第二十四話 異変
明けましておめでとうございます。
休校の期間が終わり、今日から通常通りの授業と訓練が始まる。あの事件が起きてから約一か月経ってからようやく学校が再開するわけだが、門を条件付きではあるが探せる僕にとってはあまり必要な・・・いわけでは無い。
あの門に何回か入ったがあまり成果は芳しくない。強くなるためにこういう地道な訓練の方が以外にもありがたい。なので僕は異世界に行かずに登校しているわけだ。
今僕は久し振りに通る見慣れた道を一人で歩いている。この時間は元々一人での登校が多かったからあまり問題ではないが、この後いつもの教室に向かっても、そこにあるのは……
いつもの光景はそこに無い。
自分の教室に入って自分の席に座り時間が来るまで寝る。しばらく経つと続々とクラスメイト達が登校してくる。
薄っすらと聞こえる会話はあの事件はヤバかっただの休みは何しただのそんな話題だらけで一か月前とそんなに雰囲気は変わらない。
段々と席が埋まり始める。僕の前の席から右斜めに一人の生徒が席に着いた。日に焼けた褐色の肌に腰まで伸びた金髪、そしてクラスの数少ないスキル持ちでもある女子生徒だ。
名前は、姉崎茜
いつも明るく誰とでも仲良く接する笑顔が可愛らしい人だが、どこかその表情に影が掛かっているような気がする。
寝たふりをしながら彼女をチラッと見ると、ふと彼女と目が合う。
(うっ!? やばい、一瞬見ただけなのにどうしてこっち見てるんだよ)
サッと顔を埋め狸寝入りを決め込むが、彼女には通用しない。
「ねえ、何か用?」
「・・・」
「いや、起きてんのわかってっから」
「あ、はは・・・ すみません・・・」
顔を少し上げるが彼女と顔を合わせることができず、そのまま平謝りをしてしまう。
「いや、別に謝んなくていいし」
「・・・すみません」
「はあ、まあ別にいいよ」
はあ、やらかしてしまった。家族とか友達とかと話すのはできるんだけどそれ以外の人だと途端に話せなくなるんだよなあ。
「てかさー」
「!?」
不意に声をかけられ返事すらできずに固まっているが彼女はそのまま話を続ける。
「あんたと、こんな目合ってたっけ?」
「・・・えっと?」
「いや、振り返った時目が合うっていうか、言っちゃあ悪いけどなんか顔が向かい合うと違和感っていうか・・・」
「・・・」
「あー、なんかごめん! そんなつもりじゃなかったていうか、うん!こっちの勘違いだと思う。だからそんな落ち込まないで」
姉崎はそれだけ言い残して前を向き、僕も何も言わずに元の姿勢に戻そうとするが丁度チャイムが鳴り担任が入ってくる。
マナは別に吸収していない一般教員だが無駄に鍛えられた体の野太い声で出席を取る。
「よし19人全員揃ってるな。あれだけの事件があったから何人かは来れないと思っていたが案外根性あるなお前ら!」
「先生俺ら舐めすぎっしょ」
「だよな、あれくらい余裕で対処できなきゃ調査員失格って感じですよ」
クラスのお調子者というかいい意味で言うならムードメーカーな奴らが口々に喋り始める。結構うるさくなってきたところを一声で割って入る女子生徒が一人。
「先生、それより綾瀬君の前の席が空いているのですが転校生が来るのですか?」
凛とした聞き取りやすい涼しげな声が男どもの五月蠅い会話を一瞬で凍り付かせる。
彼女は霜月ここ愛
名前とは裏腹に誰に対してもどこか冷たい雰囲気がある生徒だ。体型はスレンダーで顔も可愛いというより美人という言葉がしっくりくる感じで濡れたような艶のある肩上くらいで切り揃えた黒髪が特徴の女子だ。
「うん? 何だその席? 誰かどっかから持ってきたのか?」
担任に心当たりが無く僕たちに聞き返すが誰も返事をしない。皆、顔を見合わせている。
「しょうがない、とりあえずそのままにしといて朝礼を始めしょう」
一旦机はそのままに朝礼が始まり、終わり次第担任が適当な生徒と一緒に机を教室から運び出した。今日の所は授業や訓練は無く、明日から本格的に再開するため今日の所は午前中の内に下校になった。
誰も違和感に気付かない。
むしろ気づいている僕が異常なのかもしれない。いや、気づいていると言っても僕自身完全にこの異変に気づいているわけでは無い。
あいつとの思い出や日常の記憶、使っていた机や着てた服、遊びに行ったあいつの寮の場所なんかは覚えているが、あいつの顔や名前が全く思い出せない。
おかしいと思い、僕は休校の期間中にあいつの寮に行ったがあいつの部屋は空き部屋になっていた。寮母さんに部屋について聞いてみたが (話すのに緊張してめちゃくちゃ気を使われたが) 一年近く誰も使っていないとのこと。
試しに部屋に入るとなんと家具や制服、私物などが残されていて寮母さんが物凄い驚いていた。だがそれより驚いたというか奇妙で不気味だったのがあいつの名前や顔などが消えていたのだ。
その部分に靄がかかっているような認識が阻害されている感じだ。
気づいちゃいけないモノに気づいてしまった恐怖、背中から頭の後頭部にかけ悪寒が走り身の毛がよだつ。
その日はとりあえずすぐに帰って布団に入ったのを覚えてる。
話をまとめると、みんながみんなあいつの事を忘れてしまった、ということだ。
そのおかげで、あの事故も犠牲者は奇跡的にいないことになっている。そのため救助隊や捜索隊は組まれることなく誰一人としてあいつを助ける奴はいない僕を除いて。
まあそれはいい、こんな超常現象を理解しろと言うのは無理な話だからな。
一つ納得できないのはあいつが落ちる前に助けた二人も何も覚えていないことだ。本来だったら彼女たちが…… これ以上は止めとこう。なんだか自分が哀れな感じがする。
学校の最寄り駅に着き改札に向かおうとする瞬間、声をかけられる。聞きなれた声だなぜなら今朝聞いたばかりだからだ。
振り向くと、姉崎茜が訝しむようにこちらを見ていた。
「ちょっと、聞きたい事があるんだけど」
なんて返事すればいいか分からず言葉が出ずに、代わりに時間が過ぎていく。
今年もこの作品共々よろしくお願いします




