プロローグ
学校へ行く途中坂がある。
坂を登って学校に辿り着くのは大変なものだ。
みんなはバスを利用し、簡単にこの坂の試練をクリアする。
それがたまらなく悔しい。
まぁバスに乗る金が無いのだから仕方ない。
学校へ着くとすぐ校舎の中に入り三階へと足を運ぶそこの突き当たりのクラス1組に僕はいる。
何も自慢するような事はない。
中に入るとクラス委員長が鍵開けの為に一人席に座っている。
六列六人の机とイスがあり、ドアから手前の二列目の五人目の所に静かに机に伏せている。
他には誰も居ない。
まだ朝が早いからだ、もうじき人が来るだろう。
その他全員が休みでない限り。
委員長はとても美形で、僕なんかには、一切絡んでこない。
クラスの男連中からはつき合ってみたいとかいう気持ちがあるのは分からなくも無いが、僕としてはさして問題ではない。
実際問題クラスに一人位そういう奴がいると思うが、別に何かある訳ではないのだから。
僕は学校のクラスによくあるグループの中で一人孤立のグループなのであるから。
そうはいっても別にいじめられている訳ではない。
極力人と関わるのを避けているためだ。
そんな僕は家族が嫌いだからである。家は神社で、しるしを持ったぶげきとして生まれてきたが、僕は音楽が好きだった。
両親はしるしを持った僕にここをついで欲しくしている訳で互いの距離は据え置きになってしまった。 だから、朝も早く出てきてこうして学校に着ている。
クラスにぼちぼち人が集まって来た。
「委員長、おはよう」
僕が名前の覚えていないような生徒の挨拶に委員長は、反応し、起きる。
「おはようございます。立川さん」
あぁ、そういえばそんな名前の人が僕のクラスにも居たような気がした。
僕は、まだ一年生なのでこの学校に慣れていないのだ。
僕はそのままHRが始まるまで寝ようとした。
僕の名前は、水渚武人。高校に通う十六歳。
自分でいうのもなんだが、それなりに身長は高い方である。趣味は、ギターで音楽活動を夢見ている。
勉強のほうは、いまいちであまりよろしくない。
夢見がちとよく言われるが、一応、中学の時インディゴブルーというバンド名でニコニコにそれなりの評価はもらっている。
この学校は歴史のある高校で卒業した先輩が何万人といるらしい。机にうつ伏せになっていた僕は、トイレの為に立ち上がった。
結構な数の生徒が集まって喋っているドア付近の人ゴミをかき分けトイレを目指そうとすると
「おーい、武ちゃーん」
と可愛らしい声が廊下から聞こえた。
僕はトイレに向かおうとしているので、無視して行くとその声の正体が走ってやってきてトイレ前で通せんぼする。その身長の低い女の子が話かけようとするが、それを察した僕は途中でトイレの横にある階段を使って二階へと降りていった。
(あいつとは関わりを持たない方がいい)と考えてのことだ。
その女の子は、同中でインディゴブルーのマネージャーだったのだ。
彼女はインディゴブルー通称IBの曲を聞いてからファンになり、中二の夏に僕らIBをプロデュースしニコニコへと進出して、伝説的になったのだ。
IBは覆面バンドの為、僕がIBのボーカルをやっているなんて関係者以外誰も知らない。そして、それはマネージャーである彼女愛崎春美の口からもあまり話していないので、この事を知っているのは少ないが僕の両親には気づかれてしまったのだ。
それは、愛崎が僕の両親に言ってしまったためだ。だから、愛崎はもう誰にもこの事を口外していない。
高校でも、それを謝りたくて同じ学校へ来ているのだ。
そんな事は、いくら鈍感な僕にでも分かる。
僕は二階でトイレを済ましチャイムが鳴ってから教室に帰った。幸いにも僕は愛崎とは別のクラスなのだ。だから待ち伏せされてもいいようにわざと遅れて教室へ入った。朝のHRは始まっていた。
もちろん、そんな逃げ方が通用するはずがない。
クラスには、もう一人同じIBのメンバーがいる。
高田清という少年だ。
清君は、ニコニコでIBが評価をもらってからずっと本調子が出ず。
ある日、ニコニコで評価をもらったのはたまたまだと言って以来バンドに参加しなくなった。
休んだ理由を聞くと理由は受験の為と言っていたが、今になって思うと。こんな公立高校が受からない様な成績では無かったはずだ。
朝のHRが終わると清君が僕の席に来た。
「水渚、愛崎から手紙預かったぞ」
