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第5話 ボディブローは母の特技

 




「……で?虫かご掲げて何やってんだお前?」


「いえ、別に……」


 振り向きざまに虫かごを目前に差し出した私を、ローレライさんが不審な眼で見つめる。

 この虫くんのフットワークを少しは見習えってことだよ。


 ……と口には出さない。




 ローレライさんは私の上司だ。


 紹介と説明は以上。






 …………やっぱ駄目か。あ〜説明したくないな〜……というか説明いる?……はぁ、じゃあ一応ね。



 ローレライさんは27歳。


 元Bランク冒険者で、2年前に引退。そして現在は 『人気薄クエスト内部処理班』 の班長だ。

 支部で私と彼の2人しか在籍していない班の……だけど。



「それ何て髪型ですか?」 


 と言いたくなるボサボサのこげ茶色の髪に、


「それ暑くないんですか?」


 と言いたくなる黒のロングコートを身に纏い。


「それ働いてるつもりですか?」


 と言いたくなる仕事ぶりで、


「それ私のです」


 と私のおやつを勝手に食べて、私にボディブローを叩き込まれそうになる、というか叩き込まれた程の男だ。すごいね。


 しかし、認めたくないけど……外見は細身の長身で顔立ちも整っている。

 つまり、かなりの美形だ。外見だけね。中身はもう残念極まりないけど。


 しかし、そんな残念な中身を知らない街の女性や、女性冒険者からは意外な程モテる。


 私からすれば 『ついさっき目が覚めましたよヘアー』 は、彼女たちには 『ワザとらしくない無造作ヘアー』 と言うヘアースタイルで、飾らない彼らしくて素敵に見えるらしい。

 どう見ても寝癖です。本当にありがとうございました。


 彼のトレードマークの黒コートも同様に、私からすれば 『全身で日光を吸収してるんですファッション』 にしか見えないのだが、彼女たちには 『上品(シック)でちょい(ワル)な男性ファッション』 らしい。

 確かに、一緒に仕事する私の精神衛生において病気(シック)で害悪だね。見てると暑苦しいんだよアレ。

 現在、袖を斬り取って袖無しコートにする 『ノースリーブ化計画』 を画策中だ。



 しかし、ギルドの制服着れないのも考え物だ。最初は気にしてなかったんだけどなぁ。


『人気薄クエスト内部処理班』 通称 『処理班』 は言わばギルドの暗部。外部の人間には秘密の部署だ。

 だから私とローレライさんはギルド職員の制服を着用せずに自前の防具を装備して、表向き 『2人組の冒険者パーティ』 として活動している。


 しかし、ここで想定外の弊害が発生する。


 事情を知っているギルド関係者には 『処理班の2人』 でしかない私たちだが、何も知らない人からは  『男女2人の冒険者パーティ』 に見えてしまうという事だ。本気で勘弁してください。


 そして忘れてはいけないのが、ローレライさんはモテるということ。


 ……もう分かったかな。只でさえ迷惑しているこの関係なのに、さらに無関係の女性からの嫉妬心が隠し味として加えられ、私に襲い掛かるのだ。ああ、七天神さま、私が一体何をしたというのですか?


 刺さるような視線を受けるのは日常茶飯事。ひどいときは人が多い中で、足を引っ掛けられたり、急に背中を押されたり、と直接的に手を出されたりもする。


 一度だが、帰宅する私を自宅前で待ち伏せてた顔も名前も知らない女性から 「彼に付きまとわないで!」 と怒鳴られたことまであった。

 むしろ彼女に 「私に付きまとわないで!」 と怒鳴りたかったが、グッと堪えたあの時の私に盛大な拍手を贈りたい。


 何であんなに好きになれるのかな? うーん……分からん。


 あ、そういえば元Bランク冒険者ってのも疑わしい。

 仕事中に、雑魚モンスターや盗賊に絡まれたときも一切戦わなかったし。ヘタレ属性も追加しとこう。

 

