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第四話

 整えられた石造りの通路、壁には美しく規則正しい幾何学の模様が施されこの建造物を建てた者たちの技術力の高さがうかがえる。相変わらずこの空間に光はなく一寸先は闇だ、だが何も見えないこの通路を埋め尽くす巨大な蠢く影が二つ対峙していた。


 一つは石のような無機物な肌にデカく無骨な体に同じくデカくて無骨な四肢を携え、骨に皮を張り付けたような鋭い尻尾が生えた自分の名も思い出せない化け物。


 もう一つはおそらく人型で長い胴体に頭と地面まで伸びた長い腕のシンプルな造形だ。顔はなく歪んだ鏡のようにこちらを不気味に映すだけ、よく見ると奴の体全体が顔と同じように映る風景を歪めている。奴に映る物は流動していて液体のようだが見た感じは金属のような質感が見て取れる。


 見た目がエイリアンの俺も化け物だが、この液体金属の野郎もかなりの化け物だ。俺がどうやってあの出口の無い空間を脱しこの液体金属野郎と対峙してるかというと、少し時間を遡る。




 ・・・




 俺は今途方に暮れている、やることが見つかりその目的のために動き出そうとした矢先にこれだ。この世界はどこまでも俺を呆れさせてくるが今の俺はこの状況にも絶望することはなかった。目的が俺のやる気や希望を湧き上がらせてくれる。


 あの夢を見てから俺の中の何かが変わったのだろう。少し前まではことあるごとにため息が漏れていた、もう何年も前のように感じている。


 今の俺の状況はこの場所をどうやって出るかといことだが、すでに俺の中には一つのシンプルな方法が浮かんでいた。


 それは上だ、俺の頭上にある天井をぶち抜いていくというシンプルな方法だ。単純だが今の俺に考えつくやり方はこれしか思いつかない。一度上まで行ったときに俺は自分の膂力だけで天井を崩落させている、それを何度か続けていけば地上に出れるのでは、という考えだ。少しばかりの不安が頭によぎるが、俺はその考えを頭から振り払う。


 それに、あの時は冷静さを失っていて忘れていたが俺には、いやこの世界にはマナがある。人間の時ですらマナ操作で肉体を強化すれば普通の高校生ですらトップアスリートと同じくらいにまで肉体のポテンシャルが上がる。


 この体は自分の力だけで壁を走り、拳で岩石を粉砕す。正直今から楽しみだ、マナでこの体を強化したらどうなるのかと。


 俺は逸る気持ちを落ち着かせ集中し、手始めに自分の腕にマナを集めてみる。すると自分の視界に驚くべきものが映る。何かエネルギーのようなものが手に向かって集まっていく、自分の体の中心から細い糸のようなものが無数に集まっていっている。


 糸は細く儚げだが、糸の一つ一つから力強く輝く星のような明滅とともにとてつもない絶大な力が感じ取れる。今まで見たこともない聞いたこともない光景だ、俺は腕にマナを集中させる要領で自分の目にマナを集中させる。人の時は視力が良くなったり動体視力が良くなるくらいだが果たして……


 そして程なくして目の前に広がる光景に俺は息をのむ、そこに広がっていた光景は一言で表すのなら、「宇宙」だった。


 地球から見れる観測可能な星たちによって描かれる星空ではなく、この宇宙が始まってから生まれた星全てをここに持ってきたかのような光景だ。おかげで俺の体はこの星たちに埋め尽くされ視界に映らなくなっている。


 俺は目に集中させているマナを解除した、さっきまで眩し過ぎるくらい光り輝いていた光景が嘘のように落ち着く。


 おそらく俺の目は太陽やライトの光ではなくマナが放つ光を捉えていたんだ。ここはマナがそこら中に溢れている、俺の目はそんな空間に漂っているマナに対しフィルターをかけモノに宿ってるマナの光のみ見せていたんだ。


 この体はどこまでも俺を驚かせてくれる、この体なら俺が最初に思いついた方法を実践できる。さっきの光景を目の当たりしたせいか、頭の中にあった不安はいつの間にか忘れていて逆にうまくいくという確信があった。


