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異世界の歩き方  作者: レルミア
ヴォルゴード王国・潜入編
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旧友

 まず最初に与えられた仕事は薪割りだった。

 どうやらこれから冬になるらしく、薪の備蓄が必要らしい。

 大きな斧を肩に担いで作業場に案内されると、そこには金髪のチャンニーが既に木を切っていた。チャンニーっていうか兄ちゃんですね。

 年齢は俺より少し年上ぐらいだろうか、日本ならばモデルとしてチヤホヤされるんだろうなと思うぐらいの美形だ。

 金髪って何の魔法属性なんだろ。

 そう思いながら彼に近づくと、彼もこっちに気付いたようで額の汗を拭いながらこっちに向き直る。

 運動で上気した顔に滴る汗。女だったらとても良いのにやろうとなるとなぜこうもどうでも良くなるのだろうか。いや男でも構わんぜっていうような人も居ますが、結構特殊じゃありません?


「やぁ、君が新入りか。よろしく頼むよ」


 そう言ってにっこり笑う彼に会釈して、彼が短く切った木を平らな石の上に縦に置く。

 ぐるん、と遠心力を使って勢い良く振り上げ、斧の自重を利用して一気に薪に叩きつけると、ぱかん、ときれいな音を立てて真っ二つに割れる。

 初回からこうもうまくいくとは思ってなかったので思わずおお、と声を上げると、チャンニーが笑う。


「君は薪割りは初めてかい?」

「…ええ、あまりこういうのはやったこと無いんです」

「なるほど。分からないことがあったら聞いてくれよ。僕はトール。君は?」

「俺は篠芽悠真です。何かあったらよろしくお願いします」

「うん。よろしく。じゃあちゃちゃっとやっちゃおうか。ノルマ達成するまでは夕飯はもらえないルールなんだよね。ここ」


 うわぁ。

 がんばろ。

 心のなかでそう呟いて、トールと名乗った青年が次々と短くしていく木を縦に割っていく。

 木を石台に置き、斧を振り上げ、そして振り下ろす。

 たった三工程のその作業を延々と繰り返していくのは、俺が日本にいるときはあまり得意ではなかった。

 自分がやる必要無いんじゃないかと思えて腐っていたものだが、今こうしてやってみると案外良いものだと思う。

 余計なことを考えなくても済むし。

 ある程度石台の周りに割られた薪が貯まると、紐が付けられた木の箱のなかに詰め込んで所定の位置まで持って行き、再び作業を開始させる。

 そして更に数十分、量にして三十本ほど薪を作ったところでトールの言っていたノルマと言う単語が気になって尋ねてみる。


「ノルマって、どれくらいなんだ?」

「とりあえずあの薪貯蔵庫を一つまるまる埋めるまでかな」

「まるまる埋める…!?」


 ちょっとまて。

 今俺が持っていった薪の量は大体百本ぐらいだろうか。

 まぁ木箱がそれぐらいしか入らなかったから一回の運搬に百本だとしよう。

 で?それで?

 あの薪の貯蔵庫っていうの?大きな木箱?三十分の一も埋まらなかったんだけど?うん?オカシイな?今だいたい三時ぐらいだろ?百本作るのに少なめに見積もって一時間だろ?これをあと二十九回。つまり二十九時間。

 とんでもねぇクソブラックだなおい!

