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第4話「仇敵」

けっこー長いかもです。

ちなみに前半は三人称で、後半はアリアの一人称になります。読みづらかったらすいません。

モルディ兄弟がハインレンス王立魔法学園を訪れてからおよそ2週間後。

その日は、昨夜の雨に続いて薄暗い曇天が空を支配していた。


「――そうして、神のお告げを聞いた聖女アリア様は、世の平和のためにひとり立ち上がりました。自らの犠牲を顧みることなく、戦場に颯爽と現れ当時の王国騎士団“太陽の矛”とともに魔物を討伐していく彼女は、清廉で慈悲深く、まさしく聖女と呼ぶにふさわしい精神の持ち主だったといわれています」


そしてまた、この上級クラス5年の教室では、昼休憩あけの歴史学担当ケインの講義が開かれていた。

ちゃらんぽらんな授業で定評のある彼が珍しくまともに授業をしているのは、第二王子が目を光らせていることに起因している。なにせ第二王子レストシアの“聖女様”への陶酔ぶりといえば、この学園で知らぬ者がいないほど有名な話だった。

下手な講義などしてみようものなら、件の王子様から苦情が来ることは間違いない。いくら普段おちゃらけたケインでも、それは勘弁願いたいところだった。


その一方で、本日の講義の主役である噂の“聖女様”といえば、最初の頃こそその純度100%の嘘っぱち伝承にいろいろ物申したいことはあったのだが、ここ最近はいっそのことなにもかも諦めて開き直る、という特技を編み出していた。


むしろ、今の彼女にとってはそんな些事よりも昼食後の生徒を襲うこの甘い誘惑にどう打ち勝つかが問題だったのだ。

だが、まどろみの中で必死に戦うも、退屈かつ嘘だらけな内容の授業に、徐々に抵抗の意思は奪われていく。


あるいは降参の白旗をあげるのも、時間の問題だったのだろう。こっくりこっくりと首がリズムを刻み始める頃には、緩やかな敗北に身を任せ夢の国へと旅立とうとしていた。

……のだが、とある感覚が彼女を一瞬にして現実へと引き戻すことになる。


それは、あまりにも唐突だった。彼女はバッと飛び起き、そのままの勢いで立ち上がったのだ。


椅子が盛大に倒れる音とともに、透き通るような声が昼下がりの静かな教室に木霊する。


「かかった!!」


「うお!?」


「セ、セレスティ、どうしたんだ突然?」


後ろで同じく舟を漕いでいたらしいライルはビクンと肩を跳ねらせ、真面目に授業を受けていたレストも突然の珍事に目をまん丸とさせる。


しかし、そんな彼らの疑問などどこ吹く風。さっきまで寝ぼけていたとは思えない俊敏な動きで、彼女は窓に手をかけながら教室の前方を振り返った。 


「ケイン先生! フラスト先生に『例の魔族が現れた』と伝えてください」


「え、あ、はい……でもセレスティさん、窓を開けて何を――?」


勢いに押されてか、今まさにチョークを持って黒板に文字を書くところだった彼は、その姿勢のままぎこちなく頷いた。

かろうじて付け加えられた疑問は、あるいは本能的な警鐘だったのかもしれない。

『この娘、何かする気だぞ』という。


当の本人といえば、戸惑うような視線と湿った風をその身に受けながら、鷹揚にこうのたまった。


「ご心配なさらず。ちょっと魔物を狩ってくるだけです」


「いやいやいや、何言ってるのよアリア」


「寝ぼけているのですか?」


突然わけのわからないことを言い出した級友に、ミアとローズが不信な顔で問い返す。だが、それすらも意に返さず、どこか急いでいる風の彼女は「じゃ、行ってくる」と手を振り……周囲が度肝を抜くような行動に躍り出た。


