第四十六話 予感
「境界を侵す、異常個体か・・・」
『マナの境界を無視する』異世界の住人として有り得ないことだ。魔獣は何故かマナの高いところに行くのは良くても低いところに意図的に行くことを嫌がる、魔物も例外ではない。
理由は不明で様々な仮説が立てられたがどれも決定的とは言えないモノばかりだ、異世界探査が進むにつれ異世界の生き物をペットにしようとする者も少なからず現れ、幾度となくこちら側での飼育を試みられたがどの例も長生きせずに息を引き取っている。
だがこの異常個体なる個体はその制限を無視して行動するらしい、この世でマナの境界を無視することのできる生き物は今の所、人間とこいつしかいない。
ということはこいつも人間と同じように門をくぐる可能性があるということだ。
岡田が眺める資料の中に件の魔物の引き伸ばされた荒い画像が目に留まる。
USBに入っていた映像資料はこの魔物と二足歩行の魔獣が対峙し強烈な土煙が上がったところで終わっている。
そして、この聞き取り調査によるとこのサラとか言う隊員はこの魔物に追跡され、最終的にこの魔物に捕まり体内に吸収され藻掻くうちに気を失い、気付いた時には森の中に倒れていて、いつの間にか槍を握っていた、と。
だが、アメリカが先日発表した内容はレベル6に到達した事と検閲された動画のみだ、ハッキリ言ってこの異常個体は人類にとって大きな脅威だ。
こいつはレベル6エリアの魔獣を一方的に嬲り殺す力を秘めている。少なく見積もってもレベル7、正直言って人類が太刀打ちできるような相手じゃない。
レベル6ですら未知の領域、アメリカのレベル6到達の発表も動画を撮って到達したように見せかけるただのパフォーマンス、実際は偶然発見した抜け穴を通ったに過ぎない。
今だ人類はレベル5の壁に阻まれている状況だ。
アメリカはむしろやらかしたと言ってもいい。見つかってはいけない化け物に準備をする間もなく見つかってしまったんだから。
いや、見つかっただけならまだ良かったかもしれない。それより深刻なのは、まだ憶測でしかないがこいつの標的は人間ということだ。
資料によるとサラ・アンダーソンによる単独調査完了後、再び調査チームを派遣し消息を絶った。再度チームを派遣すると隊員の物と思わしき物を発見。持ち帰り調べるといくつかの写真を発見し、その中にこいつが映っている。
まとめると、サラ隊員が異常個体と遭遇、逃走するも捕まり吸収、だが助かり見覚えの無い槍を持っていた、何とか野営地まで移動し救助される、数日後別チームを派遣するとその野営地付近で異常個体に襲われる。
偶然か? いや……
明らかに追いかけてきている。
この資料を見ただけであの魔物と持ち帰った槍に何らかの関係性があるのが見て取れる。どいった関係性かまではわからないがあるのは確かだ。
その証拠に、槍のマナを測定すると一日かけても測りきれなかった。この資料によると測定中に持ち主の元、サラ隊員の元まで高速で飛んで行って測定が中断されたらしい。
この魔物は槍を取り戻そうとしているように感じる。じゃあ槍を返せばめでたしかと言われればそんな事はない。
槍を返そうが返さまいが人間が奴の標的であることに変わりない。ただ優先順位が上か下か、それだけだ。
……あの日から、人類にとって何か良くないことが起きてる気がする。歯車が狂ったようなそんな感じだ。
あの異世界の空を赤黒く染めたあの日、そこから今まででは考えられないことが起きて……
いや、待て。
そういえば、それよりも少し前に世間を騒がせたニュースが有ったような……
カタカタと素早くキーボードを打ち、例の事件を調べ始める。
「あった、あの赤黒い空の一か月前に起きた事件。調査員育成校 穴型門発生事故。通称・・・『虚無』」




