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第三十二話 日常の変化

 赤黒い空、押し寄せる衝撃、言葉に表すことの出来ない恐怖。


 逃げたい。


 早くこの場から、早く!


 騒めく森に蠢く空、恐怖がそこまで近づいている。

 振り返ると離れた先に(ゲート)が開いている。僕は急いで走り出す。体が重いのか、それとも足が思うように動かないのか分からないがまったく前に進めない。


 後ろから確かに感じる迫る気配。振り返れない、振り返ったら僕は…… 


 懸命に走りやっとの思いで門の前に辿り着く。


 心に余裕が無い。何も考えられない。ただとにかくこの場所に居たくない。

 門に手をかける。すると周りの背景が黒く塗りつぶされていく。


 暗い何もない空間、僕は今立っているのか浮いているのかそれすらも判別できない。


 孤独


 さっきまで感じていた恐怖とは別の恐怖が滲み出る。暗く静かな空間に自分の息遣いだけが耳に入る。


 暗闇に覆われ自分の存在すら闇に吞まれてしまうと思った瞬間、自分の背後に気配を感じる。人とは似ても似つかない重い息遣いに時折聞こえる深く低いため息。


 得体の知れない何かが背後に居座っている。ドクンと心臓が鳴った気がするが不思議と恐怖は少ない。むしろこの闇の中で孤独じゃない事に少し安堵していた。


 ありがとう。


 その言葉を後ろの何かに伝えようと僕は振り返った……






 ・・・






 アラームのバイブが忙しなくスマホと僕のベッドの枕元を揺らし僕を夢から覚醒させる。


 さっきまで夢を見てた気がするんだけど・・・ 思い出せない。まあいっか。


 欠伸をしながらベッドから出て母親と他愛もない会話をしながら朝食をとり、学校に行く準備を済まして家を出る。


 電車に乗ってる間、SNSを眺めていると決まって流れてくる話題が嫌でも目に付く。

 先日、異世界で発生した現象。空を赤黒く染め上げ、得も言われぬ衝撃が走った現象はあの日異世界に居たすべての人が目撃していた。


 その日のSNSとニュース番組はこの話題で持ちきりだ。


 今でもその現象に対する様々な憶測がSNSを走り、ありとあらゆる記者が連日、協会に押し掛けている。だがそんなことをしても無意味だ。


 世間の人々は何らかの答えを求めているが、あの現象に対して適当でも何かしらの答えを出せる人間などいないからだ。


 分からないことを説明しろと詰められることを思うと、質問されてる調査員や研究員にお悔やみ申し上げたくなる。


 まあ最近だと、僕らみたいな育成校の学生にも取材してくるらしいから他人事ではないが。


 そういうこともあってか僕は駅から学校までの道のりをそそくさと移動することにする。


 異世界であれだけの事が起きたが学校の授業や訓練には特に影響は無い。いつも通り勉強していつも通り訓練をする。


 変わったところで言えばSNSやニュースだけでなくクラスの会話すらもあの話題ということぐらい、と言いたいところだがうちのクラスに限りもう一つ変わったというかなんというか……


 それは……


「おう綾瀬。おはよう」


 姉崎さんは教室に入った僕に気付くと席に座りながら他の女子と楽しく会話しているのを中断し僕に声をかける。


 初めて学校で話した時は何処か暗くて元気の無い感じだったけど、僕の話を聞いて一緒に異世界に行った日以降、いつもの調子に戻れてる気がする。


 強いな、たとえそれが空元気だったとしても。


 挨拶を聞いて僕も咄嗟に返事を返す。


「お、おはようござ・・・」


 姉崎さんにギロリと睨まれる。


「おは・・・よう」


 異世界から帰ったあの日の夜にスマホに姉崎さんからのメッセージが届いていた。内容は敬語禁止という命令だった。


 僕はその日以降こうして姉崎さんから話しかけられ、そのたびに睨まれるを繰り返している。


 普段誰とも話さない陰キャが休み明け急にクラスの人気女子に話しかけられる。

 これがこのクラスで一番の変化?だ。


 僕はこの一年以上親友の彼以外と話して来なかった。それが幸いしてかクラスの連中は僕を静観するしかなく、今の所僕の学校生活の平穏は保たれている。


 が、これを放っておくクラスの連中ではない。所謂、陽キャの位置づけのクラスカースト上位の 真田 が姉崎さんに話しかけに来る。


「あれ!? なんでそんなに仲良いわけ? 茜、こいつと何かあったん?」


「別に、なんでもいいでしょ」


 見るからに聞いてくんなって感じだが真田はそのままグイグイ来る。


「いやいや、教えてよメッチャ気になるって! 茜と俺の中じゃ・・・


「てかさ」


 一方的に話しかける真田に対し、姉崎さんは呆れた表情で視線を合わせないまま会話を遮り、続ける。


「気安く名前で呼ばないでくんない、あとウザい」


 真田は一瞬呆気にとられ返事が遅れる。


「え!? ごめんそんなつもりじゃ、ちょっと気になったていうか」


「てかさっきどこまで話してたっけ?」


 もう興味ないと言わんばかりに、姉崎さんは元々話してた女子の方を向き笑顔で話し始める。


 あまりにも惨めな光景を目の当たりにして僕もその場に立ち尽くすしかない。内心、真田に対してドンマイと思いつつも僕も、まあ無いと思うけど万が一に備えて下の名前では呼ばないようにしようと思っていた。


 真田が元の席に戻る途中僕の事を一瞬、ギッと睨んで通り過ぎる。












 え!? 僕のせい!?

誤字とかあるかも

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