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第4話「勧誘」

 キラの背に乗り、王都への道すがらいろいろなことを聞いた。

 人々の生活や王都の名物、ここ最近流行っているものいるものなど……ライルは実に話し上手だった。


 その合間に自分が気になっていたことについても、さりげなく訊いてみる。


「なあライル、先ほど私の属性について尋ねていたが……その、――」


 しかしそこからどう聞いたものか……しばし悩む。


「ん? ……ああ、もしかして他の魔法使いに会うのも初めてなのか? じゃあ自分以外の属性を持つ人間も珍しいだろ」


 幸いなことにもうまいこと勘違いしてくれたらしく、ライルは勝手にしゃべってくれた。


「ちなみに俺は火と風の属性を持ってるんだぜ」


「……へえ、そうなのか」


(人によって使える魔法の属性が違う、のか…?)


 300年前は、得意不得意はあったものの、ほとんどの魔法使いが全属性の魔法を使えた。もちろんアリアもそうだ。むしろ苦手な属性などひとつもない。

 やはり魔法については300年前より衰えていると考えていいのだろうか?


「そういやさっきも聞いたけど、アリアは結局なんの属性なんだ? 火が使えるのはわかってるけどさ。キラもいるし……闇の属性も持ってるのか?」


(しかも契約は自分の属性の相手としか結べないことになっている?)


 どんどん己の常識が崩れていく。

 6大精霊と契約している自分は、この時代ではかなり異端な存在だろう。


 この時おそらくキラがその胸中を知っていれば、『いや、300年前でも十分異常でしたよ』と指摘していただろうが、幸か不幸かそのことには気付かなかった。


(ライルも2つの属性を持っていると言っていたし、別に不自然ではないよな?)


「まあ、そんなところだ」


「じゃあ俺と一緒で2つの属性を使えるんだな! それだけで一般の魔法使いとは差がつけられるぜ!」


『よかったな』とでも言いたげなライルの姿に、また思考が回転を始める。


(……普通は1つしか属性を持ってない…と)


 そう心のメモ帳に書きつける。

 なんだか今日だけでノートがいっぱいになりそうだ。


 さすがに(自称)魔法使いを名乗っているだけに、魔法についてはあまり大っぴらに聞けない。

 そのせいかさっきから危ない橋を命綱なしで渡っている気分だ。


 だが、そのリスク分の価値はある。

 特にこれからは、この魔法を使って生計を立てていくのだから。なにを聞いておいても損はないだろう。


「あっ、そうだ! 大事なこと言うの忘れてた!」


 だがそんな自分の決意とは裏腹に、ライルはとんでもないことを暴露した。


「アリアは職業として魔法を使う“魔法士”になるんだろ? でも魔法士になるには免許が必要なんだよなぁ。知ってたか?」


「…………めんきょ?」


 そんな話はもちろん聞いてない。


「あー、やっぱり知らなかったのか。普段の家事程度に魔法使うなら必要ないんだけど、魔法で生計を立てようとする人は“協会”でライセンスを取得しなきゃならないんだよ」


(“協会”? なんだそれは……いやそれより)


「そ、そのライセンスを取得するにはどうすればいいんだ?」


「2つ方法があるんだけどな。1つは協会に所属する魔法士に推薦状を書いてもらって試験を受けること。もう1つは、協会が認定する“学園”を卒業すること、だ」


「………」


 どう考えても、自分には無理だ。

 “学園”なんてものは知らないし、推薦状についても……こんな身元不明の怪しい人間に書いてくれるような酔狂な者は、まずいないだろう。


「まあ、森で暮らして独学で魔法を学んだアリアにはキツイ話だよな。でも“もぐり”でやるとすぐに協会の審問官がすっ飛んでくるからな。やめておいたほうがいいぞ」


 なぜかしたり顔で説明してくるライルに恨みがましい視線を送る。


(そんなことを言われても……いったいどうしろというのだ)


