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第三話 - 斧(ふ)測の事態、斧で制圧

三話目です。

ここまでヒルトは、だいたいうまくやってきました。


ですが今回は、

ちゃんと初心者の失敗が起きます。


判断が半拍遅れただけ。

それだけで戦闘は壊れかける――

そんな回です。


回復魔法は出ません。

その代わり、斧と新スキルが出ます。


それでは、

仕切り直し担当の斧戦士の出番です。

同じパーティーでの冒険は、気づけば三回目になっていた。


最初は半信半疑。

二回目は様子見。

三回目になると――


「じゃ、いつも通りで」

剣士の少年が、

確認ではなく前提としてそう言うようになった。


「右から来るのは遅いよね」

弓の少女。


「詠唱、三呼吸でいい?」

魔法使い。


誰も「ヒルトはどうする?」とは聞かない。

代わりに、


「ヒルト、見てる?」

とだけ聞かれる。


「見てます」

それで十分だった。


斧は振った。

毎回、必要なところだけ。


槍を折り


足場を割り


逃げ道を塞ぎ


怪我は出なかった。

回復も、要らなかった。


そうして三回目の依頼を終え、

冒険者ギルドに戻った時だった。


「ヒルトさーん!」

受付から、

慌てた声が飛んでくる。


ケリーだった。

おっちょこちょいで、

よくペンを落とす、あの受付のお姉さんだ。

「お疲れさまです!

 えっと、ギルドカード確認しますね!」


カードを覗き込み――

彼女は、目を瞬かせた。

「あれ?」


「どうしました?」


「……レベル、3になってます」


「そうですか」


「そうですか、じゃなくて!」

少し声が大きくなる。

「スキルポイント、

 一切使われてませんよ!?」


「……スキルポイント?」


「あっ」

今度はケリーが口を押さえた。

「すみません!

