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第五話 - 二人でどこまで出来るのか

冒険者ギルドは、

人が多いほど賑やかで、

人が減るほど現実的になります。


今日はその、

現実的な日の話です。


新しい仲間が増えることもあれば、

元の仲間と別れることもある。

冒険者稼業とは、そういうもの。


斧を持つ人と、

黒いローブの人が、

並んで掲示板を見ている時点で

だいたい察してください。


今回は、

少し静かで、

少し不器用な回です。

冒険者ギルドの朝は、

だいたい同じ匂いがする。


紙とインクと、

少しだけ汗。


掲示板の前で、

ヒルトは依頼書を眺めていた。


「……これ、洞窟か」

斧でどうにかなる。

たぶん。


そう考えていると、

背後から聞き慣れた声がした。

「ヒルト」


振り返る。


剣士と、弓の少女。

そして――


「……魔術師」


「久しぶり」

魔術師は、

まだ少し顔色が薄いが、

立っている。


その後ろに、

もう一人。


白いローブ。

胸元に聖印。

僧侶のような女の子。


ヒルトは、

一瞬で察した。


「……ケガ、治ってよかった」

それだけ言った。


剣士が、

少し気まずそうに視線を逸らす。

「……ああ」


言葉を選ぶ間が、

一拍あって。

「普通の……ヒーラーが見つかったんだ」


弓の少女が、

申し訳なさそうに笑う。

「ヒルトが悪いわけじゃないからね」


「分かってます」

ヒルトは、

本当にそう思っていた。


普通の選択だ。

正しい判断だ。


ヒーラーは、

回復する人の方が安心できる。


「……今まで、ありがとう」

魔術師が言う。


「すごく……助かった」


「こちらこそ」

短く答える。


それ以上、

言うことはなかった。


四人は、

それぞれの方向に歩き出す。


振り返らなかった。


「……やっぱり、少し寂しい?」

声がした。


壁際の席のヴェルミッサだ。

「きっと、私のせいね」


彼女は、

わざとらしく肩をすくめた。

「ネクロマンサーと組んでたせいで、

 敬遠された」


少し間を置いてから、

付け足す。


「……と()()()()()()()()()のが、

 あなたのいいところ」


挿絵(By みてみん)


