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第6話「襲撃者」

2話連続投稿です。そしてアクの強い新キャラ登場です(笑)

近いうちに次もあげたいなぁと思ってます。

「キラ!!」


無慈悲な氷の刃は、一直線に相棒の体へと吸い寄せられていく。


すぐに魔法を発動させるが、油断していたせいで間に合うかどうかは微妙なタイミングになってしまった。

一方、私の声にハッとしたキラも、すぐ目の前に迫りくる刃に体を捻らせようとしたが……何かに気づいて、その場に踏みとどまってしま


う。


「馬鹿、避けろ!!」


驚き声をあげるが、もう遅い。どんな熟練者でも魔法を発動するまでには、若干のタイムラグが存在する。キラが今魔法を使おうとしても


間に合わないし、回避ももはや不可能だ。

嫌でも刃に貫かれるキラの姿が脳裏に浮かんでしまう。見慣れているはずの光景だが、相手が違うとこうまで焦るものなのか。



だが……幸運にもその最悪な未来図が実現することはなかった。


ガゴッガゴッという音が連続して響きわたり、小さな体を貫くはずだった刃は不可視の壁に阻まれた。間一髪で私の張った防御魔法が発動


したのだ。冷や汗が流れる。なんとか間に合った。


しかし、咄嗟に発動したせいで強度が不十分、かつ想像以上に相手の魔法が強力だった、という二つの要因が重なったせいでその勢いを完全に殺すことはできなかった。


相殺しきれなかった分によりキラは勢いよく後方へと飛ばされ、その小さな体躯を壁に叩きつけられて蹲った。「かはっ」と息を吐


き小さく呻く相棒を視界に映し、一瞬にして激情が湧きあがる。


(……誰だ、やったのは)


もはや頭にあるのはその一点のみだ。普通なら怪我人の救護が先なのかもしれないが、命に別状がなさそうな以上、戦場で育った己の


本能は敵の排除を最優先事項としていた。


そして獲物を探す私の目に映ったのは、倒れたキラとレストの間に割り込むように入ってきた一人の男。


「殿下! 無事ですか!?」


突然乱入してきた大柄な男は、レストを守るように立ちはだかった。制服を着ていることから、おそらく王宮の関係者だと推測できる。

……もっともそんなこと今は関係ないが。


「待て、この者たちは――」


「この王宮で殿下に刃を向けるとは、なんたる狼藉! 下郎め、成敗してくれる! 【彼のものに神の裁きを――】」


水色の髪を振りながら偉そうな口上を述べた男は、レストの制止にも聞く耳を持たず、あまつさえ低い声で死の言葉を紡いでいった。


「っこいつ」


まだ体制の整っていないキラに追い打ちをかけるように放たれるそれは、到底看過できるものではない。

火山の様に湧きあがる激情に逆らうことなく、一片の躊躇いもなく反撃する。


慣れた動作で滑るように魔力を凝縮させ、先に詠唱を始めた男と同時に魔法を発動させた。

詠唱の続きを聞いた限り、男はどうやらさっきと同じく氷系の魔法を使うようだ。芸がない。

キラには先ほどよりも強度を数段上げた火系の防御魔法を形成し、それと同時に男には影を送って電光石火の速さでその身体を拘束する。


「なっ!? ――がっ!!」


狙い通り、相棒に向かって放たれた氷の刃は、灼熱の壁に阻まれて一瞬で蒸発した。もちろん周りに火の粉を撒き散らすような柔な制御は


していない。この2カ月ちょっとで、古代魔法を連発できるほど魔力は回復したし、多少のコントロールも身についてきたのだ。


だが、今はそんなことどうでもいい。なにせ二人の肖像画がなければあたりを火の海にしても構わないほど、私の内心は燃え盛っていた。


カツカツと靴を鳴らしながら、無造作に獲物へと近づく。


「さて――確か”下郎”だったか?」


影でぐるぐる巻きにして地面に引き倒した男を、射殺すように上から見下す。レストが息を呑む声が聞こえたが、容赦をしただけだまだい


い方だと思ってほしい。なけなしの理性を総動員していなければ、そのまま切り裂いてしまうところだった。


……だって手を出してはいけないものに、手を出したのだ。許せるわけがない。


「お前こそ分をわきまえろ。その程度で刃向かうなど片腹痛いわ」


我ながら、自分のものとは思えない低く冷徹な声が発せられた。殺気にあてられたように一瞬男は肩を跳ねらせるが、すぐに戦意を取り戻


しこちらを睨みつけてくる。


「まだやる気か……いい度胸だ」


男の期待に応え、影を使いそのまま締めにかかる。


(とりあえず気でも失ってもらおうか)


