勇者召喚!だったらよかったのに。
よろしくお願いします。
僕は篠芽悠真十六歳。
異世界人です。
でも僕は異世界にきた勇者でも、財政再建するために呼ばれた歴代の王様の続きというわけでもありません。どこにでも居る普通の高校生だった僕は、冬休みを謳歌しようと厚着をして外に出た瞬間に緑の大草原に召喚されたのです。なんだよここあちーよ。
ハーレム?勇者?巫女?パーティ?は?ねーよ。
「ねーよ!!ちくしょう!!!」
何かしらのイベントが起こるかと思えば何もない。数時間待っても何もない。あれこれ夢じゃね?と思い始めてから数時間、もはや日も暮れ始めた頃にようやく現実を受け止めました。
僕は単純にここにいるだけだと。
誰の意図があるわけでもなく、ここにいるだけだと。
そしてこれからやるべきことを考えて僕は頭を抱えました。
俺はコミュ障だった!!
繰り返し言おう。
俺はコミュニケーション障害。略してコミュ障である。
よって、人との関わりが苦手なのである。端的に言ってぼっちである。
どこぞの物語のように大草原に召喚された俺を助けてくれるお姉さんがいるわけもなく、あてもなく適当にふらついたらあった村に入ってみると、よそ者は出て行けというように追いだされました。どうしようもないので向こうの世界で入っていたサバイバル部の知識を使ってかろうじて生きています。
「そろそろ俺死ぬんじゃないかな」
召喚されたからといって仕事があるわけでもなく、冒険に行かされるわけでもなく、ただ俺は草原に”居た”それだけだ。
金も何もない状態で頼りになるのは向こうの世界で覚えた狩りと採集の知識と技術だけだ。どこぞの狩猟民族かと自分で思いながらも、罠を駆使してかろうじて生きながらえてきたが正直きついものがある。現代っ子の軟弱な体はそろそろ砕けてしまいそうだ。
とはいえこのコミュ障具合を何とかして村に行ったとしても得られる生活はとてもじゃないが現代からは程遠いだろう。
パソコン、テレビどころか、外から見るにどうやら電気すら通っていない。ってか屋根が藁の時点で俺は何かを諦めました。
しかし屋根のある生活というものは憧れる。ここに来てから数週間、雨の日は即席の屋根を作って寝たが、何度泥水が口の中に入って死にかけたことか。虫も入ってきた時は数時間泣き続けましたとも。
まぁここまで思い返してみれば、俺の肉体は確実に強くなっている。…精神も強くなってくれてれば何よりだったんだけどなぁ。
「そんなことを言ってても始まらない、か」
とにかく別の村に行って何か仕事がないかどうかを探す必要があるな。
そう思って採集していたヨモギらしきものを袋状に結んだ上着の中に詰め込んで背に担ぎ、重い腰を上げる。
幸い、街道もないほど田舎なわけではないようで、舗装はされていないが土が剥げている通路が俺のことを追い出した村からどこぞへと伸びている。
「ここをたどっていけば…3日で着けばいいなぁ」
現在の備蓄食料は二食分。
太陽の位置と時間の関係は地球と変わらないようで、今太陽が真上にあるから正午だ。昼飯は今さっきたべたので今夜と明日の朝の分は確保できる。更に言えば朝を抜けば明日の昼まで持ちこたえることができる。
「まぁ何とかなんだろ」
こういう時の行動力はよくお母様に褒められたものです。
そうして歩くこと約五時間。まだまだ日が高い時頃、三人のおっさんに出くわした。
(エンカウントー!!)
