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第6話「着地」

サブタイトル超適当ですいません(汗)

誰かいいサブタイトル思いついたら、是非教えてください。

 その時……上級クラス5年の教室では、三人の少年少女が学生らしい話題に花を咲かせていた。


 いつの世も、恋愛話は格好の話のネタになる……特にそれが人様のものとなれば尚更。

 その結果、うち二人にとっては最高な、そして残りの一人にとっては最悪な会話が繰り広げられることになった。


「へー、でもまさかローズがレストシア様をねぇ……ねぇねぇ、きっかけは何なの!?」


「だ、だから違いますと……!!」


「そりゃあ、こいつが7歳の頃の話でさ~」


「っちょ、勝手に!! や、やめなさい!!」


「ほぉほぉ、それでそれで!?」


 慌てるローズをよそに、得意気に語りだすライル、そしてそれに食い付くミア。

 既に教室はこういった話をする時特有の、ある種独特な雰囲気に支配されていた。

 すなわち誰にも話を止められない、止めることを許さない、あの雰囲気である。


 それでも、勝手に盛り上がる二人をよそに、そのおしゃべりな口を押さえようとローズは孤軍奮闘する。


「っ、避けるなーー!!」


 しかし、必死の健闘むなしく無駄に運動神経のいい幼馴染は、余裕を持ってその手を回避した。


「あらやだ、お嬢様言葉がくずれてますわよ。ローズさん」


 そして「おほほ」と意地の悪い笑みを浮かべたライルは、満を持して、その恥ずかしい過去を暴露しようと口を開く。


「あれは王宮で開かれたパーティーで――」


 だが、「ぎゃー!」とローズが令嬢にあるまじき悲鳴を上げるものの、幸いにもその先が語られることはなかった。

 不自然に言葉を切った彼が、急に立ち止まり、「あれ?」と呟いてゴシゴシと目を擦ったのだ。


 瞬きを繰り返し、何かを確認するような仕草をするライルに、今まさにその首を締めようとしていたローズは、眉を顰める。


「どういたしましたの?」


「いや、今、窓の外に何か見えたような……」


 珍しく自信のなさそうなライルの証言に、ローズとミアはキョトンとした表情をうかべた。


 とりあえず、そのまま首を180度まわし、後ろを振り返ってみるが……その瞳に映ったのは、ユスラの木と学園の正門、その奥に見える城下の街並み。

――別段変わりばえのない、いつも通りの風景だった。


「何も変わったものはありませんけど……」


「一体何が見えたんですか?」


「う~ん、なんか人? が落ちてったような……」


 物騒な話に一瞬空気が固まる中、本当に自信がなさそうなライルは、首を傾げたまま続ける。


「一瞬だったから顔はわかんなかったけど、なんか黒髪ぽかった気が……………でも、多分見間違いだよな!?」


 そうして彼は片手を頭の後ろにあて、ヘラっと笑った。そのおどけた態度に、緊張していた空気が少しだけ弛緩する。

 それに合わせるようにミアも『ないない』というように手をヒラヒラさせた。


「それはさすがに見間違いですよー。だってここ、3階ですよ?」


「だよなー! そんなわけないよなー!」


 「「あははー」」と二人のどこかわざとらしい、空笑いが放課後の教室内に木霊した。

 ミアは何か違和感を感じながらも、後押しするように言葉を重ねる。


「そうですよー。いくらなんでも人、が――」


 だが、その彼女の言葉が途中で途切れたのには、理由があった。

 強張った表情のローズと目があったという理由が。


……そこでようやく彼女も思い出す。親友が去り際に残した言葉を。

 そうしてすぐに一つの可能性に思い当たり、顔からはサ―っと血の気が引いていく。


 見ればさっきまで名前通りだったローズの顔色も、いつの間にか、青い伝説の花へと変わっていた。その花は色を変えないまま、茫然とした様子で呟く。


「……アリアさん、さっき“屋上に行く”って言ってましたよね?」



「「「………」」」



 顔を見合わせた三者の脳裏では、既に同じ予測が生まれていた。それも最悪の予測が。

 だがその一方で、頭の隅に残された冷静な部分が、すぐに“それ”を否定する。

 すなわち『そんなこと起こるわけがない』と。

 もっとも、そこには“そうあってほしい”という願望も含まれていたが。


 しかし、皮肉なことにも今度のトドメもまた同じ人物から刺されることになる。

 そして、残りの二人もそれにつられるように言葉を紡ぐのだった。


