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第10話「緊急会議」

人の良さそうな試験官の視点です(笑)

 その日、ハインレンス王立魔法学園のとある一室は、喧騒に包まれていた。


 噂を聞きつけ、急遽駆け付けた教師や研究者たちが見守る中、会議室の中央では既に熱い議論を交わされていた。


「だ・か・ら! うちのクラスに来てもらえばいいんですよ!!」


 その中でも一層暑苦しく熱弁しているのは、先ほどアリアに詰め寄った男、ジョシュア・クルトだった。


「君のとこは上級クラスの6年だろう!? そこへ編入するなんて前代未聞だぞ!? ……ていうかお前ただ研究したいだけだろ!!」


「そうだそうだ! むしろ研究するならぜひともうちの研究室に来てもらいたい!」


 研究者の一人がそう言い、それに同意するように周りのグループが頷いた。


 なにせ世界に数人しかいないと言われている古代魔法の使い手が現れたのである。

 コントロールが難しく、消費魔力も膨大なため今現在この学園でも使える者はいない。その上、文献もほとんどが失われている貴重な魔法だ。

 研究者たちが目の色を変えるのも仕方ないだろう。


―しかし

(ここまで大ごとになるとは……)


 先ほどまで自分が編入試験を担当していた少女のことを思い出す。


 最初見た時はその美貌に、その後は魔力量に、極めつけは先ほどの魔法に驚かせられた。

 お世辞にも強いとは言えない自分の心臓には、今日一日で大変負担がかかったものだ。


(……いや、一番大変なのは彼女のほうか)


 この光景を見ていると、そう思わずにはいられない。

 目の前ではいい年をした大人が……特に血気盛んな研究者たちと教師陣を筆頭に彼女の争奪合戦を繰り広げている。


「むしろ彼女の才能は生徒たちにいい影響を与えるはずだ!」

「古代魔法が使えるレベルなんだぞ! 今更何を学ぶことがある!」

「だが編入試験を受けに来ている人間に研究対象になってくれという方がおかしいだろう!」

「研究対象とは失礼な! 少し実験に協力してほしいだけだ!」

「同じことだろうが! これだから冷血漢の研究者は!」

「なんだと、教えることしかできない能なしが!!」


 ああでもない、こうでもないと交わされる議論……という名の罵り合いは、一向に収まる気配が感じられなかった。


 どうにかしたいとは思うが、元来争いを好まない自分にはこの間に入っていくような気概もない。


「皆さん、静粛に」


 そこでついに学園長の鶴の一声が入る。

 学園長ニーナ・シンク・ヒーストン。

 齢70を超えながら未だ衰えぬその魔法の腕を持って、この名門学園の頂点に立つ人物である。その実力は折り紙つきで、昔は国一の宮廷魔術士であったと聞く。


 ちなみに件の少女が壊した結界を張ったのも彼女だった。


 熱くなっていた両陣営は、その優しい茶色の瞳に鎮められ、恥じたように下を向いた。


「落ち付きなさい、同じ学園に所属する仲間でしょう。さて、彼女の処遇をどうするかについてですが……新しくきた人もいるようですし、まずは皆に正確な情報を提示する必要があるでしょう。カイルス?」