 説明、してませんでしたね!」


それは、まあ、

今さらだった。


「レベルが上がるとですね、

 スキルポイントがもらえるんです」


「はい」


「それを使って、

 職業スキルを覚えられます!」


「なるほど」


「普通はですね、

 レベルが上がったらすぐ使います!」


「普通は」


「はい!」

元気に言い切った。


「……で、使ってないと?」


「もったいないです!」

ケリーはカードを裏返し、

水晶板を展開する。


「斧戦士のスキル、表示しますね!」

光の文字が並んだ。


強打


連撃


怒号


威圧


制圧


戦術眼


陣形把握


「……」


正直に言う。

「強打と連撃は、要らないですね」


「えっ」

ケリーが固まる。

「え、えっと……

 斧戦士さんは、

 そこから取る方が多いんですが……」


「振り回さないので」


「……そう、でした」

思い出したようだ。


「怒号も……要らないですね」


「叫びませんし?」


「はい」


「……確かに」

残った項目を、じっと見る。


「……これと、これ」

指を指した。


ケリーが読み上げる。

「《制圧》と……

 《戦術眼》ですね」


「はい」


「……それ、

 あんまり選ばれないスキルなんですけど……」


「そうでしょうね」


《制圧》

→ 武器を振らずとも、

 一定範囲の敵の動きを鈍らせる。


《戦術眼》

→ 戦闘中、

 敵味方の位置関係や動線を

 直感的に把握できる。


「普通の斧戦士さんだと……」

ケリーは言いにくそうに続ける。

「“火力が落ちる”って言われます」


「俺、元々火力ないので」


「……ですよね」

ケリーは、少し笑った。

「じゃ、習得しますか?」


「お願いします」


光が走る。


頭の中に、

余計な情報が入ってくる感じはない。


代わりに、

視界の端が整理され

人の動きが線になる

そんな感覚があった。


「……」


試しに、

斧を軽く持ち替える。


「どうですか?」


「……戦場が、

 少し静かになりそうな感じですね」


ケリーは、ぽかんとした。

「それ、スキルの感想ですか?」


「はい」


「……参考になります」

たぶん、

彼女はメモするだろう。


◆◆◆


その夜。


パーティーの三人に、

スキルを取ったことを伝えると。


「やっとか」

剣士が言った。


「前から、

 もうスキル使ってるかと思ってた」


「え?」


「いや……

 “仕切り”がさ」


弓の少女が言う。

「最初から上手すぎた」


魔法使いが、うなずく。

「スキル取ったっていうより、

 スキルに名前が付いた感じ」


その言葉で、

腑に落ちた。


――そうか。


俺は、

“新しいこと”を始めたんじゃない。


やっていたことが、

ようやく世界の側に認識されただけだ。


斧を置く。

だが、戦場は動く。


斧を振る。

だが、目的は人じゃない。


こうしてヒルトは、

斧戦士としてレベル3になり――


正式に「仕切る斧戦士」になった。


後にこれが、

「斧学八計」(ふがくはっけい)の原型だと

呼ばれることになるが、


今はまだ、

ギルドの片隅で、

静かに育っているだけだった。


◆◆◆


四度目の依頼は、

少しだけ難度が上がっていた。


森の奥。

ゴブリンではなく、

オークが混じっている。


「……数、五」

魔法使いが小声で言う。


「前より多いな」

剣士が息を整える。


「でも、いつも通りでしょ?」

弓の少女が、軽く笑った。


その油断が――

ほんの半拍、早かった。


オークの一体が、

想定より早く前に出た。


「っ!」

弓の少女が、

距離を詰められすぎている。


――判断ミス。

――下がるべき瞬間を、逃した。


オークの棍棒が、

横から振り抜かれる。


当たれば、

骨が折れる。


「……!」


俺の視界が、

一段階、静かになる。


《戦術眼》。


オークの重心

振り抜きの軌道

弓の少女の逃げ道

全部が、線として見えた。


――間に合う。

――斧を振る必要は、ない。


俺は、

一歩だけ前に出て、斧を地面に叩き立てた。


ズンッ。


《制圧》が、発動する。


挿絵(By みてみん)


空気が、

わずかに重くなる。


オークの動きが、

一瞬だけ鈍る。


その“一瞬”で十分だった。


「下がって!」

弓の少女が、

転がるように距離を取る。


棍棒は、

斧の刃先をかすめるだけで止まった。


「……っ!」

オークが、

斧を警戒して踏み込めない。


――選択肢を、削った。


「今だ」

短く言う。


剣士が前に出る。

魔法使いの詠唱が通る。


光が弾け、

オークが倒れた。


残りは、

動揺している。


――構造が、崩れた。


戦闘は、

数十秒で終わった。


「……」


弓の少女が、

自分の腕を触る。

「……怪我、してない」


声が震えている。

「ごめん」


彼女は、俯いた。

「私……距離、見誤った」


剣士が言う。

「いや、あれは……

 ちょっと速すぎた」


魔法使いが、俺を見る。

「……ヒルト」


「はい」


「あれ、スキル?」


「ええ」

正直に答える。


「さっき取ったやつです」


弓の少女が、

目を丸くした。

「……ヒーラーなのに?」


「ヒーラーだからです」

そう言うと、

三人が、同時に黙った。


しばらくして、

弓の少女が苦笑する。


「……失敗したと思った瞬間に、

 “もう終わってた”」


「それが、仕事です」


「……ありがとう」

その一言で、

胸の奥が少しだけ軽くなった。


ギルドに戻ると、

ケリーが飛んできた。

「お帰りなさ――

 あれ!? 怪我人は!?」


「いません」


「……え?」

カードを確認する。

「難度、上がってましたよね?」


「はい」


「ヒーラー枠ですよね?」


「はい」


「……斧戦士、ですよね?」


「はい」


ケリーは、

頭を抱えた。

「もう……

 意味が分からなくなってきました……」


俺は斧を肩に担ぐ。

「大丈夫です」


「何がですか?」


「俺も、完全には分かってません」

それを聞いて、

ケリーは少しだけ笑った。


「……でも」

ペンを取り、

備考欄に追記する。


備考:

危機発生時、

戦闘を立て直す能力が高い


書き終えてから、

顔を上げる。

「ヒルトさん」


「はい」


「……ヒーラー、向いてますよ」


俺は、

少しだけ考えてから答えた。

「斧戦士として、ですけどね」


ケリーは、

なぜか深くうなずいた。


こうしてヒルトは、

仲間の失敗を一度、確実にカバーした。


回復魔法は、使っていない。

だが――


誰も、倒れなかった。


それで十分だ。


斧は、

今日もちゃんと仕事をしている。


振るためではなく、

崩れた戦場を、もう一度仕切るために。

お疲れさまでした。


第三話では、

仲間の失敗を

回復ではなく斧で止めています。


怪我を治すより、

怪我を成立させない。


ヒルトの役割が、

ようやくはっきりしました。


なお、受付のケリーはこの頃から

「職業欄どうしよう……」

と真剣に悩み始めます。


斧は今日も、

人ではなく戦場を斬っています。


それでは次話へ。

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