「……否定はしません」

ヒルトはビールをもって同じテーブルに座り、

諦めに近い表情で続ける。

「でも、正しい選択ですよ」


「でしょうね」

ヴェルミッサは、

乾杯する。

「普通のヒーラーが来たなら、

 普通のパーティーになる」


少しだけ、

間が空く。


「……で?」

彼女が言う。


「あなたは、どうするの」


「仕事を探します」


「一人で?」


「……できれば、

 前衛が欲しいですね」

ヴェルミッサは、

にやりと笑った。


「前衛なら、

 いるわよ」


「……生きてますか?」


「生きてる必要あるのかしら?」


ヒルトは、

少し考えた。

「アンデッドを使えば、

 前は何とかなりますね」


「でしょ?」

彼女は、

楽しそうに言う。

「私が壁を用意する。

 あなたが斧で仕切る」


「……回復は?」


「しない」


「ですよね」


二人は、

同時に掲示板を見る。


難度は低め。

だが、人手不足。


「……受けますか」


「ええ」

ヴェルミッサは、

小さく手を叩いた。


「二人だけのパーティー、ね」


「正確には、

 二人と数体です」


「細かいこと言わない」

そう言いながら、

彼女は楽しそうだった。


ヒルトは、

斧を肩に担ぐ。


普通のパーティーでは、

なくなった。


でも――


「……こっちの方が、

 やりやすそうです」


ヴェルミッサは、

一瞬だけ目を丸くしてから、

笑った。

「そう言ってくれるなら、

 アンデッドも張り切るわ」


こうして二人は、

ギルドの片隅で

新しい依頼書を引き抜いた。


斧と、アンデッド。


たぶん、

ギルドが一番嫌がる組み合わせ。


でもヒルトは、

思っていた。


――戦場が、

――ちゃんと静かになりそうだ。


その感覚を、

信じることにした。


◆◆◆


ダンジョンは、

思っていたよりも狭かった。


通路は細く、

天井は低い。

足場は悪い。


「……嫌な構造ね」

ヴェルミッサが、

小さく言う。


「前に出られる人数が限られる」


「はい」

ヒルトは、

斧を持ったまま足元を見る。


石の割れ目。

湿り気。

転べば、終わる。


「スケルトン、二体出すわ」


骨が、

前に出る。


盾代わりとしては十分――

だったはずだ。


敵が現れた瞬間、

それは崩れた。


「……速い」


大グモだ。

ダンジョンに棲みつく魔物は、

地形を知っている。


横から。

上から。

想定より、一拍早い。


スケルトンの一体が、

押し込まれる。


「っ……!」

ヴェルミッサが、

歯を噛む。

「……壊れる」


ヒルトは、

すぐに前に出た。


斧を、

床に叩き込む。


《制圧》。


だが――

範囲が足りない。


敵が、

止まらない。


「……」


ヒルトは悟る。


――これだ。


――これが、

――“二人だけ”の限界。


考えて動く前衛が、

もう一人いない。


スケルトンは、

命令を待つ。


だが、

自分で判断はしない。

「……ヴェルミッサ」


「なに」


「次、前に出るのは……

 俺です」


「……死ぬわよ」


「死にません」

根拠はない。

だが、出るしかなかった。


ヒルトは、

一歩踏み出す。


斧を振る。


敵を斬らない。


壁を叩く。


石が崩れ、

通路が狭まる。


「……っ!」

敵の動きが、

鈍る。


「今、引かせて!」


ヴェルミッサが、

即座に理解した。

「止める!」


スケルトンが、

無理に前に出ない。


代わりに、

位置をずらす。


それだけで、

状況は少し持ち直した。


だが――

楽ではない。


ヒルトの呼吸が、

荒くなる。

「……やっぱり」


ヴェルミッサが、

小さく言う。

「自分で考えて戦う前衛がいないと、

 きついわね」


「はい」

短く答える。


「スケルトンは、

 優秀な壁です」


「でも、

 判断しない」


「ええ」


敵が、

また来る。


今度は、

複数方向。


ヒルトは、

瞬時に斧を置き、

一本は振り、

一本は楔にする。


忙しい。

判断が遅れれば、

誰かが倒れる。


「……はは」

ヴェルミッサが、

なぜか笑った。


「なにか、

 楽しい?」


「いいえ」

首を振る。


「でも……」

少しだけ、

声が明るい。


「初めてよ。

 斧戦士が“考えて”動いてる戦闘」


ヒルトは、

息を整える。

「……正直」


「なに」


「三人以上の方が、

 楽です」


「でしょうね」


「でも」

斧を握り直す。

「二人でも、

 成立はします」


「……ええ」

ヴェルミッサは、

しっかりとうなずいた。


「無理はするけどね」


「はい」


戦闘は、

なんとか終わった。


全員――

いや、全員と数体――

無事だ。


だが、

余裕はなかった。


ダンジョンを出た後、

二人は無言で歩いた。


しばらくして、

ヴェルミッサが言う。

「……やっぱり、

 もう一人欲しいわね」


「ですね」


「でも」

彼女は、

少し笑う。

「普通の前衛じゃ、

 また合わない気がする」


ヒルトも、

少しだけ笑った。

「……考える前衛じゃないと、

 無理ですね」


「ええ」


二人は、

ギルドの方向を見る。


今はまだ、

二人。


きつい。

楽じゃない。


それでも――

成立している。


それが、

この奇妙なパーティーの

今の答えだった。


次は、

“考える前衛”が現れるのか。

それとも――

斧が、もう一段進化するのか。


それは、

まだ分からない。


だが一つだけ、

確かなことがある。


この戦い方は、

一人では、できない。

お疲れさまでした。


第五話は、

パーティー再編後の現実編でした。


仕事でもそうですが、

少数の優秀なメンバーで回すチームって、

確かに効率はいいんですよね。


意思決定が速い。

話が通じる。

無駄がない。


でも――

手数が足りない。


一人が考え、一人が動き、

一人が止まったら詰む。


あるあるです。


今回のヒルトとヴェルミッサも、

まさにその状態でした。


成立はする。

でも楽ではない。


だからこそ、

「もう一人欲しいな……」

という気持ちが、

自然に出てきます。


さて、この奇妙な二人組。

次は人数を増やすのか、

それとも斧がさらに進化するのか。


そのあたりは、

もう少し様子を見ましょう。


それでは、次話で。

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