第二話
変なところあったらすまん
午前の授業が終わり、午後の訓練が始まる。地下の訓練場に学校のジャージを着て集合し各々がストレッチや軽い運動をして体をほぐしている。俺も適当にストレッチをしていると、後ろから声を掛けられる。
「よ、調子はどうよ」
「ぼちぼちかな」
聞きなれた声だからかよどみなく返事ができた。
こいつは高1の時に知り合ってからずっとつるんでる友達だ。身長は160ちょっとで髪は長く腰に届きそうでクリームというかカスタードのような髪色をしていてポニーテールにして後ろでまとめていて全体的に美少年といった感じだ。
さらにこのクラスに3人しかいないスキル持ちでまさに完璧なのだが、こいつにはある大きな特徴がある。
それは、こいつがものすごく陰キャということだ。一年の時たまたま席が近かったから話しかけてみたら、きょどりにきょどっていてまともに話すことができなかったんだが好きなアニメやゲームの話で盛り上がりそこから仲良くなった感じだ。
そんな感じでこいつと適当に喋っていたら訓練場に先生が入室して首にかけたホイッスルを鳴らす。
「全員集まっているな。アップは済んでるよなので各自ペアを組んで始めてくれ」
「「はい!」」
この人は普段勉強を教えている先生ではなく異世界でマナを吸収して働いている現役の調査員だ。男性で髪は坊主頭で顔は爽やかな雰囲気で身長が高く筋肉もしっかりついてはいるがいかつくはない。
二年生になってからはこの人がいつも決まった曜日に来て俺たちを鍛えてくれている。
そうこうしているうちにまわりがペアを組み始めた。中にはなかなか組めなくて困っている奴もいるが、俺はいつも組んでるやつがいるからこういう時にあぶれることはない。
というか俺の調子を聞いてきたこいつは俺以外のやつとまともに話ができないから俺と組むしかない。まあ俺もこいつ以外組むやつがいないのだが。
訓練場では毎回組手の後に模擬戦を行っている。模擬戦といってもガチの殴り合いではなく訓練で習ったことをおさらいするスパーリングに近い。
体内のマナを操作し任意の部位に集めその部分を強化するマナ操作を交互に行いちゃんと強化されているか確かめる訓練だ。このマナ操作を極めれば素手で弾丸を無傷で受け止められるようになり異世界の怪物相手には必須の技術になる。
俺も自分のペアとマナ操作の訓練をしていると突然視界の外から悲鳴が聞こえる。振り返ると、そこには見慣れた光景が広がっていた。俺に朝の教室で声をかけてきた女子とペアを組んだ奴が10メートルぐらい吹き飛ばされてその近くにいた女子が驚いて悲鳴を上げていた。
「やっぱり…今日もぶっ飛ばされてるね」
「危なかった…朝の誘いを受けてたら、ぶっ飛ばされたのは俺だったからな」
「受ければよかったじゃん。せっかく気を使って話しかけなかったのに」
「いや、喋りかけられなかっただけだろ」
彼女はおそらくスキルが暴発して吹き飛ばされたのだろう。マナの操作が稚拙だと起こりがちなことだ。彼女は特に操作が下手で、先生ももう何回目だと言わんばかりに彼女に注意を入れている。
まあ吹っ飛ばされてるやつもマナを吸収していて並みのことじゃ怪我はしないし、なんならクラスの美人に吹き飛ばされているからなのかまんざらでもなさそうだ。
だけど彼女を見ていると少し、いやかなり羨ましい。俺とペアを組んでるこいつは1年からの付き合いで友達だがスキルが使えてマナ操作もお手の物、正直俺なんかじゃ釣り合ってない感じだ。
こいつは一年の最後に行う実地研修で異世界に行きマナを吸収した時にこの見た目になりスキルを授かった。
マナを吸収することによって起こるある有名な事例がある。それは体の変質だ、こいつのように髪の色が変わったり瞳の色が変わったり、幾何学的な模様のあざが浮かび上がったりいろいろな事例が報告されている。
