導入編
僕はその足を遅める事無く自分のクラスへ、いや、詳しく言うと清君の元へと僕の足は春美の元を離れ歩き始めていた。
だがしかし、春美は僕が清君の元へ行くのに邪魔してきた。
「別に大丈夫だよ。武ちゃん」
大丈夫な訳あるか。あきらかに愛崎を泣かせるような事をしている清君が悪い。
確かに、愛崎主観の話しか聞いていないから清君を完全には攻めれないが、それでも僕は許せなかった。
「愛崎、安心しろ。僕は清君に話を聞きに行くだけさ。愛崎主観の話だけでは、事件は解決できないからな」
と言って、愛崎がいた廊下をさらに進み、僕のクラスへとやってきた。
早起きの習慣でいつも早かったが久々に今日はゆっくりと歩いてきたらこの次第だから、清君が先に来ていてもおかしくは無いだろう。
そうすると、案の定清君はいた。
クラスの中には委員長と立川さんといたが完全に僕は無視して清君の元へ行った。
「清君、ちょっと」
「なんだ水渚何か用か」
「何言ってるのさ、清君だって多少呼び出される理由位心当たりがあるだろ」
「えっと、何かしたかな」
「分かった。とりあえずここではあれだから、別の場所で話そう」
「わざわざ別の場所へ行く必要なんか無い。ここで構わないぞ」
「清君が構わなくても僕が困る。」
僕としては、他人に聞かせたくない話なのである。
それは、僕の過去の事もそうだし、何より愛崎の事を悪く思わせたく無かった。
「だから、場所は変えよう」
「分かった。水渚の言う通り、場所を変えよう」
「ありがとう」
そう言って僕は屋上に向かって歩いた。
勿論、清君が後ろから付いて来るのも確認済みだ。
屋上に先客は居なかった。
これで、僕は清君と心置き無く話をする事ができた。
「清君、何で君は愛崎を泣かせたんだ。清君は、そんな事しないと思っていたのに」
「あぁ、そんな事か………」
「そんな事?」
僕はすぐさま清君に訂正を求める為に聞き直した。
しかし、そうして語調を強めて発音したと言うのに。
「何だい、それは僕にとってはそんな事だよ」
パシッ
僕は押さえ切れず清君の右頬を打った。
「水渚、てめぇ」
と言って、清君が反抗的になって僕を殴るかと思ったら、清君は。
「殴りたいなら、左頬も殴れ」
キリスト精神に驚いた。
「冗句だ。許してくれ、水渚。俺だって泣かせたくて泣かせた訳じゃない」
「そうか、良かった。さすが清君」
「でも、愛崎の言った様に俺は新生IBには反対だ。これだけは嘘じゃない」
「え………」
僕には、清君が紡ぎ出した言葉に驚いた。
まさか、あのIBの事を誰よりも好きだった清君がまぁ、だからこそ清君はあのIBじゃないから駄目なんだろうな。
「何で新生IBに反対するんだ」
だいたいの理由は分かるがそれでも訊かずにはいられなかった。
その答えは意外な物だった。
「それは、俺はIBが嫌いになったからだ」
え、僕は虚につかれて何も言えなくなっていた。
清君がIBを嫌いになっていたなんて。
「何で………」
キーンコーンカーンコーン
と威勢良く予鈴が鳴る。
「ま、そう言う事だから」
と言って先に清君は降りていってしまった。
僕はその場に立ちつくしていた。
そこにさっき迄居た清君は、もう僕のかつて知っていた清君では無くなっていたのだ。
「あの清君が………」
誰にとも無く心情を吐き出すかの様にあっさりとそれでいて吐き出したく無いそんな気持ちになりながら独りごちにただただ呟く。
「ーーー。清君」
やはり、そこには清君は居なかった。
僕は清君と同様に階下へと降りていった。
すると、その先に愛崎が居た。
今朝の面は何だったのかみたいにケロっとしていて、そこに立っていた。
勿論、立っていたと言う行為は僕の為の行為であって僕に好意がある訳では無い。
「高田が謝ってくれた。ありがとう武ちゃん」
「それは良かったな」
良かった。清君は泣かせたくて愛崎を泣かした訳では無かった様だから。
でも、そうなると何故こんな事が起こったんだろうか?
