第二十九話
元の世界ではお目に掛かれないような雄大で奇妙な自然に囲まれながら川をずーっと下っている。
周りの植物は見た感じ普通の物が多いがいくつかは色が変だったり造形が歪だったり近づくだけで襲われそうな危険な香りが漂う物がある。
実際俺が近づくと変な液体を飛ばしてきたり、明らかに毒々しい煙をまき散らしたり、踏んだ瞬間剃刀のように葉が鋭くなる雑草が一面に広がっていたり、何なら俺を殴り飛ばそうとしてくる木があったりとバリエーション豊かだ。
そのどれも俺には全く効かなかったんだが。しかも、そういった生意気な植物はもれなく根っこも残さず吹き飛ばしておいた。
そんな感じで面白い物を見つけては近づいてって攻撃されればぶっ飛ばしてを繰り返しながら進む、さながら歩く災害だ。
でもしょうがない、こいつら俺が近づいた途端、明らかに敵意を剥き出しにしてくるから応戦せざるを得ない。
この体の扱いにもだいぶ慣れてきたが不意に敵意を向けられると思わず体が反応してしまう。
じゃあ近づくなと言いたいところだが奇妙な植物の中には友好的な植物も幾つかあるため好奇心が抑えられない。
自分に生る木の実を差し出してきたり、俺が休んでいると俺の周りを覆って身を隠してくれたり、水辺を教えてくれる植物もあったりした。
おそらく前者は種の繁栄の手段として自身のレベルアップを、後者はレベルの高い者に庇護してもらうことをそれぞれが選んで進化というか学習、いやレベルアップしてきたのだろう。
まあ後者の庇護者というか、そもそも俺以外の生物が存在しないのだが。
遺跡を飛び出してから驚きの連続だ、素人でこれだから、元の世界の偉い学者がここに来たら多分失神すると思う。
お、そんなこんなでだいぶ歩いたからか森の終わりが見えてきた。
そのまま森を抜け、見晴らしのいい丘に出ると風が強く吹き草木がぶわっと揺られてその拍子に草の擦れる音が辺りに響く。
しばらく丘が続いた後また森が広がりその奥には山々が連なって空にはオーロラのような光のベールが漂っている。
だが、そんな光景を差し置いて目を引くものをこの体は見逃さなかった。
遥か彼方にうっすらと映る雲を突き抜けて伸びる巨大な何か。
塔のような建造物がはたまた巨大な樹木か、ここからではそれが何かを判別することができない。
目的はあれど目的地は定まっていない俺の旅にうってつけの目印だ。
次はあそこを目指そう。多分俺が本気で走れば今日中に着くだろうが、そこまで急ぐ旅ではない。
まだ、騒ぎを起こさないように友人にメッセージを送る手段、いやそれ以前に門すら見つけていないんだ。
あの巨大な何かに向かって歩いていればその内思いつくだろう。
・・・
という、やり取りを脳内で何十回と繰り返している気がする、というかしてる。
不味いなあ、俺のダメなところが如実に出てる。問題を先送り先送りで全く手をつけず、気付けばどうしようもなくなるいつものパターンだ。
よし! 心機一転、何かいい案を考えよう。もしかしたら明日には日本に通じる門を見つけちゃうかもしれないからな。
と言っても現状俺に出来ることは限られてる。今あるスキルを上手く使う、これしか無い。
この体には確実に今ある二つのスキル以外にもいくつかスキルを持っているのは確実だが、それが何なのかどうやって使うのか今は皆目検討もつかない。
整理するまでも無いが、俺が使えるのは暗示スキルと生成スキルの2つ。
単体でもかなり強力で応用も効く便利なスキルだ。で、大事なのはここから。この二つは組み合わせて使うことができるということだ。
2つのスキルが組み合わさりもの凄い強力な力を発揮する……
ダメだ
何も思いつかない。
いや待て待て、俺はすでに2つのスキルを組み合わせたキューブを作ってクラゲちゃんに持たせているんだ、その時のことを思い出すんだ!
えーっとなんだったかなあ。
クラゲちゃんに持たしたキューブを作る時は、なんかこんなのがあったらいいなあ、みたいなドラえもんに何かお願いするノリで作ったからなあ。
目的地を定めそこまで行く間に目の上の問題を解消するために、おそらく人間時代と大きさとシワの数が変わらない脳みそをフルに使って考えるが何も思いつかない。
どうするか悩みながら手遊び感覚で生成スキルを使っていると偶然それが目に入る。
長くて鋭い、手に取ると思わず突いてしまいそうになる物だ。
そういえば、民族少年が使ってたあの槍どうやって動かしてたんだ? やっぱりスキルか何かで動かしてたのか、はたまた……
ジッと自分で作った棒を見つめているとふと脳裏によぎる。
あいつが使っていた槍を俺のスキルを上手く使えば再現出来るのでは?
呼べば何処にいようと飛んできて、主人の身を守り、この体すら粉砕する脅威的な力を秘めた武器が。
俺は早速作業に移る。
暗示スキルは対象に抗う意思が無ければその理までも捻じ曲げてしまうほど際限無く効いてしまうが、かと言っていくらでも暗示をかけられる訳ではない。
一度検証の過程で瓦礫に暗示をかけまくっていたら跡形も無く塵になった事がある。
まあ、これ以外にも厄介な問題がいくつかあるが。
なので、あれしてこれして、どうして何してそれして、みたいな暗示はかけれない。
出来るだけ簡潔に短くまとめる必要がある。
無駄な事を無駄に考え続けるような俺にそんなこと出来るか疑問だが思い付いてしまったからにはもう止まらない。
まず、あいつが使ってた槍の特徴をおさらいしよう。
1空中に浮く
2手元に戻る
3勝手に動く
4めちゃ強い
だいたいこんな感じか? フィクションでありがちな要素だけど実際戦うとかなり厄介だったな。
おそらくこれは槍自体の能力じゃなくてあいつ自身の能力だろうけど、まあその辺は置いといて。
では早速、浮け。
その瞬間、手に持っていた槍がフワフワと浮き出した。
よし、と思ったのも束の間そのまま風船のように上に上がり続けた。
ジャンプして取りに行くことも出来たが、何というか浮かび続ける槍を見てこの先に待ってる過酷な作業を想像し呆然として動けなかった。