恐れていたことが起きた。
街道を行くということはそこに人がいるということで、つまりは天敵が居るということである。そして何故か知らないが俺は憎まれやすい。この世界では。うん。この世界ではね。元の世界では空気でしたし。
自虐トリップはここらへんにして、と正面に立つ三人のおっさんを観察すると、彼らはそれぞれ腰に直剣を差していて、服はねずみ色のボロボロのローブのようなものを着ている。
これ、見たことあるぞ。
盗賊ってやつだ。
気付いた瞬間に背筋が凍る。
彼らも一瞬驚いたような表情をしたが、すぐさま俺が弱腰のチキンだと察したようで嫌な笑みを顔に貼り付けながら口を開く。
「○×▼$#’??#”」
ふっつーに知らない言葉でした。
方言かな?と思いもしたけどそもそもあいうえおが見当たらねぇ。
日本語で字幕を表示するなら「づっどげぶっなどれれれ?」だ。どれれれ?じゃねぇよおっさんがちょっとかわいい言葉喋んなよ。萌えねぇわ燃やすぞ。まぁ、内容としては「おにーちゃんお金貸してくんね?あとで返すからさー」とかだろ?こういう連中のいう内容は大抵同じだよな。
「後で返してくれんの?」
そう言いながらジーンズの尻ポケットから財布を取り出して小銭を出して手のひらに乗せて見せると、盗賊どもは少し怪訝な表情をして俺の顔と小銭を見てから、仲間内で会話する。
俺の手のひらにのってるなけなしの五百円を見てこれしか持ってねーのかよこいつ可愛そうだなとか、そういう会話だろうか。こんな連中に情けをかけられるなんて、泣きたい。
そんなことを考えていると、三人組の大きな体をした人間が一言ボソリと言ってから、他二人の表情が一変、そそくさと何処かへ去って行ってしまった。
「うーん。憎まれてる、わけじゃねぇよなぁ」
憎まれてるなら腰に差したあれで今頃まっぷたつだろうし。
なんだろうなぁ、と思いながら、今俺が普通に他人と言葉をかわしたことに驚く。
言葉の壁があるからいっそ破れかぶれになるのか、外国に行くとコミュ障はやけに活発になるという逸話は本当らしい。
「これは期待できるぞぉぉぉ!」
勝ったわ。勝ち確だわこれ。コミュ障がなくなるとかもう俺欠点ないじゃん。このそこそこの顔を使ってハーレム築きあげてやるわ。勇者になって魔王倒してやるわ。
そう意気込んで街道を往く。
数刻後。
「はい…すみませんでした…はい…」
元気よく馬車の御者席に乗るおっちゃんに話しかけたらめっちゃ怒鳴られた。
怖すぎ。
穴があったら引きこもりたい。
無理でした。
「うん。謙虚さを忘れちゃあいけないな」
大学デビューも高校デビューも謙虚さを忘れちゃあただの痛い人だ。それと同じだ。異世界デビューも謙虚に始まって謙虚に終わる。礼儀ってのはどこでも大事だぜ。
などと悟ったことを考えながら、これからコミュニケーションをどうするかを考える。
言葉が通じないんじゃあどうしようもないから、まずここの国の言語を覚える必要がある。とは言え憎まれてるなら会話を聞くことも出来ないし、そもそもいきなり会話を聞いたとしても意味がわからん。
あれこれ詰んだんじゃね?と思いかけたところで、ふと日本人がどこぞの民族に研究にいった時の言葉の勉強法を思い出す。
「たしか…」
と、地面にここらへんにありそうにないものを書いてみる。
これを見せるんだったな。
そうと決まれば実践だ。と歩き始めて数分後、商隊のキャラバンの野営地が目に入り、近くで子供が遊んでいるのが分かった。
子供なら偏見はないだろうし、と大人に見つからないように近づいていく。
事案じゃないですよ?警察さんはちょっと遠慮してくれますか?
何やら見慣れない服装に興味を持った子どもたちが近づいてきて色々と話しかけてくるが、あいにくと言葉がわからない。適当に日本語を喋って言葉が違うことを伝えると、彼らはなおさらテンションが上がっていく。
よし。と地面にさっきの絵を書くと、つぇ?みたいな尻上がりの言葉をそれぞれが発する。
「でつ?」
スヌ○ピーかってことを聞きたいのかな?違うか?違うな。この世界に奴が居るとは思えない。
ともかく、これが日本語で言う、「これ何?」に 当たるものだろう。よし。
「飛行機」
「で、飛行機?」
これ、飛行機?かな?
うんうん、と頷いてみせると、彼らははしゃいで飛行機!飛行機!と叫んでいる。可愛いね。このまま眺めていたい気もするが、しかし俺には使命がある。
尻ポケットから財布を取り出して五百円玉を彼らに見せると、彼らは飛行機の時とは比べ物にならないほどに興奮する。
もしかしたらここじゃあ五百円ってレベルの価値じゃないのかもな、と思って少し不安になるが、そうすると盗賊が襲ってこなかった理由がわからないし、まぁあとで考えるとして。
「で、がぁ!がぁ!」
手を皿のようにしてピョンピョンと跳ねながらそう言う様子はとてもかわいい。がぁは欲しいという意味なのだろうなと推測しながら、子どもたちを見る。女の子なんかは髪の毛が揺れてて可愛い。
まぁ五百円玉は十数枚あるし別に一枚程度あげてもいいんだけれど、これが予想外に高価なものだと後々面倒になるからあげられない。
「で、つぇ?」
ここで発動である。
これ何?と言う言葉。すると純真そうな子どもたちは一瞬首をひねってから、バァラと次々に口にする。確かめるように子どもたちの間で確認していることから、恐らくバァラがこれに近いものであることは確実だろう。
しかしそれが金であることを証明することは難しい。
ので。
見せてもらう。
「バァラ?つぇ?」
バァラ?何?と尋ねると、彼らは自分のポケットからじゃらじゃらと円形の金属を取り出しす。青銅色、黒、銅、銀と四色のコインをまとめてバァラと呼んでいる。恐らく日本で言う円のような総称だろう。一応はそれぞれ呼び名があるようだが、子どもたちがすっげー興奮してて早口だったから何言ってるかわかんなかった。アッチョンプリケと聞こえたぐらいである。俺が言いたいわ。何ならほっぺた潰してやってもいいぞ。
とは言え、俺の持っているものが最も高い物であるようで、銀の上の価値のものなのだろう。そして商隊の子どもたちが違う硬貨をありがたがるということは、見たことがないが、似たものが存在しているという事実はあるという事だ。見たことがないということは、普通の商人の家族ならば見ることもないようなものなのだろう。しかし金色できれいなもの、と言うのは知っている。
うーむ。
俺ってもしかして超財産家なんじゃね?
