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<12> 白昼の監獄通信 (前)

 檻の中にいた。



 半ば比喩ではあるが、『鉄格子』に前後と真上を塞がれて行き場が無くなっているのは事実である。

 

 何も罪を犯して捕まったわけではなく、そもそもここは室外である。商店街と御旗五堂駅を結ぶ通りから続く裏路地のひとつであり、死角になっていて人が通ることは滅多にない。

 普段通ることもない場所なのだが、呼び出されて誘導された結果ここに来た。

 

 で、捕まった。

 急に壁から鉄の棒が伸びて、あっという間に即席の檻が出来上がってしまった。

 檻に扉は無く、隙間から出るのも不可能に思える。


(110番に電話すりゃいいかな……)


 まさかする気は無いが、仮に呼んだらどうやって救出作業に掛かるんだろうかと光景を想像してしまい、情けないやら可笑しいやらで自然と顔がひきつった。


 そうならないよう、身内のやったことは身内で解決せねばなるまい。

 まったくこれが超能力によるものでなければ、一体何だというのだろうか。



 差し当たっての問題は2つほど。

 鍵を掛けないまま路地の表に置いてきた自転車の事と、“これ”をやったのは誰なのか?という事だろう。


「おーい、出てこーい……」


 影のかかる狭い道に、呼びかけが虚しくこだまする。

 陽射しの強い日だったが、直射日光が当たらない場所なのは不幸中の幸いだろうか。


「出てきやがれー、津島ぁー……」


 そう、俺をここに呼んだ張本人は“彼女”、津島姉弟の姉の方である津島香利だ。

 伊達眼鏡と跳ねた髪がトレードマークで元気が余分な少女なのだが、俺が駅を出たあたりで突然、電話を掛けてきた。

 彼女の番号は知らなかったし、非通知設定だったから無視しようかと悩みつつもとにかく取ったら、あの大音量でわめいてきた。


(やーやー! わたしわたし! 津島香利だよー! 突然だけど先輩、今駅にいるらしいね!? ちょっと用事があるからさー、そのまままっすぐ歩いて坂本さんの床屋の手前を右に曲がってくんない? 急ぎだからどうにか頼むねー! んじゃっ!)


 取らなきゃよかった……と思いつつもわざわざ掛けてきたものを無視も出来ず、ともかく指定された場所に向かった結果がこれである。


 そういうわけで、彼女も犯人ではある。

 だが、『実行犯』は彼女ではない。“ガラスを操る能力”で鉄を作れるなら、もはや錬金術の類だろう。

 少なくとも、もう一人共犯がいるというわけだ。


 桐代あたりが仕掛けたお遊びなら構わない。というか状況の打開に時間がかかりそうなら、立会人に電話を掛けて呼び出すつもりだ。何の意味もなく悪ふざけをする人ではない、と思いたいが。



 とりあえず、現状を観察する。


 目の前の檻は黒みがかった鉄製で、触れてみるとひんやりと冷たい。

 地面から縦に2本、壁から壁へ横に2本、これは前後とも同じ作りで格子を形成している。あとは頭上ギリギリ……つまり170㎝ぐらいの位置に3本が横に伸びており、なかなかに圧迫感がある。

 狭い裏路地であるので、このような簡素な造りでも脱出は難しい。

 地面を掘れば確実に出られるだろうが、流石に日が暮れてしまうどころではない。

 

 携帯電話を取り出して時計を見れば、時刻は午後1時47分。日は高く入りも遠いが、何せ現在テスト期間中で明日もテストだ。時間を無駄にしたくは無いので、さっさと出たい。