どうやら、それを考える必要が有りそうだ。
そんな事を考えている時にHRが終わり、また休み時間へと入っていた。
そう、この現象が起こった理由に考えられるのはIB関連に間違いは無いと思うのだが、何が原因なのかをしっかりと把握できていないこの状況は僕はどういう手を打てばいいのかさっぱりだ。
ただ分かる事はこれから先、あまりIBの事を清君に言わない方が良いのだろう。
愛崎は清君に謝って貰った様なので、もう何も気にしていないだろうが。
とか考えながら廊下を歩いていたらぶつかった。
「痛っ!!」
「ごめんなさい」
「あっ、水渚君」
「何だ。臣君か」
「大丈夫ですか?」
臣君は、僕がぶつかったというのに一切怒りもせず、むしろ僕を気遣ってくれる程の器の持ち主だった。
「僕は、臣君がそんな人だとは思わなかった」
僕はぼそりと独り言を言ったのに、臣君の耳に届いたらしく。
「そんな言葉を言われるなんて水渚君は僕をどんな目で見てたんですか」
いやいや、君の器の大きさの事を指したのであって性格の事では無いと一層言ってやろうかと思ってもみたが、逆にそんな事言うと言い訳がましく聞こえそうなので自重して
「あれ、聞こえちゃったかな」
「えぇ、聞こえましたよ」
「ごめんごめん、別に深い意味は無かったんだ」
「そうですか、僕にはそんな風に聞こえなかったんですけど」
あれ、おかしいな?
状況が悪化している様な気がする。
僕的には気を使ったつもりなんだけど、臣君の疑り深い目がジッと僕を見ている様な。
気のせいには思えない様な睨みをきかせているのだが、果たして彼はあんな人だったろうか。
臣君が僕の思っている臣君らしく無い。
まぁ、それでも僕が思っていた臣君は第一印象の中の人物であって実際はこういう怒りっぽい部分もあるのだろう。
でも、それを鑑みれば器が大きいと思った僕は臣君と言う人物の尺を取り違えたのかも知れない。
僕の観察眼はあまり無いんだろう、実際。
「何を黙っているんですか、水渚君」
僕は以上の事を考えていたので一言も喋って無かった事を思い出した。
「どうせ、言い訳とか考えていたのでしょう」
「いや、そんな事は無いよ。ただ考え事をちょっとばかし」
「言い訳じゃないですか」
「ごめんなさい」
「言い訳で無いと言うならその考え事を教えて下さい」
「えっとね、清君の事なんだけど」
僕は臣君に清君の事について語った。
「清君も僕も中学の時にバンドをしていたんだ」
「そんな事知ってますよ、それがどうかしたんですか?」
「いや、最近さ、清君の機嫌が悪かったからそれについて思案していたんだ」
「そんな意味分からない発言して何あやふやにしようとしてるんですか?」
「まぁ、ちゃんと聞いてよ」
「そういうなら」
と臣君は渋々頷き、顎で続きを催促します。
あれ、臣君てこんな性格だっけ初めて会った時から大分キャラ変わってない?
「何で黙ってるの、もしかしてネタ尽きたの?」
まさか、臣君の事を考えてましたと言った所でまた何か言われるだろうと思ったので無駄だと思い、顎で催促されたように喋り出す。
「別に何も無いよ、時間にして三秒くらいの時間を言い訳考えている時間にしないでくれよ」
「それもそうですね」
「だろ」
「ですが、それが水渚君なら話は別です。というか水渚君と言うのはたるいので武人君でいいですか?」
なんて順応性の高い子なんだ。
会って三回目にしてもう、下の名前呼ばれてるし、まぁ僕も下の名前で呼んでるから構わないが。
「だから何考えてんの?」
マジで怖いです臣君。
時間にして一秒の沈黙を黙っていると取るなんてあんまりだ。
臣君が何故こうなったのかは今は置いておくとして僕は、間髪を容れずに説明しようと試みて少し早口で語ろうとしたら。
「武人君、言い訳をあやふやにさせる為に早口を使おうとしても駄目です」
と言われ、僕は普通のスピードで語るしかなかった。
「事の発端は今朝僕が学校に来てから始まった。……」
僕が語りだしてから臣君は急に静かになり、聞き手へとまわった。
臣君が聞き手となったのを感じて僕も語り手としてしっかりと語りだそうとしたが、時間は待ってくれるとは限らなかった。
キーンコーンカーンコーン
かの有名な休み時間終了のお知らせが校内へと響きわたった。
授業へと始まるチャイムは鳴っているので急いで教室に引き返そうとするが、臣君は動じる事が無い。
「早く、もどらないと授業始まるよ。臣君」
と僕が言うとやっと気づいた様になって。
