第三十一話
うん? なんか腕を軽く引かれたような感じがするんだけど。
スっと目を覚まし辺りを見回して確認する。寝ぼけていたからか一瞬視界に映った魔物を見逃し慌てて二度見する。
は!? え、あ、え、ちょ、m
何だこいつと一瞬考えるが、魔物の霧のような体から伸びる見覚えのある棒が映る。先端は体に吸い込まれていて見えないが、確実に俺が作り出した槍だ。
いやいや、お前何してんだ!
咄嗟に腕を伸ばすが気付くのが遅く槍が体に吸い込まれてしまう。槍を吸い込むと後ろに飛び退きながら魔物の気配がどんどん薄れていく。
何だ? 目の前にいるのに消えていく感じだ、まるでどこかに行ってしまうような…… まさかクラゲちゃんと同じようなスキルか!
気配が変わってまた防御しちゃった。早くこの癖、直さないとな。
スーッと消えゆく魔物の表情が少しニヤついたような気がした。
舐めてんじゃねえぞ。
魔物が消えるその一瞬のうちに距離を詰め渾身の右ストレートを顔面に叩きこむ。
ガラスが割れたような音を響かせながら魔物を彼方へ吹き飛ばす。
やべえ、顔見て思わずムカついてぶん殴って槍と一緒に星にしちゃった。くっそー、せっかく苦労して作ったのに…… ま、もうしょうがない。
ぶん殴ってスッキリしたし、また作ればいいし、もう寝て忘れようそうしよう。
心の中に若干のモヤモヤが有りつつも再び眠りについた。
・・・
魔物は宙を高速で吹き飛ばされながらも心の中で歓喜していた、そう心の中で。
このことに魔物はまだ気づいていない。自分がマナを求め彷徨うだけの抜け殻、本能に従い動くだけの機械のような存在から感情を持ち自ら考え行動する生き物へと昇華したことに。
本来なら、化け物からのあの一撃で頭を砕かれて終わるはずだったが、すんでのところで体に仕舞い込んだ槍のおかげで、槍から大量のマナが体に溶け出し致命傷だった傷がみるみるうちに癒えていく。
こんな傷を負わされて死にかけたがあの化け物に対する怒りは無く、むしろ感謝しているくらいだ。
景色の流れが段々緩やかになり自分が元居た場所とはだいぶ離れた場所に不時着した。
この魔物にとってここが何処かなどはどうでもよかった。ただ自分の内から湧き上がる高揚感に打ち震え歓喜していた。
魔物はさっそく自分の力を使いたくてウズウズしている。早くこの強大な力を開放しないと身が持たなそうだと嬉しい悲鳴を空に向かって上げる。
こうして呪縛から解放された一匹の魔物は手当たり次第にその力で暴虐の限りを尽くし蹂躙していく。
だれも止めることはできない。




