第四十五話 異常
「まず、今日でキミがここに運ばれて1週間が経った」
「い、1週間!?」
思わずベッドから身を乗り出しながら掴みかかる勢いだったがウォルターが素早く手で制す。
「おっと、これくらいで驚いてくれては困る」
そう言われてサラは態勢を戻し姿勢を正す。何を聞いても動じないという覚悟だ。
「よろしい。キミの帰還予定時間に連絡が無かったため予備チームを派遣したところ野営地で倒れてるキミを発見しここまで運び込んだと言うわけだ」
「イブがセンパイを運びました!」
サラに対して元気よくアピールしてくるイブを気にせずウォルターは話を続ける。
「サラ君、キミは今回の任務を見事やり遂げた。有益なサンプル、興味深い映像、そして…… その槍の魔道具だ」
そう言ってウォルターはサラのベッドの脇に自然と立て掛けてある槍を見た。
「この槍は倒れているキミの傍に落ちていた物で、キミが持ち帰った。間違いないね?」
肯定を頷きで返す。
「実はこの槍はキミを病院に運ぶ傍ら我々の方で一度回収させてもらったんだ。本来ならそのまま研究サンプルとして保管しておきたかったのだが・・・」
「な!?」
「あー、悪く思わないでくれキミも軍に所属する者ならそこら辺は弁えてくれたまえ、それに結局はキミの元に戻って来たわけなのだから」
ウォルターのこちらに対する態度に段々とむかっ腹が立ってくる。危険な場所にホイホイ行かせては回収した戦利品はキッチリ持って行かれ、その代わり貰えるのは命を懸けたにしては安い報酬に一言二言の言葉のみ。
こいつの話しぶりからして任務の事よは二の次で本命はこっちの様だ。サラが成したことなど些事としか思っていない雰囲気をひしひしと感じる。
だがそれなら疑問も残る。なぜ回収されたこの槍はサラの傍にあるのか、この男はなぜこの槍にこれほど執心なのか。
「キミが寝ている間にその槍のマナレベルを測定していたんだ、結果は残念ながら詳しくは出ていないが」
「どういうこと?」
何を勿体ぶっているのか、一々癪に障る動作も相まって段々と素が零れ始める。
「正確には測定中に槍がどっかに飛んで行ったんだ、何もかも突き破ってね」
効果音を適当に口で鳴らしながら手振りでコミカルにその場で起きたことを再現し始める。
「何言ってんだ?」
「落ち着き給え、これが冗談で済んだらよかったんだがね。研究所からこの病院までのおよそ数十kmを数秒で飛行したんだ。一時期SNSでは、今日未確認飛行物体を見たと話題にもなったものだよ」
「トレンドにもなったんだよ!」
HAHAHAとイブとウォルターの両者が笑っているが問題はそこではない、何故、槍が飛んできたか、だ。
「おっと失礼、話を戻そう。というかその槍にまつわることで一つ言ってなかったことがあったんだ。キミの同僚のライル君だがね・・・」
その名前が急に上がり、不意に粘り気のある気味の悪さがサラに纏わりつく。
「死亡したよ」
「・・・へ?」
「理由は、キミが原因だ」
「はあ、あたしは何も!」
「別にキミを裁こうとかそう言う事では無い、ただ原因と言うだけだ順を追って話そう」
サラは煮え切らない表情のままウォルターを睨む。
「槍を研究所に送って我々が最初にマナの測定を行った。だがここで予想外の事が起きた、何とマナの測定が一日経っても終わらなかったのだ」
その言葉にサラと居合わせたイブも驚きの表情を作り槍を見据えた。
「その表情も無理もない、我々も同じだ。動揺しつつもこの槍一本から考えられる未来を思うと歓喜せざるを得ない、だが時を同じくしてあることが起きた・・・ キミの同僚のライル君だがね、この病院に来ていたみたいだ、もちろんキミの眠る病室にね。だが同じくここに居るイブ君がキミの事を熱心に世話をしていた」
