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第二十二話 一日の始まり

 夢を見ていた…… 内容は覚えてない。だけどものすごく深くて暗い所に居た、それだけは覚えている。

 スマホのアラームが鳴る。マナーモードなのにやけに煩い振動が微睡から僕を覚醒させる。スマホを手に取り時間を確認、時刻は11時頃。


 学校の登校時間を大幅に寝過ごしていることに一瞬焦るが、すぐに落ち着きを取り戻す。二週間前に起きたとある事件により、今僕の通う学校は現在休校中だ。そのためここ最近は毎回こんな時間に目を覚ましてしまう。


 スマホを手に取り二階の自室から一階のリビングに顔を出す。

 少し肌寒いリビングの食卓の上には母が作り置いてくれたであろう昼食というか朝食だったものが置かれている。両親は共働きでこの時間は家に居なく何時も一人だ。


 特に寂しいとかそういう感情は無く、これがいつもの日常なため何も思うことは無い。冷蔵庫から飲み物を取り作り置きのご飯を食べる。


 ただ静かなままご飯を食べるのもどうかと思いテレビを点け偶々やっていた情報番組を見ながら食事をした。

 内容は異世界についての番組、それでいて今話題の穴型(ゲート)出現についてだ。


 男性の司会が番組が進行させながら。女性アナウンサーがゲストの厳つい調査員の男に質問をしていく。


「今回、東京都の市内の調査員育成校で発生した門は横向き。つまり穴のように開いたものですが、これは世界的に見てかなり珍しいものなのでしょうか?」


「そうですね、今回発生した穴型門は非常に珍しい現象で、日本ではこれまで一度も発生しておらず、各国の記録を辿っても片手で数える程度かつ門の中に入ったという記録は一つもありません」


「なるほど、では今回そんな珍しい現象が市内で発生した訳ですが、何か研究が進んだとかは有るのでしょうか?」


 男の調査員はわかりきったことを聞くなと言わんばかりの表情を浮かべながら質問に答える。


「えぇ…… 発生した門が開いていた時間は極めて短く、目撃証言によると門の発生から消滅まで2分もかかっていません。チームが現場に到着、というか協会に通報される前に消えています。そのため、その場に居合わせた者や目撃者に対する聞き取り調査しか行えておらず、十分な研究はなされていません。」


 男は淡々と答えるつもりなのだろうが、若干の煩わしさが喋り方や声量から感じられる。そんな男を無視して司会者は番組を進行していく。


 次の話題は昨今の日本の異世界調査に関する話題だ。


 異世界の研究、調査は約40年、世界中で行われているがまだまだ若い分野だ。

 だが、一般市民からしたら40年なんていうのは人生の大体半分なわけで、それだけ長い期間研究しているのに異世界の調査は遅々として進まず、ここ最近はさらに停滞気味のため厳しい意見も多く。


 さらに、日本は海外と比べ調査員のマナレベル及び、到達したエリアレベルも一歩及ばず、そのこともあり世間からの風当たりが厳しいのが現状だ。


「ではなぜここ最近の日本における異世界調査がここ最近、停滞気味なのでしょうか?」


「その理由は大きく分けて二つあります。まず一つがレベルによるもの。もう一つがマナによるものです」


「マナによるものですか?」


「詳しくご説明いたします。まずレベルについてですが、お二人は人間がある一定以上のマナを吸収する、つまりレベルアップした場合どんな恩恵があるかご存知ですか?」


 少し考えて女性アナウンサーが再び答える


「えっと、体が強くなると言いますか身体能力などが強化されるのと、それと一部の人は特殊な能力に目覚めるとかですかね」


「はい概ねその通りです。ですがこれは人間に限った話ではありません。これは魔獣や魔物といった異世界の生物にも適用されます」


 そう、レベルアップの概念は人間だけでなくマナを吸収するすべての生物に適用される。そしてマナによる身体能力の向上は()()()()()というのが重要だ。

 人と熊を想像してほしい、同じレベルになったところでどうなるわけも無い。テレビの男もそれが言いたいのだろう。


 だが、それよりもさらに深刻な問題がある。


「ここからが重要で、簡単に言いますと一部の人間しか使えない特殊な能力、通称スキルをすべての魔獣や魔物が使ってくるということです」


「スキルの有無というのはそれほど大きいものなのでしょうか?」


 はっきり言って、かなり大きい。同じレベルの人でもスキルを所持しているだけで戦闘力が何倍も違う。スキルによって放たれたマナの破壊力は想像を絶する。


 僕のクラスメイトにも、いつもスキル持ちの女子と模擬戦をして壁まで吹き飛ばされる奴がいる。スキルはマナの量、つまり使用者のレベルが高ければ高いほどスキルの出力が上がっていく。レベル1で人間を吹き飛ばす威力が出るんだ、スキルを所持する優位性は言わずもがなだ。


「つまり、魔獣や魔物に人類の戦闘能力が追い付いていないということですか?」


 司会者の問いに対し男はすかさず答える。


「その通りです」


「先ほどマナによるものと仰っていましたが、それはなぜでしょうか?」


「これは異世界調査の黎明期に頻発して起こり、今でも後を絶たない問題が深く関係します」


「マナ性精神圧死、ですか?」


 マナ性精神圧死。大量のマナを浴びると体には何の以上も無いのに意識というか自我が無くなる現象で主に門をくぐった先のエリアレベルが高い時に起きやすい現象だ。


 異世界にはありとあらゆる場所にマナが充満しているが、その量は少ない場所から多い場所に向かって徐々に増えるのではなく段階的に増える。この段階的に増えるマナについたのがレベルだ。現在は生物に使うレベルと混同するのでエリアレベルと呼ばれている。


 仮にエリアレベル1のマナを100とした時、レベル2は200、レベル3は400という具合に上がっていく。


 マナ性精神圧死はマナを持たない生物、つまりレベル0ではエリアレベル1,2では起こった事例がほとんど無いがレベル3では、何と発生率が50%を超えレベル4では発生率100%になる。


「これは主にマナを持たない人にしか当てはまらないのではないんですか?」


 当然の疑問だがこれは自分のマナの量とそのエリアのマナの差から起きる現象なのでマナの有無は関係ない。そして、この段階的に上がっていくマナが異世界調査の最大の問題になっている。


 例えるなら異世界は横に沈む深海のようなものだ進めば進む程マナの圧力が強くなっていき、最終的に体では無く自分の精神というか魂が押しつぶされてしまう。


 つまり『レベルを上げないと先に進めないが、そもそも異世界の生物が強すぎてレベルを上げられない』という堂々巡りに陥っているというのが現状だ。


「はい、なのd


 いつの間にか昼食を食べ終わっていたので、番組の途中だがテレビを消して食器をかたす。それから身支度を済ませ外に出る。スマホで目的地までの道のりを確認して歩き始める。


 異世界にどんな障害があっても関係ない。僕の目的を果たすまでは


 こうして僕、綾瀬志狼の遅めの一日が始まる。

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