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第7話「三者三様」

書いてくうちにどんどん長くなっていく……

今回はタイトル通りな感じです。

「レ、レスト!?」


ガバっと身を起こせば、己の真下にはレストの身体があった。

今はちょうどその胸に手を当て、腹の上に跨っている状態である。

傍から見れば、まるでレストを襲っているような……ともかく、とんでもない体制だったろう。


しかし、混乱の極致にある脳内は、それさえも思考の隅へと追いやる。

実際、今現在の大半の興味と視線は、微かなオーラの残る彼の腕へと向けられていた。


(これは……魔力の残滓?)


……それを見て、なんとなくだが事態が理解できた。

おそらくレストは、腕に咄嗟に魔力を纏い、そのまま私を受け止めたのだ。


詠唱破棄に近いそれは、学園一の魔力の持ち主だからこそできた荒技である。

普段の私にとっては大したことじゃなくても、この時代の人間でこれができるのは本当に少数だろう。


(まったく、キラ顔負けの幸運だな……)


たまたま下にいたのがレストで心底良かったと思う。

いや、息が切れてるから走ってきてくれたのか……だとしたら本当に感謝してもしきれない。


まだ混乱する頭の中で一気にそこまで考えると、不意に上から名前を呼ばれた。


「「「アリア(さん)!?」」」


「? ……あ、みんな」


見上げれば三階にある教室の窓から、ライル、ミア、ローズが窮屈そうに顔をだしている。

己の無事を確かめてか、三者は揃ってホッとした顔を見せた。


その直後、今度は真下から発せられた唸り声に、急いで視線を落とす。

命の恩人のお目覚めだ。


「っセレスティ、怪我はないっ――!?」


彼はしかめっ面をしながら顔をあげ、そしてすぐに絶句した。


……まあ確かに、助けた相手が我が物顔で己の腹の上に座り込んでいたら、驚いて当り前だろう。

さすがにまずいと思い、慌てて腰を浮かす。


「え、ああ! す、すまないレスト、そっちこそ怪我はな――」

「きゃぁあああー!!」

「……はい?」


またまた上から聞こえた悲鳴に言葉が遮られる。

さっきから上下運動を繰り返す己のそれは、まるで首ふり人形のようだ。

ただでさえ忙しいのに、次から次へと湧きおこる面倒にいい加減うんざりする。


(今度は何だ……?)


徐々に大きくなるそれを不吉に感じながら、混乱気味に頭上を見上げ……………その光景になぜか苦笑いがこぼれた。

あまりの事態に脳がついていけない。


「うそ、だろ?」


なんと、さっきの少女が真っ逆さまに落ちてくるではないか。


ライル達がギョッとして、野生のリスのようにサッと身体を引っ込める。

おそらく反射的な行動だろう。誰も責められない。

それよりも、問題はこちらだ。


「っ!?」


慌てて受けとめようとするが……魔力を使いきっている状態では、どうしようもないことに気付く。

レストも私の下にいるせいで、手も足も出せない。まさしく退っ出きならぬ状況とはこのことだ。


――恐怖に引きつった顔は、もはや目前まで迫っていた。


「お、おい!?」


戸惑いか抗議か。そんな声が下から聞こえたが、あいにく耳を貸す余裕はない。

いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた頭が、『これはだめだ』と冷酷に判断した結果だ。せめてレストだけは守ろうと上から覆いかぶさるように抱きつく。 


だが、そうしてふと下を見れば己の影が揺らめいていることに気付いた。


(これは?)


