表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/57

2章 第1話「出会い」

 視界に映る光景は、まるで地獄のようだった。


 ついさきほどまであった、自分たちの暮らしていたはずの家が、街が……原形を留めていないほど、破壊されている。

 いまだ火の手があがっている家と……何かの焼ける匂いが、鼻をつく。


(なにが……おこったの?)


 最後の記憶は………ああ、村を魔族が襲って、両親が自分と妹を納屋に隠したんだ。

 でも結局見つかって、抵抗したけど、殴られて……それから…それから……


(どうしたんだっけ?)


 誰かその疑問に答えてくれる人はいないかと、あたりを見回し……そして、自分のかわいい妹がひどい怪我を負って座り込んでいるのをみつける。


「マリア!? どうしたの、そのけ――」


 しかし近づこうとすると……仲の良かったはずの妹は、涙を流しながら、必死に己からあとずさる。

 そして――


「ひっ!! いやだ、来ないで!! 助けてお父さん、お母さん!」


(ねえ、どうしてそんな目をするの?まるで………まるで”化け物”を見るような目を)





「……!!」


 一気に覚醒する。


「ここ……は?」


 そうだ。昨日300年の眠りから覚めて……自分は……

 苦い笑いがこぼれる。視界に映る白い天井がどこか忌々しい。


(そうそう、うまくはいかないもの、か)


 たとえ300年の時が過ぎていても、いまだ自分の心は過去に囚われている。

 心底に潜む深遠の闇は一朝一夕で振り切れるものではない。


(昨日は穏やかに眠れたと思ったのにな)


 その原因? といっていい少年を探す。


 いた。ギリギリベッドの上に載っているが、いつ床に落ちても仕方ないほど危ういバランスで……実に幸せそうに眠っている。なぜか安心した。


 身体は昨日目覚めた時と同じく、少しだるかった。

 きっとまだ300年の眠りの後遺症が残っているのだろう。


 だがそれでも、カーテンの隙間からこぼれる300年ぶりの朝日はひどくやわらかく…自分をやさしく出迎えてくれているように感じた。


 これが私の新しい世界だ。


(今日からまた……生きていくんだ)


 その最初の1日。まずは、その決意をくれた相手を起こすことから始めようか。




 少し寝過したらしく、アリアたちが階下に降りるときには、太陽はすでに万人にその光を浴びせるほど高くあがっていた。

 幸いなことにもこの宿は一階が食堂と兼任で、そこで遅めの朝食をとることにする。


(さすが高い宿なだけはある)


 柔らかいパンとあたたかいコーンスープ、そして名前の知らない卵料理(おそらく300年間で新しく生まれた料理だが)を前に少し感心してしまう。


 それを食しながらキラとこれからのことを話す……前に、まずは最優先でしなければいけないことがある。


「キラ、人型時は“よし”ではなく“いただきます”で食事をとるんだぞ」


「は~い」


 自分が新しい人生を始めたついでに、今日からキラのしつけ、もとい教育も始めることにした。


 そして相変わらずがつがつ食事をとるキラを見ながら(これもおいおい教育が必要だ)、昨日から思っていたことを口にだす。


「キラ、お前どこか行きたい所はないか?」


 キラはパンくず(もちろん菓子パンの)をほっぺにつけながら、不思議そうにこちらを見てくる。


「ほへ? ……僕が決めていいんですか?」


「ああ、だってお前ずっと私のそばを離れられなかったんだろう? 300年も待たせたんだからな、せめて行き先はお前が決めてくれ。私は特に行きたいところもないしな」


 すると今度はちょっと迷ったような顔をした後、それをふっきるように言った。


「……じゃあ、僕、王都に行ってみたいです!!」


(王都か……うん)


 王都なら大きい都市だし、なんらかの働き口も見つかるだろう。


(さすがに、これ以上他人のお金で生きていくのは忍びないしな……)


 最悪自分には魔法もあるし……まあ、なんとかなるだろう。

 それに王都ならここから飛行魔法で3時間といったところだ。たいした手間ではない。


「よし、じゃあ朝食を食べ終えたら王都へ向かおう」



 街を出て人気のない方向へと歩く。


 少なくとも300年前の時点では、飛行魔法は使い手の限られる高位魔法であった、と聞いている。

 今がどうなっているかは知らないが、とりあえず用心に越したことはないだろう。

 一度行った場所ならいけることから、転移魔法という手も考えたが……なにせ300年前の記憶だ。

 下手な場所にでたらとりかえしがつかないことになるので今回はやめておこう。


(新しい人生は、なるべく目立たないように生きていきたいからな)


 余計なトラブルなどはごめんだった。また利用されるなんてもってのほかだ。


 そんなことを考えながらのんびりと歩いていると……少し先に、懐かしくも忌々しい気配を感じた。


「魔物、か……」


 正直昔とは事情が違うのだから、無理に倒す必要はない。


ないのだが――

(さすがに目の前で死なれたら寝覚めが悪い)


 道の先で、自分と同じくらいの歳の青年が、イノシシのような魔獣に囲まれているのが見えた。

 長年の習慣から、ほぼ無意識のうちに魔獣の瞳の色を確認する。


(……薄い紅色。雑魚か)