 自分の名前が呼ばれ、すぐに何を求められているのかわかった。その場で起立して、ここまでの彼女の情報を伝える。


「はい、名前はアリア・セレスティ。魔力量は……7200」


 そこまで言った時点でまたざわめきが広がる。


 今現在この学園でその値より大きい数字を持っているのは、目の前にいる学園長と他数人といったところだ。

 生徒の中では今5年生に在籍しているこの国の第二王子に続く、2番目の魔力量の持ち主である。


 この学園の入学条件として掲げられている魔力量は120以上。上級クラスの平均がおおよそ3000程度なのだから、すごい数字だということがわかる。


 それこそ宮廷魔法士になれるレベルだ。さすが古代魔法が使えるだけはある、といったところか。


 ざわめきが小さくなったのを見計らって、報告を続ける。


「また、既に神族の使い魔を連れています。属性は火と闇で、火の方は実技の時に確認しました」


「……しかし、その実技で使ったのは本当に古代魔法だったのかのぉ?」


 自分の正面に座っているこの学園の古株、精霊魔法のエキスパートでもあるパウル老が疑問を投げかけてくる。

 ちなみに彼はその小柄な体と水の精霊に好かれる穏やかな性格から、生徒たちから“爺先生”と呼ばれ、慕われている。


「はい、間違いないですよ。詠唱に単語を使っていましたからね。なにより、学園長の張った結界を壊せるほどの威力をだすのは、古代魔法以外では難しいでしょう」


 自分たちの使う魔法は、基本的に文章・詩の形をとっている。

 文の中には祈りや願い、もしくは想像の媒介をするものなど、魔法の発動しやすい要素が組み込まれており、今はそれを使うのが一般的である。

 そしてそれは、この数百年で魔力量が著しく減ったとされている人々のために、多くの魔法使いたちが研究と実験を繰り返し、工夫した成果でもあった。


 一方で、区切られた単語だけを使う古代魔法というのは、その分を補う想像力や技術力、何より膨大な魔力が必要になってくる。

 そのかわりに言葉に込められた純粋な“意思”というのは、簡潔にまとめられた単語のほうが強く、より強力な効果を発揮するといわれているのだ。


 なにより、彼女は魔法を出すまでにたった5つの単語しか使わなかった……しかも後半の【目標・前方・発射】の3つは魔法の指向性に関するものだったから、実質的には最初の【火焔・凝縮】の2単語で魔法を発動したことになる。


(たしかにすごい才能だよな……)


 またざわめきが起きそうな中、今度はそれを遮るようにコンコン、というノック音が会議室に響いた。


「失礼します」


 なんともいいタイミングで、もう一人の試験官エリザ・リーン・バーステンが入室してきたのだ。

彼女はまだ若いながら優秀な教師見習いで、今日も自分の下で見聞を積んでいた将来の有望株である。


「おお、バーステン君。戻ったか……それで、筆記の方はどうだった?」


 彼女は最初、会議室にいる人の多さに驚いていたようだが、すぐに気を取り直してその眼鏡をクイッと持ち上げた。


「ええ、すごかったですよ」


「ほう、やはりそちらも優秀なのか……これはもう免許を与えて、いち早く社会に貢献してもらった方がいいのではないか?」


 今度は、神聖魔法の権威であるグナイド教諭がそう進言する。

 こちらは神聖魔法の使い手にしては少し性格がキツイことから“怒れる神父”というなんとも不名誉な二つ名を持っていることで有名である。


 彼の言葉に同意して数人が頷くが……次に発せられる言葉に大きく期待を裏切られることになった。


「いえ、そちらの意味のすごいではないんですよ。ほら、これ見てください」


 そう言って彼女が掲げた紙に……正確にはその右上に書かれた数字に、その場の全員が注目する。



「……………3点?」


「ええ、3点です。本人は、かなり真面目に解いていたようですが…終わった後は魂が飛んでいました」


「………」


 なんともいえない空気が会議室に流れる。

 10歳児でも30点はとれるテストで3点。


 まさかの結果に、さきほどまで言い争っていた研究者と教師陣がそろって顔を見合わせる。


 もしこの場に本人がいたら『勝手に見せるな!!』と抗議していたことだろうが……あいにくそんなことを気にする人間はここにはいなかった。


「……そういえば、森でずっと暮らしていたから知識が偏っている、と紹介状に書かれていましたね」


 あの『便宜をはかってほしい』という意味がようやくわかった気がする。


(それにしても予想の斜め上をいく結果だが)


「はい、唯一正解した問題は、古代のことに関するマニアックなものでして……まず普通の人には解けません。その一方で、普通の人なら簡単に解けるような一般常識問題などは全滅しています。」


