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第8話「真昼の惨劇」

や、やっと更新できた(汗)


タイトルこんなんですけど、中身はまるっきりギャグです。


 一晩経って、翌日の学食。

 いつものメンバーで朝食をとっていた時、唐突にその質問は来た。


「そーいやアリア、ルナとはどこで知り合ったんだ?」


 ぎくりとする。懸念が本物になった。

 そういえば、ライルはあの後すぐに保健室で検査を受けたから、私が四苦八苦しながら皆に説明した内容を知らないのだ。


(さて、どうしたものか……)


 喉に詰まりそうになったパンをゆっくりと飲みこみながら考えを巡らす。

 昨日使った『橋の下で拾った』やら『川を流れてきた』やらをここでまた言うのも憚られる。主となったライルに、そんな程度の低い嘘がばれるのは時間の問題だ。


 しかし、だからといって代りになるような嘘をすぐ用意できるわけもなく……結局、食物が喉を通過するわずかな間に考えつけたものは、お粗末な返答だけだった。


「あ―………昔だ」


「ご主人様、それじゃ逆効果ですよ」


「だが、ルナに口止めする前に適当なことを言って、後で齟齬が出るのもまずいだろう?」


 昨日うっかりルナに口止めするのを忘れてしまったツケが回って来たのだ。しょうがない。とりあえず本人に会う前に下手な事は言えまい。


 そうして、こそこそキラと内緒話をしている私を不思議に思ったのだろう。ライルがさらに言及しようとしたその時、天から助けが降ってきた。


 そう、ちょうどいいタイミングで“彼女”が来てくれたのだ。


「今ルナのお話してたのー?」


 ライルの背後、何もない虚空に突如として召喚陣が出現する。そこからピョンという効果音が相応しい勢いで飛び出してきたのは、一連の騒ぎの主役だった。

 陽気な声と共に現れた幼女は、そのまま後ろから抱きつくように小さな腕をライルの首に巻きつける。


 噂をすればなんとやら。もう回復したのか……さすがはドラゴン。

 一方、背後から全体重を込めて首を絞められたライルは、「ぐえ」とカエルのつぶれたような声をあげた。このままでは窒息コースまっしぐらである。


 食堂でまったりしていた生徒たちも、突然の闖入者に面食らっている。だが、ここ最近騒動に慣れた彼らはすぐに復活し、たちまち「あれが昨日の――」、「召喚者なしに来たんだっけ?」と噂を囁き始めた。


「ルナ! いきなり出てくるなよ!」


「えへへー♪ ねえー、どんなお話してたのー?」


 ぶらさがるルナをなんとか下ろし、窒息の憂き目を免れたライルは、首をさすりながら怒鳴る。まあ、当然の反応だろう。

 だが、その相手の反応といえば、天真爛漫を絵に描いたような愛くるしい表情を見せ、無邪気に笑うだけだった。無論、そこに反省の色は微塵もない。


 そんな悪びれのない様子に彼も諦めたのか、彼女の頭に手を置き、「しょうがないな」と苦笑した。さすがは弟妹の世話をしてきただけのことはある。寛大だ。


 しかし、感心したのもつかの間、ライルはルナの頭に手を置きながらこちらに振り向いた。


「今、ルナとアリアの出会いについて話してたんだよ。な、アリア?」


「え? あ、ああ」


 ……まずい。このままでは非常にまずいことになる。

 これでは天からの助けどころか、地獄への招待状ではないか。唯一事情を知るキラの方を見ると、こちらも顔がひきつっていた。


(なんとかしないと……)


 そうして二人で目の前の小悪魔に、必死に視線で意思疎通を試みるが……いかんせん相手が悪かった。

 「言うな」というアイコンタクトも全く通じず、無情にもルナは上機嫌に語り始めたのだ。


「そうなんだー♪ あのねー、ルナとお姉さまの出会いは――」


 「「ちょ、待――!」」という私とキラの二重奏など歯牙にもかけず、彼女はそのまま当時の興奮を再現するように、身振り手振りを交えて小さな体を必死に動かす。


「むかしねー変なおじさんたちがルナをドドド―ておいかけてきてー、そこでババババーンってお姉さまがきてバビューンてやっつけちゃったの!」


「「………」」


「………そっかー。そりゃ、良かったなー」


 ……想像の斜め上をいくなんとも残念な回答に、さしものライルもそう返すのがやっとのようだった。

 それでもエメラルドの髪をわしゃわしゃ撫でながら、大人の答えを返すあたりは偉い。いや、さすがに声は棒読みだったが……。


 しかし、危なかった。冷や汗と共にそっと胸をなで下ろす。

 思っていたよりルナの頭が弱……じゃなくて、精神年齢が幼くて助かった。若干昔よりひどくなっているように感じるのは気のせいだろうか?


