<20> スタート・エフェクト
さすがに今回の指定場所ばかりは、行くのをためらった。
屋外ならば構わない。この時期は虫が気になるが対策は出来るし、息詰まることもないだろう。
知らないビルとか、あるいは廃墟でも別に気にはしない。前者は許可さえ取っているなら気兼ねしないし、後者は恐れる要素がない。例えば幽霊が存在したところで「何を今更」という感じであり、あるいは不良がたむろしていても立会人が一瞬でしばいてしまえる。実際以前にそういうケースがあり、立会人どころか参崎と愛中がうまいこと追い出してしまった。
しかし、今度ばかりは面倒なところだ。なにしろ――――母校である。
頻繁に門前を通過する見慣れた近場とはいえ、3年間通い続けた懐かしき学び舎だ。余りまともな事をしていないという自負が、その門をくぐることを躊躇させた。
などと思いつつも、呼ばれた以上は行かなくてはならず。
すでに我が身は、御旗岳中学校の校庭上を歩いていた。
時刻は午後七時すぎ。正面から見渡す校舎に光はなく、いやに乾いた風が寂しく吹いて背を押す、そんな夜だった。
あいにく超感覚の持ち合わせは無いが、なんだか嫌な予感だけはする。
「わー、初めて入るよ。あっちが玄関?」
「ああ……左が職員と来客用、んで右が生徒のゲタ箱。でも電気付いてねえな、どっち行けばいいんだ」
「それじゃー、開けてみて開いてる方に行こうよ」
傍らのメイは変わらずマイペースだ。彼女にとっては知らない場所でしかないのだから、それも当然なのだが。
今回のお供はメイだけであり能力者は来ていない。ただ電話で、二人で来るように言われただけだ。実施内容も知らないが、それは普段通りとも言える。
……玄関前の石段がよく見える辺りまで来ると、小さな光がぱちぱちと瞬いた。指先に灯る控え目な白光に照らされて、暗がりに真崎の笑わぬ顔と、その巨体が縁取られていた。相変わらず葬式帰りのような黒ずくめだが、わりあい肌は白いのだな、などとふと気付かされる。表情は普段通り、笑わない男だった。
「警備は解除してある。中には関係者以外は居ない。来客口から3年C組の教室に上がれ」
必要な事だけを述べた真崎は、それきり足音もなく校内の闇に消えていった。
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見慣れたはずだが、闇の中の校内は初めてだ。
暗いとはいえちらほらと照明が灯っており、足元は見える。先ほどまでは真っ暗だったので、真崎が道々付けていったのかもしれない。多少見辛くとも携帯画面などで照らせば支障もない。メイが念のため懐中電灯を持参していたが、使うほどでもないだろう。
靴を脱ぎ、棚に並んだスリッパに履き替える。歩くたびにぺちぺちと威厳のない音をたてる安物なのだが、しんと済んだこの空気においては主張が強く、鋭い音として響いた。
後ろをついてくるメイを気にしながら、廊下を進み階段前のホールへ。中央にかかる大きな花の絵画と、掲示物の貼られたいくつかの移動ボード。何も変わっていないが、輪郭だけの陰を落としたそれは、自分にとってはすでに薄れた過去であるのだろう。思ったほど、感慨は湧かない。
言われたとおりに左手の階段を上って2階、すぐ正面の3-C教室に入ろう。背の高い引き戸を静かに開けて、一歩進み――――急にまぶしさを感じて、思わず目を覆った。
「あはは、何やってんですか先輩。あ、外から見ると暗いんだっけ? なるほど」
飛んできたのは、愛中久澄江の声だ。まばたきをしつつ、くらんだ目を慣らすと、学校指定の運動着を着た彼女が教室中央の席にいた。
上着は見慣れた指定のシャツだが、下には生地の薄そうなジャージを履いている。長めの髪は首の後ろで雑にくくられており、少なくともよそ行きの格好では無い、油断した感じに思えた。赤みのさした頬と長いまつ毛が少し目立つ、名前の通り愛らしい顔立ち。蛍光灯に照らされた明るい横顔が、フラッシュを焚かれたように一瞬、やけに強く印象に残った。
