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神様登場シリーズ

冥界の犬の死神は、暇

作者: 休止中

……れ……あれ?

目を開けると、真っ暗な空間だった。

私は体を起こし、辺りを見回した。

少し離れた所に犬がいる。

真っ暗やみの中にただそこに座っているのは片耳の垂れた柴犬だった。

暗闇の中でもしっかりとその姿は見える

水晶玉を覗きこんでつまらなそうな顔をしていた。

「あの……私は一体……」

菊田きくだ 菜奈なな、まだ若いのに自殺とは……情けないのぉ……」

こちらを向かずに犬は私の名前を呼んだ。

「え、あの私は」

「高校にせっかく受かったというのに、なかなか頑張ったのじゃろう?」

私は犬が当然のようにしゃべっていることに突っ込む暇もなく話を勧められている。

そもそも、何故この犬は私が何をしたか知っているのだろう。

「虐めか? あの手のものは少し無視をするか勇気を持って一言いえばよかろう、まぁ、一人では人間とは言え弱いからのぉ……大人を見方に付けるとか、もう少し工夫出来んのか? 大人に言ったらもっと虐めると言われようと、人間界らしく言うとそうじゃのぉ人質に取られたから警察に通報せずみすみす金だけ渡す奴もいなかろうて……ん? 分からんか? 人間界の者に伝わるように言ったはずじゃが……難しいのぉ……全く複雑な世界を作りよってあの馬鹿!」

私はそこまで言われると、急に感情があふれ出してきた。

「……仕方ないじゃない! 私の味方は誰もいなかったんだから!」

そんな簡単に行くはずがない、それがいじめだ

犬なんかに分かるはずが無い。

気が付いたら涙声になっていた。

今までこの気持ちを抑えきれて普通に声を出せていたことが不思議なくらいだ。

「まぁ、今更何を言ってもわしにはどうにもできん、お前さんも味方と感じることのできる人間は近くにいなかった、あやつも魂をコントロールするのはそう簡単ではないと言っておった」

犬は毬でもつつくように水晶玉を叩いた。

「その水晶玉、何?」

「人間界が見えるんじゃ、見てみるか? まだお前さんも存在しとるようじゃからのぉ」

「私は……存在してる」

そう呟くと

私は自分の手を見た、確かにそこに私の見慣れた手がある

触ってみても、確かに自分の手だ。

「私はまだ存在してるの?」

今度は犬に聞いた。

「そうじゃ」

でも犬の反応はそっけないものだった。

「もう少し何か無いの?」

私は少し強い口調で犬に言ってみるも

「死んだ者には何もないそれは当然のことじゃ、天国とか地獄とか言っとるようじゃが仮に死んだものが全てあの世に残っていたと考えてみぃ、そんなに魂の入る世界があったら見て見たいわい」