 おっと。

 思わずよくない単語が出てしまったな。

 単純作業がいいものだと言ったがそれはあくまでたまにの場合に限る。

 二十九時間を毎日続けたらどうなるんだよおい。

 死ぬぞ。

 そんな風に軽く絶望していると、俺の表情を見て考えていることを察したのかトールが笑って言う。


「大丈夫だよ、僕もこれを切り終わったらそっちを手伝うことになってるからさ」

「あ、そうなのか。悪いな。助かる」

「いやいや、昨日まで一人だったからね、だいぶ助かってるよ」


 つまりトールは切り出しと薪割りをずっと一人でやってたのか。

 レベル高いなおい。

 そんなことを考えながら、スパコンスパコンと手っ取り早く切っていく。

 やはり筋力は日本にいる時よりも上がっているようで、日本にいた頃ならもう音を上げているだろうなというような時間薪を切り続けていても何の疲労もたまらない。

 …ふむ。

 後でフェンリルに聞いてみよう。

 そして黙々と木を切り続けている事数時間。既に日が落ちた頃合いになって、トールが木の切り出しを終えて斧を片手に隣の石台へとやってきた。


「君すごいね、休憩もしないでこんな長い時間も斧振ってるってなかなかすごいよ」


 そう褒められはするが、彼も同じく休憩はしていない。


「君もだろ。君の場合あの木の山から大きな木を持ってくるのもしてるんだし、俺よりも作業キツイんじゃないか?」

「まぁ、僕は剣術で鍛えてるからね!」


 そう言って力瘤しを作って見せてくるが正直無い。

 普通にひょろい。

 コメントに困っていると、トールが少し恥ずかしげに笑う。


「筋肉ないけど僕は魔術で体の強化してるからね」

「へぇ、得意なのか?」

「まぁね。って言っても不属性魔法ばっかり得意になって属性魔法はまだまだ弱いけど」


 そう笑いながらスパコンスパコンとテンポよく木を切っていく。

 こんな作業ばっかりやっているから不属性魔法が得意になっていくんだろうな、と思う。

 やはり実践する機会が多ければ多いほどうまくなっていくのは語学もスポーツも何でも同じだ。


「君は魔法何使うの?」

「んや、俺は魔法使えないんだ」

「え、そうなのかい?黒髪黒目って言うと魔法使える人の代名詞みたいなイメージあるけど」

「残念ながら、才能がないみたいなんだ」

「…へぇ。残念だね」


 うん残念だね。いいから手を動かそうか。

 こういう作業をしている最中に言葉をかわしたくないというのは日本人独特の気質なのだろうか。

 単純作業をしている時に話しかけられると殺意さえ湧く時はないだろうか。あるよね?あるある。コミュ障独特の発作なわけではないはずだ。

 いつもならこのまま何を話しかけられようと無視するところだが、いかんせんやらなければいけないことがあるためにそうとも言っていられないのだ。


「アンタは、どういう人なんだ?俺が言うのも何だがここに来るようなのはよっぽど奇人なやつだろ?」

「あはは、君はなかなか突っ込んでくるね…。何から話したもんかな。僕はある村で代々伝わる剣の家でしてね。村では一番強かったんですよ。僕」

「すごいですね」

「いえ、でもそれは井の中の蛙のようなものでした。伸びた鼻っ柱をへし折られましたよ。まぁなんやかんやとあって放浪していたところを今のご主人様に拾われて、仕事をしようと思ったら何も出来なかったのでこうして色々と教えてもらっているわけです」

「なるほど、良かったですね。いい主人に会えて」

「ええ。篠芽さんはどういう経緯でここに来たんですか?」


 やっぱり聞かれるか。

 どうしたもんか。ある程度本当のことを言ってしまいたいような気もするけれど、俺は”魔憑き”なんですなんて言ったらこの国の衛兵に突き出されてしまう気がするからやめておこう。


「なんか事故で記憶が吹っ飛んじゃったみたいでボーっとしてるところを奴隷商に拾われたんだよ。いやぁ間抜けだとは思ったけどね。何故かたくさんお金を持ってたからそれを奴隷商に渡してここに入れてもらったんだよ」

「へぇ…良かったですね。そういうのって大抵奴隷商がもらっちゃって約束は遂行されないと思うんですけれど」

「まぁそこらへんは、ちょちょいと弱みをちらつかせるんだよ。こんなところに奴隷の手錠の鍵があるなぁなんて言って見せれば良いのさ。幸い丸々太ったおっさんだったしね」

「あはは、君すごいねぇ」

「ありがとな。さっ、後もう少しで終わりだ。ちゃちゃっと片付けよう」

「そうだね!」


 そしてそこから更に三時間ほどひたすら薪を切り続けると、ようやく薪の保管庫がいっぱいになった。


「しゅうっりょー!!!」


 両手を突き上げてそう叫ぶトールとハイタッチをして、道具を片付ける。


「いやぁよーやくおわったねー」


 あはははーと気が抜けるような笑い方をしながらそう話しかけてくる。

 いつもなら面倒だなとかどう答えたらいいかなとか考えるところだが、不思議と彼相手にはそういった感情は湧いてこない。

 長い間一緒に作業をしただけで親近感が沸いているということだろう。


「そうだな。手がマメだらけだよ」

 

 指の付け根にできたマメを見せて笑うと、トールも笑って手を見せてくる。


「僕は一応剣術をやってたからね。この通り手は固いのさ」

「へぇ、本当にゴツゴツしてら」


 トールの手のひらを触りながらそんなことを言う。

 確かに棒を持つ所はしっかりと皮膚が硬くなっている。意味深な言葉ではないですよ。言葉通りに受け取ってくださいね。

 あ、そうだ。

 

「もし良かったら俺に剣術を教えてくれないか?」


 俺がそう尋ねると、トールは首を傾げる。

 さっきから思っていたんだがこいつやけに動作が幼い気がする。

 まぁ、容姿が整っているお陰で違和感がないから別に文句のかけらも浮かばないけれど。


「ん?うーん…時間がなぁ…」


 ああ、そうか。

 薪割りだけでこんなに時間がなくなるんだから更にそれ以外の作業もやらないとというふうになると剣術を習っている暇はない。

 と、諦めてしまうのは簡単だがせっかくこんな剣と魔法の世界に来たのだ。魔法はフェンリルに習うとして、剣も習いたい。

 俺の頭にはこの世界より遙か先にすすんだ技術の頭脳がある。

 これを使って効率化させてやろうではないかふはは。

 はい。


「それは、何とかするわ」

「そう?時間があれば教えるよ!」

「ああ、頼む」


 そんなことを話しているうちに食堂へと辿り着く。

 いやーつかれたねーなどと話しながら席につくと、ユーノが笑って料理を持ってきてくれる。


「もう仲良くなれたんですね」

「ええ、すごいんですよ篠芽君!初めてなのにずっと休憩なしでやっちゃって!」

「あら、見た目より体力あるんですねぇ、篠芽さん」

「あはは…」


 男友達とは談笑できるけどあまり親しくない女の人とは話せないというコミュ障あるある。

 なんか最近再発してるきがするなぁ。

 そんなことを思っていると、何かを探すようにトールがきょろきょろと周囲を見渡している。


「そういえばセレネさんはご飯たべないんですか?」

「ああ、あの子はもう少しで…あ、来たみたいね」


 おや、とトールとユーノの視線を追ってみると。

 そこには。

 女神がいた。

 いや。

 語弊があるな。

 すっげー美人でした。

 ポニーテールにした銀色の髪を揺らしながら椅子に座る彼女はとても儚げで今にも崩れてしまいそうな感じがする。

 奴隷の衣服も様になっているというか、彼女が着ればなんでも様になるんだろうな。

 そんなことを考えていると、ふと彼女が口を開く。


「あら、フェンリルではありませんか」

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