「誰かの能力か、これは」
「なんかね、真崎さんがこの教室周りだけに力を送ってるそうですよ」
「それでか。その真崎さんは? さっき見たけど……」
「見張りですって。あと伝令って言ってた」
そういう細々した事こそアルバイトたる自分たちに任せれば良いだろうに、とは思いつつも言う機会はない。言ったところで自分を曲げる人には思えないが。
「んー、愛中ちゃんだけ?」
「――――俺も居ますよー。あとほら、鑑先輩も」
メイの疑問に、不意を突くように右後方から回答があった。答えたのは壁に寄った席に座る猪吹隣人の方で、そのすぐ前に鑑計伍が座していた。猪吹は手を上げ、鑑はひょいと頭を下げて会釈した。
小柄でしなやかな身体を持つ、柔和で年相応に無邪気な方が猪吹。
長身で硬質な表情をしている、虚勢を張る割に根は素直な方が鑑。
似てないような似通っているような、奇妙な取り合わせだと思った。色の薄いさらさらの髪が無造作に落ちる猪吹と、黒々としてぴょんと跳ねたスポーツ刈りの鑑。ビジュアルとしては全く別物なのだが。
猪吹も鑑も、下半身に学校の運動着を着ていた。私服で来るのは気が引けるからだろうか。
「上級生の教室って、なんか落ち着かないですね」
「そうだな……。本来、居るべき場所ではないからか?」
鑑と猪吹が会話するのは初めて見るが、わりと打ち解けた感じに見えた。つい数日前の試合で同チームだったし、おそらくそれを機に仲良くなったのだろう。
「その理論で言うと、俺たちはもっと落ち着かんがな」
「私なんかは特にねー」
「……メイさん、本当は気にしてないでしょう」
「まあねー」
「そういや打川先輩、3年の時は何組だったんですか?」
「A組だよ。二つ隣だな」
教卓近くの空いた席にメイと並んで座り、そのまましばらく学校生活を話題に雑談を交わす。
話に興が乗って来たかというあたりで。引き戸が再び、がらがらと開かれた。入って来た“その子”は姿を見せた途端、俺がそうしたように目をかばった。
「うわっ、まぶし……。ん? あれ、皆さんお揃いですね。どうも」
「ああ、葉村か。後ろにいるのは……おい誰だ、お前」
「何それぇ、ひどくないですか先輩。転子ですよぉ、井房野転子」
そう言われても、井房野の有り様は普段と違い過ぎる。ぱっちりと開かれた両目に見慣れた寝惚け顔の名残はなく、癖の強いはずの内はね髪がまっすぐに降りていた。しまらない軽めの口ぶりは変わらないが、背筋もぴんと伸びていて別人のようだった。長袖の運動着を片足だけ、いい加減にまくり上げていなければ、判別は難しかったかもしれない。
いっとき目は外したが、葉村が夏服――――女子の制服を着ているのも、注目すべき点ではある。同学年の猪吹や井房野はその姿を知っていただろうが、鑑は目を丸くしていた。少年アイドルのように整った二枚目な小顔と、巻き気味の短髪。スカートを履いていなければ、女子かどうかも分からない。おそらく鑑も、自分同様に性別を見誤っていたのだろう。
ともあれ五者五様に集った超能力者、御旗岳の訓練生たちだったが、集められた理由は誰も知らなかった。自分とメイは進行を任される事もあるスタッフではあるがやはり末端に過ぎず、詳細は不明なままだ。真崎が今回の担当かと思いきや見張りだと言う話だし、戻ってくる気配もなかった。
「……で、今日は何するんですか?」
中列一番後ろの席に着いた葉村が、隣に座った井房野と顔を見合わせつつ、誰にともなく聞いた。分かってて、あえてそう聞いたのだろう。この場の誰もが回答を持ち合わせていないのは明白だった。
ゆえに、疑問を解決する者が折り良くやってきた。
「よおし、そんじゃお答えしようかァ。お前ら席につけー」
教室前方のドアを乱暴に開いて、桐代が姿を見せた。身に付けた薄緑色の長いパーカーは変わらず厚手で暑苦しいが、膝下の素肌は健康的に日焼けしており、まあ夏らしいとも言える。そちらに目を取られているうちに、スーツ姿の川藤が入って来ながら振り返り、引き戸をゆっくりと閉めた。