窓枠に足をかけ、ためらいもせずにその身を宙へと投げ出したのだ。


「え、嘘――!?」


「きゃ――!!」


考えてもみてほしい。はたから見れば飛び降り自殺である。このまさかの事態に、彼女の友人が甲高い悲鳴をあげたのを誰が責められようか。


だが次の瞬間、そんな彼女たちを宥めるように、落ち着いた声とともに濃密な魔力の気配が届いてきた。


【飛行】


階下から今一度ゆっくりと姿を現したその姿に、窓際にいた生徒はかすかな安堵と、その数倍の衝撃を受けることになる。


「………マジ?」


目を見開いて、眼下をのぞき込むライル。その声に反応してクラスメイトの大半が窓枠まで駆け寄ってくる。


そして次々と驚きの声をあがった教室は、もはや授業どころの騒ぎではなかった。

しかし、教師であるケイルもそれを止めようとはしない。なにせ普段は余裕たっぷりの彼ですら、今や生徒には到底見せられないようなアホ面を披露していたのだから。


一方クラスメイトの興味を一身に受けた彼女は、睨むようにある一方向を見ながら数秒空中に佇んだ。無論、その下に彼女の身体を支えるものはなにもない。


そして、我に返った彼らが声をかける暇もなく、そのまま矢のような勢いで飛んでいってしまう。


「あれは……飛行、魔法?」


呆然としたケインの声が教室に響く。

ここに来ておよそ2ヶ月の編入生。最初は突然の奇行に、次は生まれて初めてみる希少な魔法に彼の思考は完全にパニックになっていた。


「セレスティ、飛べたのか……」


そんなケインより幾分落ち着き、しかしどこか腑に落ちない様子で呟いたのはレストだ。以前屋上近くで数秒だけ浮遊していたように見えたのは、やはり錯覚ではなかったのだ。

しかし……だとすればあの時と今の光景に違和感を覚えてしまう。彼はその違和感のもとが掴めずにいた。


そうこうしているうちに、ものすごい速度で飛ぶ彼女の影は街の方へと消えていく。


心配げにその後ろ姿を見送ったのは二人の少女――振り返ったミアとローズはお互い怪訝な顔をつきあわせながら疑問を投げかける。


「ねえ、どうしていきなりあんなことしたのかな?」


「ずいぶんと急いでいたようですけど……先ほど何かおかしなことでもありましたか?」


「おかしなこと……あ! そーいや、ペンダントが光ってた気がするな」


思い出したように語るライルの単語に、ピクリと反応する人間がひとりいた。その彼――完全に居眠りをしていたフィルは目を擦りながら窓際に近寄る。


「そのペンダントって、もしかしてこの前俺が作ったやつかなぁ?」


「へ、あれお前が作ったの? ……ってことは魔法具なんだな?」


「そりゃな。でも実は全部で三つ作っててさ。防御魔法を施したのが二つ。アリアちゃんが魔力を込めたからすげー強度に仕上がってさ。あれなら古代魔法だって防げるぜ。あとは、それが発動したら反応するよう細工したものが一つ。それがアリアちゃんがしてたやつってわけ……ぐふふ、初めての共同作業ってわけだよ」


よくぞ訊いてくれた、といわんばかりに自慢げに語るフィルは、寝起きでテンションがおかしいのも相まって、始終気持ち悪いうすら笑いを浮かべていた。 

しかし、彼のこういった言動にも慣れているライルは、最後の変態的な発言も軽くスルーし、感心したように呟く。


「あー、お前あーゆー魔法具作るのだけは得意だもんな」


「だけ、は余計だ。まあ、この天才フィリック様にかかれば朝飯前よ。女の子からのお願いされればどんなものでもつくってやるさ」


歯をニッとさせて決めポーズをつくる彼は、しかしながら周囲の空気を全く読めていなかった。クラスメイトも若干引き気味である。

だが周りと同じように呆れた顔をつくったローズは、このままでは埒があかないと話の軌道を修正する。


「まあ、そんな話はどうでもいいですけど……つまり、アリアさんのペンダントが光ったということは、防御魔法が発動したということですか?」


「半分あたりかな。対象に一定以上の攻撃が加わった時、もしくは魔物が一定範囲内に近づいた時が防御魔法の発動条件になってるんだ。しかもその時学園の敷地外にいてもアリアちゃんのペンダントに反応するように設定して欲しいって言われてさー。あれには苦労したぜ」