 せっかく始まった新しい人生計画は、初っ端から暗礁に乗り上げてしまった。

 自分には魔法以外能などないのに、それすらも取り上げてしまわれてはお先真っ暗である。



そしてズーンというような効果音が似合いそうなほど落ち込む自分に、ライルはどこかうれしそうに提案してきた。


「で、だ。ここで俺から提案があるんだけど…アリア、うちの学園に来ないか?」

「……ライルの、学園?」


 ライルは両手を大きくあげて主張する。


「そう、ハインレンス王立魔法学園! 大陸屈指の名門校だぜ。でも魔力さえあれば庶民でもはいれるし、実力があれば編入もできる。アリアならきっと大丈夫さ! それに魔法が暴発したってことは、まだコントロールが未熟だってことだろう? 一度しっかり学んだほうがいいと思うんだ」


(たしかに現代の魔法について興味はあるが……)


 自分の魔法は現代では異端のようだ。

 この時代で生きていく以上あまりそれを使うべきではないだろう。


 だが、たとえ学びたいとは思っても、いまだ不安は拭えない。

 なにせ自分には先立つものがなにもないのだから。


「しかし……入学できるようなお金はないぞ。それに、私には身元を保証してくれる者もいないし……」


「それについては心配いらない。なんせ庶民でも入れる学園だから、入学金は安いし、奨学金制度も充実してる。なに、命の恩人なんだから入学金くらい俺が出すよ。ついでに身元保証もな!」


 そう朗らかに答えるライルに多少の疑念をもってしまうのは、仕方のない話だろう。


なぜなら――

(ずいぶん話がうまくないか?)


 いくら命の恩人とはいえ、入学金を払ってくれる上に、身元保証もしてくれる……考えてみれば、それができる家というのは自然と限られてくる。


(もしかしてライルは……)


 そこまで考えて頭をふる。

 たとえそうだとしても、ここまでいろいろ親切に話してくれた相手に対し、その理由だけを持って態度を変えるのは失礼な話だろう。

 自分の好き嫌いはどうしようもないが、ライルに対しては誠意を見せたい……そう思った。


 ただどうしてもこれだけは聞いておきたかった。


「なあ、どうしてそこまで親切にしてくれるんだ?」


「そりゃ自分の命を救ってくれた人だし、精いっぱいの恩返しをしたいと思うのは当然だろ? それに……なにより俺はアリアのこと、気に入ったしな」


 前半はさも当たり前のことを言うように、そして後半はどこか照れくさそうにライルは答える。

 その様子を瞬きもせずに観察したアリアは、安心したように息を吐いた。


(よかった……嘘を言ってるようではない。信じてよさそうだ)


 今までの経験上、人の嘘や悪意は目を見ればなんとなくわかった。

 ライルのまっすぐな瞳は、とても嘘を言っているような感じではなかった。

 むしろそんな相手を疑った自分の方が恥ずかしくなるくらいだ。


「なあキラ、どうしようか?」


 最終確認として己の下にいる相棒に問いかける。


「僕はご主人様と一緒なら、別にどこにいてもいいですよ」


 すぐにそう答えてくれるキラに、言葉にはできない思いがこみあげる。


「ライル」


 その問いかけも予想していたのだろう。ライルは先回りして自分の疑問に答えてくれた。


「ああ大丈夫だ。すでに使い魔を連れてきている生徒もいるしな。なにより上級クラスになったら全員使い魔召喚の授業を受けることになっているから、キラが一緒でも全然問題ないよ」


 それを聞いて安心した。


「そうか……じゃあ、さっきの話お願いしていいか?」

「おう、まかせろ!」


 こちらも間髪いれずに答えてくれる。


 基本的に人に頼るのは良しとしない自分だが、今回は命を助けた貸しがあるので、ありがたくこの好意を頂戴することにした。



―それにしても

(どうやら自分にもキラの幸運体質が移ったようだ)


 いきなりこんな人間と出会えるなんて、僥倖以外の何物でもない。

 もしかして、300年前では不幸続きだったから、今生では幸運続きになるのか…そんな馬鹿なことを考えてしまうほど、いいこと尽くしだ。


「まったく……人生捨てたものではないな」


 まさしく300年前、人生を投げ捨てた自分にそう言ってやりたい。



(それに学園か。どんなところなんだろう?)


 そういうものの存在だけは知っていたが、自分には一生縁のないものだと思っていた。

 まだ見ぬ学び舎に想いを馳せる。


(“ともだち”……できるかな)


 今度は年相応の思考をしているのだが、残念ながら本人にその自覚はなかった。



 それまでのものとはまた違う、新たな期待に胸を躍らせながら、アリアは王都への道を進む。



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