 ……ともかく、このままではいろいろな意味で心臓がもたない。念には念を入れておいた方がいいだろう。


「ルナ。ちょっと来い」


「なーにぃー?」


 ちょいちょいと手招きすると、トコトコとひな鳥の様についてきた。こういうところは素直でいい。

 そうして、ライルたちから十分に距離を取ったところで、向き直る。さて、なんと言うべきか。


「……あのな、ルナ。私との出会いや昔のことをライルや他の人には言わないでほしいんだ」


「なーんーでー?」


 首どころか体全体を傾けて、大げさに疑問を表現する幼女。本当に300年どんな環境で成長してきたのか不思議でならない。


「それはだな……あー、私とルナの大切な思い出だからだ。二人だけの秘密にしたいんだ。だから他の人には内緒だ。いいな?」


 子どもにいい聞かせるにしても苦しい理由だったが、他に思いつかなかったのだから仕方ない。ルナの頭に入り切らせるため、簡潔かつわかりやすい言葉で表現したらこうなったのだ。

 だが意外なことにもそれが功を奏したのか、目の前の幼女は目を輝かせて何度もそのキーワードを口にした。


「ひみつ……ひみつ………うん、わかった!!」


 どうやらその“ひみつ”という語感が気に入ったようだ。失礼だが単純で良かった。これでようやく一安心できる。


「ひみつーひみつー♪」


 彼女はそのままおもむろに、調子の外れた鼻歌を口ずさみながら、食堂を探検し始めた。

 地界のものが珍しいのか、あちこちキョロキョロしながら楽しそうに歩き回っている。ずいぶんと好奇心旺盛な性格らしい。


「それにしても、まさか伝説と呼ばれていたドラゴンをこの目で見る日が来るとはな……」


 それまで黙っていたレストがぽつりとつぶやく。

 そして、声に反応した私と目が合い、また慌てて視線を逸らされる。……相変わらずの反応である。


 レストといえば……あの後、時間ができたからミアにこの件を相談してみたのだ。


 しかし、その彼女の第一声は、『三角関係キター!?』という謎の叫びだった。心なし目が輝いていたように見えたのは、気のせいだったのだろうか。


 そして、『は!? いかんいかんつい……そうよ、私が守るって誓ったんだから……いや、でもレストシア様なら……う~ん、でもまだ確定じゃないしなぁ』と、ぶつぶつつぶやくこと数分。

 どうにも放っておくと永遠に一人の世界に入ってそうだったので、「結局どうすればいいんだ?」と尋ねることで、現実に帰ってきてもらった。


 私の問いかけにハッとしたミアは、しばらく悩んだ後、『いいのよ、アリアはそのままで。あ、あとローズには絶対相談しちゃだめよ! というか私以外はダメ!』と力説した。“絶対”のところを特に強調していたので、そこはよほど大切な部分なのだろう。気をつけよう。

 そうして、『まあ、慣れればそのうち自然になっていくから大丈夫』という言葉を信じ、今に至るというわけだ。


 ……まあ、正直何を言っているのかよくわからなかったが、ミアが言うならまず間違いないだろう。

 どうやら一時的な症例らしいし、私ができることと言えば、早く元のレストに戻ることを祈ることだけだ。やはり“ともだち”に、いつまでも変な態度を取られるのは嫌だし、できれば早めに治ってほしいものである。


