第4話「和解」
「じゃあね、ミアちゃん」
「うん、バイバイ」
最近、こうやってクラスの子ともあいさつを交わせるようになった。
これまでは、あの公爵家のお嬢様のお気に入り?として認識されていたらしく、そのせいで声をかけづらかった……って聞いた。
ベルドット公爵家といえば国内でも最上位の家格。しかも、その一人娘が、かのローズマリア様。
顰蹙を買うような真似をすれば、自分の家にどんな影響が出るかわからない……そんな理由から、彼女にからまれる?私を“かわいそうな平民”と憐れみながらも遠巻きに眺めていたらしい。
そわそわしながらよくこっちを見ていたから、いったい何だろうって不思議だったんだけど……まさかそんな事情があったなんて。
貴族も案外大変なのね。
そんな彼らのそわそわが解消された理由は、もちろん件の公爵令嬢様にある。
――この頃のローズマリア様は、ちょっとお変わりになられた気がする。
前は(相手が身分差に萎縮していたせいもあるけど)一方的にまくしたてる感じだったんだけど、最近は随分と落ち着かれて、なんていうか……思慮深くなられている。
そのせいもあってか、ある日を境に私にも前ほど話しかけてこなくなった。
時々何かを言いたげに私の方を見てくるんだけど、結局何も言わないままその日が終わる、っていうパターンがここ数日続いてたりする。
ものすごく気になるけど、こっちから話を振るのもなあ、と思って私も何も言えず……時間だけが経過しているのが今の現状。
でも、そんな経緯もあって、ここ数週間はクラスに来るのも嫌じゃなくなってきた。
最初の頃、アリアが転校してくる前は、本当毎日が憂鬱で仕方なかった。
平民は一人だし、友達はできないし、公爵令嬢様はしつこいし……そんな不平不満の数々を発散する場もなくて、ただひたすらこの特異体質を恨んでいた気がする。
自分で選んだ道なのにね……これも、若気の至りってやつかな。
そもそも平民の私が、貴族だらけの上級クラスに進学できた最大の要因は、この特異体質にあった。
――それは成長とともに徐々に魔力が増えていく体質。
普通の人は生まれた時から魔力量が決まっているものだけど、数万人に一人の確率で私のような身体の成長に合わせて魔力量が変動する人間が現れる。原因はわかっていないらしい。
私の場合、ここに入学した時は上級クラスにあがれるほどの魔力はなかったけど、初級クラスを卒業して中級クラスへの進学時、この特異体質が判明した。
そして、中級クラスを卒業する時量ってみると、ぎりぎり上級クラスににあがれるまで、魔力は増えていたってわけ。
――それでも最初は行くかどうかすごく迷った。
上級クラスはいわば貴族のクラスだし、私以外で上級クラスにあがれる平民はいないとも聞いていたから。
でも上級クラスを卒業すれば、職業魔法士としての道は確実に開ける。
そうやって魔法士になって得たお金があれば、弟たちにちゃんとした教育をさせてあげることができる……それが決め手だった。
私の家には、母とまだ幼い4人の弟たちがいる。
父が数年前に死んで、母はその分家事をしながらも、私たちのために毎日汗水たらして一生懸命働いている。
私自身もアルバイトはしているけど、やっぱりそれだけじゃ足りないし、日々の生活を送るだけで精一杯だ。
かわいい弟たちの将来のためにも、私は立派な就職先を手に入れなきゃいけない。
だから、2年我慢すれば……という思いで上級クラスへの進級を決めた。
――でも、やっぱり現実は甘くなかった。
なんでか知らないけど、来て早々公爵令嬢様に目をつけられ、付きまとわれる日々が続いたのが、その何よりの原因。
嫌みにしか思えないどうでもいいことを報告してきたり、アリアが転校してきた日もわけのわからない自慢話(?)みたいなことを延々と聞かされた。
一体私にどんな反応を求めているのか……さっぱりだった。
でも相手はやんごとなき身分の御方だし、下手に扱おうものなら何をされるかわからない。母や弟たちのことを考えると、怖くて何も言い返せなかった。
これが下町の同年代だったら、ズバッと糾弾できるんだけど……それができない自分が悔しくて、どうしようもなく惨めだった。
……そんな神経のすり減っていく毎日だったから、アリアが来てくれた時は本当にうれしかった。
平民が来るって聞いてたから、ワクワクして待ちかまえていたんだけど……最初見た時は、あんまりにもきれいだったから天使がやって来たのかと思った。
それはもう背中から後光が見えちゃったくらい。
真っ直ぐ伸びた黒髪はすっごく艶めいていて、紫の瞳は宝石みたいに綺麗で……顔もどこの女優さん?っていうくらい整っていた。
その上、古代魔法まで使えるなんて……すごすぎてもう同じ人間とは思えない。