見覚えのあるそれに眉を顰めて、今一度視線を上へと戻す。

予想通り……あわやぶつかるというところで、私の影が伸び彼女を乱暴に包み込む。

間一髪のところで地面との接吻を免れた少女は、泣き笑いのような顔で「あ、ああ」と言葉にならない呻き声を漏らした。


この悲劇のような茶番劇を作り出した犯人……キラもすぐに降りてきて、同じように影を使って器用に着地する。こちらは余裕綽々の表情だ。



状況から鑑みて、キラが彼女を突き落としたに違いない。

……いくらなんでもやりすぎである。つい声を荒げてしまう。


「キラ、危ないだろう!?」


「どうしてですか?こんな奴……こうなって当然です。むしろ本当にぶつけてもよかったくらいですよ」


そのいつもとは違う、想像以上に冷え切った反応に愕然とする。


「キ、ラ……?」


されがさも当然かのように、己が突き落とした女に侮蔑の視線を送る相棒。

今まで見たことがないその冷たい眼差しに、なぜかゾッと悪寒が走った。


こんなに近くにいるのに、その存在を遠く感じる。

さっきまで恋い焦がれていた美しい空とは少し違う。

まるで夜空に浮かぶ孤独な月のような……そんなキラの横顔に、言い様のない寂寥感が募る。


「それよりご主人様、お怪我はないですか?」


だが、こちらを振り向いた彼は、それまでの態度が嘘の様に心配そうな顔を向けてきた。

一瞬の幻でも見たのかと思わせる、その急な変化に戸惑う……が、そこでようやく真下にいる存在を思い出した。


「あ、ああ。でもレストが――」

「私は大丈夫だ」


そうは言うものの、いつもの冷静沈着な彼とは少し違う気がする。

走ってきたせいかもしれないが、やけに動悸が激しい。ついでに、もうひとつ気になっていることもあった。


「でも顔が赤いぞ? それに――」

「レ、レストシア様!?」


またしても自分の言葉を遮ったのは、放心状態で尻もちをついていた“ギュなんちゃら”だ。

レストの声で正気に戻ったのか、彼女は驚愕で顔を歪めている。


「ギュール伯爵令嬢? 一体何があったんだ? どうしてセレスティが……?」


ギュール。そういえばそんな名前だった。

肘をつき少しだけ身を起こしたレストが、戸惑いながら質問する。

キラはまたガラリと態度を変え、苛立たしげに顎をしゃくってその意を示した。


「この女が原因だよ」


「………それは本当か?」


心なしか、そう訊くレストの声も一段低くなっていた。

彼はキラのただならぬ様子も、意外と冷静に受け止めているようだ。


いつもは喧嘩している二人の妙に息の合った様子に、どうすればいいかわからない。

自分だけが取り残されているような気がして……思わず手の中の指輪を見つめる。


そして「なるほど」という声に顔をあげれば、私を見ていたであろう薄紫色の目がスッと細められ、怒気を帯びた顔が別の方向へと向けられるところだった。


「どうしてそんなことを?」


「だ、だって恋人がいるのにレストシア様に媚を売って!! 卑しい平民のくせに!!」


髪を振り乱して必死に釈明するその姿は……なぜか哀れみを誘った。


それでも、なんとなく事情はわかった。

300年前もよくあったことだ。

もっともあの時は今よりずっと過激で、アスト王子の信者である貴族の令嬢が、毒蛇やらなんやらを送りつけてくることが日常茶飯事だった。