「……そういえばさ、さっき一瞬だけどキラの声も聞こえなかったか?」


「…ええ、なにか叫んでいたような」


「うん。何か切羽詰まった感じだった」



「「「………」」」



 今一度顔を見合わせる三人。

 だが今度の沈黙が場を支配したのは、わずか数秒だった。

 黙りこくった三者は、やがて示し合わせたように一斉に動き出し、そのまま我先に、押し合うようにドタバタと窓際に駆け寄った。


 あまりに慌てていたためか、一つの窓から窮屈そうに仲良く横並びで顔を出すことになったが、そんなことを気にする者は一人もいなかった。

 そして、それぞれすごい形相をした彼らは、下を覗き込みながらその名を叫ぶ。


「「「アリア(さん)!?」」」





(空が、綺麗だな……)


 こんな時なのに馬鹿なことを考えているな、とは思う。

 でもそれは、この憎たらしいほど綺麗な空が悪い。

 その透き通った美しさが、このどうしようもない絶望的な現実を忘れさせるのだ。


 風を切って落下していく自分の手は、慣性により上空へと向けられている。

 それはまるで……その手の届かない遥か遠い存在に、恋い焦がれているようだった。


「……っ、間に合わない!!」


 悲鳴のような声が鼓膜を震わせ、意識は急速に現実へと引き戻された。


 同時に、慣れ親しんだ魔力を感じる。……それは、どこか迷走しているようにも思えた。

 その意味に気付いて、思わず口角がゆるむ。


(キラ………ありがとう)


 どうやら地上にある物体に干渉しようとしているらしい。

 だが、無生物の影への干渉は、生物のそれよりも時間がかかるものだ。到底間に合わない。


 私の影は移動が速すぎて捕えられないし、地上の物体への干渉も時間が足りない。

……つまり、万事休すということだ。


(死ぬ、のか?)


 一瞬が永遠へと引き延ばされる中、一人胸中で呟く。

 どこか冷静に事態を客観視していた己の眼前に、“死”という究極の一文字が突きつけられた気がした。

 それを意識した瞬間、思わず目を閉じ手の中の指輪をギュッと握りしめる。


……だとしたら馬鹿馬鹿しい話だ。まさかこんな形で死ぬとは予想していなかった。


(まだ……死にたく、ない)


 それが本音だった。

 せっかく人生が楽しく思えてきたところなのに、これはあんまりだ。

 今はやりたいことだっていっぱいある。……まだ、生きていたい。


 だが、そうは思いながらも、もはやどうしようもないことを頭の片隅では理解していた

 なにより、走馬灯が見え始めたのがいい証拠だ。

 死ぬ時はそれまでのことが走馬灯のように浮かぶというが……どうやらそれは本当らしい。

 魔王との決戦では見ることのなかったそれが、今になって見えてくる。

 嫌いな人、憎い人、優しくしてくれた人、友達になってくれた人、そして愛する人……300年前と現在が入り混じりながら、個性豊かな面々が泡のように浮かんでは消えていった。


 そうして最後に浮かんだ顔は……


「っ……!!」


 唐突だった。

 諦めたように回想に耽る己の耳朶に入ったそれは、声にならない声だ。

 一瞬自分があげたものかと思ったが、次の瞬間それは間違いだと直感する。


 力強い魔力の波動を真下から感じたのだ。

 だが、『なんだ?』と疑問に思ったその直後には、衝撃が全身を襲っていた。

 ボスンッ、ドッ、と思った以上に気の抜けた音があたりに響く。


「………い、たい」


 反射的にあげた声に、自分自身で驚く。

 しかも思ったよりも地面が………温かい?

 いや、これは地面ではない。何か温かくて柔らかいものが真下にあった。 

 しかもその“もの”はトクン、トクンと胎動しているではないか。


(これは……命の、音)


 その鼓動は随分と早かった。

 恐る恐る目を開ければ、目の前には何か布のようなものがあり、その底面は上下に運動しているのが肌で感じられた。

 唖然としたまま顔を横に向ければ、背景に土ぼこりが舞う中、すぐそばに自分の手がある。


「生き、てる?」


 信じられないような気持ちで、指の一本一本を確かめるように動かす。

……動く。それに指輪も無事だった。


「どう、して?」


 そのもっともな疑問に対する答えは、すぐそばであがることになる。


「ぐっ……」


 自分の下から聞こえたくぐもった声に思わずギョッとする。


そこにいたのは………


「レ、レスト!?」



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