桐代は黒いバインダーとファイルを手にしており、持ち物だけなら教師のそれにも見える。もっとも身丈は低いから、よほど川藤の方が先生に見えてくる。さしずめ桐代は、「川藤先生が連れてきた破天荒な転校生」といったところだ。
「せんせー、もう席についてますけどー」
笑いながら、愛中がそう言った。すると桐代も笑い返してから、ひょいと飛び跳ねて教卓の上に腰かけた。
「ほォ、感心感心。先生って呼び方も良いねえ、でもあいにく教鞭は取らないよ。僕らは教師でも教官でもない、『立会人』だからね」
確かに同じ超能力者であり先輩だというのに、彼らが物を教えることはなかった。ただ見届けるだけ。訓練の立案をしてはいるのだから、間接的に教えていると言えなくもないが。
「それで今日は何をするんですか? あんまり遅くなるとまずいんですけど」
「そりゃ大変だねェ、猪吹。なに大丈夫、三十分とかからないよ。今日は訓練じゃないから」
「え、じゃあ何を? 連絡だけなら、日中にするか電話をくれれば……」
「ふむ。君らの都合はともかく、“あちら様”は今じゃないと難しいんでね」
「えっ、誰ですかぁ? ゲスト? 新しい能力者とか、立会人のひとぉ?」
「いやいや、もうちょっと上等だよ――――」
言葉を切り“タメ”を作りながら、桐代は窓側に身体をひねり、無造作に膝を立てる。
「君たちの……いや。僕らの“上司”に当たる人さ。では、ご登場願おうかな」
そう急に言われたために、全員が首を回し、ドアの方に視線を集中させる。この謎めいた立会人たちをまとめ上げる、“上司”とやらの姿を一目見るべく。当然雇われの身である自分としても、上長と顔を合わせる機会は重要だろう。普通の会社とも業務形態とも言えないが、ともかく礼は尽くしておこう。
戸が引かれるのを、にわかな緊張と共に見守る。
――――だが。そのお方は、全く予想外のところから降ってきた。
『やあ、こんばんは! 超能力者諸君、そしてスタッフのお二人さんも。おおっと、それよりまずは“はじめまして”だな、失敬失敬!』
思いがけず若々しい声で、どうも女性らしかった。が、声だけだった。
見上げれば黒板の上、時計の横、白いスピーカーから朗々とした音声が響いている。
『さて、事情で顔は出せないけど会えて嬉しいよ。私は、そうだな、残念だが名前も名乗るべきではないんだよ。とりあえずは“会長”とでも呼んでくれれば良いかな。うむ、挨拶はその位だ』
“会長”と名乗る声はそこまで一息に喋り切って、しばらく沈黙した。その間、我々七人はただ呆然としていた。いろいろ聞きたい事はあるが、当人がこの場にいなくては返事も望めない。ならばと桐代と川藤に何かを言おうと思ったが言葉が浮かばず――そうして迷っているうちに、上からの啓示が再開された。
『本日君たちをお呼びしたのは他でもない、訓練を“次の段階”に進めるためだよ。愛中久澄江、鑑計伍、猪吹隣人、井房野転子、葉村砂月。ここに集められた五名の能力者は、見事にその条件を満たした! おめでとう』
「はあ」とつぶやいたのは猪吹だろうか、“会長”の声にかき消されて良くは分からなかった。
『他の者も順次課程を終えるだろうけれど、先を行くのは君たちになるだろう。常時というわけではないが、今後君たちがまとまって行動する機会も増えるね。いずれ連携も重要になる、よって仲良くやりたまえ』
この五人なら確かに、仲違いせずうまくやれそうではある。鑑と葉村がやや怪しいが、どちらも根は素直な子だ。
もしここに参崎とかユリノとか、河内や埜滝あたりが混じってたら異を唱えたかもしれない。実質的なところはともかく。
『うむ、私からは以上になる。後は言うことはない、仔細は桐代たちから聞きたまえ。君たちが健勝なまま、更なる段階に進めることを祈るのみだよ。ではいずれ、またその時に。さらば!』
それきりぶつりと音は断たれ、スピーカーは口を閉ざした。
