勇者の倒しかた
この国では度々魔王率いる魔族との戦いがある。
その度に戦闘能力に優れた冒険者や騎士たちが招集されて戦に向かう。
その中でも魔族を指揮している魔族長と呼ばれる上級魔族以上の階級の魔族を倒した者は『勇者』として国全体から祝福を受ける。
今回の戦はここ十年間でも最大規模の魔族の進行であった。上級魔族も三体確認されており、国中の戦力を投入しての作戦となった。
第一陣の作戦は我が国の大敗であった。第一陣を指揮していた第二皇子も戦士したとの情報は直ぐに後方待機していた二陣及び首都にも伝わり、指揮が低下が起こるとともに国民は首都から過疎地域へ避難しはじめた。
そんな時であった。魔族陣営の側面から奇襲を掛けた軍団がいた。
それが今回『勇者』と呼ばれる様になった冒険者一行であった。彼らは遠方の旅に出ていたため、開戦時には合流ができていなかったが、周辺の評価では現在の国一番の実力を持っていると言われていた。
冒険者一行は少数部隊であったが、個々の実力が稀にみる才能の持ち主ばかりで編成された部隊であった。
そのため魔族一団は直ぐに混乱状態に陥った。
この好機を逃すまいと第一皇子が指揮する第二陣が攻め入り、魔族は壊滅状態になった。第一皇子たちが魔族の指揮所に着いた時には三体の上級魔族は既に討伐されていた。
一団体のグループで三体の上級魔族を討伐したことはこの国の歴史上初であり、冒険者一行は通例に習い『勇者』と国中から祝福を受けるだけではなく、国民からは王家以上の支持を得ていた。
これに危機感を覚えたのは王国の関係者であった。
勇者の支持が高いだけであれば、それにあやかり王国の支持も上げることは可能かもしれない。しかし、勇者一行は国民からの意見や要望をよく聞き、国民の待遇の向上や賃金上昇などの国政にも口を出すようになった。
これにより世間では国対勇者の構図ができてしまった。
それに危機感を覚えた王は関係者たちを呼び勇者たちとの対策を考えていた。その中で勇者の暗殺が騎士団長から提案された。
「流石にそれは……」
大臣の誰かが呟く。
そんなことをしたら国民から反感を買い、国の存亡に関わる。そういう意見が大多数であり、この案は廃案となった。また、文章上からも削除された。
その後も何度か勇者との意見交換、王国関係者との会議を行ったが結論には達しなかった。
国王は疲労より会議を欠席し、第一皇子に任せることも多くなった。そういった王家内の情報が広まるのは早い。翌日には国王は体調は優れておらず、国政は難しい。勇者一行が要望した国民の意見を受入れる可能性が高いとの噂が広まった。
王国関係者はこの事態はマズイと考え、第一皇子を筆頭に早急に対策を講じて勇者側の意見との妥協点を探ることになった。
そこに反対の意見を出す者がいた。
当初から王国の態度に納得がいかなかった騎士団長である。
騎士団長を筆頭にした騎士団はクーデターをおこし、王宮や関係施設を占領した。
これにより国の運営は機能不全に陥り、反勇者派で固められた。
国王や第一皇子たちは王宮敷地内の別当に監禁をされてしまった。
その状況に速やかに対応したのが勇者一行であった。上級魔族を三体倒したのは伊達ではなく、疾風のごとく各拠点を制圧しながら、騎士団長がいる王城内に進行した。
そこまではよかった。
勇者一行が王城に進行し、内部深くまで入ったタイミングで王城内に火が放たれた。混乱する勇者一行に対して騎士団長含めた上層メンバーが相打ち覚悟で勇者一行と戦闘状態なった。
王城は轟々と燃え、翌日には真っ黒くなった城が国民の前に姿を現していた。
監禁されていた国王たちは、別場所に監禁されていてこの騒動で脱出した王国関係の協力の下脱出に成功した。
その後、城内に捜索隊が入り調査が行われた。結果、騎士団長含めた上層メンバーと勇者一行の死亡を確認した。
王は直ぐさま国民に向けて騎士団長の独断ではあったが責任をとることを約束し、王の座から降りることになった。
また、勇者一行が提案してきた案件については、修正を入れつつ受入れることとした。また、今後は商業長などを国民代表団とした組織から要望を受け付け、国政に反映していくことを約束した。
これによって、国民からは不満は出つつも納得する形となった。
これにて国の大きな問題は解決を迎えた。
……。
「うまくやりましたな」
部屋に入ると来客用のソファに大柄の男がずっしりと座っている。
「あなたのアドバイスのおかげで父上には早々に国政から離れていただきましたし、厄介だった騎士団と勇者を削ぐことができました」
男はテーブルに置いてあったワインを一口含んだのちに、味に満足したように笑みを見せる。
「私としても今後も良い感じで戦力を削りながら均衡を保っていきたいと思っております。流石に上級魔族三人が一気に倒された時は冷や汗をかきましたよ」
「そうだな、それはこちらも予想外であった。だが、邪魔な三人であったのだろう?」
男は口角を少し上げた後に肯定した。
「こちらも邪魔だった者たちの一掃が予想以上にできたので助かった。次は5年後くらいかな?」
「そうですね。その頃には今回の件で恨みある者たちが力をつけて来る頃でしょうからね」
第一皇子は秘書に書かせたメモ紙を男に渡す。
「今回の依頼内容だ、城内復旧用の品が欲しい。こちらからはいつも通りの物を送る」
男はメモをパッと見た後に焼いて処理した。
「ご自身の筆跡を残さないとは……、相変わらず用心深いですな。こちらとしても上手いワインが飲めなくなるのは困るので、今回もいつもの業者からお送りします」
第一皇子は頷く。
「では、これにて失礼します」
そう言って男は一瞬にして去っていた。
これからは俺の時代だ。
第一皇子は誰も居ない部屋でフフフと笑った。