第16話 決戦と決着
「はっ!!」
気合の叫びと同時に斜め上に斬り上げた剣が、ストーン・ガーディアンの右脚にわずかばかりの裂傷を刻む。
脚下の私に気付き、振り下ろされたガーディアンの左腕を軽くジャンプして避け、そのまま左腕に剣を突き立て着地。素早く剣を引き抜いて左腕を駆け上がると、顔に剣を振り下ろす。
ガーディアンの脳天に剣がわずかに入る。
駆け上がった勢いのまま前方に跳び込み、剣を軸に空中前転する。
回転を利用して剣を引き抜き、私はそのままストーン・ガーディアンの背後に背中合わせの形で着地した。
振り返ると、私を見失ったらしいガーディアンの顔に、左方向から飛来した黒い杭が一瞬で3本刺さる。
「こっちだデカブツ」
声の主、ローレライさんに気を取られたのか、顔を向けたガーディアンに 「スキあり!」 とばかりに背中に一太刀浴びせ、反撃を受ける前に私はローレライさんの近くに走り、離脱する。
「……無茶苦茶な闘い方だな」
ローレライさんが呆れたような口調で私に声をかける。
「そうですか?」
私は首を傾げる。私、そんなに変な闘い方なのかな?
もしかしたらガーディアン対策に、攻撃パターンを意識的に変えてるから変に見えるのかもしれない。
普段の私は普通なんだ。そうに違いない。
「まあ、この王国には嬢ちゃんのような剣術士はいないだろうな――っと!!」
目にも止まらない速さで投げ込まれた3本の杭は、術式展開中のガーディアンの喉下に刺さり術式を中断させた。
……本当に強かったんだローレライさん。今まで疑ってて、すみませんでした。
「物理的にも効いてないし、杭に仕込んだ麻痺の 『呪』 も全然効かないな。ちっ、だから魔生命系は嫌なんだ」
麻痺の 『呪』 というのが何かはよく分からないけど、多分そのままの意味でいいんだろう。……ローレライさんは想像以上に凶悪な攻撃を繰り出していたようだ。
しかし攻撃が効いていない以上、このままではこちらが不利だ。
「やっぱりコアを破壊するしかないですね」
私が言うと、ローレライさんが一瞬だけこちらを見た。
「何だ嬢ちゃんも知っていたのか。なら話が早い。さっさとコアを破壊するぞ」
「いや、コアの位置分からないですし」
私は冷静につっこむ。ローレライさんはまた杭を投げて、ガーディアンの術式を中断させながら 「いや」 と首を横に振った。
「もう分かった」
「え?」
分かった? どうやって?
疑問を口にしようとしたけど、ローレライさんがそれを眼で制す。
ガーディアンはローレライさんを警戒、もしくは観察しているのだろうか? 今は動く気配は無い。好都合だ。
「ヤツの腹に俺の杭が3本刺さってるのが見えるだろ? あの中心がコアだ」
私はガーディアンのお腹を注視した。……確かにほぼ等間隔に3本。それぞれを直線で結べば正三角形になる。
「説明する暇無いから作戦だけ伝えるぞ。嬢ちゃんはヤツに真っ直ぐ突っ込んであの中心を思いっきり突け。以上」
「説明みじかっ! それだけですか!? そもそも私の剣がコアまで届くか分かりませんよ?」
私は不安を覚える。確かに刺突がある程度有効なのは分かったけど、はたしてコアまで届くだろうか? 届いたにしても破壊までいけるのかな?
そんな私の不安を拭い去るようにローレライさんが笑う。
「ははは、大丈夫だ。嬢ちゃんの腕ならいける。特にその剣なら万が一駄目でも何とかなりそうだ」
「え? それはどういう――」
そこまで言ったとき、ガーディアンが地面を揺らしてこちらに走り始めた。
「来るぞ!……援護は任せろ!」
「っ! はいっ――!!」
私はローレライさんの言葉を受け、全速力でガーディアンに向かって突っ込む。
後方から放たれた杭が3本、ガーディアンの胸に突き刺さる。が、ガーディアンはわずかに怯んだだけで、私に向かってくる。
ガーディアンとの距離がみるみる近付く、私は3本の杭の中心に意識を集中して剣を構える。
再度、後方から放たれた杭が3本、今度はガーディアンの顔に突き刺さった。今度はガーディアンが大きく怯む。
私は大きく跳躍し、突きに備えて剣を引く。
尚も後方から飛来した5本の杭が、私をかすめてガーディアンの腹に突き刺さり、三角形を八角形の形にする。
杭と杭の間に亀裂が走り、ほぼ円状の線を刻むのが見えた。
あの中心を穿つ――!!
「はあああああぁぁぁっ!!」
――ここだ!!
私は渾身の力を込めて剣を突き出した。
硬い、だが今までより遥かに軟らかい手応え。
ピシリ、と音をたて、刀身の中腹まで刺さった剣を中心に大きな亀裂が広がる。それは杭と杭の間にできた円状の亀裂と繋がり、ボロボロと岩の外殻が剥がれ落ちる。
ガーディアンの腹にぽっかりと円形の空間が現れる。剣の先端は、紅いクリスタルのようなコアに刺さっていた。
やった……の……?
両手で剣を突き刺した姿勢のまま、私はそろそろとストーン・ガーディアンの顔を見る。
ストーン・ガーディアンの顔は見えない。が、動きもしない。
やった――――
「まだだ!!」
ローレライさんの怒号に私は反射的に剣から手を離し、後方に跳んだ。
ストーン・ガーディアンが杭の刺さった眼を紅く光らせ、術式展開を始めるのが見える。
まずい! 攻撃魔術がきたら回避できない――!
「よくやった」
背後でローレライさんの声が聞こえたと同時に、私をかわして前に出たローレライさんが凄まじい速度で杭を放った。
6本の杭が、鋭い風切り音を残してガーディアンに襲いかかる。
考えられないことに、杭は刺さった剣の柄頭に6本同時に着弾し、激しい金属音をたてた。
杭は弾かれたが、着弾の衝撃で剣が更に深くコアにえぐり込む。
ガーディアンの術式展開が中断された。
だが――
ぎこちなくだが、ガーディアンが動いた。そして紅い眼が私を捉える。
――ガーディアンの眼はまだ生きていた。
着地と同時に私はガーディアンに向かって全力で走る。
「――!」
ローレライさん抜き去って前に出る。すれ違いざまに声が聴こえる。が、何と言っているかは分からない。
ガーディアンがゆっくりと右腕を振りかぶるのが見えた。
どちらの一撃が疾いか……勝負――!
ガーディアンの目前で足を踏み込むと同時に身体を斜めに潜り込むように捻って回転させる。
狙うのは、剣の柄頭――!!
「――――決めろ!! レベッカ!!」
「はあああああああああぁぁぁぁっ!!」
遠心力を味方につけ、私は渾身の力を込めた回し蹴りを思いっ切り叩き込んだ。
ブーツの底から足の裏に伝わる衝撃。
私の蹴りは柄頭に直撃し、剣は鍔元まで潜る。
コアに細い亀裂が幾重にも広がった。
ストーン・ガーディアンの右腕が崩れ落ちる。他の部分も次々に。
そして……一瞬の間をおいてコアは完全に、粉々に砕け散った。