古風な上に男っぽい話し方も、なんでかとても似合っていて、本当、なにからなにまでうらやましすぎた。
“天は二物を与えず”って言うけど、あれ絶対ウソだよね。不公平だよ神様。
しかも私と同い年なのに恋人がいるときた。
もう、いろんな意味で完敗……ていうか不戦敗だった。
――まあ、その“恋人”を紹介された時は「ショタコン!?」ってつい叫んじゃったんだけど。
幸か不幸か二人とも意味がわからなかったらしく、首をかしげていた。
「ええと、年少の男の子と仲良くすることよ!」ってなんとかごまかしたけど、今じゃその発言を、ちょっとだけ後悔してる。
だってアリアってば新しく覚えた言葉をすぐに使いたがるんだもの。
変なところで使われたら……多分責任とれない。
ああ、想像するだけで恐ろしい。
今度からは気をつけよう。
もっともキラ君は、見た目があれでも神族だから年少ってことはないはずだけどね。
でも誤解もあったけど、たとえ恋人じゃなくても二人の絆は強いと思う。
お互いをすごく大事にしているのが、傍からでもよくわかるもの。
この前部屋に遊びに行ったら、同じ部屋で寝泊まりしてるって聞いてすごくびっくりした。
普通使い魔でも同じ部屋で寝泊まりしたりしないはず……まあ、そもそも常に地界に顕現している使い魔が珍しいんだけど。
しかも洗面台の所にアリアの字で『菓子を食べたら歯磨き15分!』って書いてあって、つい笑っちゃった。
私も使い魔とこんな関係を築けたらなあ、って密かに目標にもしてたりする。
そのアリアたちは、これまでずっと森で暮らしていたらしい。
住んでいた家が火事で焼失して、なんやかんやでライラック様と出会って、この学校に編入することになったらしいけど……一連の話を聞いてると、アリアがすんごい天然だってことに気付いた。
最初は外見が人間離れしていたから、その分人間くさい面があってちょっと安心……とか思っていたけど、こっちはこっちで神がかっていた。
だって、特定のお相手=パートナー=使い魔って……かなりぶっ飛んでるよ。
極端から極端にいくっていうか、誰でも知っているようなことを知らなかったり、その一方で誰も知らないような昔の知識を持っていたりっていう、ものすごいアンバランスぶりだった。
そのせいか彼女の隣では、常にハラハラドキドキが止まらない。
初めて我が子をおつかいに出す親の気持ちって、きっとこんな感じだろうなあ。
そもそも私がこうなったきっかけは、転校初日に勇気を出して彼女に話しかけた時にあったと思う。
アリアを“美人”って評する私に対して、「ミアの方がかわいい」と言われた時のこと……
それはよく女子がする社交辞令のような“かわいい”じゃなくて、本音でそう信じている感じだった。
あの時私は誓った。「守ってあげなくちゃ」ってね。
美少女だけど天燃って……うん、これ絶対男子の大好物。
これは同じ平民として……ううん、このクラスでできた初めての友達として、何としてもこの天然少女を守ってあげなきゃっていう気持ちになった。
人間守る対象ができると強くなるもので、それまでは自分のことでもんもんしていたけど、その日を境にやる気がみなぎってきた気がする。
だから同じことを考えていたキラ君ともすぐ意気投合して、会って数秒で『アリアを守ろう同盟』を結ぶほどだった。
もっとも私は、アリアに一般常識を教えて注意を促す程度で、キラ君ほどデンジャラスな活動はしてないんだけどね。
アリア至上主義のキラ君は「ご主人様をいじめる奴は、僕がいじめてやる」と頼もしい(?)宣言をしていて、実際その通りに活動している。
最近“彼女たち”がおとなしいのも、キラ君が頑張っているおかげだ。
アリアは気付いてないようだけど……このクラスには”王子様至上グループ”っていうのが存在して、レストシア様に近付く女には容赦ない制裁を加えている恐怖のいじめっ子集団を形成している。
アリアは転校初日の騒動はもちろん、それ以外でもよくレストシア様と話すことが多いから、これ以上ない格好の標的になっていた。
だから私も心配していたんだけど……その心配はいつの間にか杞憂に終わっていた。
私もこの前偶然目撃したんだけど、アリアの教科書を隠そうとしていた例のお嬢様達の一人に、キラ君が殺気を滲ませながら“警告”していたのだ(もちろんアリアのいないところでね)。
魔法で影を固定して動けないようにしながら、「次やったら、お嫁にいけない顔にするからね」と笑顔で脅していた。
口元は綺麗な孤を作っているのに、目が全く笑っていなかった。
当事者じゃなくてもビビるほどのそれ。ましてや当人は、ガタガタ震えながら、辛うじて動く首を上下にブンブン振るだけで精一杯だったようだ。
キラ君………恐ろしい子!