昔は武人君と呼んでくれたのに、愛崎のことも春ちゃんと呼んでいたのに。
「そんなの、清君だって読まなくてもどんな内容か分かるだろ」
といって手紙を受け取らなかった。
「いい加減、清君と呼ぶの止めてくれないか」
と言われたが。
「清君は、清君だよ」
と言い返しあきらめなかったら
「まぁいいそんなこと、とりあえず受け取れ」
と言われ
「嫌だ」
と短く返してやると休み時間の終わりをつげるチャイムが鳴った。
しかし、向こうはあきらめなかった。
授業が終わった次の時間の休み時間にトイレに行って帰って来ると
「とりあえず受け取れ」
と書いてある紙を愛崎の手紙と一緒に置いているからだ。
これでは返しにくいではないか、クラスの皆がそれを目撃したのだから。
あいつこのクラスで一番目立たないのに愛崎から手紙もらっている。
くそーあの娘可愛くて狙ってたのにという男子の無言の目線をくらっているからだ。
なので手紙を開けてみた。
「武ちゃんへ
私はまだ諦めたくない。まだ高校入ってすぐだし今からけいおん部でもう一度IBを作ろうよ。確かにベースのたっくんはいないけれどここにもすごいベースの遠山君がいるし新生IBとして作り直そうよ。まだ遠山君フリーだし。お願い
待ってます。
愛崎より」
という内容だった。
僕にとってはIBとしてもう一度やるのは構わない。
ただ両親が許可しないのだから仕方ない。
そのことは誰にも話していないのだ。だから新井がいないからではないのだ。
僕は手紙を読んだ後の授業がまったく入ってこなかった。
その日、僕が帰ろうとすると廊下から
「武ちゃーん」
と呼ぶ声が聞こえた。
勿論その声の主は愛崎だ。
「武ちゃん待ってよけいおん部寄っていかない?」
と誘われた。僕は高校に入って部活になど入ってなかった。
「僕に構うなよ」
と一言言うと
「なんで、なんで構っちゃいけないの?私は・・・私は」
「そこまでだ、愛崎。水渚も嫌がってる訳だし」
と清が割りこんで来た。
「でも、私は水渚君の声が・・・曲が好きなんだもん」
愛崎は、そう言って廊下を走り去った。
「ありがとう、清君。君だけが僕をかばってくれる」
僕がお礼を言うと
「勘違いするなよ、水渚を助けた訳じゃないからな。俺はただ・・・っ傷つけたく無かったからだ」
最後何を言ったのか聞こえなくて思わず。
「今何て言った」
と聞き返すと清君は顔を真っ赤にして早足で何処かへ行ってしまった。
僕には何がどうなったのか分からなくなった。
「清くんは何を言いたかったのだろうか?」
何か訳でもあるのか僕には理解することが無理だった。
「もう訳わかんねぇー」
と叫んでいた。
その日はその後何もなく過ぎていった。
翌日、愛崎は、一組のクラスの入り口の所に立っていた。
僕は毎度の如く朝早くに来て、委員長にだけ負けるはずだったのに。向こうは、下を向いていてまだ僕に気づいていない。
僕はクラスの入り口に愛崎と向かうようにして立つと向こうも気づき。
「おはよう武ちゃん」
その声は朝一に聞きたく無かった声だった。
「何の用だよ愛崎」
僕は愛崎に話かけた。
というか、話さないとクラスへの入り口を塞がれているからだ。
「えっとね、そのーちょっと付き合ってくれない?」
僕はビックリした。
付き合ってくれなんて言われたことなんてなかった。
自分はイケてる方ではなかったから。
そんな僕と付き合いたいだなんてと照れながらさりげなく髪を直したりして。
「それは付き合いたいということなんだな」
と確認すると。
「そういう意味ではなくてただ単純についてきて」
と言われ、内心で舌打ちして愛崎についていった。
まぁ中学の時からの知り合いが何もここで告白することでは無いから分かっていたけれど、それでも可能性があるなら男子高校生である僕としては彼女は欲しいものだ。
「ついたよ。ここだよ」
と愛崎が案内したのは、けいおん部の活動場所の教室だ。
「愛崎さん僕に何かようですか?」
とそこには僕の知らない男がいた。
「彼は遠山臣君という子でけいおん部で一番ベースがうまい子だよ」
と愛崎から言われ僕がぽかんとしていると
「一番だなんてまだまだ先輩方には劣りますが・・・自分でいうのも何ですが一年生の中ではまぁまぁうまいですよ・・・で、そちらの方は?」
と言われ
「僕はただの・・・」
と言おうとするとそれを遮って
「彼はボーカルの水渚武人君よ」
と華麗に挨拶を決められ驚いた。