「へー、本当に器用ね。……って、あれ? それって、つまりさっきの魔物狩りの話も……?」


しばしの沈黙を経て、彼女たちの中で過程と結果が結びつく。それを見てふんぞり返っていたフィルも、ようやく事の重大性を理解するに至った。


「………………あれ? やばくね?」


そうして、ダラダラと汗を流し始める魔法具の作成者と女子二人。その中で一番最初に沸点を迎えたのはミアだった。拳を震わせながら般若のような形相で不満を爆発させる。


「もーあの子は!! 一人で突っ走って怪我でもしたらどうするのよ!?」


「とにかく、早くフラスト先生に伝えませんと!」


「後で説教よ!」、「本当ですわ! まったく何回空から落ちれば気が済むんですの!?」と愚痴りながら駆け出す女子二人を、「お、俺も!」と躓きながら追いかけるフィル。


そんな風に三人がバタバタと慌ただしく出ていった後、混乱を収める者のいない教室は、まるで朝市のような雑然とした喧噪に包まれた。

誰もかれもが好き勝手にしゃべり始め、そのあまりの騒がしさにレストも一端思考を止めざるを得ない。

そして、そんな彼が眉を寄せながらふと横を向くと、そこには彼女のいなくなった方角をジッと見つめるライルの姿があった。


……なんとなく面白くない。自分でもよくわからない感情にとらわれながら、ここ最近でようやく彼女とも普通に接することができるようになったレストは、傍らに立つ幼馴染に声をかける。


「……あまり心配そうではないな、ライル」


「ん? まあ、アリアの強さは知ってるしなー。なんたって、特技が魔物狩りだし。てか、そーゆーレストこそずいぶん余裕じゃねぇ?」


「別に……キラがついていれば、大事には至らないだろう」


顔はどこか不満げだが、断言するその声に迷いはなかった。レストとキラ……この二人は仲が悪いなりにお互いのことを認めてるんだろうな、とライルは内心で呟いた。もっともそれを口にすればまたツンデレ的発言が飛び出すに違いないので、今はやめておいたが。


「キラかー、そういや最近見なかったな」


「おそらくこの件で動いていたのだろう。でなければ主人至上主義のあいつがこんな長期間彼女の側を離れるわけがない」


「確かに……でも、ま、そういうことなら心配はいらないか」


「…………ふん」


その後、彼らは何を言うでもなく彼女の消えた方向を眺め続けた。幸先の悪い天気の中でも、その瞳に宿る自信が揺らぐことはついになかった。




「【キラ】、状況は!?」


『今、交戦中です! 市街地から引きはがしてます』


「わかった、すぐ向かう」


来るかどうかは五分五分だったが、念のためにキラを近くに張り付かせておいてよかった。いや、より厳密に言えばキラが自分から立候補してくれたのだが。


てっきり呪いに近づかなかったから、例の魔族と関わるのが嫌なのだとばかり思っていたが……さも当然のように『ご主人様は学校があるから、僕が代りにあの二人の護衛をしますよ』と言った時は、驚くと同時に感動してしまった。

あの他人に無関心な(しかもエリックには脅し?までかけた)キラがそこまでしてくれるとは……やはり矯正なんて必要ないのかもしれない。


そのキラが今追跡している相手……私の懸念通り、例の呪いをかけた魔族は、ユーナが死ぬ直前、苦しみ貫かせた上で喰おうとしていた。本当にいい性格をしている。


(ますます生かしてはおけない……)


そいつをこうやって追いつめることができたのは、キラとこの首から下げている魔法具のおかげだ。フィルとの合作である赤いペンダントの形をした魔法具は、なかなか便利な代物だった。

ハインレンス王立魔法学園には学園長特製の結界が張ってある。内からも外からも学園を守るその結界は、生徒と校舎の安全を保つ一方で、実はとある弊害を持っている。 おそらく弊害だと思っているのは私ぐらいだが……結界があることによって魔力の断層ができてしまい、敷地外の魔力が察知しづらくなるのだ。


これはキラとの連絡用に使っている魔法にも支障をきたすようで、学園で授業を受ける私とその敷地外で活動するモルディ兄妹&キラでは連絡が取りづらくなってしまうわけである。

ちなみに、これはある日キラとの連絡が取れなかったことから判明したのだが、その時あいつは街で新作お菓子の食べ歩きをしていたらしい。……その金がどこから出ているのかは謎だ。


……話しがずれたが、フィルには無理を言ってその点を改善してもらった。ついでにどうせ作ってもらうなら、ただ連絡用の魔法具をつくってもらうより、より安全な防御魔法を施したものをつくってくれとお願いしたのだ。これなら万が一キラが彼等とはぐれた時も安心である。