 大声で呼びかけるという手もなくはないが、それで一般人が集まってきたらまずいだろうし……。


 数分ほどの逡巡と葛藤の果てに、携帯を操作して「電話帳」を開く。

 「か行」から、「川藤」を飛ばして「桐代」の電話番号を選択して掛ける。


 出ないことも覚悟していたが、コール3回ちょうどであっさり繋がった。


『……おお? 何だい打川ァ、食事のお誘い?あいにく昼は済ませちゃったよ』

「あいにくおごる程の金はないです。桐代さん、今どこにいます?」

『ううん? 尾岐駅の近くだなあ、ボーリング場のそばだ。それがどうかしたか?』


 電話口から漏れる音を聞く限りでは、確かにわずかな喧騒が聞こえてくる。こちらの現状を説明すると、桐代はからからと笑った。


『ハハハ、真昼間から何やってんだお前はァ。面白い事になってるなあ』

「笑い事じゃないんですがね。……で、誰がやったか見当つきますか」

『うん、分かる』

「助けてくれるとは思ってないですから、それだけでも教えてくれませんか」

『僕がお前の望みを叶えると思うかい?』

「……まあそうですね、聞くだけ無駄でした。そちらの仕業でないと分かった事ですし、もういいです」

『食い下がらないの? つまんないなあ。あ、一つ教えてやろう。それは立会人じゃなくて訓練生のやった事だと思うよ。じゃあねー』


 ぷっつりと通話は終了した。

 相手が相手だし、一部の情報を引き出せただけでも儲け物だろう。


 次に、川藤の番号に掛ける。

 何故話の通じそうな彼を後に回したかというと、単純に立場順である。桐代の下で川藤が動いている、という構図はおおよそ理解できている。真崎はどの辺りになるか分からないが、多分桐代と対等ぐらいだろう。余りあの人に手間を取らせたくないから、電話を掛けるのは順序的には最後になるだろうけれど。


 …………。

 …………。

『……留守番電話サービスセンタ……』


 録音音声をみなまで聞かずに切った。業務内容は知らないが、どうやら忙しいようだ。

 次の番号というと……真崎以外では……あいつか。あまり頼りになりそうにはないが、もしテレポートが使えるとすれば一発で解決だ。聞き届けてくれるかは二の次にして。

 「は行」から彼女、星倉然菓の番号を選び取り、ボタンを押して待つ。


『…………。………………』


 …………? 通じたのだが、返事がない。


「もしもし?」

『…………』

「星倉さん? 聞こえてます?」

『……チガウ』

「え? ……どちら様ですか」

『ゼンカの……トモダチ……に、アタル』


 低めで凄むような声だったが、どうも女性らしい。イントネーションがずいぶん独特だが、日本人ではないのだろうか。


「ああ、そうですか……星倉さんは、近くには居ませんか?」

『ガッコウだ。デンワはオイテいった』

「……わかりました。すぐには帰らないんですね?」

『ユウガタ。ヨルかもシレナイ』

「……はい、それじゃ失礼しま……」

『アナタはダレ。教えナサイ、ナノレ』

「……打川慎五、星倉さんの知り合いです」

『シンゴ。ゼンカから聞いたコトがアル。会ったコトはナイナ』

「……そうですね、俺もあなたに会ったことはないと思います。ともかく今日は失礼します」


 返事が無いのを数秒確かめてから、こちらから通話を終了させた。

 

 屈指の変人である星倉の知人だけあって、やはり相当な奇人らしく思えた。というかなぜ本人がいないのに携帯を持っているのか、そのあたりも謎なのだが。



 ……さて、打つ手が無くなってきた。

 あと解決策を持ってそうな人間は真崎ぐらいだが、どうしたものか。まあここで干からびるよりはマシか……とボタンを押しこむ直前に、着信があった。


 表示は非通知だが、また津島だろうか。

 ともかく現状に無関係ではあるまい、すぐさま通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。



「……もしもし?」

『…………遅い』

「……え?」


 男の声だ。若いように聞こえるが心当たりはない。こいつが“実行犯”の訓練生なのだろうか。


『早く脱出したらどうだ』

「誰だ、お前は」

『教える必要はない』

「参ったな……何が目的なんだ」

『お前が脱出することだ』

「できないから困ってるんだがな」

『本当に?』

「あいにく脱獄には詳しくはない」

『能力を使えばいいだろう?』

「俺は一般人だ。使える能力なんて持ってないよ」

『……何だと、くそっ。どういうことだ』

「こっちのセリフだ。何とかできるなら早く出してくれ」

『…………いいだろう。だが条件がある』

「何だ」



『お前の持つ情報をこちらによこせ。今から“尋問”を始めてやる』



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