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異世界の歩き方  作者: レルミア
ヴォルゴード王国・潜入編
13/104

後悔なんてあるわけない

本文を読み直してパッと思い浮かんだのがこのサブタイでした。

さやかわいい。

新たな章の始まりです。

どうぞお楽しみください。

 奴隷というものは一体何故存在するのだろう。

 そんなことを考えた人はたくさんいるだろうし、よくないと思って廃止しようと思った人もいるんだと思う。

 けれどもどういうわけか無くなっていない。

 ということは、奴隷は必要とされていてどうやっても消すことが出来ないということなのではないのだろうか。

 先日、ご主人に食って掛かった人が居た。

 逃げ場はない。

 そう言って屋敷に飛び込んでいった彼の目には、何かが宿っていた。

 自分の命を投げ出してしまうほどのそれを、私は知ろうとは思っても理解はしたくない。死にたくないし。

 けれども。

 死にたくはないけれども。

 そうまでして貫き通したい物があるというのは。

 なんだか、羨ましい。

 そんなことを考えておセンチになっている、世話人です。

 

「今日は新しい人が来るんでしたね」


 大きな馬小屋のような場所で、洗った食器を片付けながらひとりごちる。

 ここは俗に仕込み所と言われるところで、売られた使いものにならない人間が集まるような場所だ。

 そんな人間達の世話をしているのが私だ。

 だから偉い立場というわけではなく、私もここの卒業生でかつ奴隷である。

 単純に使いまわされているだけである。だから何というわけではないのだけれど。

 しかしここの労働条件は良い方だ。

 食事は出るし、仕事もそんなにやらなくていい。こんな所に送り込むぐらい何もできない奴隷なら単純に”処分”したほうが早いし経済的だからだ。

 そんな所に押し込むのだから、大体は容姿がとてもいいから手放すのが惜しいが性格がどうにも手に負えないと言う人間ばかりがこういう所に来る。

 例えば今いる二人のうち一人はとてつもない美貌を持っているが、主様に迫られたときに急所を思い切り蹴りあげたためにここに入れられた。

 もう一人はこれまたとてつもない美貌を持った男性で、男色の気のある主人に迫られた所花瓶で急所を殴打したそうだ。ちなみに後者のご主人は少し悦ばしかったそうでそういう手ほどきもしてほしいなどとのたまいおった。うちはそういうサービスしてませんので困るんですがねぇ。

 なんてことを思いながら新たに来た”出来損ない”を受け取るために中央広間に行くと、みすぼらしい男がそこには居た。

 特に顔も映えないしなんでこんなのをここに、と思ったがなるほど。

 黒髪黒目。

 なかなかどうして商品価値がありそうである。


****


 時を遡ること数時間。

 俺は一人の小太りな奴隷商の首根っこを捻り上げて壁に押し付けていた。


「お主男色だったのか?」


 頭のなかでそんなことをまじめに聞いてくる馬鹿がいるが、とりあえずは無視して奴隷商に声をかける。


「アンタ、この国の一番底辺のところに心当たりはないか?」


 この国。

 ヴォルゴード王国の辺境の街道にて適当な奴隷商隊を襲ってそう尋ねると、どうやらこの国には奴隷教育所と言われている場所があると言う。 

 なるほど。

 では次の方針は決まりだ。


「そこに連れて行け」


 俺がそう言うと、後ろでため息を吐いた何かが居た気がしたけれど、多分それは気のせいだろう。

 そして川に流される桃よろしくどんぶらこどんぶらこと馬車に揺られてヴォルゴード王国第二都市ヴァミリへと到着し、その日にそのまま教育所へと行くことになり、現在へと至るわけである。

 教育者と呼ばれた女性は緑色のサイドポニーテールで、赤く丸いきれいな石のついたピアスをしている。

 腰にかけたエプロンで手を拭きながら俺のことを見ると、一瞬驚いた様な顔をして、次いで納得して頷いてみせる。

 きっとポーカーとかやると負けるタイプだなと心のなかで思って、自分の髪の毛と目がきちんと動機として作用することに安心する。

 少し複雑そうな表情をしながら部屋へと案内されて、少し休憩をやるから後でまた声をかけてくれと言われる。

 バタン、と扉を閉めて教育者が出て行ったのを確認すると、フェンリルがいつの間にか実体化して俺の隣に腰掛けていた。


「で?なんでこんな所に来たんじゃ」


 フェンリルは少し不満そうな表情で腕組みをしている。

 まぁ、神様に近い存在がいきなりこんな所に連れて来られたんじゃ不機嫌になるのも分かる。

 しかし理由もなくこんな所に来たわけじゃない。


「ここにはある程度金がある奴の奴隷が来ているのはわかるだろ?」

「そうじゃな。顔がいい…高価な商品を買った上にこんな所に送り込めるほどの金があるのはなかなか居ないじゃろうな」

「だろ。そしてそういう連中を好んでいない奴がここに来ているわけだ。つまりちょっとした情報ならくれるんじゃねぇかなっていう算段だよ」

 

 俺がそう言うと、フェンリルはなるほど、と相槌を打つ。


「っていうか、アンタ神様の使いだって言ってた割に何も知らないよな。本当に神の使いなのか?」

「んむ。今となっては神もお主が思うほど全能ではないのだよ」

「今となっては?」

「そうじゃ。確かに過去は神と言うのはこの世界のことを何でも知っていて、何でもできる全知全能の存在じゃった。しかし今は違う。どこかの馬鹿が魔物を召喚してくれたお陰でモヤがかかったように世界が薄暗くなっていて見えないそうじゃ」