 あらぬ方向へ視線を固定したレストを見ながら、そんな回想に耽っていると、ライルがこれまた違う方向を見ながら口を開いた。


「俺はむしろ最強って言われてるドラゴンが、こんな幼女の姿をとることに驚いたよ」


 彼は学生の朝食を興味津津に眺めているルナを、妹を見守る兄のような優しい目で追っていた。

 しかし、その意見には激しく同意だ。私の個人的なイメージにおいては、ドラゴンの人型といえば筋骨隆々の大男と相場が決まっている。まさか幼女の姿をとるとは……若干夢が壊された気分だった。


 その意味も込めた微妙な目でルナを眺めていると、昨日の召還の儀で一緒だった先輩(名前は忘れた)が、ちょうど彼女の正面に立ちはだかったところだった。


 唐突に現れた彼は、これまた唐突に棒付きキャンディをルナに与えた。……どこから取り出したのだろうか、あんなもの。


 しかし、一番の問題はその名前を忘れた先輩が、なぜかハアハアしながらルナを凝視している点にあるだろう。

 ペロペロとおいしそうにキャンディーを舐める幼女と、それを恍惚とした表情で鼻息荒く見守っている青年。…………なんだか気持ち悪い。

 あんな人間を形容する言葉は、それこそひとつしか思い浮かばなかった。


「あいつ変態だ」


「変態ですね」


「……あとでルナに言っとくよ。『二度と近づかないように』って」


「ついでに『知らない人から物をもらうな』とも教えておけ」


 レストが、嫌なものでも見るように顔を顰めた。

 それにしても、“春になったらおかしな人が現れる”という話は、やはり本当だったのだ。まさか、こんなに早くフィル以上の変態を拝む日がこようとは……この学園、本当に大丈夫なのか。


 そうして変な空気が流れる中、ふと思い出したようにライルがその話題を出した。


「あ、でもさー、実際最強っていったらやっぱ“禁忌の子”になんのかな? ま、こっちはそれこそ存在自体怪しいけどさ」


「何だそれは?」


「知らないのか、セレスティ? 魔獣と聖獣の間に生まれた子のことだ」


「……ああ、今ではそう言うのか」


 “禁忌の子”。それは現代において魔獣と聖獣の混血児を表す言葉のようだ。昔とは呼び方が変わっていて、一瞬なんのことだかわからなかった。


 だが、中身が意味するところは同じだろう。

 それは、数千年に一匹の確率で生まれるという非常に稀な生き物のこと。聖獣が地界で魔獣と出会い、交わり、子を成した結果。

 元々出生率の高くない両者が、種族を超えて新たな命を生み出すのだ。まさしく奇跡と呼ぶにふさわしい存在でもある。


 伝承によれば、その混血児は生まれた時から神族並みの強大な力を持っていると言われている。さらに、成長すればその力はドラゴンすらも超越するという本当か嘘か怪しい言い伝えもある。

 どんな作用が働いて、そんな反則的な力を持つに至るのか……研究者たちの間でも、何度か議論されてきたテーマであるが、実物がいないので結局いつも結論が保留のままお蔵入りしてきた。


 そんなドラゴン以上におとぎ話のような存在で、その生態もほとんどが謎に包まれているのが、現代でいうところの“禁忌の子”なのだ。


「禁忌の子……」


 キラが、そうどこか忌々しげに呟くが、結局その先を口にすることはなかった。

 ……まあ、普通の聖獣や神族の反応はこんなものだろう。一応の中立を謳っている精霊とは違い、魔族と彼らは昔から決して相いれない仇敵といわれている。その相手と通じていれば、裏切り者と罵られても仕方ないのかもしれない。


(……そういえば、あの二人はどうなったのだろう)


 混血児の話で思い出した。誰にもこの話はしたことがなかったが……私は過去に一度だけ、族種の違う男女の組合せと遭遇したことがあるのだ。


 魔物を故意に見逃したのは、後にも先にもあの一度だけだったからよく覚えている。あの二匹の仲睦まじい様子を思い出すと、種族の違いなんて些細な問題に過ぎないような気もする。

 もし彼らの間に子供が生まれていたら、それこそ今で言う“禁忌の子”になっているはずだ。……そんな都合のいい話があるわけもないだろうが。


(どちらにせよ、キラの手前安易に口にすべきでもないか)


 顔を歪めるキラを視界に映しながら、そう結論付けた。




――数時間後


「ルナ―!! 頼むからそれ以上物を壊すな―!!!」


「きゃははー♪ たのし~い!!」

 