純朴そうな見た目に反してなかなか黒いわ。
アリアは「遊び相手と一緒に悪いことをしてるのでは?」とか不安に感じているらしいけど……正解は“それぞれが悪いことをしてる”です。
どっちにしろ話せない。
プライベートが必要とかすごく苦しい言い訳しちゃったけど、これじゃ仕方ないよね?
ちなみに最近私も王子様達と話すようになったけど、そういった被害は受けていない。もしかしたらこれもキラ君のおかげかもしれない。
貴族だろうが容赦しないその手際は、既に学園で隠れた恐怖の代名詞として名を馳せている。
まあ、私はビクビクしているグループは(多分)皆一度キラ君の粛清を受けた子なんだろうなあ、とか思いながら今日も平和に学園生活を送っています。
でもそんな腹黒ッ子にも負けず、一人だけ未だ懲りてない人がいたりする。
それはとある伯爵家のお嬢様で、階級主義が服を着ているような人なんだけど……”王子様至上主義グループ”のリーダー格で、非常にプライドの高い、典型的な貴族ともいえる人だった。この人だけは飽きもしないで、嫌がらせをしよう(もちろん王子様にはばれないように)と躍起になっている。
自棄になって変な事しなきゃいんだけど……少し心配だった。
その他、アリアに盛大なポエムを送っていた伯爵家のフィリック・ダン・リンメル様については、「あれはただの馬鹿。基本無害だから、ほっといても平気」って言ってたっけ。否定できないところがすごい。
あの公爵令嬢ローズマリア様についても「悪意がないから大丈夫」って話してた。
そうなのかなあ? でもキラ君の見る目は確かだと思うし、もしかしたらそうなのかもしれない。
……ていうか、今更だけど、どこから見ているんだろう?キラ君授業とか出てないよね?
