第十九話
さて、このまま遺跡の上で奴と戦うのは危険だ。いったん奴に近づきここから離れよう。
俺は遺跡の屋上から勢い良く飛び出し草原をそのまま飛び越え、迫る木々を薙ぎ倒しながら森を走り抜ける。
今まで狭い世界に閉じ込められていた反動か、動きが多少大雑把なのは目を瞑るとして早いとこ奴に近づかないとな。あの超長距離投擲を見るにあのままあそこに居ればジリ貧だ、それにあの投擲がスキルによる投擲か、これも重要だ。
スキルを使った攻撃なら言ってしまうと脅威ではない。厄介ではあるが受け止められる威力だ俺の脅威になるような敵ではないが、もしスキルを使わず俺みたいにマナを操作し身体能力を高めただけだったら。
嫌な予感が脳裏に過るがこれまでの経験か、すぐさまマナを体全体に纏い備える。自分の精神的な成長に内心驚きながら森を走り抜ける。
森を抜け奴を再び視界に収めるが、奴はまだ骸の上から動いて無いようだ。こちらの様子を窺っているのか? なんにせよ不気味なことに変わりない。
こちらに先制攻撃を仕掛けておきながらそれ以降仕掛けてはこない。もしかしたらこちらを挑発するために攻撃したのかも、もしそうなら俺を甘く見過ぎたな。
溜めたマナを使い奴が陣取る巨人の骸まで一気に跳躍する。
跳躍したことで気付いたが、ここは大きなクレーターの中らしい。遺跡から出たときに見えた壁は地面からせりあがってるのではなく、この地面自体が凹んで地面がせりあがってるように見えていただけだ。
そんな光景に目を奪われている間に奴の目の前に着地した。
見た目は人間、性別は男。結構派手な羽飾りと猛禽類の嘴の形をした仮面を被っている。身長はあまり高くない170あるかどうか怪しいが俺の目線からだと分かりづらい、もっと低いかも見た感じ子供って感じだ。上半身は裸で首や腕のアクセサリーに布の腰巻のみ靴は履いて無い。肌は褐色でいろんなとこに白い染料で模様をペイントしている。
俺が目の前に現れても微動だにせず立っている。
もしかして、こいつ実は戦う気が無いのでは? もしやと思い俺は暗示スキルをすぐさま起動し目の前の民族少年に戦わないように暗示をかける。
仮面の奥の瞳と目が合ったような気がする。こちらの意思が伝わったのか仮面の奥からこちらを見つめながら近づいてくる。
良かった戦う気は無いみたいだ。そう思ったのも束の間、背中から物凄い衝撃が突き抜けた。
一瞬何が起きているか分からなかった。衝撃を感じた瞬間、視界が回転し空を見上げた後、俺は民族少年んを見据えていた。
さっきと違うのは視点が低くなっているということだ。少年の前に見慣れた塊が倒れている…… 俺の下半身だ。
背中に受けた衝撃に体が千切れたらしい。少年の手には遺跡に向かって投げた古臭い槍が握られていた。何らかのスキルでこちらに槍を呼び戻し、戻すついでに俺の体を吹き飛ばしたらしい。
糞が、やってくれるじゃねえか。
体を吹き飛ばされ這い蹲っている無様な姿を晒しているが、吹き飛ばされた下半身が霧のように霧散し俺に集まってくる。黒い霧が徐々に下半身を形成していき数秒で元に戻った。
不思議なことにこの体のもう一つの自我はまだ出で来ようとしない。
意外にも俺はこんな状況でも辛うじて冷静さを保てているようだ。自分の成長を若干感じながら俺は体が治った瞬間すぐさま走り出し民族少年を殴りつける。
後方に吹き飛ばすことができたが槍で防がれダメージを与えている感触は無い。少年は骸の上から吹き飛ばされ下の地面に着地した。
俺もすぐさま追いかけ速度と重力が乗った拳で少年に追撃する。
凄まじい爆発音と砂煙が舞う。だが、殴りつけた場所には何もいない。
何処だ!?
辺りを素早く見回すが少年の姿は無く辺りがだんだん静かになっていく。すると左側から微かに音が聞こえてくる。
音のする方を向いた瞬間眼前までまたあの槍が迫っていたので俺は素早く頭を傾け槍を回避する。この体の驚異的な反射神経のおかげで何とか躱せたが顔の三分の一を消し飛ばされてしまった。
俺はそのダメージを意に介さず槍が飛んできた方にすかさず走り出した。少年は俺が殴りつけた場所から数百メートル先の場所に移動していた。
いつの間にここからあそこまで移動したんだ? 瞬間移動でもしたのかってくらいの距離だぞ。遺跡の奴らも化け物ぞろいだったが外に出て最初にエンカウントするのがこれって…… 正直、俺が史上最強生物だと思い始めていたけど、やっぱり調子乗ったら痛い目を見るなあ。はあ、これからはもう少し心持を謙虚にしよう。
そう思いながら少年を眼前に捉え攻撃を繰り出すがこちらの右拳の殴打を回し蹴りの要領でいなされてしまう。
舐めるな!
右肩からもう一つの腕を素早く生やし、少年の足を掴み持ち上げ空いている左で思いっ切り殴りつける。その瞬間、後方からものすごい勢いで槍が飛んでくる。
だが、この手は読めていたので俺は予め背中側のマナを厚く纏って防御していた。
俺は飛んでくる槍に構わず攻撃を続行。瞬間、凄まじい轟音が鳴り煙が舞う。
マジかよ、結構厚く防御していたのに吹き飛ばされちまった。だけど、手ごたえは有ったぞ。
俺の体は千切れこそしなかったが数百メートル吹き飛ばされてしまった。だが、それは少年も同じで槍が到達する前にこちらの攻撃も間に合っていたようだ。
痛みは無いが体が上手いこと動かない。何とか起き上がり少年の方を見るとそこには地面に倒れこむ少年の姿があった。
ふう、と心の中で一息ついて少年の方に近づく。
どうなってんだ? あれだけのマナを籠めたのに体に傷一つない。
まじまじと少年を観察していると、ピクリと少年の体が動いた後に膨大なマナが少年から溢れ出す。俺はすぐさま防御態勢を取り攻撃に備えたが、その行動が相手に隙を与えてしまった。
仮面が割れ中の顔があらわになる。黒くて男にしては長い髪に、赤い深紅の眼差しがこちらを刺すように見つめる。俺は再び暗示スキルで戦わないように誘導するがまったく意味が無い。
何かヤバイ!
防御の態勢からすぐさま少年に飛び掛かるが、飛来した槍が少年を守るように独りでに宙を舞う。次の瞬間、少年が赤い閃光となり遥か空の彼方まで飛びあがった。
あまりの速さに追いかけるという思考になるころには視界から消えていた。
これから何が起こるんだ……
俺はこれから起こることを全く予想できずしばらく立ち尽くすことしかできなかった。
数秒後、少年が飛んで行った空から小さな赤い星が見えた。おかしいまだ空は暗くないのに星が見えると一瞬呑気なことを考えていたが、それが敵の攻撃だとすぐ気付いた。
赤い星が徐々に近づき、最初は点だった大きさも今では空を埋め尽くさんばかりの赤い光を放ちながら迫ってきている。
この巨人たちは、あいつのこれにやられたんだ。どうしてこんな巨大なクレーターができたのか? 隕石か?大爆発か? 違う…… あの少年自身がここに落ちて来たからだ。ここに骸を晒す巨人も俺と同じ気持ちだったに違いない。
こんなのどうすればいいんだよ




