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第六話 - 新しい試練、新しい仲間

冒険者ギルドには、

時々「知らない制度」が落ちている。


気づけば条件を満たしていて、

気づけば挑戦できていて、

気づけば――逃げ道がない。


今回の話は、

そんな逃げ道のないお誘いから始まります。


まだ増えるとは限らない仲間。

まだ進化とは限らない力。

でも、何かが変わる予感だけは、

妙に重たい。


斧を持つ理由が、

またひとつ増える回です。

冒険者ギルドは、

今日もほどよく騒がしい。


「ヒルトさーん!」

受付のケリーが、

書類を抱えて小走りしてきた。

途中で一枚落とし、拾い、

その拍子に別の一枚を落とした。


「……どうしました?」


「た、大変なんです!」


「はい」


「ヒルトさん、

 レベル5になってます!」


「……そうですか」


「反応、薄い!」

ケリーは一度咳払いをして、

話を続ける。

「レベル5になるとですね、

 スキル進化の試練を

 受けられるようになるんです!」


「進化?」

横で聞いていたヴェルミッサが、

腕を組む。

「嫌な響きね」


「い、いい響きですよ!?

 持っているスキルの熟練度を

 さらに高められるようになって……」


「場合によっては?」


「追加効果が付きます!」

ケリーは少し得意げだった。


「……条件は?」

ヒルトが聞く。


ケリーは、

一拍、間を置いた。

「……Bランクモンスターの討伐です」


「……」


「……」


ヴェルミッサが、

首を振る。

「今のメンバーじゃ無理ね」


「ええ」

ヒルトも、

素直にうなずいた。

「前衛が一人。

 考えて動けるのが一人。

 ヒーラーなし」


「ですよね……」

ケリーは、

視線を泳がせ始める。

「……あの……

 じ、実は……」


指先をもじもじ。

「ちょうど良いパーティーメンバーを

 紹介できるかもしれなくて……?」


その時だった。


「それ、僕のことですか?」

背後から、

やけに明るい声がした。


振り返ると――

そこに立っていたのは、

爽やかすぎる金髪の青年。


白を基調にした僧侶装束。

背筋はまっすぐ。

笑顔が眩しい。


そして腰には、

刺々(とげとげ)しいメイス。


「初めまして!」

青年は、

にこっと笑った。

「ミカエルです!」


ヴェルミッサが、

半歩だけ距離を取る。

「……僧侶?」


「はい!」


「ヒーラー?」


「いえ!」

即答だった。

「前衛です!」


「……」


ヒルトは、

少し間を置いて聞く。

「回復は?」


「出来なくはないです!」

元気に言う。


「でも、治癒魔法を使うと

 なんか……痒くなるんですよね」


「……痒く?」


「はい!

 それはもう体中!」

にこっと笑う。

「なので、あまり使いません!」


ヴェルミッサが、

額を押さえる。

「……ケリー」


「は、はい!」


「これ、

 問題児よ」

(厄介払いしようとしてるわね...)


