覚醒
遅れてすみません。
いやぁ雪すごいですねー。
住んでる所が積雪二十センチと聞いて驚いたところです。
…明日納車日なんだけどなぁ
「私達が警備に行くためにここを出たばっかりに…」
聞けば、リン達が攫われたのは俺が城へ行った数分後にカーライアムがファーストマーケットの見回りに行くためにここを出たタイミングらしい。
つまり、完全にここが無防備になってしまった時にさらわれたと言う事になるが、それにしては被害が少ない。
「リンちゃんに…奴隷市を見せて…あんな事言ったから…たぶん…」
そう言って肩を落とすリーニャの頭を撫でる。
確かに、あの言い方だと辺に正義感を持っていてかつ世間知らずな人間だと盗賊に食って掛かろうと考えてしまうかもしれない。ましてカーライアムに遊び程度にとは言え剣術に付き合ってもらっている彼らのことだ。自分達は強いと勘違いしているのかもしれない。
「私の…せいかもしれない」
落ち込みきってしまったカーライアムの尻を蹴りあげて気合を入れなおさせて指示を出す。
「商品を傷つけることはしないだろうから、さっさと外まわり行ってください」
言われて、ようやく表情を引き締めたカーライアムが頷く。
「ああ、第一師団と第二師団にも掛けあって協力を仰ぐよ」
「いや、それはなしでお願いします」
カーライアムの考えを即刻否定すると、カーライアムが怪訝そうな表情でこちらを見てくる。
まぁ、普通に考えたら捜索する人数は多い方がいい。
けれども手を借りる相手は考えた方がいい。
この状況、今までの出来事を総合すると主犯か共犯の人間は容易に想像がつく。
人を信用するなかれ。という教訓はそのまま人の言動を記憶することに結びついている。
「まぁ、俺に考えがありますから。行ってください」
「君はどうするんだ?」
「俺は城に行きます。少し、考えがありますので」
けれどもまだ確定ではないために口にするのは憚られる。
よく確定ではないから言えないと言う連中に対してもったいぶらないでさっさと言えよそのおかげで生まれない誤解があるんだぞと思うが、この場合は言って間違っていた場合。彼女の地位が不安定になってしまう。
「そう…か、分かった。頼んだぞ」
それ以上聞くのをやめてくれて助かる。
はい。とだけ行って頷いてみせると、俺も城に向かうために準備をする。
大きなローブをはおり、ローブの内側にヴィーザルを羽織る。
さっさと行こうと思って玄関に手をかけると、ローブを掴まれて動きを止められる。
誰かと思って振り返ってみれば、リーニャと子どもたちだった。
何かを言おうとして口を開閉させているリーニャに代わって、子供たちが口を開く。
「おにいちゃん!アンミルさんに助けてーっ!って言えば助けてもらえるよ!」
「…なんで、そう思うんだ?」
「だってあの人優しいもん!たまにうちに来てお菓子くれるんだよ!」
「…そう、なんだ。うん。助けてーって言ってくるよ」
子供たちにそう言われてますますアンミルに対する嫌悪感が沸き上がってくる。
あの野郎。
ぶっ殺してやろうか。
と、心中穏やかでなくなっているとリーニャが意を決したように口を開いた。
「かえって…きてね…?」
いろんな思いが込められたその言葉に対して返す言葉に量はいらないだろう。
「任せろ」
****
あいつはやってはならないことをした。
子供を騙し、挙句の果てに盗賊に売ったのだ。
奴が孤児院に頻繁に足を運んでいたというのは知らなかったが、恐らくその行為にも理由が付けられる。
値踏みと、信用を勝ち取る事だろう。
どすん、と心のなかに重苦しい何かが落ちたような感触がする。
知っている。
この感覚を俺は知っている。
「ふざけやがって」
つぶやきと同時に城の門を蹴破り、何事かと事態が把握できていない衛兵たちの視線を浴びながらレッドカーペットを歩いて行き、一際大きな椅子へと近寄っていく。
しかしそこにアンミルは存在せず、居たのはアイムだけだった。
俺の姿を視認したアイムは、兜を取ってニヤリと下品な笑いを浮かべる。
「どうした、そんな顔をして…子供でもさらわれたか?」
「て…めぇ…!!」
言葉は要らない。
ただ俺の目的は。
こいつを、こいつらを―――
「なんだなんだ、どうしたというのだ」
衛兵に呼ばれたのか、不穏な空気を聞きつけたアンミルが間抜けな調子で玉座の傍の扉を開けてやって来た。
その姿は普通の市民が着るようなローブに、子供が好む飴菓子を大量に入れた籠を持っていると言う状態だった。
まさに、これから孤児院に行きますと格好が言っていた。
「何じゃお主、また来たのか。いやぁやっぱりアイムの進言を認めておいてよかったのう」
あん?
怒りに染まる思考の片隅で、俺の何かが違和感を捕らえる。
「今朝方お主を読んだのもアイムの進言での、いやーこやつは人事をつくすのが上手でな。フレキ退治の時もこやつの言うとおりの布陣を敷いたらお主も知っているような結果じゃ。すごいだろ?」
なるほど。
そういう事か。
アンミルは所詮形だけの王様だったと。
そういう事だったのか。
「確かにそりゃすごい…確かにアイムのおっさんはすごいよ」
「お褒めに預かり光栄です」
芝居がかった様子でそう言うアイム。
奴は俺が、この人数相手に暴れることが出来るわけがないと高を括っているのだろう。
だが奴にも誤算はある。
「だがあんた、俺の事を勘違いしてるぜ」
心のなかで、ある少女の名前を呼ぶ。
かつて神を喰い殺そうとした。
狼の名を。
「何じゃお主、急にやる気になったのか?」
突然俺の隣に少女が現れたことに、城内の全員が驚きの表情を露わにする。
「ああ。あのおっさんが何でも喋りたくなるぐらいに叩きのめすのは、可能か?」
「何じゃその程度――」
溜めを作り、フェンリルはアイムを見て大きく口を割いて笑う。
「他愛もないわ」
「そうか」
ならばもう言う事はない。
「やるぞ」
「おうとも。さぁ始めようかのう――この世の平和を作る勇者の、初めての戦いじゃ」
剽軽な調子でフェンリルがそう言うと、俺の右腕に吸い込まれるように入ってくる。
次の瞬間。
「あはははははははははははははははははは!!!!」
フェンリルでも、篠芽悠真でもない存在が高らかに笑い声を上げる。
その正体は。
「さぁ始めようか人間共!!貴様らの首を飾り立ててオブジェクトを作ってやろう!!」
「貴様!魔憑きかっ!」
「そんな肩書で呼ぶんじゃあないぞ三下!俺の名前はサタン!憤怒のサタンだ!!」
七つの大罪最強と言われる――魔王サタン。
「さぁ…子供たちの居場所を吐いてもらおうか…?」
憤怒が宿る五人目の、魔憑き。