「……おもしろい子ですね」


 隣に座る同僚のフィリス先生がつぶやく。自分も同感だった。


「しかも聞くところによると、我々が使うような一般的な魔法は、現時点で一切使えないらしいですよ。それを学ぶためにここへ来たとか」


 それを聞いた一同は沈黙する。……おそらく考えていることは一緒だろう。


 学園長があたりを見回したあと、確認を求めるように述べた。


「では、やはり彼女は学園に編入させる、ということでいいですか?」


 というより、現時点ではそれしか道はない。

 いくら古代魔法が使えるとはいえ、ここまで知識のない人間に魔法士の免許を与えるのはあまりにも危険すぎる。

 彼女が将来なにを目指すにしても、まずは学園で普通の知識と一般的な魔法を習ったほうがいいだろう。


「ですが、そうなると今度はどのクラスに編入させるかが問題になりますね」


「では、ぜひともうちのクラスに!」


 『しめた!』と思ったのか、クルト君が勢いづいてそう進言してきた。

 他の教員は出遅れたためか、悔しそうな表情をしている。


 しかし……それを聞いた学園長は、どこか諭すように、まだ若い教師にこう質問した。


「クルト。彼女はなんのためにこの学園に来たのだと思います?」


「なんのためと言うとそれは……」


「そう、学ぶためですよ。そしてここはそのための機関です。彼女の学問を、学ぶ意欲を阻害するような要素があってはいけません。研究は自重するように。」


 その言葉を聞いた研究者グループが抗議の声をあげようとしたが、有無を言わせないその双眸を前に結局何も言えないようだった。

 クルト君も思うところがあったらしく、何も言い返すことはなかった。


「ところで、カイルス。先ほど紹介状と言ったけど、誰からの紹介なのかしら?」


「はい、上級クラス5年のライラック・ユア・ディレイドからです」


「ほお、あのディレイド公爵家の嫡男からか……こりゃ下手な扱いはできないねぇ」


 ニヤニヤした表情でそう言ったのは、歴史学を担当しているケイン先生だった。

 個人的に少し苦手な相手である。なにがどう苦手というわけではないのだが。


「たしかに。これで下手に彼女を研究対象にでもしようものなら、公爵家からどんな抗議があるかわかりませんしの~」


 パウル老が同意する。それに頷いた学園長は新しい人物に話をふった。


「ライラック・ユア・ディレド……たしかあなたのクラスでしたね、フラスト?」


「ええ、そうですよ」


 この緊急会議が始まってから、一言も話さなかった人物にお鉢が回る。


 バッシュ・フラスト…歳はたしか35歳。元宮廷魔法士で、専門は攻撃魔法だったはずだ。

 常に飄々とした態度を崩さず、今も多くの人間に見られながら、堂々と発言をしている。


「あなたのところは上級クラスの5年生でしたね。やはり知り合いもいた方がやりやすいでしょうし…あなたのところに任せましょうか」


「了解しました学園長」


 まあ、妥当な判断だろう。


 彼女は下級や中級のクラスから始めるにはもったいないと思えるほどの実力を持っているし、上級クラスの5年なら頑張ればすぐに授業に追いつくことができるだろう。


 そうして、ようやく結論の出たところで緊急会議はお開きになった。未だ不満がある研究者たちは愚痴をこぼしていたが。


そして、自分も帰ろうと席をたったその時、例のフラスト先生がこちらへ向かってやってくる。


「カイルス先生」


 珍しく深刻な表情をした彼は、これまた重い口調で自分の名を呼んだ。


「な、なんだね?」


いったい何なのだろう……無駄に緊張する。


「ひとつ、どうしても聞きたいことがあるのですが」


 こんなに真面目な表情をした彼を見るのは初めてだ。

 きっとよほど深刻な話なのだろう……こちらもそれなりの覚悟で聞かなければ。

 そう思い居住まいを正す。


「あ、ああ。なんだい?」


「そのアリアという少女は……」


 その真剣な眼差しに、ごくりと喉が鳴る。額を緊張の汗が伝う。

 つい身体が前のめりになってしまうが、それすらも無意識のうちだった。





「…………美人ですかね?」



 ずっこけた。


気付いたらパソコンの前で爆睡してました!すいまっせん!!

とりあえず連続?更新はここで終了です。そして第2章も終了です。


…はい、自分ウソつきました(汗)

次章こそほんとのほんとの学園編スタートです!


ただこれから少し忙しくなるので、今までよりは更新が遅くなるかもしれません…

でも時間が空いたらまた連続投稿しようと画策してますので、気長にお待ちいただければと思っております。

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