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第8話「実技」

「えーと、紹介状によると既にいくつかの魔法が使えるようですね」


「あ、しかも属性も2つあるんだ、優秀ねぇ」


 カイルスという中年男性のあとに、バーステンという眼鏡の女性が最初よりいくぶんかフレンドリーに話してきた。



「あの……他には何が書かれているんですか?」


 思わずそう尋ねてしまったのは、ライルがどこまで自分の情報を教えているのか気になったからだった。


 たしかに紹介状のおかげで説明の手間が省けるのはうれしいが、詠唱破棄や精霊魔法についてまで書かれているのは、少々困る。


 自分はあくまで平凡かつ平和に学園生活を送りたいと思っているのだ。

だから、あまり(現代の基準で)突飛なことができるということは知られたくなかった。


「あとは……ああ、『ずっと森で暮らしていて知識が偏っているから、その点は便宜をはかってほしい』だそうです」


それを聞いて安心した。

しかも、なんとも気がきくというか。まったく、ライルには頭があがらない。



 ホッとしたように胸をなでおろす自分の様子に、試験官は多少疑問を感じたようだが、結局突っ込まれることはなかった。


「よろしいですか? では次は実技の方に入らせていただきます。訓練場に案内しますので、ついてきてください」



 そう言われて彼について行った先は……一見ただの原っぱのようだが、四方をなにかの魔法、おそらく結界で囲まれた空間であった。



ここで試験を行うらしいが、そこにはすでに先客がいた。それも30人ほど。


「ああ、今は上級クラス6年生の授業中ですね。端のほうを使わせていただきましょうか」



 どうやら魔法の訓練中らしい。3人ほどの教員が見守る中、数十人の生徒が各々好きなように魔法を放っていた。


(上級クラスという割に若い世代が多いようだが……)


 みんな自分と同じくらいか、少し上程度である。

上級クラスには貴族が多いと聞いたが、それと関係あるのだろうか?


 あちらもこちらの方に興味津津らしく、その多く(特に男子)が手を止めてこちらを見ている。

ちなみにライルは上級クラスの5年といっていたこともあり、その中にはいなかった。



(やりにくいな)


「多少やりにくいとは思うけど…まあ、彼らのことは道端の雑草だとでも思ってちょうだい」



何気にひどいことを眼鏡の女性が言うが、そのおかげで少し緊張が解けた。


 それにキラが彼らの視線を遮るようにその間に立ってくれたので、どこか安心する。

なにやら彼らの顔が引きつっているような気がするが……いったいキラはどんな顔をしているんだ?


「ではあの的に向かって、なんでもいいので魔法を放ってください。ああ、回復魔法や補助魔法が得意でしたらそちらでもかまいませんが」


「いえ、攻撃魔法が一番得意です」


 これは事実だった。

 なにせ一人で魔物の殲滅をしてきたものだから、誰かの怪我を治すことなんて滅多になかった。


 自分は、あらゆる攻撃魔法をあたり一面にぶっ放す……いわば超攻撃型の戦いしかしてこなかったのだ。


―まあ、それはともかく

(さて、どうするか……)


 視線の先、10メートルほどの間をあけたところには、木でできた的がある。

気をつけなければいけないことがいくつかあった。


一つ、属性は火か闇を使うこと。

一つ、詠唱をすること。

一つ、あまりおかしなことはしない。しかし合格はすること。


 最初については、特に問題はない。とりあえず、目に見てわかりやすい火の属性を使うつもりだ。ちなみに精霊に力を借りるつもりもない。やはり試験なのだから自分の力を見せなければいけない……と思ったからだ。


 次の詠唱については、現代の詠唱なんぞわかるわけがないので、自分が魔法のコントロールを学ぶために最初の時だけ使用していたものを使うしかない。まあ、聞き覚えがないといわれたら、森でうんぬんの話をしてごまかせばいい。


 最後は……正直なにがおかしく、なにがおかしくないのかが全くわからないので対処の仕様がない気がする。しかし、今の自分の魔力は一応(宮廷魔術士ほどではあるが)人並みらしいので、少しくらい頑張ったところで問題はないだろう。それに加減をしすぎて試験に落ちることになれば目もあてられない。


 いまだ生徒たちとにらめっこを続けているキラに視線をうつす。


…それに、キラと自分の人生がかかっているのだ。


(よし、本気でやるか)




そう決めたアリアは集中を開始する。

唐突に膨れ上がった強い魔力の気配にその場にいた者は、はじかれたように一斉にその方向を向く。


【火焔・凝縮・目標・前方】


そう淡々と言った彼女の右手には、子どもの頭程度の大きさの火の球ができあがっていた。


生徒、教員、試験官、そこにいた全員がその魔力の気配に戦慄する。


『あれをくらったら確実に死ぬ』ということが、本能でわかったからだ。



そして……とてつもない密度と熱量を保つ”それ”は、次の一言で放たれた。


【発射】


ものすごいスピードで的に向かった火球は、一瞬で目標を焼失させ………そのままの勢いで訓練場の四方を囲っていた結界に衝突した。



バリィィンというガラスの割れたような音があたりに響き渡る。


今までどんなことがあっても破られることのなかった、この学校一番の使い手が張った結界が……たった一発の魔法で破壊された瞬間だった。




「………」


静寂に包まれる訓練場。


誰もなにも言わないことに不安を覚えたアリアは、助けを求めるように相棒の方を見た。


額に手をあて、「あーあ」という風に天を仰ぐキラ。


「ご主人様……多分やりすぎです」


「………」


周りをみると……誰もが目と口を全力で開いてこちらを凝視している。





(……失敗、したかもしれない)




平凡を貫きたいというささやかな願いは、結界とともにもろくも破壊されたようだった。


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