[8/2 17:35 尾岐市二条通1-4 蔵府士会館16F 第一ホール]
「やあ」
「どうも。ご無沙汰ね、いつ以来かは忘れたけれど」
「変わりないかい」
「身の回りの事なら、あいにくそうね。もう慣れたわ」
「御友人は?」
「週に一度は会うけれど……あなたの方がよほど機会が多いんじゃない?」
「プライベートじゃ会わないし、仕事でも滅多に無いよ。まだ現場には回しづらい、っていうのもあるからね」
「そう。ところで、そちらの御友人は……」
「ははっ、分かってて言ってる?」
「あら失礼、聞くまでもないわね。このくらいにしときましょう」
「それがいい」
「しかし、よくこんなところを貸し切ったわね」
「不都合がなさそうな場所を選んだんだけど」
「私にとってはね。お気遣いは感謝するけれど、本当は違う理由でしょう」
「うん。そう。ここの景色をさ、独り占めしたくてね」
「呆れた……相変わらずのわがままね」
「悪いかい」
「もちろん。度が過ぎるなら黙ってはいませんよ」
「おや怖い、忠告として受けておこうかな。叱られたくもあるけど」
「そうしたくて叱ってるわけではないわ」
「ふうん。じゃあ、これから言うことも怒りはしないかな?」
「……仕事の話?」
「そうだね。――――今月からね、『彼ら』を動かそうと思うんだ」
「彼らって……あの子たちを? 早すぎるわ、まだ様子を見ても……」
「遅々として進まないのは、そっちじゃないか」
「分かってはいるけど、急いでも仕方ないでしょう」
「つったってね、たとえば数日内に目覚められたら困るじゃない。それまでに多少なり成果を上げておかないと、そっちだって立場を失うぜ」
「立場って……そういう問題じゃないでしょう、人が……」
「そう、そのぐらいは簡単にやるよ。ああ、面倒な奴だね、まったく」
「やめなさい、そういう言い方は」
「うるさいな。こっちだって嫌なんだよ、そういう結果は。こうなってから長いもんだし、愛着だって強いんだぜ。そう見えないかもしれないけど」
「ともかく、どちらも立てなければいけない。他の皆は、何と?」
「マルキス以外は全員賛成だよ。こっち側にいると、実情は良く分かってるからねえ」
「デイジーや、キュクロージェも?」
「そ。もっとも後者は、返答すらないから無効票だけど」
「でしょうね……はあ。――――仕方ない、のね?」
「ああ、そうだよ。確かに進めたところで不興を買うかもしれない、確実とも言い切れない。でもやらなくちゃもっとまずいよ。犠牲だって出したろう、忘れたの?」
「そうね……そうだわ。わかったわ、任せます。私は何を?」
「基本は変わらないさ、探査だよ。ただ、これから頻度が上がるかもね」
「仕方ないわね。配慮してくれると助かるけど」
「努力するよ」
「そちらの人員はどう? レポートは見たけど、実際のところは」
「面白いとは思うよ。その分、実用には厳しいラインだけど」
「評定はどうしたの」
「とりあえずはパス。まだ全員に利用価値はあるからね」
「そう。いい子たちね」
「それは太鼓判を押すよ」
「あ、そういえば、『彼女』とそのパートナーは……?」
「音沙汰なし、ってところかねえ。可能性はゼロじゃないけど、結果には遠そうだ」
「期待しない方が良いと?」
「一般人としては扱いやすいよ。ま、いいじゃないか」
「あなたがそう言うなら、それで」
「じゃあ、そういう方向で進めよう。キュクロにも念を押しておけば、しばらくは大丈夫だと思うし」
「このところの『妨害』については?」
「探すのも骨だし、出たら対処で。それで問題ないだろう?」
「ええ、まあね。では決定ね。それじゃ、私は帰ります」
「もう行くの? 滅多に見れないぜ、ここからの眺め。本当ならこのホール、予約でいっぱいなんだ」
「全うな機会なら喜んだでしょうけどね。それに私、これからあの子に会うのよ」
「ああそういうこと。なら止めないけど。……そうだこれ、資料。リストには目を通すと良いよ。ファックスするの面倒でね」
「そう、どうも。あの子、すぐ近くにいるけど、あなたも挨拶ぐらいはしていく?」
「面倒だし、実はちょっと苦手なタイプなんだ。適当によろしく言っといて」
「まったく……じゃ、さようなら。ナルメレプス君」
「はいはい、さようなら。またね、アーネバース先生」