余韻を残しつつ、通達は終わった。なかば別世界に奪われていた思考が戻ってくる。しんとした夜の校舎にいることを、今更のように思い出す。
「仔細ったってなあ……」
桐代は珍しい表情を浮かべ、そのようにつぶやいた。記憶が確かなら、彼がこんな風に――――うんざりしてるのは初めて見た。
「はー、ちょっと億劫だなァ。川藤、悪いけど説明頼んでいいかな」
「ああ、はい。なら休んでてください。後はやっときます」
「すまんね」と小さく謝るのが聞こえたが、それもまた殊勝な様子で気味が悪い。どうにもらしくないのは、さっきの“会長”に原因があるのだろうか。
深く考える間もなく。桐代から手荷物を受け取って一歩前に出ると、川藤はさっそく説明を開始した。
「会長が言った通り、予定されていた訓練課程の第一段階は修了。今後は第二段階に入るが、訓練自体は減ることになるだろう。特に基礎訓練などは、あっても1、2回程度になるだろうな」
「あ、本当ですか。それはありがたいです」
「そうだねぇ、飽きるし疲れるもんねあれ」
能力を長時間、かつ何度も使用する基礎訓練は、たいていの能力者を悩ませたようだ。よく同行して記録を取ったが、5分連続で物体を浮かし続けるとか、100個の石を能力だけで目的地に持っていくとか、実感としては分からないが皆しんどそうだった。ノルマを達成できないとやり直しになるため、後日再度訓練ということもしばしばあった。いま返答した葉村と井房野も再訓練の経験があり、知る限りでは一発でノルマを達成した者はいない。
「そのかわりに、お前たちには『実習』に出てもらう。第二段階のメインはそれだ」
「『実習』?」
「そうだ。指定された場所に向かい、能力を使用してもらう」
「……何をするんですか。法に触れることであれば、加担する気はありませんよ」
「おう、そう睨むな鑑。大丈夫だよ。むしろ人助け、あるいはボランティアと言っていいだろう」
「よくわかんないんですけどぉ」
「だからそれを説明するっての。……打川、“これ”を覚えてるか?」
そう言いながら川藤は、白い石のような物体を取りだした。すぐには分からなかったが、見覚えがある。
コンクリート色の石灰岩に埋まった真っ白いトカゲ。
「ああ、たしか、ウチの裏手で猪吹が引っ張りあげた……」
「そうだ。猪吹と井房野も見覚えがあるだろう」
「え、ああ……ん? こんなのでしたっけ」「なにこれ、覚えてないよぉ」
「……そうか。まあ知らない奴もいるからそこは説明する。以前打川に頼んで、この物体を回収してもらった。何故かというと、この物体が能力者と近似した性質を持っていたからだ。“探査”によって能力者やその候補の所在を探す事が出来るのは知っているな? その際に、こいつが引っ掛かったというわけだ」
「能力反応体、とか言ってましたよね」
「便宜上な。研究チームではこれを“影響物”、『エフェクター』と呼んでいる。名前の通り、放っておくと色々と周囲に影響を与えてしまう。それも、ほとんどが悪影響だ」
「ふうん? 例えば、どういった影響を?」
「能力者に近い性質と言っただろう? つまり“能力を持っている物体”なわけで、しかし制御装置なんてないから周囲に対して無差別に能力が放たれる。念動力とか、発火とか気温変化とか、土砂崩れとか風が発生するとかヒビが入るとか転移物質が現れるとか――――考え得る諸々だ」
どこかで聞いたような能力効果を、川藤は並べて挙げた。
「……相当ヤバいじゃないですか。え、その石も?」
「まあ慌てるな、これは大丈夫だ。影響度と言うべきか、モノによって程度があるんだ。これは珍しく地中に埋まっていたから回収したものでな、影響度はごく低い。性質は葉村のそれに近いんだが、ごくたまにそよ風を出す程度だ」
「なら安心、ってことかな」
「ああ。だが、そうじゃないような物体もごくたまに自然発生する。そういうものを研究・対処するために、我々は“自然発生ではない能力を制御できる人間”を必要としたわけだ。……さて、『実習』で何をやるかそろそろ分かったか?」