いささか過剰防衛が過ぎるとも思ったが、自制心が働いているうちにこいつを沈黙させる方がお互いのためになる気がした。本当は手加減


などドブに捨ててしまいたいくらいなのだ。気絶させるくらい寛大な処置のうちだろう。


だがそう一人納得して合図を送ろうとしたその矢先、半ば予想通りの邪魔が入ってしまう。


「ま、待て、セレスティ! クロード、この者たちは敵ではない!」


「むっ……レスト」


「は? し、しかし殿下、さきほどは……?」


不満そうに口を尖らせる私とは対称に、無様に引き倒されたままの男は間の抜けた返事を返した。

双方の反応を見たレストは、眉間を揉みながら深く、そして重いため息をついた。……いくらなんでもその反応はあんまりじゃないだろう


か。まあ、彼もある意味とばっちりを受けているのだから仕方ないが。


レストは、まずクロードと呼んだ男の疑問に答えることにしたようだ。地面に転がされた男を呆れたように見返す。


「少しじゃれていただけだ。全く、お前は昔から早とちりしすぎるのが欠点だな」


「そ、それは………」


いまだ混乱気味の男の目は、私とレストとキラの三人を忙しなく行き来し、そしてもう一度縋るようにレストの方を向いた。若干暑苦しそ


うにそれを受け取ったレストは、その紺色の瞳を見据えながらトドメの一言を放つ。


「彼らは私の友人だ」


それを聞いた男はまるで信じられないといわんばかりに口をパクパクさせ、次にぶつぶつと何かを呟き始めた。耳を澄ませてよく聞いてみ


ると、どうやら「ゆうじん……殿下の…いや、まさか……友人?」と言っているようだ。

……なかなか失礼な反応である。これを聞く限りレストにはよほど友人がいないように思えるが。


どうやら横目に観察した本人にも、それはばっちり聞こえていたらしい。それでもさすがレストというべきか、眉間をさらにピクピクさせ


ながらも口調だけは冷静に語り始めた。

まあ、それもあくまで口調”だけ”は、だが。全身から怒気を迸らせる今の彼には、私でさえあまり近づきたくない。


「お前とは後でじっくり話をしないといけないようだな。それより、他に何か言うべきことがあるのではないか?」


その言葉を受けた芋虫男は、手のひらを返すように平身低頭……とは言っても最初から地面にへばりついているのだからあまり変わらない


が、それでもあくせくしながら身を起こし、勢いよく頭を下げた。


「も、申し訳ございませんでした!!」


その一連の動作の中で、ようやくまともに男の顔を見ることになった。おそらく歳は二十代中頃。水色の髪は短く刈りこんであり、その落


ち着いた紺色の瞳と精悍な顔つきはいかにも仕事ができる男、といった感じなのだが……この体たらくでは台無しである。


「もういいだろう、セレスティ。離してやってはくれないか?」


「………そうだな」


なんだかやる気がそがれてしまった。溜飲が下がったわけではないが、ここはおとなしく拘束を解く。レストの頼みだし、キラにも誤解さ


れるような落ち度があったのは確かだからだ。


腕を一振りして影の拘束を解き、キラにかけてあった防御魔法も消滅させた。するとそれをジッと見ていたレストが、困惑したように問い


かけてくる。


「セレスティ……さっき無詠唱で魔法を行使しなかったか? それも別属性の並行魔法で」


……やってしまった。無詠唱もそうだが、現代では違う属性の魔法を並行して使うのは難しいことだった。目の前の相手に集中になるあま


り、レストの目があることを失念するとは、まだまだ私も修行が足りない。


ともかく、こういう時はとぼけて話題を変えるに限る。


「そうか? そんなことより……キラ、大丈夫か?」


「はい。ちょっと油断しました」


不服そうな顔をしているものの、むくりと起き上がったキラに怪我はないようだ。しっかりとした足取りでこちらに歩いてくる姿に安心す


る。これでもし大怪我でもしていたものなら、芋虫男を地獄にたたき落としていたところだ。

……案外私もキラの過保護を馬鹿にはできないのかもしれない。


「まったく、お前ときたら。どうして避けなかったんだ?」


「うっ、それは……」