そしてこういう変質が起きる奴に共通してるのはスキルを知覚しやすいということだ。
スキルは選ばれし人間しか使えないモノというわけではなくマナを吸収した生物すべてが使える力だ。ではなぜ30人いるクラスでスキルを使えるのが3人しかいないのか、それは、何のスキルを授かっているかわからないということだ。
ゲームのようにステータスを表示して自分の状態を確認なんていう都合の良いシステムなどはないため自分で手さぐりに探すしかない。
だがマナによる変質が起こると、まるで知っていたかのようにスキルを使えるようになる。うらやましくないと言うより申し訳ない、いつも二人でつるんでいたからなのか俺たちは…対等だと思っていたが俺はスキルが使えずこいつは使える。俺よりもっと相応しいやつがいるのではないかとふと思ってしまう。
「どしたのボーとして?それより次は外に集合だって、早く行こうよ」
俺のそんな考えや後ろめたさを無視してこいつは話しかけてくる、ありがたいなと思いつつその気持ちを悟られないようにする。
地下の訓練場は次のクラスが使うため俺たちはグラウンドの真ん中に集まっていたが先生は少し用事があると言ってしばらく個人訓練になった。なので各々が好きなようにやっている。それからしばらくしてから先生がグラウンドに来て集合を掛けた時だった。
足元に、闇が広がっていた。徐々に、すべてを飲み込むように
気づいたときは思考が止まっていた、これはなんだ?何をすればいいのか?迷っていると先生が大声で呼びかける。
「走れ!」
この現象に困惑している一人の生徒が聞き返す。
「これは、何が起こっているんで…」
「いいから走れ!足元に門が開こうとしてる!」
間髪入れずに声を張る。門はこの世界に顕現しきるまで触れることができない。つまり門が顕現してから開くまではタイムラグがるということだ、通常の縦向きの門なら気にする現象ではないが、この門は下向きに開こうとしているので門が開けば問答無用で異世界に引きずり込まれる。
そのことを一瞬で判断したのはさすが現役でやっていると言うべきか、先生のおかげで全員が一斉に校舎に向かって走り出す、マナによって強化された肉体を使い全速力で駆け出す。門はグラウンドをすべて飲み込む勢いで広がっていく。
かなりデカい、この規模の門はまだ確認されていない。正直この規模だったからこそ顕現に時間がかかったのは不幸中の幸いだ、そのおかげで何とかグラウンドを抜け出せそうだ。
だが、安心して振り返ると目が合ってしまった、腰が抜けて動けなくなっているおさげの女子とそれを抱えて懸命に逃げてる朝俺に声をかけてきた女子二人と。
この時振り返らなければ、いや朝話していなければきっと振り返って目が合っても彼女たちに駆けよらなかっただろう。俺は後ろの二人に駆け寄った。
「くそ!」
何に対して言ったのか正直覚えてはいない、おさげ少女の片方の肩を担いで走る。走ってる途中におさげ少女が何か言っていた気がするがそんなものは耳に入ってこなかった。走るのに夢中だった。
だが、門のふちギリギリというところで、足元を浮遊感が襲った。死を悟ったのか景色がスローモーションになっている。
その瞬間、俺は横の二人を投げ飛ばしていた。二人が振り返りながら驚いた顔をしていた。多分俺も驚いてたと思う。
スキルが使えなくて俺の唯一の友達と釣り合わないってひがんでたけど、この土壇場に来て俺は自分のスキルを知ることができた。やっと追いつけた
目の前に手を懸命に伸ばして叫ぶ友達がいた。
こいつがこんなに声を張り上げることがあるなんてな、俺は内心笑っていた。
ごめんな―――
・・・
あれ?
名前が思い出せない
考えるの楽しいけど、めっちゃ大変w