第三十話
やっと…… やっと、マシなのが出来た。
苦節3〜4時間、いやもっとかもしれない。
彼方の巨大な何かを目指して歩みを進め、着くまでの間に民族少年の槍を再現出来れば、と思っていたのだが。
夢中になり過ぎてその場を一歩も動かずに槍製作に取り掛かってしまった。
やっとまともな物が出来た事の達成感で今日はもうここから一歩も動きたくない。
俺は雨風凌ぐものが何もない丘の上で寝そべり自分の成果物を眺める。
それにしても俺の作った槍…… なかなか悪くないんじゃないか。
民族少年との戦いで作った槍は唯の尖った長い棒だったが、これは突いてよし斬ってよしのシンプルな素槍の長い穂先を付けた。
あとはこの槍が俺の思う通りに動くかどうかだな。
この槍にかけた暗示は持ち主の意思に反応して手元に戻ってくることと持ち主の危険に反応して迎撃するよう暗示をかけた。
一つ目の暗示は問題なく機能し、投げた槍に戻るよう念じると地面に刺さった槍が独りでに動き出し俺の手元まで戻って来た。
問題は二つ目。
持ち主の危機に反応するよう暗示をかけたが何故か俺の行くとこ行くとこに魔獣や魔物の姿が無く襲われる気配が無いため試す手段が無い。
ていうかそんな機能要るかと言ったら俺に対しては要らないのだが、それを言っちゃあお仕舞だ。
そう考えるとこの数時間無駄のように思えてくるがスキルに対する理解が深まったことと何より何かを成し遂げた充実感を得られたので良しとしよう。
さてと、辺りも暗くなってきたことだしそろそろ寝るとするか。人間時代では考えられない速さの就寝だけど、いっぱい考えたからなんとなく疲れた。
この体の事を考えると確実に気のせいなんだが。
俺はごろんと横になり空を見上げる。
相変わらず綺麗な夜空だ、いつ見ても何回見ても飽きない。あ、なんかあの星の並びオリオン座に似てる気がする。まあ空を見上げて判別できる星座なんてオリオン座くらいしかないけど。
なんかこうしてると案外化け物も悪くないな、何のしがらみも無いし。てかみんな俺の事心配してるのかな、やっぱ早めに俺は大丈夫って伝えないとな。
明日からはそこら辺もちゃんと考えよう。
俺は目を閉じ眠りについた。睡眠なんて必要ない体だがいざ寝ようと思えばすぐに寝れるのもこの体のいいところだ。
・・・
一匹の魔物が何かを覗いている。
体は黒い靄に包まれそこから貧弱な手足が伸び、逆立った毛皮のようなものを羽織って仮面のような顔をしている。
だが表情など決して読み取れないはずの顔なのに何処か興奮している気がする。
この魔物は生まれ落ちたその時から芳醇なマナを求め、彷徨い、獲物を見つけてはその体に何体も仕舞い込んできた。
マナを求め彷徨うのは徘徊型の特徴だが、こいつはそれらとは少し違った行動原理をしていた。
自分の体により良質なマナを仕舞い込む、そのためだけに魔獣を襲っていた。
他の魔物もマナを吸収したいことに変わりないが、吸収できそうにない自分よりレベルの高い魔獣には襲い掛からない。
そもそも魔物が発生した時、魔物のレベルはそのエリアとほぼ同じ。つまり自分自身よりレベルの高い魔獣は基本的に存在しない。
だが、ほんの数日前に異変が起きた。このエリアのマナレベルでは足元にも決して及ばない尋常じゃない災害のような化け物がやって来た。
このエリアのあらゆる生き物が化け物の気配を感じ取り、一目散に逃げだした。そして逃げ出したのは魔獣だけではなく魔物も例外では無かった。
この存在が隣に立つだけで自分が消えてしまうと本能で理解した。
が、そう理解したうえでこの魔物はその存在を覗いている。
幸運なことに魔物は異空間に潜むスキルを有しており化け物に気付かれずに近づくことができた。
本能では今すぐに逃げ出したい、この異空間から一歩たりとも出たくないと思っているが、それらの本能を抑えつけてでも手に入れたいものが目の前にあった。
魔物は体からゆっくりと慎重に靄を伸ばし化け物の手に握られた槍を靄で掴む。幸い化け物の手が緩んでいて槍を取るのに手間取らなかった。
だがまだ油断できない魔物はそれでも慎重に槍を自分の方に引き寄せていく。
だが、魔物の幸運は続かなかった。
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