だが、やはり結構な無理難題をふっかけたようで、彼は『う~ん、学園長の結界と波長を合わせて……いや、でもそうするとあっちがなぁ――』と小難しいことをブツブツ一人で呟いていた。正直、私はその内容の10分の1も理解できなかった。彼は感覚的に魔法を使う私とは正反対のタイプなのかもしれない。

最後の『やべ、閃いちゃった!! 俺天才じゃね!? アリアちゃんもそう思うよね!?』というあの発言さえなければ素直に尊敬できたのだが……なにはともあれその器用さと文明の利器に感謝だ。


(……にしても速いな)


回想を止めて現実に集中する。なにが、というとキラと魔族の移動スピードがだ。

本来は転移を使いたいところだったが、二人(二匹?)ともものすごい速さで移動しているせいで座標が特定できない。おそらくこの状態でやっても失敗するし、実は魔力量的にも結構厳しかったりする。だからこうして地道に飛行魔法で彼らを追っているのだが……なかなか追いつけない。

だが、『これは何か別の策を講じないとダメか』と考え始めたところで、キラの気配がある一点で止まった。


(しめた)


そうして、できる限りのスピードで向かった先は、街外れの人気のない空き地だった。派手に倒された木々や抉れた地面を見る限り場所はここで間違いない。おそらくキラが誘導したのだろう。


多少の不安を滲ませながら、急いであたりを見回せば、森の方を向いてぬかるんだ地面に一人ぽつんと立つ相棒を見つけた。


「キラ!」


「ご主人様………すいません、取り逃がしました」


振り向いたキラは、申し訳なさそうに肩を落とした。見る限り、どうやら怪我はしていないようだ。よかった。

その彼の周囲にはまだ生々しい戦闘の跡が残っていた。氷漬けにされた岩や炭になった木々。全属性を使う魔物の特徴をこれでもかというほどアピールしている。


「そうか、逃げたのか……」


少し集中して気配を探ってみても、例の魔族らしき魔力はどこにも感じられなかった。おそらくまだ去って間もないはずだが……どうやらよほど気配を絶つのに長けた奴らしい。これは誤算だった。


「すいません。僕がもっとしっかりしていれば……」


「いいよ。私の読みが甘かった。それよりも怪我はないか?」


キラでさえ取り逃がすということは、相当の力を持つ奴だということだ。これは魔物の力を舐めていた私の落ち度だろう。


「はい、大丈夫です」


「ならいい。………なあ、また来ると思うか?」


「いいえ、多分ユーナのところにはもう来ないと思います。いいところまで追いつめたし、手傷も負わせましたから。命の危険を冒してまで人間を喰うような奴には見えませんでした」


なら上出来だろう。当初の目的はあくまでユーナの身の安全の確保だ。街に被害も出さずに追っ払えたなら、最低限の目的は達成できたといっていい。

まあ、万が一次また来ても、今度は私が相手をすればいいだけだ。


それでもキラは不機嫌な顔を隠そうとしない。彼にとっては、自分一人で仕留められなかったことが屈辱だったようだ。なにせ未だ魔族が逃げたと思われる森から視線を動かそうとしないのだ。


どうにもプライドの高い相棒に苦笑しながら、その小さな頭に手をのせる。


「なに、お前はよくやったよ。偉いぞ」


そうしてぐりぐり頭を撫でてやると、キラは複雑そうな顔をしながらもようやくこちらを見てくれた。一瞬私と目が合うとバツが悪そうにもう一度下を向き、でも身体だけは寄りかかるように傾けてくる。


「……はい」


「よし、じゃあ帰るか。そうだ、帰りがてら菓子でも買っていくか? 今日は頑張ったから3つまで買っていいぞ」


途端にピクリと反応する相棒に今度こそ本気で笑いそうになる。


「…………本当ですか?」


「ああ本当だ。なんだ、それともこのまま学校までまっすぐ帰るか? 勝手に授業を抜け出してきたから多分二人して説教されるぞ」


「いや、是非寄り道していきましょう! その方が絶対いいです!!」


ブンブンと頭を振って力説するキラは、もはや菓子のことしか頭にないのだろう。

まったく、扱いやすくて困る。スキップしながら『ご主人様、はやくー!』と急かすキラの背をゆっくりと追いかける……最後に一度だけ魔族の消えた方向を振り返りながら。


(次は必ず仕留める)