「本当だ。戻らないと」
と臣君は自身が身につけてる腕時計に目を落とし、気づく。
「続きは、次の休み時間ですね」
と司会迄してくれた。
その時の僕は授業に遅れてはいけないと思って走る体勢でいた為に。
「うん」
と答えてしまった。
今にして思えば、それが一番の失敗だった。
軽はずみとは言ってもあの臣君とそんな約束をしてしまったので気が気で無かった。
授業中も何をどう臣君に分かりやすく説明しようか迷っていると、先生が僕を当て発言の権利を渡され、それ所では無いというのに問題を解けと指令が下り、僕に答えろ的な目線で威圧され、適当に答えてみたら。
「答えが違う、水渚君。ちゃんと授業聞いてるかね」
と言われ、それでもまだ答えろ的な目線を先生が向け困っている所を立川さんが前の席からさっと答えを見せてくれたのでなんとか答えたら。
「正解だ。次からは集中して授業を受ける様に」
と言われた。
立川さんとはあんまり喋った事無かったのだが、まさか助けてくれるとは思ってもみなかった。
その後も授業は続き、窓から外を眺めて考えたい事は山ほどあったがさっきみたいに立川さんに助けて貰うのもあんまりなので一応ノートとかは取ってみたりした。
キーンコーンカーンコーン
そして、その授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「起立……気をつけ……礼」
と委員長がほどよい間を開けながら先生に挨拶をさせると。
「着席」
と言った。
そして僕は……
「水渚君、ちょっと来なさい」
見事に先生に呼ばれた。
「はい、何でしょう先生」
「何でしょうじゃ無いでしょう、最近真面目に授業に取り組んでないのが目立ちます」
と先生は、教卓の前で説教を始めます。
僕は、自分の席である窓側の前から三番目の座席へと座った。
清君はまだ自分の席にも戻らず僕の二つ隣の男子の席で男子同士で絡みあいをしていた。
キーンコーンカーンコーン
時間というのはあっという間である。
なんとなくクラス全体の様子を見ていただけで10分あった筈の休み時間は終わってしまっていた。
そういえば、僕は臣君との約束を破ってしまった。
まぁ、あの状態の臣君とは話をしたくないので別にどうでも良いのだが、この後どうなるかが果てしなく怖い。
授業の始まりのチャイムは鳴っているのだが肝心の教師は10分遅れでやって来た。
そして、一組の教室に入ると早速怒りだした。
理由は簡単にして明白だ。
授業のチャイムがなっているのに半分以上の生徒が立っていたからだ。
だが、委員長は、教師がくる三十秒前に自分の席に戻っていかにも呼びかけはしましたよ的な雰囲気でいるので教師は。
「委員長が呼びかけしたんだろ、何で座らないんだ」
と怒っていました。
勿論、委員長と喋りあっていた女子は皆委員長の行動を見て、同じく三十秒前には座っている。
「女子も立ってたじゃないか」
と、一人の男子が教師に弁明してみるが教師は女子がたっているのを見ていないのでその男の子に。
「誰が立っていたんだ」
と指名させてその女子一人一人に問いつめるが、勿論女子はそんな物認める訳なは無く、そこへ清君が。
「じゃあ、先生はそんな女子の意見を丸飲みにして男子の意見に耳を傾けないのかよ」
と半ギレで反論していた。
どうやら、清君も時間以内に座れていないと教師に指摘されて認めた様だった。
「そうは言わないが、しかし状況から鑑みるに」
と教師も怯むこと無く応戦していると。
「は、ふざけんじゃねぇーよ、何が状況から鑑みてじゃ」
「こら、貴様、教師になんちゅう口の聞き方をしとんねん」
関西弁丸だしで教師が怒ると周りの生徒はさっと引くが、ただ一人、その関西弁に負けず劣らず反抗してきた。
「おい、てめぇふざけんなよ、教師の分際で。何で生徒の言う事を丸飲みしてんだよ、大体こういうのは連帯責任だろ。お前だって教室来るのが遅れた訳やし」
そんな事を言われた教師は、清君に掴みかからん程の勢いで。
「お前とか誰に向かって言っとんねん、お前よりも人生経験豊富やねんぞ」
と、そこまで言い合っていた時、ついに委員長は立ち上がった。
「やっぱし、皆アカンよ、指摘しなかった私も悪かったけど、高田君達男子の言うことは間違ってる訳じゃないから」
と、委員長が清君と教師の喧嘩の仲裁に入った。
しかし、時は既に遅かった。
委員長の自分達も悪かったから高田君だけを攻めるのは止めてという声も今となっては懐かしかった。