とは言え偽物の硬貨使って捕らえられたら死ぬ。最も価値の高い金貨なんかを偽ってたら処刑でもされるんじゃねぇかな。
ということで財布の中から一円玉を取り出して子どもたちに配る。
持っている銀のとは違うために金ではない事は分かっているようだから、偽物の金として流通することはないだろう。
よし。
これ。金。ちょうだい。何?を覚えることが出来た。
もし何か仕事をしたら金、ちょうだい。これだけでいけんだろ。無理かな?無理だろうなぁ。
先行き不安になってそんなことを考えていると、子どもたちが革で出来たバッグを渡してくれた。日本の店で並んでいるものに比べたら編み目もバラバラだし色も悪い。しかし逆にそれがお手製感として俺に好印象を与える。茶色い革に黒い糸でニコちゃんマークが描かれているのもポイント高いよ。これが総額六円のお返しだと考えると少し申し訳ない。
「で、ばぁ!」
これ、あげる、かな?
押し付けるように渡された肩がけカバンを受け取りながら、御礼の言葉がわからないことに気付く。
どうしようかなと迷っていると、子どもたちが笑って言う。
「でばぁんや、はがじ、やーる!」
いみわかんねぇ…。俺を指してから口を指さしてやーる!って言っているということは、お礼はやーるって言うってことなのだろうか。多分。そうなんだろう。
「やーる?」
首を傾げながらそう言うと、彼らは大きく頷いていぇーる!と答える。どういたしましてという意味だろうか。
うん。少し元気になったぞ。
もう一度やーる、と言いながら手を振って彼らと別れると、別れ際に彼らはばーなー!と叫んでくる。
ばいばいという意味だろう。ううん。俺って言語学者になる才能があるのかもしれない。とはいえ彼らがいたずらで言葉を教えてきた可能性も考慮しなければならないし、うかつに言葉は喋れないけれど、しかしあの真っ直ぐな目をした子供が嘘を教えてくるとはすこし…考えにくい。というか考えたくない。
そんなこんなで歩いて行くこと数時間。いい加減にお腹が空いたので干したうさぎのような動物の肉を齧りながら歩いていると、眼前に木の家が見えた。
「お、村はっけーん」
見つけたはいいが、このまま突っ込んでいくほど無謀でもない。
まずは差し当たっての策として、俺はさすらいの旅人で、気が向けば傭兵をやっていることにしようかな。無理か?無理だな。とりあえず、とカバンの中にある大量のヨモギを何とかして金にしようと思う。どうやってヨモギを金にするんだ?
ヨモギの使い方としては主に料理だろう。パン、モチ、ソバ。あと饅頭とかそこらへん。天ぷらにするという手もあるが、油と天ぷら粉の入手の手間を考えると現実的じゃあないだろう。まぁこの世界でも普及しているであろうパンの中にどうにかして混ぜ込むのが現実的かな。と、方法はまず置いといてヨモギの活用法を決めてから、次に自分がのけ者にされない方法を考える。
第一の村を追い出されたシチュエーションとしては、村にキョドりながら入ってここはどこかなーと周りを見渡しながら狭い家の間とか歩いてたら家の中の人に見つかって追い出されました。
「俺でも追いだすわ。そこまでしないまでも警察呼ぶわ」
と、うんうん唸っていると、背後から女性の叫び声が聞こえる。何事かと振り返ってみてみると、荷馬車の荷物の部分に大きな犬のような動物が乗っかって荷物を食い漁っているではないか。というかあの顔は犬というより狼寄りの肉食動物だ。馬も興奮しきって二匹が蹴り合っているような状況だし、下手に荷物の部分から逃げようと御者台から降りれば馬に蹴られてしまうだろう。そうなったとしたら、ほぼ確実に気絶か死亡、そしてあの犬みたいなのに喰われて死ぬだろう。
そして彼女を襲った後は間違いなくこっちに来るだろうから、俺としては村に行ってとりあえずは奴をやり過ごすことを選択したい。が。
「ここで逃げちゃあ漢としてどうかっつぅ話だよなぁ」
自分でも驚いたことに、俺は奴と戦うつもりらしい。
武器もない。戦闘の心得もない。体も細い。
そんな奴が、ゴールデンレトリバーの倍はあろうかという巨体の犬に、戦いを挑もうというのだ。
果てしなく無謀。だが同時に
「助け出せたらかっこいいよなぁ!」
感想・評価・誤字脱字等ありましたらよろしくお願いします。