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第四話 - 斧(ふ)人気職、妙に噛み合う

欠員が出ました。


冒険者パーティーにおいて、

これはまあ、よくある話です。


誰かが無理をして、

誰かが怪我をして、

そして誰かがいなくなる。


そこで次に来るのは――

「じゃあ、誰を入れる?」という現実的な問題。


普通なら、

もう少し“無難な選択”をするところですが、

この物語はそうはなりません。


斧戦士(ヒーラー枠)に続いて、

もう一人、

あまり誘われない職業が登場します。


見た目は不穏。

名前も不穏。

たぶん、履歴書も不穏。


でも安心してください。

今回も、斧はちゃんと使います。

魔術師がいない。


それが、今のパーティーの現状だった。


「……大丈夫なの?」

弓の少女が、不安そうに言う。


「命に別状はないって」

剣士が答えるが、声に力はない。


魔術師は、別のパーティーに誘われて出ていった。

少しだけ、背伸びをした依頼だった。


結果、

大けが。長期離脱。


「俺たち、どうする?」

剣士が言う。


「このまま三人で続けるのは、

 さすがに無理だよな」

全員が分かっていた。


ヒーラー(仮)はいる。

だが、火力と制圧力が足りない。


「……補充、する?」

弓の少女が言う。


「でも、今さら誰が来てくれるか……」


そこで、

後ろから声がした。

「来ないわよ。普通の人は」


振り向くと、

壁際に一人、座っている女がいた。


黒いローブ。

長い紫がかった黒髪。

目元は眠そうで、表情は薄い。


「……ネクロマンサー?」

剣士が、思わず言った。


「ええ」

女は肩をすくめる。


「ヴェルミッサ。

 だいたい誰にも誘われない」

言い切りだった。


この世界で、

ネクロマンサーの扱いは良くない。


・気味が悪い

・死体を使う

・縁起が悪い


どれも、

だいたい合っている。


「あなたたち、魔術師抜けたでしょ」

ヴェルミッサは、こちらを見る。

「欠員、出てる」


剣士が黙り込む。

「……なんで分かる?」


「ステータスを見れば分かるわ。

 陣形が3人用になってるじゃない」


それを聞いて、

俺は少しだけ興味を持った。

「……ヒルトです」


名乗る。

「斧戦士。ヒーラー枠」


ヴェルミッサは、

一瞬だけ目を細めた。

「……あなたが噂の」


「噂?」


「斧で回復する人」


「しません」


「でも役割(ロール)はこなすのよね?」


「それは……まあ」


彼女は、

小さく笑った。

「やっぱり変」


「よく言われます」


「私もよ」


ヴェルミッサは立ち上がる。

「じゃあ、組まない?」


剣士と弓の少女が、

顔を見合わせる。


「……一回だけ、試そう」

剣士が言った。


「ダメだったら、解散」


「それでいいわ」


こうして、

斧戦士(ヒーラー枠)とネクロマンサー

という、

ギルド的に前代未聞な組み合わせが成立した。


初めての依頼は、

小規模な洞窟掃討。


スケルトンが出る。


「……あなたが呼んだやつ?」

弓の少女が、ひそひそ言う。


「違うわよ」

ヴェルミッサが淡々と答える。


「私は“使う”だけ」


◆◆◆


洞窟に入ると、

案の定、床にちらばる骨が立ち上がる。

5体。


「来るわよ」

ヴェルミッサが指を鳴らす。


地面から、

彼女のスケルトンが二体、立ち上がる。


剣士が身構える。


「敵じゃないから」


「分かってるけど……」


気まずい。


だが、戦闘は始まった。


敵スケルトンが突進してくる。


「……ヒルト」

ヴェルミッサが言う。


「出来るだけ壊さずに倒してもらえると、助かるわ」


「はい」


次の瞬間。


俺は斧を振った。


狙いは、

首ではなく、膝関節。


骨が外れる。


崩れ落ちる。


「……上出来じゃない」

ヴェルミッサが、

小さく呟く。


彼女は手を振る。


倒れた骨が、

そのまま彼女の支配下に入った。


「……え?」

弓の少女が声を漏らす。

「壊さないで“使える形”を残すの?」


ヒルトが答える、

「戻せる方が、便利なので」


「……発想が、工具」

褒められているのか分からない。


次の敵が来る。


ヴェルミッサのスケルトンが、

前に出る。


敵の動きが止まる。


その背後から、

俺が斧を置く。


《制圧》。


敵は、

前にも後ろにも動けない。


挿絵(By みてみん)


