第四十三話 芽生え
誰も知らない闇暗い穴倉に怨嗟の呻き声が響く。
あちこちが爛れ、体液や肉片が飛び散り息も絶え絶えだ。
今にも死にそうな雰囲気にもかかわらず声の主は一際不気味な咆哮を上げる。
すると体から耳障りな湿った音を立てながらいくつもの触手が針山のように伸び、自分の飛び散った体液や肉片を拭き取るように寄せ集める。
しばらく経つと周りに飛び散っていたモノが綺麗さっぱり無くなり、暗闇に一匹の魔物が静かに佇んでいた。
傷は完全に癒え何事も無かったように思えるが、その佇まいや雰囲気から何か尋常じゃない感情を感じ取れる。おそらくこれを見て近づくような愚か者はいないだろう。
魔物は自分の内から沸々と湧き上がる初めての感情を抑えれずにいた。
これまで自分が感じて来たものは『楽しい』や『嬉しい』と言ったポジティブな感情しかこうなってから感じてこなかったためこの湧き上がる『怒り』はどうすればいいか分からないでいた。
体が次第に震えだし、これ以上抑えられなくなった力を開放する。
巨大な爆発音と共に天井が崩れ穴は完全に埋まってしまったが、何事も無く魔物は穴から這い出てきた。
それでも怒りは収まらず次の瞬間、魔物は奇声を上げながら走り始めた。
手当たり次第に拳や靄がかった触手で地面や岩壁を殴りつけるがこの感情が一向に収まらない事に余計に苛立ちを募らせていった。
すると魔物の頭上を巨大な影が通過する。
・・・
巨大な体にそれを物ともしない力強く羽ばたく翼に強靭な鱗、鋭い眼光には自分が絶対の強者だと疑わない自身に満ち溢れていた。
だがそんな強者の前にあの魔物が現れる。
一睨みした後、強者の喉奥が熱を帯び口からその熱源が僅かに漏れ出る。翼を大きく広げ体をくの字のように折り曲げ空中で急ブレーキを掛けてから溜めていた熱を口元から一気に放出した。
熱は炎となり魔物を包み込んだ。
炎が尽き辺りに何もいないことを確認し強者は悠々と飛び始めるが急に背中に激痛が走り断末魔を上げながら空から地面に激突した。
なんとかして起き上がり羽ばたこうとするも翼の感覚が無い。それどころか左右の遠くの方に見慣れた二枚の翼が落ちている。
本能的に自分の翼だと理解できたが、何故そこにあるのか理解できなかった。
目の前にいつの間にか焼き消したはずの魔物が現れる。
自分に今降りかかっている不幸は全てこいつのせいだと決めつけ渾身のブレスを吐き出そうとする。
その瞬間、強者の視界は完全な闇に包まれていた。それどころか身動き一つとれない。まるで首から下の感覚が無いような・・・
そう心で思う前に意識は闇に吞み込まれていった。
・・・
魔物は目の前に横たわる巨大な死体を覗いている。いつもなら楽しいはずの光景なのにまだ苛立ちは収まらない。
どうしてこうなったのか。
魔物はあの出来事を思い出す。
見慣れない二足歩行の何か。弱く、遅く、脆く、取るに足らないゴミ、だけど虐めるとコロコロと表情を変える面白いオモチャ。
虐めて、追い詰めて、最後に油断したところを捕まえて、じわじわと俺の体に仕舞ってあげた。
面白かったなあ、あの顔を見るのは……
いや
違う
もう…… 面白くない
アイツは俺の、お、おれ、の……
もう許さない
絶対に
逃がさない……




