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第6話「混乱」

*今回は予定どおり、レストシア視点です。

ただ予定どおりじゃないのは、王子視点がもう一話続くということです(汗)

 その涙は今まで見てきたどんなものより美しく、そして儚かいものだった。

 王家の色であり、禁色でもある紫。自分のよりもさらに深みのあるその瞳から流れた滴は、まるで宝石のように輝きながら、触れれば壊れてしまいそうな……相反する印象をもたらした。


 ……だが、その涙の理由がどうしてもわからない。


(確かにさきほどは、ついきつい口調になってしまったが……)


 そんな思考の中で、自分が柄にもなく動揺しているのがわかってしまった。

 幼いころから感情をコントロールする癖をつけてきたはずなのに、この体たらくはなんだろうか。


 しかし、自己嫌悪に陥る自分の前で、その涙の源泉はゆっくりと身体を傾けていく。


「お、おい!」


 草の地面に倒れこむ前に、慌ててその華奢な身体を受けとめようとするが……不意に黒い闇が視界を覆った。


「触るな」


 その冷徹な声に反応して顔を向けると、少女自身の影が伸びてその身体を支えている光景と、傍に寄り添う少年の姿が目に映った。

 底の見えない闇はある者には恐怖を、また違う者には安らぎを与える。

 この場合は言うまでもない。この影は、自分に対しては明らかに敵対心を持っているが、その一方では少女をそっと包み込み誰にも触らせないように守護しているのがわかった。


「お前が触っていい人じゃない」


 にわかには信じがたいが、今までの流れから一連の出来事は、この辛辣な言葉を吐く少年の仕業に違いないようだ。

 先ほど急に現れた紅顔の美少年は、貴族の女性に見せればそれこそ家で囲いたくなる容姿をしていた。


 だが、自分の視線に侮られていると思ったのか……その一見ひ弱そうな体躯から、今まで浴びたことのないすさまじい殺気が放たれる。


「っく」


 その急激な圧迫感に、身震いすると同時に戦慄を覚えた。

 これまでの人生の中で、ここまで直接的に命の危機を感じたことがあっただろうか。


(なぜ護衛が来ない?)


 実際は護衛という名の監視だったが、それでもここまであからさまな殺気が放たれているのに、普通出てこないはずがない。

 兄の命令でつきまとっている護衛は、いつもは煩わしいとしか思っていないが、今に限っては違う。これは自分一人で太刀打ちすべき相手ではない。本能がそう告げている。


(こんな肝心な時に)


「ああ、周りにいた人たちなら眠ってもらったよ。だから助けを求めても無駄」


「な……!?」


 今の話が真実だとすれば、いつの間にやったかは知らないが、かなりの手練れだ。

 王家の護衛を簡単に倒すほどの腕……正直勝てる気がしない。いくら魔力が強くても、まだ学生の身である自分には過ぎた相手だ。


 濡れたような黒髪、蒼い瞳からは見る者を極寒へと誘う波動が放たれている。まるで死神のようなその姿に、瞬間死を覚悟する。


 だがそんな自分の覚悟とは裏腹に、少年はそのまま倒れた彼女に歩み寄り、壊れ物を扱うような手つきでそっとその背中と膝に手をまわした。

 そのまま小さな外見からは想像もつかないほど、軽々とその身体を持ちあげる。その顔は自分だけの宝物を手に入れた子どものようだった。


どうやら目的はその少女だけのようだ。


「……貴様は、誰だ?」


「答える義理はないよ。そんなことより医務室に案内しろ」


 いまだ緊張はとれないものの、自分に危害を加える気はない様子に多少安心したせいもあるのだろう。

 こちらを振り向くと同時に戻る不機嫌な顔と有無を言わせないその眼差しに、つい苦笑いがこぼれてしまった。

 王子である自分にここまで傲岸不遜な態度をとるものが、これまでいただろうか。だが、それがいっそ愉快でもあった。

 眉根を寄せている少年はやはり変わらず冷徹な眼差しでこちらを睨みつけてくる。


「聞こえなかったのか? お前のせいでご主人様は倒れたんだから、それくらいの責任はとってもらう」


(ご主人様…使い魔か)


 そう言えば先ほど現れた時もそう言っていた。

 神族の使い魔を連れているという噂は聞いていた……が、この執着は尋常じゃない。

 自分自身今まで多くの使い魔達を見てきたが、ここまで深い絆を持つ使い魔と契約者は初めてだ。


 契約というのは本来もっと淡白なものなのだ。

 使い魔は魔力を、契約者は使い魔の力を、それを対価交換するだけの関係。それが一般的な理解である。

 王家に引き継がれている自分の使い魔はちょっと変わっているが、普通使い魔というのは、呼んだ時だけ地界に顕現し、用事が終わればすぐに天界に還るものだ。

 主の命令には従うが、それ以上のことはしない。それが使い魔という存在のはずだった。


 だがこの二人は……いや、この使い魔は主の命令なしに自主的にその身を守っている。

 その扱いもまるで恋人に対するそれのような。


「ねえ」


 少年の声が1トーン下がったのを聞き、そこで思考を中断した。これ以上怒らせると本当に命が危うい状況になりそうだ。


「……ついて来い」


 先頭をきって、そのまま歩き出す。少年も人一人抱えているとは思えないしっかりとした足取りで後を追ってきた。

 お互い何も話さず、ただ靴音と少女のかすかな寝息だけがその場に響いた。



「ここ? じゃあ、あんたはもういいや。消えて」


 使い魔の少年はそのまま少女と共に保健室の中に入っていった。

 相変わらずの辛辣な言葉と絶対零度の視線は、自分に一切の好感がないことを示していた。

 それは、もはや人を見る目でもなかった。物だ。


 ……だが、それに気をもんでいていても仕方ない。


 一旦教室に戻るために、踵を返す。

 その背後では、容姿と性格のギャップがひどい保健医の「まあまあ、美少年に美少女じゃなぁい」という、医者にあるまじき第一声が聞こえた。


てなわけで、ごめんなさい!

第一王子は次で出てきます。

でも今7割くらいは書けてるので、おそらく明日までにはあげれるかと思います。

あとは、キラのギャップに驚いてるかもしれませんが…一応人間嫌いという設定もあったということで(笑)

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