そのままバツが悪そうに背後へと向けられた視線を追い、ようやくその意図が理解できた。


ユリア姫の肖像画だ。これを守るためにあの場に留まったのだ。


だが、このある意味感動的なエピソードを前にして、私の頭はひどく冷め切っていた。私もアスト王子とマリアの肖像画にはそれなりの愛


着があるが、それでもここまで馬鹿な真似はしない。絵画の中の人を守って死ぬなど、悲劇どころか喜劇にもならないではないか。


「お前はアホか! 守ったところで、どっちにしろお前の血で汚れて、絵など見れなくなるに決まってるだろう。あの氷槍で貫かれても大して変わらんわ!」


「あのぉ、ご主人様。その言い方はちょっと傷つくんですけど」


「本当に怪我するよりマシだろう! この際だからはっきり言うぞ。いいか、あれはもうこの世にはいない人間なんだ。だから――」


そうして数分前の自分のことを棚にあげ、キラに絶対に叶わない恋をすることの空しさを説こうとしていると、遠くから男女の二人


組みが疾走してきた。


さっきのこともあり、今度はキラと二人で警戒しながら相手の動向を探る。

だが、そんな私たちの予想に反し、新たにやってきた二人は着くなり息を切らしながら子犬のようにキャンキャン騒ぎ始めた。今度はいったいなんだ?


「ちょっと、リボン!! さっきの魔力は何!? あなた一体何をしたの!?」


「そうですよ、リボンたいちょー! あれ? その人たちもしかして今日招く客人さんじゃないですか!?」


「……クロードと呼べ」


二人のテンションとは真逆に、芋虫男、もといクロードは憮然とした表情で至極どうでもいいことを訂正した。だがそれは火に油を注いだ


ようなものだった。後からやって来た男女はレストがそこにいるにも関わらず、さらにでかい声で反論する。


「そこじゃないでしょ! てかこの氷の残骸ってあんたの魔法でしょ!? 全くいきなり走り出したと思ったら、こんな場所で魔法までぶ


っ放して! この馬鹿リボン!」


「そうですよーリボンたいちょ―! リボンの方がなんかかわいいって王宮の侍女たちにも評判っすよー!」


「っ、だからクロード隊長と呼べと言ってるだろうが!!」


これまたひどくどうでもいいことだが、段々論点がずれてきている。クロードという男も、さっきまでのしおらしさはどこへ行ったのか…


…アクの強そうな二人に彼の大声も加わって、どんどん場は騒がしくなるばかりだ。


もはやこっちを完全無視した三人の怒鳴りあいには、割り込む気も失せる。気が済むまでやらせておこう。


「それにしても姦しい三人だな。そもそもリボンのどこが嫌なん……ん? リボン?」


どこかで聞いたことのある家名に頭を捻らせると、これまた重いため息をついたレストが申し訳なさそうにその驚愕の真実を語った。


「そう、あいつはクロード・リボン。あのクラリス・リボン……わが校の保険医の兄だ」


それを聞いた私とキラは、信じられない気持ちで今一度子供のような口喧嘩を繰り広げる男に目をやる。

あのポワンポワンとしたリボン先生と、この血圧の高そうな芋虫男が兄妹? 本当に血がつながっているのかはなはだ疑問だ。


共通点といえば水色の髪と紺色の瞳、そして見た目と中身のギャップだろうか……あげてみると意外に多い。


だが、それ以外の点においては全く――


「似てないな」


「似てないですね。しかも、こいつが隊長って……この王宮そんなに人材不足なの?」


まさしく私とまったく同じことを考えていたキラが、その思いのままに疑問を吐き出す。ちょっとストレート過ぎるかもしれないが、この


有様を見ては遠まわしに訊くのも馬鹿らしく思える。

それにこの答えには私も興味があるのだ。

 


だが、真剣に答えを待つ私たちの前で、苦りきった顔をしたレストが返したのは、ただ一言だった。


「………それ以上は言ってくれるな」


とどのつまり、彼も同じ気持ちというわけだ。

そんなわけで新キャラたちの登場でーす。

またおしゃべりな奴らが増えてしまった(笑)


……そろそろ無口キャラを出したい今日この頃。

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