まあ、キラ君のことだからどんな手段を使っていてもあまり驚かないけどね。
そんなこんなで、アリアが来てから随分と私の学園生活も変わった気がする。
この国の第二王子であられるレストシア様や、ディレイド公爵家の後継ぎであるライラック様といった貴族の方々とも話すようになってきたのが、一番の変化だ。
正直例え同じクラスでも、生きているうちに彼らのよう最上位の身分の方々とお話しする機会なんて絶対ないと思っていたけど……それもこれもアリアのおかげだと思う。
ライラック様はとても陽気なお方で、「ライルって呼んでくれ」って言われたんだけど……さすがにアリアのように呼び捨てにはできないから、恐れ多くも“ライル君”って呼ばせてもらっている。
レストシア様は(王子様至上主義グループのせいもあったけど)滅多に女性と話されないから、てっきり女嫌いなのかと思っていたけど、どうやら違うらしい。
昼食を一緒に取るようになってからは、それがよくわかった。
王子様とお話するなんて、夢のまた夢だと思っていたけど……想像していたより随分気さくな方で「学校にいる間は、同じ級友だ。身分は関係ない」っておっしゃられた。
キラ君とも仲良し(?)らしく、時々二人でじゃれているのを見かける。
いつもつまらなそうにしてたレストシア様の表情が豊かになったのも、もしかしたらアリア達のおかげなのかもしれない。
ちなみに呼び方はさすがに「レストシア様」にしている。ちょっと嫌そうな顔をしていたけど、庶民代表としてこればっかりは譲れない。
ついつい敬語も使っちゃうけど、この方たちに対しては、それも仕方ないかなと諦めている。
そんな感じで、私の貴族に対する偏見もだいぶ薄まって、今までのように必要以上に緊張することもなくなった。
あいさつを交わすようになった子たちも、あまり貴族としての位が高くないせいもあるのか、平民である私にもフレンドリーに接してくれる。
――でも、あの公爵令嬢様とだけは、いまだよくわからないギクシャクした関係が続いていた。あの人の考えていることだけは、本当にわからない。
王子様至上グループのように、これ見よがしなイジメを仕掛けてくるわけでもなく、かといって上位貴族にありがちな平民を無視するわけでもなく……一方的に話してきて、ある程度満足したら去る、という謎の行動パターン。
あの行動の真意が全く理解できなかった。まあ、公爵令嬢様のやることなんて、所詮庶民には理解できないものかもしれない。
でも、最近その公爵令嬢様と親友の仲がいい、というのが私の不安に拍車をかけている。
最初は私のように、付きまとわれている感じだったから、気をつけるよう注意をしていたんだけど……この頃はアリアの方からも積極的に話しかけて、なんだか二人で楽しそうにおしゃべりしているのだ。
この前二人が揃って学校を休んだ日があったけど、多分その日から二人の関係に変化が生まれた気がする。
そんな親友が心配といえば心配だったし……それ以上にちょっと悔しくて、妬いていた。
(アリアの初めての友達は私なのに……)
だから今日こそは勇気を出して、その真相を訊こうと決めていたのだ。
「ねえアリア、ローズマリア様と最近仲良いよね? 何かあったの? まさか無理やりとかじゃ……」
我ながら『さすがにそれはないだろう』と思いながらも、一応問いかけてみる。
案の定アリアは「まさか」と否定した上で、こう切り出してきた。
「ミア……ローズはな、“つんでれ”なんだ」
「……ツ、ツンデレ?」
「そう、自分の気持ちがうまく表現できないんだ。だから――」
どこか得意げに語っていたアリアは、不意に何かを思いついたように、ある人の元まで歩いていく。
その足の先にいたのは……件のローズマリア様だった。
二人はしばらく何かを話し、その後ローズマリア様はひどく強張った(私にはそう見えた)表情でこちらを見てくる。
そして、あろうことかこちらに向かって堂々と(私には…以下略)闊歩してきたのだ。
(あばばばば………ど、どうしよう!?)
藪を突いたら、公爵令嬢が出てきた。
あの恐ろしい形相、絶対何か怒っている。
打ち首獄門を覚悟でこのままこの場に居座るか、それとも今逃亡して明日の朝苦しむか……
助けを求めるようにアリアを見つめても、当の親友はニコニコしているばかりで全く役に立たない。
まさかの裏切りに泣きそうになりながら、究極の二拓が頭の中でグルグル回る。
(逃げる、戦う、逃げる……ていうか戦うってどうやって?)
そんなくだらないことを考えているうちに、気付けば目の前にその人物がいた。
銀灰色の長い髪に、印象的な薄紅色の瞳。
小奇麗な格好に身を包んだ彼女は、貴族らしい威厳のある佇まいを持っていて……以前の私は話しかけられるたびにひどく緊張していたものだった。
(一体何を言われるんだろう……)
死刑判決を待つようにビクビクしながら彼女の顔を窺う。
目の前のローズマリア様は、何か逡巡するようなそぶりを見せた後、慎重に口を開いた。
「そのミアさん……」
「はい!」
「私、あなたに謝らなければいけないことがありますの」
「………はい?」
まさかの発言に自分の耳を疑ってしまった。
(私が謝るんじゃなくて?)