軽くあしらわれてしまった。

「じゃあ、私は消える?」

犬の方へ二歩ほど近寄ったはずだったが、距離が縮まらない。

「そうじゃのぉ」

「どのくらいで?」

もう二歩近寄るが、やはり縮まらない。

「知らん」

どうやらこの質問を続けていても何も進展しないようなので

私は質問する方向を変えることにした。

「……そもそもあなたは誰?」

「う~む、人間界っぽく言うとじゃな死神、で分かるかい」

「し、死神? 柴犬が?」

「わしは秋田犬じゃい」

秋田犬と柴犬の違いなんて良くわからない

「どっちも一緒じゃないの?」

「ちがわい、わしの方があやつよりがっしりしてモフモフじゃろうが」

確かに、ツンツンしていると言うよりはふわふわな見た目だ。

「そのもふもふ秋田犬が死神?」

「そういうことじゃ、まさかわしにこの役目が回ってくるとは思わんかったが」

「じゃあ私が死ぬように仕向けたってこと?」

犬は水晶玉から手を離しこちらを向いた。

「なんでそう悪い方にばかり考えるんじゃ……お前さんの思い浮かべた死神が何かは知らんが意図的に殺すなど無理じゃ」

私はその場でしばらく考え込み、犬に聞いた。

「あなたも私と一緒で一人なの?」

「わしは今一人、いや一匹じゃがお前さんは違うじゃろ」

「私も一人よ」

「いや、お前さんは一人ではない」

「わしがいる、とでも言うつもり?」

私は、セリフを先取りした気分になった

でも、犬は当たり前のように

「わし以外にもいるじゃろう? 思い当たらんのか?」

そう私に聞いてきた。

私は決めつけたような口調に少しカッとなり

「一人じゃなかったら私は死んでない!」

思わず怒鳴ってしまった。

しかし、犬は怒鳴り返してくることなどなかった。

「一人じゃったらそもそもお前さんはわしと話すことすら叶わん」

「どういうことよ?」

私も、気持ちを落ち着けて聞き返す。

「そもそも、脳みそも無いお前さんが何故にわしと普通に話せると思っておる」

「……そういえば、なんで?」

「お前さんがまだ生きているからじゃ、誰かの魂にお前さんが残っておらんかったらお前さんは今頃跡形もなく消え去っている」

「私が……まだ生きている?」

「そして、わしも生きておる」

「あなたも、誰かの魂って言うのに残ってるの?」

「ハチ、という名前は聞いたことが無いかの?」

……まさか

「ハチ公?」

思わず声に出た。

「おお、当たりじゃ、お前さんもしっとるんじゃのぉ」

犬は嬉しそうに頷いた。

「銅像が駅の前にあるからね」

「死んだら真っ先にわしを待ちぼうけさせたあやつを怒鳴りつけるつもりだったんじゃが……」

犬は俯き、ため息をついた。

「まだ飼い主に会えてないの?」

「なんかのぉ……しばらく消えそうにないからと毎日暇な仕事を押し付けられた訳じゃ」

はっはっはっ、と水戸黄門のように笑った。

「全く神様とやらは面倒な世界を作ったものじゃのぉ……」

そこまで話すと話題が尽きたようで、しばらくお互いに何も口にしなかった。

「私はこれからどうすればいいの?」

「好きにせい、わしにはお前さんに指図することは無い、消えるまで自由じゃ」

「でも、動けないし」

右や左に動いたが、案の定全く視点が変わらない

目の前に犬が居るだけ、近づけるわけでもなく遠ざかれない。

「ん、そんなはずはなかろう」

「そんなこと言ってもほら、無理だって」

私は横にスキップしたが、視点が動かない

「はて……」


「やぁ、また来たよ」

犬と私が考え込んでいると、一人男の子がどこからともなく現れた。

見覚えのある制服を着ている、ってことは高校生か。

「またお前さんか……いい加減死ぬぞ、前はトラックにはね飛ばされたんじゃったっけか?」

「良く覚えてるね……僕としては忘れたいんだけど」

「今度はなんじゃ」

「女の子に襲われた……」

「……女子おなごに殺されるほど男はひ弱になってしまったか」

「まだ死んでないから」

男はそう言いながらその場に正座した。

「分からんぞ? ここに来ている時点でお前さんは死にかかっとる」

しばらくその二人は話し合っていた。

私の入るタイミングなど全くない。

話がひと段落付くと

「あ、意識が戻るかも、じゃあまたね」

そう言って立ち上がり犬に手を振った。

「もう二度と来るな! お前さんが死んだ時は閻魔様にわしに酷い迷惑をかけたと「じゃ、また」

結局おじいちゃんと孫のようなやり取りをした末、男は消えてしまった。

「ねぇ、今のどういうこと?」

しばらく流れていた沈黙を破って私が犬に話しかけた。

「奴はもう何度もここにきては帰っていっとる、本当にここが冥界なのか疑いたくなるわい」

「あの子はどこに行ったの?」

「うむ、質問に答えたら……教えてやろうかの」

「質問?」

「そうじゃ」

「お前さんは、このまま死にたいか? それとも……もう一度生きたいか?」

「何それ、私はもう死んでるんでしょ?」

何を今更、という気持ちになった。

「お前さんは正確には、まだ死んでおらん、生死をさまよっておる」

私は黙って聞くことにした。

いや、突然の宣告に声が出なかっただけかもしれない。

「お前さんには味方がいる、それは今お前さんがいることで証明されているしかし、その味方はお前さんもわしも知らん、もしかするとまた虐めに会うかも分からん、それでも……生きたいか?」

またあいつらの顔を見ないといけない、でも味方はいる、誰? 分からない

このまま死んだ方が楽? 分からない、分からない……

「どうする? お前さんの自由じゃ」

「私は……」




その後、月日が勝手に流れていく暗闇の中、秋田犬は水晶玉をのぞき込んでいる

ため息をつくと、体を反らせて伸びをした。

「やぁ~元気してるかい?」

レディーススーツに身を包んだ、二十代くらいの女性が秋田犬の目の前にふわりと現れた。

「お前さんのせいで毎日暇じゃ……全く、何故にこんな世界を作ったんじゃ」

「見てて面白くないかい?」

女性はしゃがんで秋田犬と視線を合わせるが

「まぁまぁ、じゃのぉ」

犬の方はただ水晶玉を覗きこんでいる。

「うん? ずーっとその子見てるねぇ~誰? 知ってる子?」

神様も水晶玉を覗きこんだ。

「前に一度だけ会ったことがあるんじゃ、なんか知らんが、自害しそうな人間を救う人間をやっとるそうでのぉ」

「ふ~ん、面白い?」

「……まぁまぁ、じゃなぁ」

「そう言わないでよ~」

犬の背中をポンと叩き耳をつまんだ。

「お前さんのせいで、わしは未だ飼い主にも会えずこんな暇な事をしておると言うのに……なんで冥界と下界の中間など……」

ぼやくだけで何も反応が無いのでおとなしく手を離し。

「良いじゃないか~めったに生死の境目を彷徨ってる人なんて来ないんだから~なんなら明日飼い主さんに会うかい? 出来ないことは無いよ?」

「こやつが死んだらにするわい、今度はあやつの待つ番じゃ」

指差すように水晶玉に前足を向けた。

「飼い主さんをあやつ呼ばわりかい? まぁ、そう伝えておくよ~」

神様は手を振ると、どこかへ消えてしまった。

今日も暗闇の中では犬が一人、水晶玉を覗きこんでいる。

しばらく楽しそうに水晶玉を眺めていた。


「あれ……俺は一体……」

栗原くりはら 正幸まさゆき、階段から落ちるなど……ドジじゃのぉ……」

最後まで読んでいただきありがとうございました。


最初はバッドエンドっぽくなる感じだったのですが

気分が暗くなったので、無理矢理路線変更いたしました。

ゆえに、不自然な点などあるかもしれません。

面白かったと言う方、誤字脱字発見という方、その他ご意見のある方は一言でも良いので感想を書いていただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 忠犬ハチ公が生と死の境で仕事をしているなんて、とっても面白いです。 ハチ公のところにきた人をハチ公は励ましたりしないけど、結局人は生きる道を選ぶ。 私がこのお話を読んで思ったことは、 本当に…
[一言]  先程は後味の悪い事をしたので、お詫びの意味を込めて感想残させて頂きます。  生と死の狭間の世界にいる忠犬ハチ公の死に神ですか。面白い発想だと思いました。  ただ、死に神があまりにものん…
[良い点] 話の着眼点と犬のキャラがよかったです。 [気になる点] オチがよくわからなかったです。菜奈は、結局どうなったんでしょうか。
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