「で、でも……

 おすすめです……!」

ケリーは、

とてもバツが悪そうだった。


ヒルトは、

メイスを見る。

「前衛としては、

 どういう戦い方を?」


ミカエルは、

首をかしげてから言った。

「えっと……」


そして、

満面の笑み。

「敵を先に粉砕すれば、

 ヒーリング不要ですよね?」


「……」


「……」


「……」


ヴェルミッサが、

ゆっくり言う。

「理屈が、

 だいぶ危ないわね」


「よく言われます!」

ミカエルは、

気にしていない。


「ちなみに!」

彼は、

少し誇らしげに胸を張る。

「僕、

 スキル進化の試練は

 もう終えてます!」


「……ほう」

ヒルトの声が、

わずかに変わる。


「《僧兵強撃》を進化させて、

 《僧兵強撃・極》です!」


「効果は?」


「当たったら、

 だいたい砕けます!」


にこっ。


ヴェルミッサが、

ヒルトを見る。

「……どう思う?」


「……」


ヒルトは、

少し考えてから言った。

「前衛をやる、

 覚悟はありそうですね...」


「はい!」

ミカエルは、

嬉しそうにうなずいた。


「神の加護は、

 前で使うものですから!」


ケリーが、

そっと手を挙げる。

「……あの……

 Bランクの試練……」


ヒルトは、

斧を肩に担ぐ。

「……一度、

 一緒に行きましょう」


ミカエルの笑顔が、

一段明るくなる。

「はい!」


ヴェルミッサは、

小さくため息をついた。

「……また、

 厄介なのが増えたわね」


「ええ」


ヒルトは、

静かに答える。


だが――

Bランクの試練に挑むには、

このくらい危ない前衛が、

ちょうどいい。


斧戦士(ヒーラー枠)。

ネクロマンサー。

そして――

治雄魔法アレルギーの僧侶。


ギルドの空気が、

また少しだけ、

おかしな方向に動いた。


◆◆◆


ミカエルは、

最初から重武装だった。


バケツ式ヘルメット。

全身を覆う鎧。

両手にメイス。


その姿で、

当然のように待ち合わせ場所に立っている。


「……」


「……」


ヒルトとヴェルミッサは、

しばらく無言だった。


「なにか?」

ミカエルが、

首をかしげる。


「……重くないの?」

ヴェルミッサが聞く。


「え?」

ミカエルは、

その場で軽く足踏みした。


ガシャン、と音が鳴る。

「全然です!」


即答だった。


「この装備、

 日常用なので」


「……日常」


「はい!」

バケツヘルム越しでも笑顔なのがわかる。


ヒルトは、

斧を肩に担ぎ直す。

「……それで、

 ワイバーン相手に?」


「もちろんです」

ミカエルは、

メイスを握り直す。

「空から来るなら、

 降ろせばいいだけですよね」


「……理屈は、

 合ってますね」


ヴェルミッサが、

小さく笑った。

「これくらいじゃないと、

 私たちと釣り合わないかもね」


「光栄です!」

ミカエルは、

本気で喜んでいた。


風が変わった。


ヒルトが、

空を見上げる。

「来ます」


次の瞬間、

ワイバーンが降下してきた。


翼が風を切る。


地面に着地。

土煙。


「……大きいわね」

ヴェルミッサが言う。


「想定内です」


ミカエルは、

一歩前に出る。


足取りは、

重装とは思えないほど安定している。


ワイバーンが、

吠える。


尾が振られる。


ヒルトは、

即座に斧を地面に打ち込む。


《制圧》。


動線を削る。


「……今です」


「了解!」

ミカエルが、

踏み込む。


メイスを振り下ろす。


「神よ!」


鈍い衝撃音。


鱗が、

確実に砕ける感触。


「……硬いですね」

一歩下がり、

構え直す。


「でも――

 粉砕できます」


ワイバーンが、

後退する。


挿絵(By みてみん)


ヒルトは、

走った。


斧を置き、

斧を振り、

進路を誘導する。


「ヴェルミッサ!」


「分かってる!」


彼女の術で、

召喚された亡霊が影のように動く。


ワイバーンの注意が、

分散する。


「……ここ」

ヒルトが、

低く言う。


ワイバーンが、

足場の悪い位置に入る。


一瞬の、

重心のズレ。


「ミカエル」


「はい!」

ミカエルは、

深く息を吸った。


「神よ――」


両手のメイスを掲げる。


「粉砕されし肉片を、

 あなたに捧げます」


振り下ろす。


ドンッ。


衝撃が、

ワイバーンの体を揺らす。


悲鳴。


もう一歩、

踏み込む。


「砕けちる血潮を、

 どうかお受け取りください!

 《僧兵強撃・極》!!」

両手のメイスが光り輝く。


二撃目。


ワイバーンは、

大きく体勢を崩し、

そのまま動かなくなった。


沈黙。


風が戻る。


「……」


ヴェルミッサが、

小さく息を吐く。

「……祈りが、

 ちょっと不穏ね、嫌いじゃないわ」


「そうですか?」

ミカエルは、

首をかしげた。

「普通だと思うんですが」


ヒルトは、

斧を地面に立てる。

「……討伐、完了ですね」


「はい!」


ミカエルは、

鎧越しに胸を張る。

「良い連携でした」


ヴェルミッサが、

ヒルトを見る。

「……この前衛」


「ええ」


「ネジが飛んでる所もあるけど、

 狙う場所は外さない」


「そうですね」


三人は、

ワイバーンを見下ろす。


普通ではない。

だが――


成立している。


ヒルトは、

確信していた。


この前衛は、

自分の“仕切り”に耐えられる。


進化の試練は、

無事、終わった。


次に進むための――

最低条件を、

三人は満たしてしまった。

最近のゲームや作品だと、

ヒーラー=後衛で回復専念、

ローブと杖、というイメージが

すっかり定着しましたよね。


でも――

昔のTRPGや古めのファンタジーだと、

僧侶って普通に前に立ってました。


重い鎧。

盾。

そして鈍器。


回復はするけど、

それ以上に

「倒れない」「殴れる」「押し返せる」。


今回のミカエルは、

まさにその系譜です。


治癒魔法があるなら、

前に出てもいい。

前に出るなら、

殴っていい。


最近のMMOは、

ヒーラーが細くて軽くて、

ちょっと寂しいな、と思うこともあります。


僧侶はもっと、

ガンガン鈍器で殴るべき。


神もたぶん、

その方が喜ぶはずです。


しらんけど。

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