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幕間 - ギルドでの相談会

MMOやRPGで、キャラクターのステータス画面を眺めながら

「この数字、どう使えば一番おもしろいだろう」と考える時間が、昔から好きです。


HPが高い理由。

妙にINTだけ尖っている意味。

一見すると失敗作に見える配分が、実は変な噛み合い方をしていたりする瞬間。


そういう想像の余地があるからこそ、

ステータス画面は“情報”でありながら、“物語の種”でもありました。


だからこそ、

最近のゲームでステータスが簡略化されすぎていたり、

数値の裏側がほとんど見えなくなっていると、

少しだけ残念に感じてしまいます。


数字が多いほど偉い、という話ではありません。

ただ、考える余地がある数字は、それだけで楽しい――

そんな感覚を、今回は短章にしてみました。

ギルドの片隅。

昼の依頼が一段落した時間帯。


木製の丸テーブルの上に、三枚のステータス画面が並んでいた。


「いや〜、こうして並べるとですね」

ミカエルが、やけに楽しそうな声を出す。

「ヒルトさん、やっぱりHP多いですね!あはは!」


挿絵(By みてみん)


ヒルトは腕を組んだまま、自分の画面を見下ろした。

「斧戦士補正だろ。最初から高めって言われてたし」


「ですよね!」

ミカエルは勢いよく頷く。

「斧振る職は死ににくい、ってやつですよね。

 最初見たとき、正直うらやましかったです!」


ヴェルミッサは、少し首を傾ける。

「“HPが高い”こと自体は、問題じゃないわ」


彼女の指先が、ヒルトの画面をなぞる。

「問題は、その下」


・STR10

・VIT9

・INT60


「HPだけが先に完成してて、

 身体の方が、まだ追いついていない」


ヒルトは小さく息を吐いた。

「……やっぱ、そう見えるよな」


ミカエルは画面を覗き込み、眉をひそめる。

「えっと……でもですね」


自分のステータスを隣に出す。


挿絵(By みてみん)


・STR24

・VIT24

・INT12


「自分よりHP少し低いくらいで、

 実戦だと削られ方、全然違いません?」


「それが変なのよ」

ヴェルミッサは即答した。

「普通なら、あなたは“削れながら耐える”構成」


「でも、そうなってないですよね?」

 ミカエルはあっさり言う。

「実際、倒れてませんし」


ヒルトは思い出す。

斧を振り切った直後、踏みとどまれた感覚。

「HPが高いから、じゃ説明つかない気がする」


「そうなんです」


ヴェルミッサは頷く。

「HPは“余裕”を作る数字。

 でも、あなたの立て直しは――」


少し言葉を探してから続ける。

「判断が早い」


ミカエルは、ぱっと顔を上げた。

「あ、それ分かります!」


ヒルトを見る。

「ヒルトさん、当たる直前に

『あ、これまずいですね』って顔しますよね」


「……してるか?」


「してますしてます!」

楽しそうに言い切る。


「そのあと、斧の角度ちょっと変えてません?」


ヒルトは言葉に詰まった。


ヴェルミッサが静かに補足する。

「INT60は、飾りじゃない。

 身体操作に直接噛んでるんじゃない?」


ミカエルは両手を叩いた。

「なるほど!

 つまりですね」


勢いよくまとめる。

「HPは斧戦士仕様で高め。

 で、中身はめちゃくちゃ考えて動いてる前衛さん、ってことですね!」


ヒルトは苦笑する。

「それ、褒めてるのか?」


「もちろんです!」

即答だった。

「死ににくくて、頭も回る前衛さんなんて、

 普通に当たりですよ!」


ヴェルミッサは、ほんの少しだけ笑う。

「“普通に”収まれば、ね」


三人の視線が、再び数字に戻る。


HPは高い。

INTも高い。

だが、STRとVITは低いまま。


「今すぐ結論は出さない方がいいわ」

ヴェルミッサが言った。

「これは“途中経過の形”よ」


「でもですね」

ミカエルは振り返る。


「この並び、けっこう好きですよ、自分」

「それに!

 自分、ヒルトさんが直撃もらったところ、

 一回も見たことないです!」


ヴェルミッサは視線を外さない。

「それが、この構成をより歪ませてる」


ミカエルは首を傾げる。

「どういう事ですか?」


ヴェルミッサは静かに首を横に振る。

「使われる前提なのに、配られてないのよ」


ヒルトは、少し考えてから言う。

「……前に立ってるだけで、

 何も起きてないってことか」


「ええ」

ヴェルミッサは、自分のステータスを開く。


挿絵(By みてみん)


・HP29


「ネクロマンシーには、

生命力を“移す”技がある」


ミカエルは身を乗り出した。

「吸って、配るやつですね!」


「そう」

ヴェルミッサはヒルトを見る。

「飽くまでも理論上だけど、

 供給源になり得るわ」


ヒルトは苦笑する。

「俺が“血袋”みたいだな」


「言い方」

ヴェルミッサは一瞬だけ眉をひそめた。

「でも、概念は近い、悪くないんじゃない?」


ミカエルは慌ててフォローする。

「でもですね!

それって、かなりヒーラーっぽくないですか?」


ヒルトは眉を上げた。

「ヒーラー?」


「はい!」

ミカエルは嬉しそうに説明する。


「自分、ヒーラー枠って

 殴られたらすぐ倒れる枠だと思ってたんですけど」

ヒルトを見る。

「ヒルトさん、殴られないのに

 HPだけ持ってるじゃないですか」


「……まあな」


「それをですね!」


ミカエルは両手を広げる。

「前に立ってくれるヒーラーになれるって事ですよね!」


ヴェルミッサは、少し考えてから頷いた。

「正確には、回復ではなく再配分」


ヒルトは腕を組んだ。

「斧戦士ヒーラー、か…おもしろいな」


「新しいですね!」

即答だった。


ヴェルミッサは静かに補足する。

「ただし、制限があるわ」


「なんです?」


「あなたがHPを配るということは」

彼女はヒルトをまっすぐ見る。

「あなた自身は、回復されない側になる」


ミカエルは一瞬固まった。

「……あ、そっか」


「だから、当たらない前提が必要」

ヴェルミッサは視線を落とす。

「今のあなたは、

 それを満たしている」


ヒルトは、少しだけ笑った。

「殴られない前衛が、

 殴られないヒーラーになる、か」


「正確には」

ヴェルミッサは言い直す。

「殴られない供給役」


斧で守る前衛にはなれなかった。

だが、斧を振る位置なら、まだ選べる。

ヒルトは、しばらく考えてから言った。

「……選択肢としては、悪くない」


ヒルトは、斧の柄に指をかけたまま、

画面から目を離さなかった。

少し昔のMMOでは、

パーティーを組むと、まず雑談のような相談が始まっていました。


「この人、突っ込みすぎるよね」

「じゃあ、先にヘイト取る?」

「回復遅れるから、無理しないで」


ステータスやスキルだけでなく、

中の人の癖や判断速度まで含めて、

どう連携するかを話し合っていた気がします。


でも最近のMMOは、

最適解がほぼ決まっていて、

ゲーム側が戦い方を丁寧に用意してくれる。


それは親切で、遊びやすくて、正しい進化なのだと思います。

……思いますが。


「じゃあ、この構成でどう戦う?」

と悩む余地が減ってしまったのは、

少しだけ、世知辛い。


この短章は、

そんな“正解がまだ定まっていなかった頃の感触”への

小さな未練と愚痴みたいなものです。


斧戦士がヒーラーになる世界くらい、

あっても、いいじゃないですか。


いや、やっぱりそれはおかしい、のか?

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