 体に宿るマナに集中する。内に燻っていた膨大なマナを体全体に纏っていく、まるで無限のように感じるマナの奔流に内心圧倒されながらもマナを繊細に操作していく。しばらくして準備が完了する。


 自分が爆発寸前の爆弾にでもなったような気分だ、いや発射寸前のロケットかも…… 正直どっちでもいいが、それだけ自分の気持ちが逸っているのだろう。だが焦りは禁物だ体の操作に慣れたとはいえ、完璧ではない、ましてやマナで強化してるのでなおさらだ。壁に激突したらどうなるか俺には想像できない。


 逸る気持ちを落ち着かせながら狙いを真上の天井に定める。そしてこれまでに貯めた力を一気に解放し足元から巨大な爆発音と煙を上げながら飛び上がり、そして音の壁を越えて突き進んだ。


 壁を走って登った時もそれなりに速かったがこれはその比ではない。ものの数秒でもう目の前に天井が迫ってきて俺は咄嗟に拳を突き出す。天井にぶつかるも勢いを無くすことなく突き進む、このまま地上に出れるかと思ったが以外にも早く天井は無くなりその代わり広い空間に出た。


 天井を突き破ったというより床を突き破ったというか、明らかに()()()の部屋だった。


 これは遺跡か?


 人類が異世界を調査して約40年、いまだ謎が多い異世界だが特に頭のいい連中を悩ませるものがこの遺跡だ、明らかに人工物であり調査できた遺跡からは壁画や文字のようなもの食器などの道具、極めつけはマナを流すと動く道具すなわち遺物などが発見されている。


 明らかに文明の痕があるのだが、会話や意思疎通が可能な現地民や知的生命体とはどこの調査隊も接触、発見には至っていない。エルフやドワーフ何なら天使や悪魔なんかも期待していた人も少なくはない。


 俺はあたりを見回しながら適当に進む、今いる場所にはなんかしら目的があって作られた台座や複雑な文字が書かれた石板が建ってるのでそれはそれは大事な場所なのだろうが、不思議な場所だなーくらいの感想しか出ない。


 俺は半ば観光気分で遺跡を探索する。


 開かない扉などが道中あったりしたが全て突き破った。中には素人目でもわかるような重要そうな物があったりしたが持ってはいけないので少しいじったりマナを通してみたりして、またすぐに別の場所に向かって行ったりしながら外に出る出口を探していた。


 しばらく進んでいると視界に映る物がある。通路の先、奥の奥に光るものが、それが少しづつこちらに向かってきていた。


 ドクンと俺の心臓が強く鳴る、視界に映る光は明らかに生き物に宿るマナだからだ。それがこちらにゆっくりだが向かって来ている。俺はまたもや恐怖しているらしい、だが俺は蹲っていたあの時とは違い立ち向かう勇気が徐々に湧いてきている。


 この場所から生きて出るんだと、そしてあいつに無事だと伝えるんだと、それから無限とも言えるこの世界を冒険するんだと自分に言い聞かせる。


 こんな所でやられてたまるか、俺は身を低くし軽い前傾をとり腕を脱力して拳を軽く開き臨戦態勢とる。この体の最適なファイティングポーズはわからないがこの態勢が妙に馴染む。口が自然と少し開き緊張とともに息が漏れる。


 今の俺は笑っているだろうか? まるで獣だ



 ・・・



 そして今に至る。もう数分にらみ合いが続いている。


 液体金属は動かないでじっとしていて、このまま見えなくなるまで来た道を戻れば何事もなくやり過ごせるかもしれないが、こいつは明らかにこちらを意識している。こちらが少しでも動けばすぐにでも攻撃するという意思をこの目が見逃さない。


 奴は動かないが奴の内に秘めた強烈な光を放つマナが奴の全身を駆け巡っている。


 こっちも事前にマナを纏っていてよかった。もしこいつと対峙してからマナを操作してたらそれを感知し先に攻撃されていただろう。


 互いに牽制し合って動けずにいるがこの沈黙もそろそろ破れる。奴が痺れを切らして動き出す。このレベルの殴り合いはどうなるかわからない。


 化け物同士の戦いが始まる。

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