そして、教師は鬼だった。
「高田、お前は明日から三週間謹慎処分だ」
と担任が終わりのHR時に告げた。
清君はそれを聞いても動じる事無く、またそれ以上に清々としていた。
僕は、先生の発言に納得できなかったので反論しようと立ち上がった。
「どうした、水渚。いきなり立って」
と言われ、皆が僕を注視したので、恥ずかしくなり。
「何でもありません」
とすごすごと引き下がってしまった。
僕がいつも一人いたがる理由の一つである他人の視線が気になるという性格の性で僕は清君の事について異議を申し立てる事ができなかった。
そんな、自分が嫌で嫌で仕方が無かったが、時間というのは無常にも時を刻み過ぎて流れてしまった。
それは、まるでペットボトルの中身の清涼飲料水がキャップをしないままにして倒れてしまい、零れる様な程あっさりとしていて、零れてしまった物はもう二度と取り戻す事等できなくなっていた。
覆水盆には返らないのである。
終礼は、そうして流れてしまった。
僕は、何も出来なかった。
何も出来なかった程度のレベルじゃない。
役にすら立ててなかった。
あまりにも無様だった。
自分が言いたい事を素直に言えないのは腹立たしかった。
「それだけじゃない」
そう、それだけじゃない。
最近ずっと、こんな調子なのだった。
けいおんの事ででも僕は臣君に言いたい事を言えていないし、もたもたしてると今回みたいに、ついには一度も言いにいくのすら叶わない様になっているのだ。
僕は、教卓の前に突っ立っていたがやがてクラスの皆が教室から出ていき、僕一人になったので廊下に出た。
僕がそんなにも情けなくなっていたなんて自分でも信じられない。
中学時代には、そんな事なんてなかった。
いつも、僕が皆を引っ張っていたのに気がつけば自分はどんどん殻に閉じこもり、ついには殻から出れなくなっている事に。
「情けない、はがゆい、この気持ちが何とも言えない」
いつの間にこんな事が起こってしまったのだろうか。
僕が考えあぐねいていると廊下の向こう側から臣君がやって来た。
「武人くんっ」
臣君が僕の前に立った。
「あ、臣君さっきは……」
「ひどいじゃないですか」
僕が喋っている所にかぶせて臣君は言った。
「ひどいじゃないか、次の休み時間にって言ったのに来ないなんて」
「ゴメン」
僕には、それしか言いようが無かった。
しっかりと頭を下げて許しを乞うた。
臣君は、果たして許しはしなかった。
「武人君、謝れば済むという問題じゃないでしょ」
当然だ。しかし、臣君も言い過ぎで、僕も虫の居所が悪かった。
「じゃあ、じゃあ僕はどうすればいいんだよ、どうしたら許してくれるんだよ。僕の何が変わったって言うんだよ」
僕は、最後の方には叫びながら臣君にむかって喋った。
「どうしたの、武人君。今日はいつもと違って不機嫌だよ? 何かあったのかい?」
僕は、そんな臣君の言葉を聞いて気を取り戻した。
「ごめん、臣君」
「別に構いませんよ、慣れてますから」
僕がいけなかった。
臣君はまったくもって悪くないのに、こんな風にした僕が悪いのだ。
怒鳴り散らす場面でなかったのに、怒鳴りあまつさえとりあえずの謝罪で臣君の機嫌取りに走ってしまう己さえ嫌でたまらなかった。
かつてこれ程迄に因果が絡まった事があっただろうか、いやなかったであろう。
人生16年の中で最も因果が絡んでいると思った。
だが、この時はまだもう一つ因果が絡むなんて思っても無かった。
臣君との無空虚な時間が過ぎていき、もういいです。許しますよ。という臣君の言葉が解散宣言になっていた。
下げていた頭をむくりとあげる頃には臣君は何処かへ行ってしまっていた。
帰宅しようとまた、教室にもどり帰る準備をしていると携帯が鳴った。
『久しぶりだな』
そんなサブタイトルのメールがやってきた。
送信元は新井琢磨からだった。
メールを開いてみると以下の文章が書かれていた。
『よう、オレだけど、元気にしてるか。
お前とはIBでの最後のライブをやって以来だったな。
今から会えるか?』
たっくんはかつて同じ中学でバンドを組んでいた仲間だ。
しかし、僕がIBから脱退する時に絶交宣言をされて以来の仲だ。
そんなたっくんが僕に何の用事があるのだろうか。
返信文面はスグに決まった。
『RE:お久しぶり』
『うん、いいよ。集合場所は何処?』
そう送ってからは電話がかかってきた。
『もしもし、今からそっちの高校へ行く三十分位で着きそうだ』