「ハイ!」
「イブ君が邪魔でライル君はキミに・・・ その・・・ 手を・・・ 出せずにいたわけだ イブ君に感謝だね」
若干イブに対しても『なんでお前も居るの?』って思ったがイブが居なければ知らない間に悲惨な目に遭っていたところだ、今回ばかりは水に流してやるサラだった。
「だが、貴重な人材をいつまでも遊ばせる訳にはいかない、キミを除いた部隊に次の任務が言い渡された。まあ、ただの支援任務だが、それでも異世界に向かわなければならないためイブ君は病院を後にした。だがライル君は、それを無視した」
身震いが止まらない、まさかそんな……
「ああ、安心したまえ。恐らくそういった行為に及ぶ前に死亡したようだ」
「・・・なぜそんな事が分かる?」
「病院の裏の監視カメラと入り口の監視カメラが偶然捉えていてね、裏に映った映像ではただの人影で誰か分からないが、飛び上がる高さから明らかにマナを備えた者の動きだと分かる。恐らく4階のキミの病室に忍び込もうとしたのだろう、そしてその数秒後・・・ 入り口のカメラに上から2つの何かが降ってくるのが映る」
「それがライルの野郎ってこと?」
「その通り死体は真っ二つさ。監視カメラの映像から、ライル君がキミの病室に侵入したおおよその時刻と測定機に掛けた槍が遥か彼方に消え去るのはほぼ同時刻、数秒違いだった。・・・つまり」
「つまり?」
「この槍はキミを守った! というわけだよ」
だからなんだってんだ?
「いやー、実に素晴らしい。主を定め所有者にしか使うことのできない魔道具はいくつか発見されているが、主を守る、しかも持ち主の意識が無いのに!」
フッ なるほど
「しかも推定レベル6オーバーの魔道具などこの世の誰も手にしていないだろう」
こいつの言いたいことがなんとなくわかって来た
そこでだ、とウォルターが言いかけた時
「まだまだ研究し足りないから研究材料として貸してほしい、だろ?」
サラはしてやったりという表情を浮かべる。これを交渉材料に金をふんだくるだけふんだくって悠々自適に暮らしてやるそう内心で思っていた。だが……
「いや違う、その槍はキミに持っていてほしい」
「・・・え」
「確かにキミの提案も魅力的だ、だがそれよりまずこれを見てほしい」
スッと渡された写真を見る。
横からイブもこの写真を覗き込んで
「これは何の写真ですか?」
その問いにサラが答える。
「これは異世界、それもあたしが任務で登った山の麓だ、この先に進んでいくとあたしが使った野営地がある」
ウォルターは無言でもう1枚の写真を渡す。
「これが何だって・・・ッ!? こ、こいつは!」
「見覚えがあるようだね」
そこに映っていたのは何てことない森の写真だが写真の奥の木の陰に小さくだが映り込むこちらを見つめる黒い影。
奴だ。
息ができない、怖い。
ウォルターはそんな様子のサラを無視して無慈悲に話を続ける。
「キミが病院に運ばれて2,3日経った頃、再度調査チームを派遣した・・・ 結果チームは消息を絶った。翌日別チームが向かってこれらの写真を回収した」
先ほどの写真よりも鮮明に映る化け物に思わず目を逸らすとイブが心配そうにこちらを見ている。
「キミが持ち帰った映像の中にもこれと似たようなのが映っていた。歪な形状や不気味な生態からほぼ魔物だと専門家は断定している」
その先は言わなくても分かる。でもあたしには
「この魔物はマナの境界を無視してくる恐れがある。つまり我々、人類と同じように門をくぐる恐れがある。我々はこの魔物を『異常個体』と呼称し」
無理だ
「サラ君、キミにこの異常個体の討伐任務に就いてもらう」
最悪だ
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