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おまけ

 おまけです。読まなくても問題ありません。

 


 2人を見送ったエレノアは通常業務に戻ることにした。

 だが、まだ早朝ということもあってエレノアの前に並ぶ冒険者は1人もいない。


「……暇ね」


 そう隣の鳥かごの中で羽ばたくアークに話しかける。

 アークは 「今はゆっくりしていろ」 と言うようにゆっくり旋回している。


「あの2人はもう出たのかの?」


 突然背後から声をかけられ、エレノアはビクリとした。


「ギルドマスター……驚かさないでください。……もう具合はよろしいのですか?」


「ふっふっふっ、ワシがあの程度のことでいつまでも寝込んでるワケ無いじゃろうが」


「いえ、あの程度がどの程度だったのか分かりませんし……」


 珍しいエレノアのつっこみにギルドマスターは少しうなだれた。打たれ弱いのだ。


「それにしても……よく処罰無しで済みましたね?」


 エレノアはずっと疑問だったことを訊いてみた。

 転移方陣はグランドマスターの許可は当然のこと、国王の許可が無いと使用できない。

 これはイヴァルド王国の重要施設に転移方陣が設置されていることが理由だ。もちろん王宮にも設置されている。

 つまり、この装置を利用すれば王宮に忍び込むことさえ容易になるのだ。


 緊急とはいえ、この装置を王の許可無しに使用したのだ。

 国外追放、いや死刑になってもおかしくなかった。


「国王陛下に理由をお話して、グランドマスターと一緒に土下座したら、笑ってお許しになってくださったのじゃ」


 謁見の間で土下座しているギルドの長たちを想像して、訊かなければ良かった……。とエレノアは後悔した。


「国王陛下も気になっておられたわい。己の死を覚悟してまで救う価値のある者なのか? とのう」


「私も……ギルドマスターの決断には驚かされました。……どうしてあそこまでしてレベッカを救おうと?」


 エレノアの問いにギルドマスターはニヤッと笑った。


「あんな将来性のある若者を見殺す訳にはいかんじゃろうて。あの娘はこの国の宝となり得る冒険者じゃぞ? ワシの命で救えるのなら、この命喜んで捨てるわい」


 ギルドマスターの答えにエレノアは驚いた。


「この国の宝!? し、しかし……あの子に引退を奨めたのはギルドマスターだったのでは?」


 エレノアはレベッカからそう聞いていた。要約すると、「Cランクじゃ生き残れないから引退しろ」 と言われたと。


「ああ、間違い無く死ぬか、大怪我じゃな。ただし、あの時点では……じゃがな」


「え? それはつまり……」


「よく考えてみよ、師も居ない、魔術も使えない、装備も貧弱、そんな我流の剣術士がわずか2年半でCランクじゃぞ? しかもまだ齢18じゃ、稀に見る逸材じゃろう?」


 そこまで聞いたエレノアはひとつの考えを導き出した。


「もしかして……あの子を保護、成長させるために処理班に引き入れたのですか?」


 ローレライが不自然なまでに働かなくなったのもレベッカが来てからだった。

 彼のことだから何か考えがあると思っていたが、それは実はギルドマスターからの指示でレベッカに経験を積ませる為だったのではないか?

 エレノアはそう考えたのだ。

 

「流石じゃのエレノア。そうじゃよ、それともうひとつ、ローレライへの影響も見込んでたんじゃ」


「ローレライさんへの影響……?」


 エレノアは首を傾げる。


「あやつは経験も豊富で腕もいいからのぅ、本来なら冒険者に復帰して欲しい人材なんじゃが……高難度クエストは何故か全くやる気が無くての。

 少しでも復帰のきっかけになればと思ってたんじゃが……あの様子じゃレベッカを放っては置けまいよ。復帰する時は2人一緒じゃな。わはははは!」


「え? それはつまり……ローレライさんはレベッカを……?」


「ああ、いやいやそれは本人しか分からんがのぅ。何と言うか……あの2人は兄妹、といった感じの方が自然に見えるのう。わははは!」


 大笑いするギルドマスターの言葉に 「確かに」 と思い、エレノアはクスリと小さく笑った。



「でも復帰はまだまだ先になりそうですよ? 2人とも、今の仕事にやりがい見つけたみたいですから」


 エレノアの言葉にギルドマスターは満足そうに頷いた。


「それも狙い通りじゃよ。弱い依頼人の心を真に理解できる強い冒険者を育成する。それがワシの目標じゃ。

 依頼人、冒険者、共にあっての我らがギルドじゃからな」



「ええ、そうですね。……あの2人ならきっと理想の冒険者になってくれますよ!」




 エレノアとギルドマスターは、2人の出て行った扉を優しく見つめた。










 ギルドマスターは意外と切れ者でした。

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