そうして考えてみると、この学園生活の中でも時々悪意ある視線を感じたことはあった……気がする。

だが、平和ボケとでもいえばいいのか……命に関わらないならどうでもいいと無視していたのが今回につながったのかもしれない。


ともかく、そんな理由から媚だの卑しいだのについては、慣れているしどうでもよかった。……が、“ある部分”に関してだけは、どうしても一言訂正を入れておきたかった。


「さっきも言っていたが恋人って……そんなもの生まれてこのかたできたことがないぞ」


「…………え?」


「……そう、なのか?」


ギュール伯爵令嬢だけでなく、レストまで驚いた表情をしてみせる。

どこでそんな誤解を受けたのかは知らないが、私は間違いなく恋人いない歴=年齢の人間だ。残念ながら胸を張って言えることではなかったが。


キラは「言わなくていいのに……」と嘆いているが、それでも経歴詐称はよくない。

『今更?』と思われるかもしれないが、聖女の件はともかく、できる限り嘘はつきたくないのだ。


「いや、まあいい……それよりすまなかった、セレスティ」


しばしの間茫然としたレストは、次いで片手で顔を覆い、意味のわからない謝罪を口にした。


「む? どうしてレストが謝るんだ?」


 おかしなことを言い出した友人……そのすぐ近くにある顔を覗き込む。

レストは、なぜかますます顔を赤くさせて、逃げるように身を引こうとする。

もっとも、私が上から押さえつけている上に、元々密着しているから逃げられるわけがない。


「そうです! レストシア様が謝る必要などありません! ていうかあなたいい加減レストシア様の上から――」

「いい加減黙れ」


叫ぶ令嬢を、キラが影を使って強制的に沈黙させる。

そのいささか乱暴なやり方に、抗議しようとするが……さっきのことを思い出してしまい、結果その声は想像以上に控えめなものとなった。


「キラ、ちょっとやり過ぎじゃ――」


だが今度は、若干落ち着きを取り戻したらしいレストが、そのささやかな抗議を遮った。 


「そうだ。まずはあなたが謝るべきだろう、ギュール伯爵令嬢。この学園において身分は関係ない。確かに上級クラスは貴族が多いが、それも純粋に魔力量と実力によって選別された結果だ。それに……もとより生まれが貴族だからといって、あなたがセレスティより尊いという理由になるか? 馬鹿馬鹿しい。ともかく、“卑しい”などという言葉はこの学校、いやこの国では二度と使わないでほしい。君も知っているだろう? 我が国は今浮浪者を失くす政策に力を入れている。そのためにも、これから貴族はより彼らの立場に立った支援をしなければならないのに……それがこのようでは、先が思いやられる」


吐き捨てるような辛辣な物言いに、口のきけない彼女は青ざめ必死に首を振るばかりだ。


だがこれには、さすがの私も驚いた。

ともすれば貴族制度さえ否定しかねないその発言を、まさか王子である彼から聞くことになるとは思わなかった。

ただただ唖然として、その怜悧な面差しを見つめる。


……しかし、そうして王者の風格さえ匂わせた第二王子は、最後の最後でどうしても聞き捨てならない台詞を口にするのだった。


「が、今回の件は私にも責がある。今になってようやくわかった。やはり王子である私と友好を持つことで、周りに与える影響は大きいのだろう。………不注意だったな。これからはなるべく話しかけないよう、に――っ!?」

