとうございます。では種類はいかが致しましょう」
「護衛でお願い。できれば元王宮騎士とかだといいの。腕が立つのをお願い」
「…なかなかお値段張りますよ?」
「これでも商いの腕はいいのよ」
「そうですか。失礼致しました。条件に合う人間が一人居ますが、期間は決めますか?」
「そうね…二週間ぐらいでお願い」
「二週間未満で護衛が終わったとしても二週間分の料金が必要になってしまいますがよろしいですか?」
「構わないわ、食事は私達が出すし、支度金も出すわ。それで見積はいくらぐらい?」
「それですと…二週間だと金九枚と銀五枚ですね」
うわっ…傭兵費用…高すぎ…!?
そう思って目を丸くしていたが、どうやらこれが個人に頼むとなると同じ能力でも金五枚ほどになるんだそうだ。冒険者ギルドのピンはねってこわーい。
「じゃあとりあえずそれでいいわ。向こうに条件伝えてくれる?」
「承りました。では入り口近くの待合所でお待ちください」
そう言われて、待合所で渡された飲み物を飲みながら傭兵を待つ。
「すごいですね、元王宮騎士なんているんですね」
「まぁ普通はいないんだけどね、ほら最近”魔憑き”事件のせいで色々と師団やらが壊滅させられているじゃない?それのせいで傭兵に転身した人がいるのよ」
「なるほど…」
そんなことを話していると、嫌味にならない程度に金色の装飾が飾られた銀色の鎧に身を包む男がやって来た。
胸元には銀と金がネジ曲がっている杖のようなものが描かれていて、とても高価な鎧だと分かる。
顔に傷跡が付いているがひげはない。すこしがっかりだ。
そんな風貌をした男が、私達の顔を見て口を開く。
「貴方達が、私の依頼人か?」
「――はい」
声とその立ち姿だけで素人目にも分かる。
この人は、カーライアムと同じぐらいに剣の腕が立つ人だと。
「名前はなんて言うんですか?私はリーニャ。この娘はリン。あなたは?」
「私の名はテセウスだ。よろしく頼む」
「ええ――よろしくお願いします」
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