第13話 さあ、時間を稼ごう
「――エレノアさん! 私、今ちょっとマズイかもです!!」
右手の人差し指にはめた 『冒険者の指輪』 に緊急メッセージを吹き込み、念じて送信する。
『送信成功』
と頭の中に文字が浮かび上がった。
これで救援信号が最寄のギルド支部、つまり西ルーガス支部に伝わるはずだ。
「アレックスさん! 救援要請しました!」
「了解!」
私はアレックスさんに叫ぶ。
ストーン・ガーディアンの殴りつける攻撃を避けながら、アレックスさんは短く返事をする。
私はすぐさま剣を抜くと、アレックスさんに気を取られてスキだらけの敵の背中に斬撃を入れる。が――
「――っ! 硬っ!」
案の定、ガキィン! と硬質な音と同時に手が痺れるような手応え。剣はストーン・ガーディアンの岩の背中にわずかに傷を付けただけだった。
背後の私に気付いたのか、ストーン・ガーディアンの顔が私の方に向き、顔中央の紅く光った眼と思える部分が私を捉えた気がした。あ、やばい。
直感通り、私目がけてストーン・ガーディアンが右腕を振り挙げた。
「わわっ!!」
私は咄嗟にバックステップする。
直後、ブオン! という大きな風切り音。目の前を重そうな物体が高速で通り抜ける感覚。
これは直撃したら痛いじゃ済まなそう。
私はステップの勢いのままに大きく周り込み、ストーン・ガーディアンと距離を離してアレックスさんの隣に移動した。
「大丈夫ですか?」
アレックスさんが、剣を構え視線を敵から外さないまま私に話しかける。
「はい、敵の動き自体はそんなに速くないですね」
私も視線を外さず警戒したまま応えた。
こちらの攻撃はほとんど効いていないが、敵の攻撃を回避するのは難しくない。
問題は……
「支部からの救援は、どんなに早くても3時間はかかるでしょうね」
アレックスさんが私の懸念を口にした。
だが実際は、ギルドが私のメッセージを聴いて部隊を編成、馬車などで現在地に駆けつけたとしてもアレックスさんの言う3時間以上かかるのは明白だ。
さすがにいつまでも格上の敵相手に凌ぐ自信は無い。
「せっかく発見したのに残念ですが、撤退したほうが良さそうですね」
アレックスさんが提案するが、私は素直に賛成できなかった。
もし敵が私たちを追って、ウル村まで付いて来たら? 私たちが村に逃げなくても、私たちを探して村に辿り着く可能性もある。
こうなると、私が思いつく最善の選択肢は2つだ。
1つめは、今、2人でストーン・ガーディアンを倒す。シンプルだが難しい。
2つめは、1人が足止め、1人が村人を避難させて救援部隊が到着するのを待ち、多人数で倒す。
こちらは足止め役が危険なうえに、何時くるか分からない救援部隊をアテにするなど博打要素が高い。
「倒す方法は無いんですか?」
私はアレックスさんに訊く。
ストーン・ガーディアンは私たちの行動を警戒しているのか、すぐに近付いてこない。
「あのタイプの敵は体のどこかに核を持っています。そこを破壊すれば倒せると思うのですが……個体によって位置が違うため、どこにあるのかまでは分かりません」
まあ、そう簡単には倒せないと思っていた。Aランクだしね。
斬撃じゃなく刺突なら外殻を貫けるかもしれないけど、肝心のコアの位置が分からないんじゃ手の打ちようが無い。これは無理かな。
そうなると、もう1つの選択肢しか無いか……
「レベッカさん、村に戻って皆を避難させてくれませんか?」
「え?」
まるで私の思考を読んだかのようなアレックスさんの言葉に驚き、私はアレックスさんを見る。が、すぐに視線をストーン・ガーディアンに戻す。
私の返答は決まっていた。
「嫌です。アレックスさんが村に戻って皆を避難させてください」
「なっ!?」
アレックスさんは心底驚いたようだ。私は相変わらず視線だけは敵から逸らさずに微笑む。
「考え無しに言ってる訳じゃないですよ? アレックスさんより私の方が素早いから敵の攻撃は避けやすいですし、足止めの時間は稼げます。村の人も私が避難を指示するより、自警団リーダーのアレックスさんの方が信用されると思いますし」
「いや! しかし……」
アレックスさんが戸惑う、私も足止めが危険だと分かってる。分かってるからこそアレックスさんには任せられない。
この人にはエリーさんとココル、護るべき大事な家族が居るんだ。今こそ直接行って護ってあげなきゃね。
迷うアレックスさんに追い討ちをかけるかの如く、ストーン・ガーディアンがこちらに向かって動き出した。
「アレックスさん早く!」
「くっ……! 済みません! お願いします! 避難指示が済んだらすぐに戻ります!!」
そう言うとアレックスさんは私の前を横切って走り出し、左手の森の中に消えていった。あの方角が村なんだろう。
さっきは言えなかったけど……若干、方向音痴なんだよね私。
しかもこの森の探索はアレックスさんに先導して貰っていたので、正直言って村に戻るにはどの方向に行けばいいのか分からない。これも足止め役を買って出た理由のひとつだ。
ストーン・ガーディアンが動きの速さに反応したのか、アレックスさんの向かった方に走り出す。
「行かせないよ?」
私は素早く移動しストーン・ガーディアンの前に立ち塞がった。
ガーディアンの紅く光る眼が私を捉える。
「さて、ここが正念場かな?」
私は剣を構えて走り出した――――