「何を言っているんだ!? この娘がどう言おうと、私たちは“ともだち”だろう!?」


あまりに馬鹿なことを言い出すレストに、ついカッとなり、興奮のままに肩を掴んで地面に押し倒す。

ドスッと音がすると同時に、まるで外界から遮断するように、己の黒髪がカーテンのように左右からこぼれた。


驚愕したレストは、さっきの毅然とした態度はどこへいったのやら、「いや、あの、ちょ……」と急激に真っ赤になりながら、あたふたし始める。


だが、そんなのは知ったことではない。

真上からこれ以上ないほど見開いた、その薄紫の瞳を睨みつける。


「さっき“身分は関係ない”とのたまったのはどの口だ!? 私はお前が王子だから“ともだち”になったわけじゃないぞ!」


第一この程度の嫌がらせでどうにかなるほど柔い精神はしてない。

300年前の方がよっぽどひどかったくらいだ。


もとより、300年越しにやっとできた“ともだち”……それをこんな馬鹿げた理由で失うなんて冗談じゃなかった。


一方押し倒されたほうは、何か思いもよらない言葉をかけられたかのようにしばし茫然とする。

そして次いで、病気じゃないかと思うほど顔を赤く染めながら、せわしなく視線を彷徨わせ始めた。


「そ、それは、だが――」


なんともじれったいその答えに、己の中の何かがプッツンと切れた。

その胸倉を両手でガッと掴み、勢いよく自分の方へと引き寄せる。


「だがもへちまもあるか! いいか、何を言われようが私はお前と“ともだち”をやめるつもりはないからな!!」


わずか数センチの距離で相対するその瞳は、やはり妹のものと一緒だった。

そして驚愕に彩られたその顔は、昔数度だけ見たアスト王子のそれに似ていた。


そんな懐かしい二人の面影を残す王子は、パクパクと口を開閉させながら、どこか反射的に答えを返す。


「え、あ…………ああ」


「よし!」


その返事にようやく満足し、掴んでいた両手を放す。

レストは「うわっ!」と結構勢いよくドスッと倒れこんだが、あまり気にしない。


一方、黙ってそのやりとりを見ていたキラが、ここにきて口を挟んでくる。


「まあ、ご主人様を助けたから今回は見逃してあげるよ。そんなことより………早くご主人様の下から退いてくれない?」


「……っ、お前もなかなか無茶を言うな!」


言いながらギロリと睨んでくるキラに、レストが頭を押さえ、口元をヒクヒクさせながら返した。


いまだ地面に転がっている状態のレストは、例の如く私に上から押さえつけられている。

普通は上にいる自分に避けろというところなのに……確かに、理不尽極まりない話だ。


(……って、原因は私か!?)