 魔物は、他の生物を“喰う”ことによって、その体内の魔力を自分の中に吸収し、力を増す。瞳の色を見れば大体の強さがわかるのだ。


 青年は……どうやら剣で応戦しているようだが、やはり多勢に無勢である。


「……仕方ない。加勢するか」


 どうせ通り道だし、自分のためでもある。

 そう言い訳しながら、すべる様な動作で魔物の一団に向かって火球を放った。


 それは吸いつくように魔獣の一匹に直撃し、すぐにイノシシの丸焼き(黒こげだが)ができあがる。

 近くにいた魔物が唐突に燃やされ、青年が驚いたようにこちらを見てきた。


(またあの違和感が……)


 髪色を変えた時と同じ感じがする。


 が、今は戦闘中なのでひとまずその思考を閉ざすことにした。

 なにしろ、新たな敵を見つけた魔物が、今まさにこちらへと大挙してきているのだ。


(高位魔法で一気に片付けよう)


 そう思って、魔法を発動させようとするが……


「……なっ!?」


 なにもでなかった。

 なにかが足りないような……そんな、初めての感覚がした。


(どういうことだ!? いや、それよりも……まずい!!)


 気付けば目の前に敵が迫っていた。

 イノシシらしく猪突猛進の勢いだ……いや、そんなことを考えている場合ではない。


(回避……できない!)


 だが、ぶつかる、と思った瞬間自分の背後から魔力を感じた。

 黒い影が地面を走り、自分を通り越して今まさに襲いかかろうとしていた敵を切り裂く。


「今の……は」


 まさか、と思いながら、後ろを振り返る。


「大丈夫ですか、ご主人様!?」


 人差し指を魔物に向けたキラがそう言った。

 珍しく、忌々しいものでも見るように、好戦的に魔物を睨みつけている。


だがそれよりも――

(なんだか時の流れを感じるな。あのへっぽこだったキラが、今ではこんな魔法を使えるなんて)


 つい感慨にふける。

 魔法の照明ひとつ出せなかったあのころのキラが懐かしい。

 それでいて魔王との戦いにまで付いてくるのだから、もはや無謀としかいいようがなかったのだが……


「キラ………お前、ほんとに300年生きてきたんだな」


 しみじみという私にキラは、「今さら!?」といいながら、次々と黒い影で魔物を撃退していった。


 どうやら自分の出る幕はないようだ。

 いや、舞台にあがれない理由は……自分にこそある。


 ようやく、違和感の正体がわかったのだ。


 少し冷静になって気付いた……魔力切れである。

 今まで自分には縁のない感覚だったから、最初はわからなかったが。


「これも、封印の影響か……?」


 だとしたら自分には死活問題である。

 思い返してみると、今日は昨日より魔力量が増えていた、気がする。


(少しずつ回復するようではあるが……さて、困ったな)


 これでは飛行魔法も、ましてや転位魔法も使えやしない。


(まともに使えるとしたら……)


 ふと青年の方を見ると、どうやら2匹の魔獣に挟まれてなかなか危ない状態のようだ。

 あまり気は進まないが……しかたない。


【頼む】


 そう言って、さきほど私の放った火球に引き寄せられて集まった、火の精霊に“お願い”する。

 すると淡いぽわぽわした地界の精霊は、どこかうれしそうにそれに応え、青年の背後にいる魔獣を燃やし尽くした。


 自分の後ろにいた魔物が突然燃えだしたことに、また青年が驚いている。

 しかし、今度はすぐに気を取り直して、正面にいる魔物に斬りかかっていった。


(……ふむ、どうやら問題ないようだ)


 二つの意味で確認した。


「ありがとう、助かったよ。……今度礼をする」


 そう火の精霊に言って、解散させる。

 いつもなら力を借りる対価として自分の魔力を与えているのだが……今はそれができないことが心苦しい。

 しかし精霊は『気にしないで』というように、自分の周りを一回りして帰って行った。


 それを申し訳なくなりながら見送っていると、どうやら戦闘が終わったようだ。



「ご主人様、僕の活躍見てくれました!?」


 キラが『褒めて、褒めて』とでもいうように、嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。

 それに苦笑し、子狼の頃にやっていたようにその毛、改めその髪をくしゃくしゃになでてやる。


「ああ、強くなったな。助けてくれてありがとう、キラ」


 実は最初のやつ以外ほとんど見てなかったのだが……それでもキラは満足そうに目を細めている。


 だがそのあとすぐに、少し警戒するように後ろを振り向いた。

 自分にはさっきから見えていたのだが……さきほどの青年がこちらの方に向かって歩いてきている。


(面倒ごとにならなければいいが……)


 そう願いながら、少し緊張する。

 今まで同年代の人間とまともに話す機会などほとんどなかったのだ。


 まして、今や時代も違う。


(現代の若者とちゃんと会話ができるのか……不安だ)


 老人のような思考をしているのに気づいて、微妙な敗北感を味わう。


(考えていてもしょうがない。…まあ、なるようになるか)




 そして不安と……少しの期待を胸に寄せて、己の運命を変える人との出会いを果たすのだった。


てなわけで2章の始まり始まり~。

1章は勢いがのって1日で書けちゃったんですけど…やはり見切り発車だってせいかここから難産しそうです(汗)

週1~2話のペースで更新…できたらいいなぁ。

では今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