第1話 多分切れたのは繋ぎ留めてたプライドでした
初投稿です。よろしくお願いします。
不定期更新です。基本軽いノリで進むかと思いますが、たまに悪ノリするかもしれません。
暖かく見守っていただけると嬉しいです。
「ちょっとエレノアさ~ん聞いてくださいよ~!」
私は言いながら受付のカウンターに顎を乗せてエレノアさんを見上げた。
「あらあらレベッカ、今日は一体何があってそんなにご機嫌斜めなのかしら?」
若干ウェーブがかったセミロングの白金髪をふわりと揺らしてエレノアさんが私の顔を覗き込んでくる。
あぁ、この笑顔はずるい。反則。
女の私でもたまにドキッとするんだもんなぁ……冒険者の男性からデートのお誘いが絶えないのも納得です。はい。
エレノアさんはこのギルドの看板受付嬢で、21歳には見えないオトナな美貌を誇る女性だ。
さらにスタイルも抜群で、彼女をモデルにした全身肖像画がギルド会報の表紙を飾ったりもしたらしい。どこかの色雑誌のような表紙で会報を発行するギルドもどうかと思うけど……
伝説はこれで終わりじゃない、それをたまたま目にした男性冒険者達に大好評だったらしく、調子に乗ったギルドがノリで増刷して売り出したら即日完売だったそうだ。内部情報満載の会報を売り出すなギルド。
男受けはいいけど女受けは……ということも全く無く、私はこの優しく頼れる先輩にいつも相談に乗ってもらっている。
今日も我慢できずに愚痴をこぼしに来てしまったのだ。我ながら情けないと思うけど……どうしても我慢できなかったのだ。というのも――――
「ローレライさんが相変わらず、ちぃーーっとも働かないんですよ!!」
「ああ……やっぱり彼が原因だったのね」
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ここはイヴァルド王国の西部に位置する街ルーガス。特に目立った特産品などは無いけど、王国最西部の村……私の故郷ウェストヒルから東の王都までの道程で最大の街だ。
そして私の名前はレベッカ。花も恥らう18歳の乙女だ。乙女だ。
大事なことなので二回言ったのだ。断じてコピペミスじゃあ無い。
…………あと、エレノアさんと比較してはいけない。絶対に、絶対にだ。
三年前に両親の反対を押し切って村をとび出した私は、それなりに大きなこの街で冒険者稼業を営んでいた。
……だけど現実は甘くなかった。ルーガス周辺に生息するモンスターは格段に手強く、村では年上の男の子を含めても一番だった我流の剣術では手痛い傷を負うことも多かった。 「あ、これは私、死ぬな」 と思ったことも何度かあったし。
そんな私に転機が訪れたのは半年前のことだった。
「あ~、君ぃ、ウチで働いてみんかね?」
「はい?」
昇格クエスト五回目の挑戦で全身ボロボロになりながらも、ようやくCランク冒険者の仲間入りを果たした私に声をかけてきたのは冒険者ギルド西ルーガス支部のギルドマスターだった。
ちなみに西ルーガス支部という名前だけど、東ルーガス支部は存在しない。『西』いらないと思う。
話を戻すと、ギルドマスターは何度も昇格クエストに失敗してボロボロになって報告に来る私を見て、「この娘にCランククエストは無理じゃろ。無理。無理絶対」 と思ったらしく、めでたくCランクに昇格したばかりの私に引退を勧めてきたというのだ。何それすごく失礼なんですけど。
もちろん最初は丁重にお断りしていたんだけど、「初任給……このくらい出るが……どうじゃろ?」 と提示された金額を書いたメモに私は釘付けになった。
「こ、こんなにもらえるんですか!?」
「ふっふっふっ、年に二回のボーナスは、っと……これだけ出そう」
「こ、こここここんなに!?!?」
「うむ、約束しよう。どうじゃい?」
一ヶ月に換算すれば、Dランクのクエストをこなしていた時よりも多いのでは……という提示額に私の心はグヮラグヮラと大きく揺れた。
――――だけど私は 「私の剣で困っている人たちを助けてあげたいの!」 と黒歴史的セリフを残して故郷をとび出してきたのだ。
うん。やっぱり、そう簡単に引退なんてできっこない。そしてあの時の私をタンスに封印したい。
「あの、やっぱり私――――」
「こんなに若い娘が毎日のように生傷を負って帰ってくるなんて……ご両親はさぞかし心労が絶えんじゃろうなぁ」
グサッ!!
私の心にギルドマスターの言葉がナイフの如く突き刺さった。だけど、こんなもので決意を変える私じゃない。
「あの、お気持ちは嬉しいんですが……やっぱり私――――!」
「しかし、もう心配なさる必要はあるまい。ギルドの仕事は安心安全じゃからのぅ。何という孝行娘じゃぁぁぁ……」
もう私が働くこと決定事項にしてるよこのじいさん。 というか何故あなたが泣く。
「あの!ですから私はギルドには――――!!」
「経験を積んで早くエレノアのような看板受付嬢になるんじゃぞ!」
なん……ですって……?
私があの憧れのエレノアさんの後輩になる? ボロボロになって戻ってくる私にいつも 「頑張ったのね」 と優しく声をかけ、ギルドの受付という職務にも係わらず、回復魔法で治療してくれる聖女様の? しかも次期看板受付嬢?
私の中でブチッと何かが切れる音が聴こえた気がした。
「ふ……ふふふ」
「ど、どうしたんじゃ?」
私の様子に気付いたギルドマスターが戸惑っている。もう我慢の限界だった。
「私は!困っている人を助けたいんだぁぁぁああ!!」
こうして私は冒険者を引退し、めでたく冒険者ギルドに就職した。
困っている人放っておけないもんね。うん。