「…へぇ。その神様っていうのは誰なんだよ。名前は?」

「お主は契約者じゃし教えてやるが…他言は無用じゃぞ」

「ああ」

「現在活動できている神は秦野白狐…秦野国の建国者にして魔術を開発した人間じゃ」

「…そいつはまた。突飛な話だな」


 と呟いて思わず頭を抱える。

 俺がフェンリルと契約した後は色々とこの世界の事情を教えてもらうことが出来た。

 その一つとして契約した以上俺が遂行しなければならないこの世界の”混乱”の解消。

 この解消を具体的に言うとこの世界に再び姿を表した魔物を消すことらしい。

 そしてどこかの馬鹿が魔物を召喚してくれた、つまり秦野白狐がこの世界の事を識ることができなくなったのと同じタイミングで第一の”魔憑き”ルシファーが現れたらしい。

 この二つに関係性がないとは考えられないから調査のためにこのヴォルゴード王国にやってきたのだ。

 まぁしかしこの国に入るのには大変骨が折れた。

 ”魔憑き”が現れてからというものの他国の”魔憑き”が自分の国にはいっては敵わないと言う事で国境周辺の警備が異様に厳重になっているのだ。

 国境警備連合部隊、通称BGUが守る国境を越えるには商人等の身分証明書が必要になる。

 そういうのを回避するためにも、奴隷商を脅したわけだ。

 それにしても、頭のなかでこの世界の大まかな地図を作り出す。

 五角形の図形の頂点に五国の第一都市が設置され、それを守るように第二~第五都市が設置されている。

 つまり隣の国の第一都市との距離はすべて一緒になっていて、かなり綺麗な国勢地図になっているのだ。

 その五国の第一都市で形成される五角形、その中心にあるのが連合都市ヴァルハラだ。まだ行ったことはないがフェンリルの情報によればかなり大きい都市らしい。

 当然そんなところをルシファーが通るとは考えられない。

 第三都市ヴァリアントはこの第二都市ヴァミリとリュドミーラの第三都市イムラとの間にある。

 国境を超えるのが難しいのならば違う第二都市に痕跡があるんじゃないかという予想のもと、ここに来たわけだ。


「そううまく行くかのう…」


 不安げにフェンリルがつぶやくが、俺だって同じ気持だ。

 十八年前に突如一つの村を滅ぼした人間の事なんざ今更調べられるかっつの。


「やれることをやるしか無いだろ」

「たしかにそうなんじゃがの、何じゃお主突然やる気を出してきたのう」

「やることやっちまったんだ、一度乗りかかった船だしな。最後までやるしかねぇだろ」


 大きくため息を吐きながらそう言うと、少しの間を置いてフェンリルが口を開く。

 

「…また、殺すのか?」


 彼女のその言葉は俺の心を深く突き刺す。

 殺した。

 忘れるようにはしていても、未だに近衛兵達が死ぬ直前に発した断末魔が耳から離れない。

 俺が奴らの体を弾き飛ばす直前の奴らの恐怖の表情が忘れられない。

 何よりも。

 この手の感触が忘れられないのだ。

 でも、でも――――


「しょうがないだろ、あの時は精一杯やった。他にどうしろってんだよ。あの子たちを助けて、なおかつその後の生活を安定させるために他に何が出来たっていうんだよ!」


 ダンッ!と壁を叩いてそう叫んでフェンリルを睨みつけるが、フェンリルは冷めた表情をしたままだ。


「よくやった、と言って欲しいのかの?残念ながらそれはお門違いじゃ。お主が何をしようが儂には何も言うことは出来んよ」

「…分かってるよ」


 それだけ言ってふて腐れるようにベッドに横になる。

 近衛兵達の顔が浮かんで罪悪感に駆られるが勘違いしてはいけない。

 後悔してはいけない。

 あれは正しいことだった。

 正しい行動だったんだ。

 それを後悔や罪悪感なんかで汚しちゃいけない。

 そんなことをしたら俺は――

 

「大丈夫ですか?」


 泥沼に陥りそうになったところで、部屋の戸が開けられて教育者が入ってくる。


「ああ、ごめん。ちょっと色々あってね」


 笑ってそう言うと、彼女は立ち去ってくれるかと思ったが腰がけエプロンから一枚の布を取り出して俺に渡してきた。

 なんで、と思って首を傾げていると、彼女が笑う。


「強がるなら、せめて涙ぐらい拭きましょうね」

 

 そう言われて頬を触ると、確かに濡れていた。

 

「あり、がとうございます」


 これ以上何か言うのも恥ずかしくなってしまうのでおとなしく布を受け取って涙を拭き取る。

 立ち止まってはいられない。

 

「名前、まだ聞いてないんですけれど伺ってもよろしいですか?」


 立ち上がって彼女の前に立ってそう尋ねると、彼女は笑って応えてくれる。


「私の名前はユーノです。よろしくお願いしますね」

ちょっと期間が開きましたがいかがでしたでしょうか。

数少ない選択肢をどう選んでいくのかって大事ですよね。

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