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第2話「忠狼」

正直信じられなかった。


キラがいうには、封印をおこなったあの後、私と魔王はあの場から姿を消したらしい。


その時、他の人間たちは私と魔王が相討ちで死んだと思ったらしいが、キラだけはあの封印のことを……その記述を知っていた。


実はあの禁呪には、かなり低い……それこそ広大な砂漠から砂粒一つ見つけるくらいの確率で、術者が生きのこることもある、という嘘くさい記述があったのだ。

もちろん、可能性はなきに等しいらしいので、私は死ぬつもりでやったのだが。


そんな眉唾物の記述を信じたキラは、『もしかしたら……』と一縷の願いをこめて、各地を回りながら私の気配を探していたのだという。


そして数年が過ぎたころ、この洞窟の近くで微弱な、ほんとに見つかったのが奇跡といえるほど弱い私の気配を感じ、その奥で封印魔法に包まれて眠っている私を見つけた……らしい。


なんだか奇跡のような話ではあるが……まあ、キラの稀にみる幸運体質を考えると、ある程度納得もできる。


最初は封印を解こうとして(その時、魔王まで目覚める可能性については考えてなかったらしい。後で説教だ)いろいろ試してみたがうまくいかず、『こうなったら目覚めるまでとことん待ってやろう!』ということで今に至るらしい。


「封印を解きたかったなら、他の人間を連れてきて協力させれば良かったんじゃないか?」


と訊くと、キラいわく

①今の私はちょっと有名?な存在らしく、生きてることを教えたら悪い人がわんさか来る……かもしれない。

②禁呪を使った影響か、封印はかなり強固で、それを解ける力量をもった魔法使いは今まで生まれてこなかった……気がする。

③そもそも人間は信用できない(そういえば王宮での私の扱いを見て、人間不信になったんだっけ)。


というなんとも微妙な理由から、他の誰にも知らせずたった一人で300年近く私を守っていてくれたらしい。もっとも何から守っていたのかはよくわからないが。


そうして眠る私のそばで長い時を過ごし、時々人間の街におりて情報収集をしながらのんびりと力を溜めていたとのことだ。


そう、髪が黒くなったのは、この洞窟に多くいる闇の精霊から魔力を吸収していたためらしい。

聖獣や神族(人化ができるようになるとこう呼ばれる)は自然界にある魔力マナを少しずつ取り入れて力を増す。


聖獣は普段はここ、地界とは異なる次元にある天界(地界よりマナが多くあり、聖獣や神族、高位精霊がいる空間)で暮らしているのだが、召喚で呼ばれたり、はぐれや迷子になると地界に来たりする。

その天界は、根源属性である火・水・風・土・光・闇のマナのあるエリアが6つにくっきりと分かれており、基本そこに住む者は生涯生まれた属性のエリアから出ることはない。

だからふつうは自分の生まれもった属性で一生を過ごすのだが……


しかしキラは長い間この洞窟で闇のマナを取り入れたことによって、生まれたもった属性である光から、闇の属性へ乗り換えるという前代未聞のことをなしのけた。

おそらくまだ適応力のある幼獣だったからこそできた荒技だろう。


ちなみに聖獣や神族といった聖なるものは、瞳が青ければ青いほど、そしてその色が濃ければ濃いほど力が強いといわれている。

魔族とは違い、自然のマナを取り入れて力を増すので、基本的には歳をとればとるほど力は大きくなるのだ。

そう考えるとキラの瞳が、以前の水色から濃い蒼へと変化しているのもうなずける。


その後、いまだ半信半疑の私の要望で、一度獣型になってもらった。

それはもう見事な漆黒の、以前より二回りくらい大きい狼だった。


(あのときは私の膝下くらいの……それこそ犬ほどの大きさだったのに)


今では自分の腰に届くかというほどの立派な狼だ。それこそ自分がのっても大丈夫そうなほどの。


しかし、よりくわしく観察しようとした矢先、人型に戻ってしまった。

その理由を尋ねてみると、「だってこのほうがご主人様に抱きつきやすいから」だそうだ。


変わったのは外見だけで、中身のほうはまったく変わっていないらしい。


それにしても―

「私が死んだら、仮契約の相手を見つけて天界に帰れといったろ。それに神族になったのなら自力で帰ることも可能だったはずだ」


そう、天界からこちらの地界に来る場合は、基本的に魔法使いによる召喚が必要とされている。

だが逆にあちら(天界)に帰るだけなら……神族くらいの力があれば単独で帰還できるはずだ。


だからこそ、はぐれや迷子――召喚中に主が突発的に死んだり、次元の狭間に迷いこんで(幼獣が多い)地界に来てしまい、天界に帰れなくなるのは聖獣だけなのだといわれている。


迷子(この場合はぐれか?)神族なんて聞いたこともない。


なにより、いつ目覚めるかもわからない主を300年近くも待っているなんてとんだ忠犬、いや忠狼だ。

たった一回助けてもらった人間相手に普通そこまでするものか?


「だってご主人様は現に生きてたし……ここのマナは天界並みに濃いから十分力はたまるし………それに天界に帰っても僕には家族も友達もいないもん。僕にとってご主人様といた1年間は本当に楽しかったんです」


キラがショボンとしながら言う。


それは初耳だった。

てっきり心配する親がいると思っていたから、早めに還さねばと仮契約を勧めていたのだが。


もしかして、ずっと契約を拒んで自分のもとにいたのは寂しかったから、なのだろうか?


……そう思うとこの甘えたがりな狼が可愛く思えてくるから不思議なものだった。

なにより自分を待って300年も共にいてくれた存在を、どうして拒絶できようか。

軽く苦笑しながら、黒く変わったその髪をくしゃりと撫でる。


「キラ……待っていてくれてありがとう。またお前と会えてうれしいよ」


そうして心からの言葉を送ると、キラは多くの感情が入り混じった複雑な表情を浮かべたあと……また勢いよく抱きついてきた。



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