 場所は昨日と同じ校庭。天気は予想通り快晴。

 使い魔と契約してから、初の魔法授業である。


 太陽光が燦々と照らす中、校庭では幼女が元気いっぱいに駆け回り、それを茶髪の青年が慌てながら追うという、一見長閑な風景が見られた。


 ……もっとも、現実はそんなかわいいものではない。

 本人はおいかけっこでもしているつもりなのか……運動神経のいいライルですら追いつけないほどの速さでルナは爆走している。それも、余りある魔力と元気を爆発させるというおまけつきで。

 

 そう、無邪気な小悪魔は、木々やベンチを次々となぎ倒しながら、校庭を縦横無尽に蹂躙しているのだ。彼女はその小さな体躯には不釣り合いなほどの魔力を帯びて、今この時も瓦礫の山を量産していた。


 目の前では楽しそうにはしゃぐ使い魔と、暴走幼女をなんとかしようと汗だくになりながら奮闘する主による、終わらないおいかけっこが続いている。だが、主の涙ぐましい努力もほとんど効果を成さず、被害は広がるばかりだった。

 ……ライルには心底同情する。まあ、自分の意思で主になったのだから、これからも頑張ってもらうしかない。



「いいかサラスティ、俺のことはフィリック様って呼ぶんだぞ! まあ、その前に“星々のようにお美しい”とか“薔薇のように麗しき”という修飾語がつくとさらにいいけどな!」


「了解じゃ。“逃げ足だけは早い”フィリック」


「………あれ? なんか今幻聴が聞こえたような気がするんだけど」


「気のせいじゃ。“学園一臆病な”フィリック」


 そのずけずけとした物言い中には、爪先ほどの敬意も感じられない。どうやら昨日の一件で、彼の主としての威厳は地に落ちたらしい。


 ふよふよ浮くその姿さえ、どこか相手を小馬鹿にしているように見えるから不思議である。サラスティが主人に送る視線が、よくクラスの女子がしているのと同じ類であるのは、きっと気のせいではないだろう。


 毒舌を吐く己の使い魔に、フィルは若干涙目になりながら「ははは」と乾いた笑いを零した。……フィルには悪いが、なかなかいいコンビかもしれない。



「よろしいことフラウ。目指すは学園一、いえ、王国一の火の使い手ですわよ!」


 少女は灰銀の髪を靡かせながら腰に手を当て、もう片方をビシッと遥か遠くにある光点へと向けた。……まるでどこかの青春活劇のようだが、なぜか様になっていたりする。


 一方、彼女の背後でその様子を興味深げに観察していた大柄な男は、「くっ」と押し殺した笑いを零した後、優雅に頭を下げた。それは忠誠を誓う騎士のようであり……これまたひどく様になっていた。

 もっとも、それは軽い口調で言われた次の言葉で台無しになったが。


「はいはい、お望みのままに。我が姫」


「なな、なんですって?」


 バッと後ろを振り向いたローズは、みるみるうちにその顔色を変えていく。

 公爵令嬢として育てられてきても、さすがに真っ向から“お姫様”呼ばわりなどされたことはないのだろう。耳まで真っ赤になった彼女は、「い、今なんと……」と、どもりながら聞き直した。

 だが、そんな主人の慌てふためきぶりを楽しむように、フラウは飄々と返す。


「いやー久しぶりに主を持つが、なかなか愉快な姫さんのようでよかった。退屈しないで済みそうだし、これもフレイア様のおかげだな」


 ……最後にでてきた女の名に、狼狽していたローズの身体がピシリと固まる。やがて、ゴゴゴゴーという効果音が聞こえてきそうなほどの怒気を纏い始め、髪の毛がその波動に反応するように揺らめきうねった。

 理由はよくわからないが、フラウの言葉はどうやら彼女の逆鱗に触れたようだ。

そうして完全に目の据わったローズは、地の底から這い上がるような声で問いかける。


「……“フレイア”とは、誰ですの?」


 そんな彼女の迫力にも負けず……いや、むしろますます愉快そうに目を細めたフラウは、「おっといけない。口が滑った」とわざとらしく零し、その口元を押さえた。だが、手で隠したそこは歪んでいるに違いない。