そうして、新たな決意と共にその場を後にした。


……と、そこまではよかったのだ。

問題はその後。例の如く菓子屋の前でキラがあーでもないこーでもないと唸っている時だった。


まさか、そこで駆け付けた担任に拳骨をくらうことになろうとは、夢にも思わなかった。

生まれて初めての経験だったこともあり、頭に走った分も含めて、いろんな意味で衝撃的だった。


聞けば、フラスト先生も密かに王宮の魔法士を護衛につけていたらしい。それを突然現れたキラが魔族とともに姿を消したせいで、てんやわんやの大混乱になり、当初考えていた計画が台無しになったそうだ。


……そういうことは早く言ってほしかった。

いや、独断で動いたのは自分も同じだが、まさか菓子屋の前で小一時間説教されるとは……いい晒しものだ。穴があったら入りたいとはあのことである。


その説教を止めてくれたのは、王宮の魔法士に保護されたモルディ兄妹だった。その時は彼らが天使に見えたのだから、私も相当参っていたのだろう。


「助かった……危うく菓子屋の前で干からびるところだった」


「え~お姉ちゃん、おおげさだよ~」


「いや、あのおっさん、あのままだと絶対夜まで続けてたね。にしても僕とお菓子の甘いひと時を奪うなんて……許せない」


「……あの、キラさんがなんか怖いんですけど」


目の据わったキラが放つ殺気に、エリックがぶるりと震えた。どうやらお菓子の恨みは恐いようだ。彼はきっといつかフラスト先生に復讐するに違いない。

もっとも、私もその時は止めはしないだろう。なにせそれくらい恥ずかしかったのだ。


「いつものことだ、気にするな。だが怪我がないようでよかったよ」


「ええ、アリアさんがくれたこのペンダントのおかげですね」


「そうか……でもそれももう用済みだな。おそらく今後お前たちのところにあの魔族は来ることはない」


「そーゆーこと。とりあえず安心していいよ」


私とキラの報告を聞いたエリックは、一瞬驚きに目を見張り……その後静かに瞳を閉じた。そして今一度瞼を開いた時には、何かを決意した強い瞳がその存在を主張していた。


「そうですか……本当に何から何までありがとうございます」


「別にたいしたことはしてない。ああ、もしよかったらフィリックって奴にも礼を言っておいてくれ。そのペンダントを作ってくれた友達なんだ」


「是非そうします。それと……ひとつご報告があるんです。僕たちハインレンスに住むことにしました」


「ん、そうなのか?」


「ええ、父の知り合いが住んでいて、そこで働こうと思っています」


詳しく話を聞いてみると、なにやらここ最近はもっぱら就職先を探していたらしい。

もう働くことを考えていたとは……若いながらに立派である。私も見習わなければ。


そうして感心するように見つめていると、エリックは照れたようにはにかみながら、右手で妹の頭を撫でた。


「それに、なによりユーナの強い希望がありますしね」


妹を映すその瞳は、ひどく優しいものだった。それに気付いているのかは知らないが……ユーナはそのまま元気いっぱいに、ある“宣言”をする。


「あのね、ユーナね、おねえちゃんみたいなすっごい“まほうつかい”になるの!!」


その意外な内容にそっと息を飲む。未来に希望を持てなかった彼女が最初に掲げた目標がこの私とは……。


「そうか。なら今度魔法でも教えようか?」


途端に目をパッと輝かせるユーナの姿に、ついキラとともに笑ってしまう。

まさかそう来るとは思わなかったが……存外悪くない気分だった。


さて、今回出てきた(正確には出てきてないけど)魔族さんは、これからもちょこちょこと出没する予定です。多分某探偵漫画の黒の組織ぐらいの頻度で登場する……かも。わかりにくいたとえですいません(汗)

実は結構キーパーソンならぬキー魔族さんだったりするんですけどね。


あと感想なんですけど、ここ最近パソコンに触る機会自体が減ってまして、お返事を書くのがとても遅くなっています。本当にすいません(土下座)

でも、もし「しょーがねーから待ってやんよ」という心の広い方がいらしたら、是非ご感想ください。

誤字・脱字のほうも引き続きよろしくお願いします。


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