第三十四話 向こうの変化
鬱蒼と茂るジャングルを我が物顔で歩く一匹の魔獣。彼はこのジャングルの絶対的な覇者であり、何者も彼に挑む者はおろかその気配を感じると身を隠し彼の前に姿を現そうとする者はいなかった。
彼に挑むこと、彼の前に姿を現すこと、それはこのジャングルにおいて死を意味しこのジャングルの絶対的なルールだった。
ほんの数日前までは……
突然現れたそいつによってジャングルはおろかその周辺の地域に君臨していた魔獣たちを葬り去った。
絶対的存在がいなくなると次に狙われたのはそこに生きるすべての生き物だった。どんなに逃げても、どんなに隠れても、じわじわと染み込む水のように迫り、追い詰める。
それまで、静かながらもどこか生命力にあふれたこの地は、ほんの数週間で生き物のいた痕跡だけを残して鳴き声一つ聞こえない無音の地へと変わっていた。
魔物は嗤う。自分よりも力劣る、か弱き者を蹂躙することに。
次はドコに行こうかな。
・・・
森に溶け込む迷彩服とバックパックを背負い込み、鬱陶しい垣間の隙間を颯爽と進む1人の人物。
彼女の名はサラ
身長は150そこいらであまり大きくないが大きさの割に少し体重が重い。
全体のシルエットで言うと上側はスレンダーなのだがある一部分だけ欠けていると言うか何と言うか、一言で言うと持たざる者だ。
だが逆に下側は肉付きが良く、悪く言うと体重の原因と言ったところだ。この上下アンバランスな体が彼女の特徴と言いたいがこれよりも目を引くものがある。
彼女の髪色は薄いピンクでスッと流れるように滑らかな髪質で前から髪を下ろして彼女が歩くと通りがかる人の目にその顔面偏差値も相まって最初に映るくらい美しい。
まあ振り返ると視線は下を向くのだが。
そんな綺麗とかビューティフルよりも可愛いとかキュートという言葉と片手にカフェの呪文みたいな飲み物が似合う彼女だが今は迷彩に身を包み大きいバッグパックを背負い物騒な拳銃やマチェットをぶら下げていた。
彼女は国籍はアメリカで、軍に所属しておりその中でも異世界専門の部隊に配属されている。
今回の彼女の任務は高レベル地域の情報収集だ。
数日前突如として起こった謎の現象。空が赤黒く染め上がり魔獣たちが何かに皆怯えたあの現象とそのすぐ後に駆け巡った謎の衝撃波。
『終焉』とここ最近、巷で騒がれる現象が起きた。まあなにも終わらなかったし、むしろ科学者連中にとっては始まりとも言える出来事だったのだが。
終焉かどうかはさておき、これらの現象は未だ謎のままだが研究チームによるとあの衝撃波の正体はマナの波だと言う。あまりの巨大な力により大気中のマナが大きく揺れた、つまり波の揺れたのではないかという推測だ。
まあそこら辺はおいおい解明していくとして、問題はその後。現象が起きた後あらゆる門が突如として閉じてしまった。幸い大規模な門の消失に巻き込まれた者はおらず異世界に遭難した被害者はいなかった。
が、一部の門は開いたままだった。無事だった門の先を入念に調査した結果エリアレベルは幸いにも変動しておらず再び異世界の調査に訪れていた。
調査を進めること数週間、地形などに変化は無いがマナの境目が変化していることに気付いた。多少のズレで調査にそこまでの影響はないと思われていたが偶然にもとある地点を発見してしまった。
エリアレベル1の次はレベル2のエリアになる。ということはレベル1を囲むようにレベル2のエリアがありそれをさらに囲むようにレベル3のエリアがある。
この特徴とレベルが上がるごとのマナ上昇に伴う魔獣の強さと精神負荷も相まって人類の異世界探査は遅々として進まず未だレベル4までしか調査を行えてない。
ところが、先日発生した現象の影響でマナの境目がズレ、レベル4のエリアがレベル5のエリアを押しのけレベル6の境目まで到達していた。
レベル6は人類未到達地点でそこをどこよりも早く調査し雑草や石の一欠片でも持ち帰れば国にとって大きなアドバンテージを得ることになる。
しかし、レベル4ですら満足に探査できないのは魔獣や発生する魔物が純粋に強くただのレベル4の人間では太刀打ちできからだ。
スキルの所持、しかも複数有ってやっと互角と言ったところに、いくらレベル4のエリア内を進むと言っても押しのけただけですぐ横には人外魔境のレベル5が目と鼻の先に広がっている。
これはそう簡単に実行できる事ではない。
そこで彼女に白羽の矢が立ったわけだ。彼女はレベル4の後半くらいのマナを吸収していてレベル的に申し分なくさらに隠密系のスキルを所持していた。
そこで急遽、別部隊からこちらに引き抜かれあれよあれよと人類未踏のレベル6探査任務に1人で就くことになったわけだ。
「こんな鬼畜任務に無理やり就かせやがってぇ 何が『人類のための崇高な任務』だ 自分でやるわけでもねえのにあのボケナスどもがぁ 帰ったらマジであいつら丸めて穴と連結させて永久機関にしてやろうか」
ちなみに彼女は口が少し悪い。