 まとめると、 『イケメンだがヘタレたマグロ男』 か……何か、よく分かんなくなった。いいやもう、ヘタレマグロで。はい、決定。



 私がそんなことを考えてる間に、ローレライ(ヘタレマグロ)さんがエレノアさんと談笑を始めていた。そこは私の指定席だ。どきたまえ今すぐに。


「ローレライさん、何かあちこちに木の葉が付いてますよ?」


「おう、怖い嬢ちゃんにハンモックのロープ斬られてな。地面に向かって真っ逆さまだよ。ははは」


「レベッカ、あなたねぇ……」


 エレノアさんが咎めるような眼差しで私を見つめる。私は吹けない口笛をひゅーひゅー吹きながら視線を逸らした。

 残念ながら途中の枝木に引っ掛かったみたいだし、良いんじゃなかろうか?

 何故か落とされた本人はご機嫌だし。


「まあまあ、そう責めるなエレノア。実はな、嬢ちゃんのおかげで良い土産ができたんだ」


「冥土のですか?」


 すかさず私が言う。


「レベッカ、あなたねぇ……」


「はは、嬢ちゃん。今のは割と本気でゾクッときたぞ」


 苦笑しながらローレライさんはコートの内側に手を入れ、何やらゴソゴソし始める。冥土の土産では無さそうだ。チッ。




「ほれ、ここに5匹いるぞ。目標達成だな」


「こ、これって!」


 私は驚愕した。


 ローレライさんが取り出したのは、5匹のコロコロカブトが入った虫かごだったのだ。コートの中に虫かごを入れていた事実は、この際どうでもいい。


「す、すごいですよ!こんなにいっぱい!どうやって捕まえたんですか!?」


「ハンモックから落ちて引っ掛かった場所が、たまたまコイツらの巣の傍だったらしくてな、大量捕獲できたってわけだ」


 完全に偶然だったよ。ま、いいか。それにしても……


「それでも、よくこれだけの数捕まえましたね。動き素早くて大変じゃなかったですか?」


 そう、コロコロカブトの素早さはかなりのものだ。いくら巣を見つけたといっても、これだけ大量に捕獲することは簡単では無かったはずだ。

 ローレライさんをちょっと見直したかも。本当にちょっとね。


 だがローレライさんは不思議そうな顔をしている。ん?私、何か変なこと言った?


「あ? 素早い? ジッとしてたから、新鮮な果物をもぎ取る感覚で捕獲できたぞ?」


 どんな例えだ。


 でも、ジッとしてたって?

 ローレライさんの虫かごを覗いてみると、確かにコロコロカブトたちはモゾモゾとしか動いていない。え?じゃあ私の捕まえたヤツは何なの?


 不思議に思い自分の虫かごを覗いてみると、 「本当の俺を見てくれ!」 と言わんばかりに、狭い虫かごの中を自在に飛び回るコロコロカブトが居た。え?何この子?本当にあのカブトたちと同じ種類?


 ローレライさんも私の虫かごを覗き、 「おお!」 と驚いた声を出す。


「すごいなコイツは……はは、全く落ち着きが無いとこが嬢ちゃんにソックリだな。 『レベッカブト』 と言ったとこか?はははは」


 ……何言い出したのこの人?

 レベッカブトて何ですか?洒落のつもりですか?ごめんなさい、何ひとつ面白く無いです。


「ぷ、ふふふ……レ、レベッカブト……ふふ、ご、ごめんなさい。ぷふっ、あはははは!あ~可笑しい!!」


 ウケてるし。



 ツボに入ったエレノアさんをジロリと睨み、ローレライさんにボディブローを叩き込んで、私は帰宅することにした。






 見直して損した。アホ。ヘタレマグロ。






 でも目標達成できたのは大きいな。

 明日はレポート作成頑張ろう。





 

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