「つまり、そのエフェクターとやらを回収して来いと……?」
「そういうこった。とはいえ影響度の強いものは専門のチームで対処してるんでな、お前たちにはまず軽度のものの回収を任せて慣れてもらうことにするさ。ま、細かい事は追って説明しようか。今日はとりあえず以上だ」
「――――おォ、説明は終わったかい川藤」
微動だにせず、うつむくようにして沈黙していた桐代が起き上がり、教卓から降りた。見慣れたニタリとした笑みが顔にあるのを見て、なんとなくほっとしてしまった。
「ええ、大体は。そちらから、何かありますか」
「なんもォ。んじゃ解散かなァ、予定より早いけどそれでいいだろ。終了、終了ー……」
こちらを一瞥しただけで、特に挨拶もなく桐代は退出してゆく。
「……ま、お前らも夜分お疲れさん。気をつけて帰れ」
こちらもまた見慣れた疲れた表情で、川藤が同様に解散を促した。
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小さく挨拶を交わして、能力者五人組は先に帰って行った。
去り際に見た横顔はどれも明るく、これから始まる『実習』に関しても不安より期待が強いように思えた。特に猪吹や愛中などは、半ば興奮したように楽しげだった。鑑は少し厳しい表情にも見えたが、そうなるのもまた当然だし彼らしい。ともあれ不安と期待は、入り混じるからこそ面白いものではある。
「おう、お前らも気をつけて帰れよ」
玄関前の石段に出てきて、川藤が横に並びつつ言う。帰りたいところだがメイが手洗いに寄って行ったので、戻ってくるのをここで待っているのだ。
風からかばいつつタバコに火をつけて、川藤はうまそうに一服つけた。
「ええ、そのうち。ところで川藤さん、『実習』ってどこでやるんです。近場ですか」
「いや、わりと遠出してもらう。日程調整はちゃんとするから安心しろ」
「我々は何をすればいいんですかね」
補助スタッフとして、と言おうとして川藤の顔を見ると、何故か驚いたような表情をしていた。
……おや、何か、忘れていた嫌な予感がする。
「そっか、あー……言って無かったなあ。お前には、あいつらの指揮をとってもらう」
――――まったく予想外な通達であった。
「え!? いやいや、立会人の方々がやればいいんじゃないですか。どうせ監視には来るんでしょう?」
「それも言って無かったな。実は立会人はな、遠隔探査以外でエフェクターを感知できないんだよ。ほんの一部の例外と、現・訓練生は出来るんだけどな。それどころか、近くに居ると現地での詳細探査を妨害してしまう。御旗岳の訓練生を育成してる理由の一つもそのためだ。言ったよな?」
「言ってませんよ!?」
「そうだっけかあ? ま、でもそういうことだからよ」
「そんな……。……ん、あれ、“お前には”って言いましたけどメイはどうなんです」
「あいつには第一段階の補助を継続してもらうさ。指揮官は二人は要らんよ、この前の集団試合で勝ったのもお前だしなあ、ハハハ。きっと向いてるだろうから自信を持てよ」
「…………はあ……」
「おいおい、気を落とすな。ああそうだ、実習時間に関しては特別手当を出すからよ、それを励みにせいぜい頑張れ。んじゃ、あばよ」
ひらひらと手を振りながら、川藤も校庭の彼方に消えていった。
特別手当……言いかえてしまうならそれは、『危険手当』だろう。どうにも不吉な予感を拭い去れないまま、途方に暮れて空を見上げる。
覆いかぶさる黒まみれの天体に、ちらほらとだけ星が散っていた。
不安にまではならないが、期待はできない明るさで。
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<20> スタート・エフェクト /了
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