思わずそう言いそうになるのを押さえて、言葉の真意をはかろうと必死に頭を回転させる。
だが、その後も益々頭を混乱させるような“謝罪”は続いた。
「あなたに不快な思いをさせてしまって、申し訳ございません。よかれと思って話しかけたのだけれど、逆にあなたにとってはご迷惑だったようですわね。私のせいで随分と窮屈な学園生活をさせてしまったようで……ごめんなさい」
そう言って頭を下げる。
これには教室に残っていたクラスメイトたちもびっくりだ。
だってあのベルドット公爵家の令嬢が平民に頭を下げたのだから。
「え、ええ……えええ?」
未だ状況を理解できない私は、意味を成さない言葉を発するのが精一杯だった。
それを察したのか、ローズマリア様は恥ずかしそうに言葉を重ねた。
「私どうも人の心というものがわかっていなかったらしくて。最初クラスで平民はあなた一人だと聞いた時、それではさぞ心細いだろうと思いましたの。
貴族と平民ということで双方に壁もあるかと思いまして……
それなら、公爵家の私が率先して話しかければ、他の皆さんもそうするだろうとばかり考えて……でも、どうやらそれは間違いだったようですね。
しかも、私は自分のことばかり話していて……その言い方にしても、貴族としての物言いに慣れていたせいか、あなたにとっては御不快なことばかりだったでしょう。
どうか浅はかな私を許してください。
今まで誰もそんなこと教えてはくださらなかったから………いいえ、これでは言い訳ですね。アリアさんが言ってくださらなければ、私一生気付かないままでした。傲慢でしたわ」
その長く重い独白に、私の頭はハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
………確かに平民である私に、最初に声をかけてきてくれたのは彼女だった。
わかりにくかったかもしれないけど、よく考えれば悪意がないことくらいすぐに気付けたはずだ。
(私ってば……もしかして馬鹿?)
勝手に付きまとわれているとか被害者面して、優しさに気付けなかった。
公爵令嬢という表面だけを見て、深い人間性まで見ようとはしていなかった。
何もわかっていなかった。自分のことばかり考えていたのは私の方だ。
「ローズマリア様……どうかお顔をあげてください。その、申し訳ございませんでした! そのようなお気づかいをして下さっていたとは、露とも気付かず……私の方こそ、その、ごめんなさい!」
「いいえ、私がわかりにくいことをしたのがいけないのです。私いつもこんな風に失敗していたのですね。ようやく貴族以外の友達ができない理由がわかりましたわ」
その堂々とした宣言に、つい笑ってしまいそうになる。
多分公爵家という高い身分もあって、今まで誰も彼女に正面から物言える人がいなかったんだろう。私みたいに。
(ああ、こんなに気持ちのいい人だったんだ)
この人なら大丈夫だと私の勘が告げていた。
キラ君のは全然当たらないそうだけど、私の勘はなかなか外れないのだ。
「あの……よろしければ私と友達なってくださいませんか?」
「まあ、本当ですか!? 喜んで!」
とてもうれしそうに話す彼女は、アリアに続いて2番目の平民友達ができたことに歓喜し、そのままひとつのお願いをしてきた。
「ねえ、できれば愛称のほうで呼んでくださらない?様付けも敬語もいらないですわ。同じクラスの仲間でしょう?」
「…そうよね。ありがとうローズ」
自然とそう返せた私に、なぜか数秒沈黙した彼女は、ガクッと肩を落として小さく呟く。
「………やっぱりあなたもですの?」
「へ?」
「い、いいえ、なんでもございませんわ!と、ともかくこれからも何か不快に思うことがあったら、すぐにそうおっしゃってください!私もう、こりごりしてますの」
プイと横を向いたその顔は赤くなっていた。
「ぷ……なるほど。たしかにツンデレかもね」
なんだかおかしかった。
貴族だからって今まで避けてきたのは私の方だった。
少し手を伸ばせば、わかること。こんな近くに答えはあったんだ。
ふとアリアの方を見ると、彼女は私たちの様子に満足気な顔をしていた。
確かにアリアがけしかけてくれたおかげだけど……でも今回のことはちょっと意地悪だよね。
(今度仕返ししよう)
天使のようなアリアの顔を眺めながら、小悪魔のようにいたずらを考えるミア。
……その横顔は、ひどく楽しげだった。