ここに至ってようやく、とんでもない体制をとっていることに気付いた。

『一体いつまで乗っかってるんだ私は!?』と内心ツッコミながら、慌ててその身体の上から移動する。


「す、すまない!」


「…………いや、いいんだ」


やっと腹の上から重りが消えたことに、ホッとしたのだろう。

レストは顔を赤らめながら、深くため息をついた。


だが起き上がった彼の仕草で、忘れていたことを思い出す。


「そうだレスト! その腕、痛めているのではないか?」


最初に腕をかばっていた気がしたので、心配していたのだ。

案の定レストは「ああ…」と頷くが、まるでなんでもないように付け加える。


「別に騒ぐほどの怪我でもない」


「そんなのダメだ! キラ、悪いけど治癒魔法をかけてやってくれないか?」


レストはあまり顔には出さないからわかりにくいが、もしかしたら骨にヒビが入るくらいの怪我はしているかもしれない。

なにより怪我を負わせた原因は私にある。


自分でできないのは歯がゆいが、その代り今回は相棒に頼むことにする。

だが、そのキラはといえば、若干言いにくそうにモジモジしながら呟いた。


「………僕、治癒系は使えないんです」


それは初耳だった。

確かに得意不得意はあるだろうが、キラほどの上級神族で治癒系魔法を使えないなどなかなかあることではない。

モジモジしていることといい、『まさか相手がレストだから』という一抹の疑念が生まれたが……少しだけ申し訳なさそうなその表情に、すぐにそれを払拭する。 


「そうか……なら――」


だがそこで、玄関口の方から聞こえる、ドタバタという複数の足音へと意識が引っ張られた。

勢いよく駆け込んできたその三人組は、自分達の目の前で砂を巻き込みながらズザ―と急ブレーキをかける。


「アリア大丈夫!?」


「レストも生きてるか!?」


「ギュールさんも……無事ですね。まったく、どうしてこのようなことになったのですか!?」


それぞれ息を切らしながら、矢継ぎ早に質問してくるミア、ライル、ローズの三人になぜか安心し、そして脱力した。


「あ―、それは保健室で話すよ。レストの治療も必要だし……とりあえずここを移動しよう」


さすがに、もうここで治療はさせられない。

そうして砂埃が舞う中、一気に騒がしくなった一行を引きつれて保健室へと足を進める。 




ギャーギャー騒ぐ三人に囲まれながら、ぐったりと疲れたアリアは、視界の悪いそこを振りかえることもなく立ち去った。


…………だから気付かなかった。

相棒がその後についてこなかったことを。


砂塵の中、残されたのは気配を消した少年と、消された少女。

主の姿が完全に視界から消えたことを確認したキラは、ゆっくりと振り向く。


「………ねえ、覚悟はできてるよね?」


動けないよう拘束していた影を解き、その口も話せるようにした彼は、代りに周囲に目くらましの魔法をかけた。


「ひっ……!!」


「さっきの、怖かった? でもね、まだまだだよ。これからもっと怖いことが起きるんだから……」


一歩ずつゆっくりと、だが確実に近づいてくる美少年は、既に生死をさ迷った少女にとっては十分恐怖の象徴だった。


「あ、あ、ああ……」


「正直いうとね、僕も常闇の世界は怖いんだ。でも、だからこそ――」


その先は聞きたくなかった。

恐怖の絶頂に達したギュール伯爵令嬢は、後ずさりながら必死に叫ぶ。


「い、いやこっちに来ないで!!」


どうしてこんなことになったんだろう。

少女は震える身体を叱咤しながら、悪夢のようなこの状況を嘆いた。


お気に入りの服は、砂まみれになっていた。

昨日お手入れしたばかりの爪も、今では地面を掻くばかりで見るも無残だ。

だけど、普段なら気にしているそれも今は全く気にならない。

否、気にする余裕なんてなかった。



……ちょっと生意気な転校生を懲らしめようとしただけだ。


だって私たちの王子様に、手を出すんだもの。痛めつけるのが当然というものだ。

いつもそうやって彼の周辺を“整理”してきた。以前は失敗したけど、あの時はここまでの恐怖なんて感じなかったし……ともかく私は間違っていない。間違っているわけがない。


今まで、思い通りにならないことなんてなかった。

頼めば、お父様が「しょうがないな」と笑って、全てどうにかしてくれた。

そう、お父様が………どうして忘れていたんだろう。自然と口角がつり上がる。


「そうよ! お父様に言うわよ! そしたらあんな平民なんて、すぐに退学なんだから!!」


これで形勢逆転だ。こう言えば、いつも相手は引き下がるのだ。

時に悔しそうに、時に恐ろしそうに……それを見るのが好きだった。私はあなたたちとは違う。そう愉悦に浸れた。


だが期待とは裏腹に、目の前の美少年は一瞬キョトンとした顔を見せた後、やがてニッコリと笑い、まさかの返答をしてきた。


「大丈夫。君のお父さんも、ちゃーんとおしおきしてあげるから。こんな悪い子を育てるなんて、やっぱり親にも責任あるよね」


状況さえ違えば、あるいは天使のほほ笑みと称してもよかったかもしれない。

だが底知れない狂気を孕んだその瞳は、ぞっとするほど酷薄だった。


手を伸ばしてきた少年を目の前にして、思わずギュッと目を閉じる。

彼はどうやらそのまま己の額に手を当て、何かを探っているようだった。


「あーあ、ほんと君ってば、ずいぶん悪いことしてきたんだねぇ。こんなにひどいって知ってたら、最初から容赦しなかったのに……僕の目もくるったかな?」


その口調に、何をされたのかを悟った。


(まさか……記憶を読まれた!?)


だがわずかに残された理性は、そのありえない事態を真っ向から否定する。


「う、嘘よ!  そんなことできるわけが――!?」



そこでようやく目を開いた少女は、生まれて初めて”それ”を知ることとなる。

己の物とは比較にならないほどの、”それ”を。

その……どこまでも純粋な悪意を。


ますます笑みを深くした彼が、耳元でそっと囁く。


「おやすみ。どうかいい夢を……」




後日、ギュール伯爵令嬢は病気療養で休学することになった。

アリアが、保健室に来なかったキラを怪しんでも「さあ?」とすっとぼけるばかりだった。

レストにしても「まあ、相手が悪かったんだろう」と、どこか諦めたように語るだけである。

妙に団結する二人に、アリアは首をかしげるが……結局何がどうなるわけでもなかった。


天気は快晴。東から流れる春風が心地よいこの季節。

ハインレンス王立魔法学園は……今日も平和だった。



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