 ……要するにからかっているのだ。フレイアの名前もきっとわざと出したのだろう。

 フラウの見た目はおっさんで、上級神族であることからおそらく実年齢もそこそこの歳のはずだ。大人の貫禄と言えば聞こえはいいが、普通はそんないい歳をしたおっさんが初心な少女を揶揄するものではない。とんだ食わせ者である。


「ちょっと答えなさい! 私があなたのマスターですのよ! ……って!? こら、待ちなさい! 逃げるなー!!」


 そうして出来上がったのは、颯爽と逃げる使い魔とそれを必死に追いかける主人の図だった。

 スカートをはためかせて全力疾走するローズは、いつまでも追いつけないことにしびれを切らしたのか、ついには魔法まで使いだした。

 だが、フラウは火属性の上級神族。無論、彼女十八番の火属性魔法が効くはずもなく、文字通り周りに火種が飛ぶだけであった。


 ……何が言いたいのかというと、つまりは周囲に甚大な被害をもたらすおいかけっこがまた一つ始まったのだ。



「クーちゃん、お手!」


「ハイ、マスター」


「きゃあ、かわいいー! よくできました!!」


「ホメテ、ホメテ!!」


 こちらは周りの喧騒をよそに、実に和やかな触れあいをしていた。

 パチパチと手を叩いて、己の使い魔を褒めちぎるミア。それに答えるようにピョンピョンとうれしそうに跳ねるク―。……何かが激しく間違っている。

 「じゃあ、次は――」と早くも新しい芸を教えようとする親友に、不安を抱かずにはいられない。完全にペット扱いだ。

 ……まあ、お互いが満足しているならそれでいいだろう。なにより平和的なところが他と違っていい。


「ハインレンス、お前の使い魔は?」


「あれは頼んで出てくるようなかわいい性格はしていません」


「………そういえば、そうだったな」


 担任とレストの短いやりとりは、そこであっけなく終了した。おそらく担任もその使い魔のことを知っているのだろう。諦観にも似た表情を浮かべた両者は、軽くため息をついた後、また目の前に広がる惨劇を眺め始めた。

 ……どうやら止める気はゼロらしい。かくいう私もそうだが。


 他のクラスメイトもまだ支配が未熟なせいか、その使い魔たちあえて表現するなら、放し飼い……いや、ほとんど野生化に近い状態であった。ともかくそれぞれが手のつけられないほど自由奔放に暴れまわり、未熟な主たちはそれに振り回されて、てんてこ舞いになっている。


 ……そんな光景を見ての感想は、ひとつしか出てこなかった。

 視線を前に向けたまま、隣で同じく傍観に徹している相棒に話を振る。


「なあ、キラ」


「なんですか?」


「お前が相棒で良かったよ」


「………僕もそう思います」 


――そう、しみじみと語る二人の前で、またひとつ巨木が景気よく吹っ飛んでいった。周囲では火事も発生しており、まさに今、校庭では阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。


 だが、それを尻目に、昨日のお返しとばかりに傍観に徹するのは黒髪の主従……と、その他被害を免れた数名。

 彼らが協力すれば、あるいはこの騒ぎもすぐに収拾されていたのかもしれない。だが残念なことに、そのメンバーの中に己が身を粉にしてでもこの現状をどうにかしたい、という正義感溢れる人間はいなかった。『別に命の危機じゃないし、巻き込まれたくない』というのが彼らの本音である。


 ……結局その日の魔法の授業は、惨憺たる有様だった。毎年恒例といえば恒例の事態ではあったが、今年は特に某ドラゴンによる壊滅的な被害が目立った。彼女は最強生物としての能力を遺憾なく発揮し、結果“天界の暴れん坊”の名は伊達じゃなかったことが、この日証明された。

 もっとも災厄ともいえる被害を受けた当人たちにとっては、嬉しくともなんともないことだったが……破壊の限りを尽くした幼女は、また学園の予算をも食い尽くしていたのだ。


 例年にも増して莫大な修理費は、ただでさえ心痛重い学園長をより一層悩ませることとなる。


今日はもう1話くらい更新できる……気がします(汗)


次回はちょっとシリアスも入る、かな?

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