「オッケー、ここで待ってる」
ブチッ、電話はあっさりと切れた。
三十分後、帰る用意も出来ていたので正門から出てスグのバス停で待っているとバスがやってきて、そこからたっくんは降りてきた。
降りてきたたっくんに手を振ると機嫌悪そうにそっぽ向きながらこっちへつかつか歩いてきた。
「久しぶり、たっくん元気にしてた?」
「開口一番がそれか、ふざけんじゃねぇ、こっちが何用で来てると思ってるんだ」
いきなりに不機嫌だった。
「春美から聞いたぞ」
「何を」
開口一番にたっくんにそんな事を言われても本当に分からない。
多少分かる事は分かるのだが、そこは能天気を装う方が得なのはたっくんとの長い付き合いで良く分かっている。
「なんで俺に許可なく、IBを活動再開しているんだよ」
やっぱし、その事だったか、たっくんがここにやってくる時点で薄々分かっていたが春美がたっくんに報告している時点で僕はやっぱし春美の事はそういう意味で好きになれない。
「あぁ、そのことね。どうたっくんも一緒にやらない?」
僕は軽くたっくんを誘ってみた。昔からたっくんははみ子にされていたのをベースの才能を買ってIBに採用したのだから臣君以上に厄介なキャラなのである。
あれ、考えたらIBのベースって厄介なキャラばかりだよ。
有名な女の子の高校生で音楽活動しているアニメのベースって物凄く好かれるキャラの筈なのに、やはり現実という奴は小説より奇なのか。
ま、それ漫画なんだけどね。
脱線した、閑話休題。
あれ、僕ってこんなキャラ位置だっけまぁいいや。
「何言ってるんだ、お前は俺が何で中学時代にIB辞めたと思っているんだ」
そんな過去あったねぇ。
「え、なんで辞めたの?」
そういえば何の理由でたっくんはIBを辞めたんだろ。
さっぱり分からないや。
まぁ、一秒たりともそんな事に頭使ったこと無いけど。
「それを俺に聞くか普通」
たっくんの切り返しは無難な回答だったが、この僕にそんな回答は不正解だ。
「普通ねぇ、普通。ゴメン僕バカだからたっくんの言いたい事が良く理解出来ない、ちゃんと言葉にしてくれないと」
たっくんの切り返しに僕は意地悪く答えてやった。
だって、たっくんの事で頭を使うなんて到底無いよ。
どうせどうでもいい中途半端な理由なんだしね。
僕が親に止められてで清君が受験の為なんだぜ、絶対しょぼい理由に決まってるよ。
「俺のIBを辞めた理由も知らないくせに一人前に俺をIBに口説かないでくれ」
そう言って、たっくんは出て行った。
そうは言われてもねぇ。
こっちに何を求めているのやら今は臣君の事で頭が一杯なのに。
今日は、ぐるぐる目まぐるしく色々なイベントがやってきて本当に何でこんなに今日は調子が狂っているのだろうか。
歩いていると、会いたくないのに春美に出会う。
こういう日の不幸はそのまま続く。
僕は、無視を決め込んで足の速度を速め春美の横を通り過ぎようとした。
「あ、武ちゃん」
声をかけられても無視して行こうとすると肩にトンと手が置かれる、こうなって無視すると春美は泣いてしまうので余計に無視するのは難しい。仕方なく僕は振りかえるしかない。
「何の用だよ、愛崎」
「武ちゃん、何でこんなに遅いの?」
「別に何だっていいだろう」
歩道の所、信号機を過ぎた所で僕はまっすぐ行くのだが、愛崎は右に曲がる。
ここでお別れだ。
「たまたまだよ、じゃあな」
「あ、うんじゃあバイバイ」
愛崎と関わると厄介なことになるので避けていた。
だが避けれなかった。
こうなってしまうと確実になんらかの働きがかかる。
それだけは何とか避けたい所ではある。
「えっと、武ちゃん。そのさぁ」
「何だよ、愛崎」
「私、ちょっと考えたんだけどさ」
「何をだよ、しかも平然と付いてくるなよ」
愛崎は、曲がる事をせず真っ直ぐに歩みを進み、僕に付いてきた。
「私がいたからIBって解散したんじゃないかな」
「それは、どういう意味だ?」
僕は問わずにはいられなかった。愛崎がそんな事を口走る意味を。
「だって私がいなければ、武ちゃんが音楽活動をしてるってご両親にバレなかったよね」
「それはどうだろう、確かに愛崎が僕の両親にバラしたのは事実だ、だが時間の問題だっただろう」
「でも、それも私がIBをネット進出させたからだよね」
僕には言い返す言葉もなかった。
「そうだよね、私が全部めちゃくちゃにしたんだよね、ゴメンね」
そう言って愛崎は走り出した。
そんな事ない
その言葉が僕にはとっさに出なかった。