「……」


ヴェルミッサが、

ゆっくり目を見開く。

「ねえ」


「はい」


「これ……」

彼女は、

敵のスケルトンを見る。


「やつらが“安全な位置”で止まってる」


「はい」


「いつもは、

 武器をもって暴れるだけなのに」


「注意するべき対象を増やして混乱させてます」


「……」


次の瞬間。


彼女は、

笑った。


それも、

はっきりと。

「……これ、すごく楽」


戦闘は、

異様な形で終わった。


敵は全滅。

こちらは無傷。


スケルトンは、

一体も無駄に壊れていない。


「……奇跡だわ...」

弓の少女が言う。


「ネクロマンサーと、

 斧戦士が噛み合うなんて」


「奇跡じゃないわ」

ヴェルミッサが答える。

「死者を“配置”できる人がいて、

 戦場を“割れる人”がいるだけ」


彼女は俺を見る。

「ねえ、ヒルト」


「はい」


「しばらく、組まない?」

少し間を置いてから、

付け足す。


「……私も、

 誘われない側だから」


俺は斧を肩に担ぐ。

「お互い様ですね」


ギルドの受付で、

ケリーが記録を見て頭を抱えるのは、

もう少し後の話だ。


この日、

斧と死者が――

想定外に噛み合った。


それは奇跡ではなく、

ただの相性だった。


◆◆◆


ネクロマンサーの戦闘は、基本的に落ち着かない。


前を見る。

横を見る。

後ろを見る。


――特に、後ろ。


自分が操っている死者が、

どこで壊れるか。

どこで暴走するか。

どこで“使えなくなるか”。


それを見逃した瞬間、

戦闘は一気に危険になる。


だから私は、

いつも安全じゃない。


今日も、そのつもりで洞窟に入った。


スケルトンを二体。

最低限。

壊れてもいい数。


「来るわよ」

声に出したのは、

自分を落ち着かせるため。


敵が動く。

――いつも通り。


私は手を振り、

死者を前に出す。


その瞬間、

違和感があった。


……近づかれすぎない。


敵が、

“踏み込めない”。


理由を探す前に、

私は気づいた。


後ろだ。


――斧戦士。


ヒルトは、

斧を振っていない。


代わりに彼は、

斧を「地面と壁の間」に打ち込んでいた。


刃は敵に向いていない。

私のスケルトンに向いてもいない。


逃げ道と、踏み込みの線を潰す位置。


敵が一歩踏み込めば、

必ず斧の柄に引っかかる。

避ければ、私の死者の正面に出る。


だから――

敵は、近づけない。

さらに、トラップの様に設置されて斧で

行動が制限され、身動きがとれない。


逆に、

私のスケルトンは

押し込まれない。


初めてだった。


死者が、

「戦わせても壊れない場所」に

立っている戦闘は。


私は、

後ろを見なかった。


見なくて良い状況をヒルトが作ってくれた。


前だけを見て、

敵だけを見て、

術式だけを維持していた。


……そんな戦闘、

初めてだ。


一体、骨が崩れかける。


反射的に、

私は修復の準備をする。


でも――

必要なかった。


ヒルトが、

斧で“崩した”。


首じゃない。

胴でもない。


関節。


壊れない壊し方。


倒れた骨は、

そのまま――


私の支配下に入った。


「……」


声が出なかった。


楽。


ただ、それだけ。


楽だった。


戦闘は、

いつもより短く終わった。


怪我もない。

消耗もない。


スケルトンは、

全員、残っている。


洞窟の静けさの中で、

私は思った。


――ああ。


――これは、

――安心だ。


ヒルトが、

こちらを見る。

「……問題、ありました?」


私は首を振った。

「いいえ」


少し間を置いてから、

正直に言う。

「……初めて、

 戦闘中に“余計なこと”を考えなかった」


彼は、

よく分からない顔をした。

「それは……良かったです」


たぶん、

彼は分かっていない。


ネクロマンサーが、

戦闘中に

どれだけ“怖いこと”を考えているか。


でも――

それでいい。


私は、

死者を見る。


静かに並んでいる。


壊れていない。

暴れていない。

「……ねえ、ヒルト」


「はい」


「あなた、

 死者を“道具”だと思ってる?」


少し考えてから、

彼は答えた。

「……配置物、ですかね」


思わず、

笑ってしまった。

「……最低ね、最高だわ!」


この人となら、

私はたぶん。


戦闘のたびに、

自分の死体を心配しなくて済む。


それは、

ネクロマンサーにとって

小さくて、

とても大きな奇跡だった。


私は、

初めて思った。


――この斧戦士。


――一緒に戦えば、

――生き残れる。


そう確信した夜だった。

お疲れさまでした。


第四話では、

新しい仲間が加わりました。


ネクロマンサーです。

はい、ネクロマンサー。


作者はネクロマンサーが好きです。

理由は単純で、

だいたい不遇だからです。


・怖がられる

・嫌われる

・強いのに敬遠される


とても美味しい立ち位置だと思います。


今回の話では、

そんなネクロマンサーが

「初めて安全だった戦闘」を経験します。


回復魔法も、奇跡の聖光も出ません。

出るのは、斧と骨です。


でも結果は、

全員無事。


作者としては、

「これでいいんだよ、これで」

と満足しています。


次回は、

このだいぶ不穏な組み合わせが

ギルドにどう見られるのか。


たぶん、

あまり良くは見られません。


それでは、次話で。

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